祖母の葬儀が終わって二日経って、私は祖母の家に未だにいます。
というより、しばらくは祖母に家の維持等をやってほしいってことだったり、同じく祖母に家にいることになった母の精神状態が不安定になっているので、誰かがいてほしいということになり、うつ病で相変わらず仕事をしていない私に白羽の矢が立ったわけです。
祖母の家にいる。でもいるはずの祖母はいなくて、私はそれが変に思えるし、未だに祖母が亡くなったことの実感がわかない。
とはいえ、ここまでの文書を書くまでにも時間はとてもかかりました。
祖母が亡くなった、と書くのも数日は躊躇ってしまいました。祖母がなくなり、葬儀が終わって、二日が経ってようやくここまでのことが書けたように思えます。
ここ二年ほどは祖母の家によく通っていました。二年前に祖父が亡くなり、一人で暮らすようになった祖母。祖母の生活も徐々に大変になっていくなかで、誰かがいたらいいということでやっぱり白羽の矢が立ったのが私で、私は私で父との関係がしんどかったり病気の療養もあって祖母の家に通うようになりました。
今回の葬儀でも「よく頑張ったなあ」といろんな人に褒められましたが、私は大したことは全然した気は本当になく、むしろ今振り返ると「もっと頑張ることができたなあ」と思うことばかりです。
祖母ともっとちゃんと向き合うこともできたのかなあとか、祖母をもっと楽しませることできたなあとか、そういうことも思ってしまいます。
とにかくもっと出来たなあとは思います。でもそれを思っても仕方ないのかもしれません。
祖母の葬儀では色々と思い出していましたが、昔のことは不思議なほど思い出さなくて、思い出すのはここ二年のことばかりでした。
シチューを作ってあげると喜んだことや、亡くなる一週間前に私が作った麻婆豆腐を美味しそうに食べていたことを思い出しました。
マクドナルドのチラシを見て「こういうの食べたこと無いから食べたいなあ」と言っていて「じゃあ今度買ってくるよ」と言ったきり、結局間に合わなかったことを思い出したりしました。
やっぱり後悔ばかりが多く積み重なっていくような、そんな葬儀でした。
もっといろいろとできたと思うことばかりです。
でもそういうものなのかもしれないです。
後悔のないようにしていても後悔するものかもしれないですし、そもそも突然の死でしたから、私達は祖母が亡くなると思って生きていたわけではないです。つまりは亡くなることにたいして準備もないまま亡くなったわけです。
この日に亡くなると知っていたら、もっと頑張っていたのかもしれません。
でもそんなこと知れるわけもないですし、知らなくてよかったのです。ただ、未だに突然のことにぼんやりしているのかもしれません。
とはいえ、やっぱり葬儀という儀式のおかげで、もうお別れなのだという気持ちは相当ついたとおもいます。
私は泣きながら祖母に花を手向けましたし、食べたかったと言っていたシュークリームやドーナツも棺の中にいれました。
やっぱり生きている間にもっとプレゼントをしたり、わがままを聞いてあげても良かったなあと思います。
色々とわがままを聞いていたつもりでしたが、いなくなるとやっぱり「もっとしてあげたかったなあ」と思うものでした。
不思議なほどに未だに祖母の思い出が出てくることはありません。まだ思い出すという思考にならないような気がしています。
ただただ、何故か祖母のいない家にいます。
そして一日ぼんやりしていたり、祖母が大事にしていた庭に水をまいたり、草をむしったりしています。
ちょっと疲れが出てきているのかよく眠るようになりました。
母はやっぱ精神的に来ているそうで、よく寂しそうにしています。
それに対してもできることはあまりなくて、ただ、私は近くにいるしかできていません。
なんていうか、ここのところ何かをするってことが難しいなと思います。
この二年と今回のことは自分が誰かに何かをするってのが下手なのだということを思わされたような、そんな時間だったような気もします。
それでも少しだけ思い出したりするのはこの二年の間、祖母と一緒に『犬神家の一族』を見たり、祖母が好きだと言っていたミスタードーナツのドーナツを買ってあげたことだったり、祖母にお茶を持っていったことだったり、私が見ていた京都の散歩動画に対して祖母が「昔この辺に住んでいてなあ」ともらしていたことだったり、そういう小さなことばかりです。
祖母は宝くじが売ってると知ったら「買ってきてほしい」と言っていました。
先日友人と梅田で遊んでいたらその日がジャンボ宝くじの発売日で、売り場に列ができていました。
私は「祖母がほしいって言うだろうな」と思い、列に並んでその宝くじを買いました。
後日当選番号をみると、その宝くじは3300円になっていました。
それを聞いた祖母は「3000円あげるから、300円でシュークリームを3つ買ってきてほしい」と言っていました。
祖母はその日の晩突然倒れて、そして数日後に亡くなりました。
葬儀に行く前、シュークリームを買おうとしましたが、祖母がほしいと言っていたのは一つしかなくて、棺にはシュークリーム1つとドーナツを2つ入れました。
だから近々、シュークリームを2つ買って、お供えしてあげようと思います。
でも、それをしてしまうと本当に約束が終わってしまいそうで、それは本当に寂しいなと思ったりもしています。
祖母の棺には祖母が大事にしていた人形を二体入れました。
祖母は生前からその人形を本当の友達のように大事にしていました。
寝る前は呼びかけて握手をしたりしていました。
本当の友達のように、なんて言ったけども本当に友達だったんだと思います。
その人形を棺にいれる瞬間がとても悲しかったです。
でも本当にあるかわからないけども、あっちの世界でも祖母がその人形と一緒にいられるなら、それほど幸せなことはないのかもしれません。
そう願うことしか、私にはできないですし、やっぱりそういうことしか今は思うことができません。
まだ、ぼんやりとしか思うことしかできないのです。