にゃんこのいけにえ

両目洞窟人間さんが色々と書き殴ってるブログです。

『地獄のSE』を見た!

川上さわ監督『地獄のSE』を見た。

凄かった。
とりあえず見終わった直後のポストがこちら。


この感想で終わってしまってもいいのだけども、やっぱちゃんと何がどうだったのか拙くとも書いておきたいという気持ちがめっちゃある。
というわけで、以下はぼんやりとした感想です。


とりあえず見終わってしばらく呆然としながら歩いてしまった。
大阪の地理感がある人にだけ伝わることを言えば、十三駅から淀屋橋駅まで呆然と歩いてしまった。
私は何を見てしまったのだろう?
困惑と混乱と戸惑いが入り混じりながら、頭に浮かぶのはもう一度見たいという気持ちだった。


あらすじは説明しようがない。
一応言えば、軽く変態気味の男子中学生と保健室登校している男子中学生が主役だ。軽く変態気味の男子中学生は同じく変態気味の同級生の女の子に恋をしている。保健室登校している男子中学生はその恋に反対をしている。変態気味の女の子は別の女の子に恋をしている。果たして恋の行方はという話になりそうなんだけども、実際はそういうあらすじからは飛び越えたような話がどんどん展開されていく。
話はあちこち行き、実際にロケーションもあちこち行き、アイスを食べて、カラオケに行き、映画館に行き、保健室登校をし、葬式に行き、掴みどころのないけどもどこか心に引っかかるような会話をし、そうしているうちにとんでもないことが起こって、そして何故か開放感のあるような終わりになる。
こんなのあらすじでもなんでもないけども、そうとしか言えない。
私はやっぱりまだ戸惑っている。


冒頭はかなりぎょっとする絵面から始まる。
というか終始ぎょっとする。
生理っていうものが根底にあって、それにも戸惑う。
けども、川上監督はそれもポップに扱っている。
それにもどこか戸惑いつつも、独特の映像、そして音響に頭がぐわんぐわんする。
映像の画質はとても粗い。
その粗さがとても心地よい。
映像は昔のTVで使っていたようなデジタルカメラで主に撮られていて、他にはデジタルハリネズミというトイカメラ3DSのカメラが使われているようだ。
その自由奔放さに私はどうしようもなく憧れをいだいてしまう。
凄いなーと思ってしまう。


自由奔放さで言えば、この映画はカナザワ映画祭がきっかけで作られたそうだ。
カナザワ映画祭2022「期待の新人監督」で川上さわ監督の前作『散文ただし、ルール』がグランプリを受賞したことがきっかけで、「期待の新人監督スカラシップ」として竪町商店街振興組合による200万円の支援金で製作されたそうです。
商店街から出たお金で、200万って大金で、こんな自由自在な映画を作っているのは、もうなんて言ったらいいかわからない。
凄いと思うし、商店街の人はこの映画を見てどう思ったのだろう?



映画には死の匂いがめっちゃ漂っている。
冒頭から死の話がされるし、登場人物も「死にたいなー」とよく口にしたり、実際に死んだりする。
そんなのを見ているとなんとなく、中学生の頃、凄くしんどかったことを思い出した。
めちゃくちゃ無理をしながら学校に通っていて、授業中涙が止まらなくなって、保健室で何時間も泣いたことを思い出した。
そんなこと忘れていたけども、映画にその感覚を引き摺り出された。
中学生の頃ってしんどかったよなー。
私は33歳で、それをもうすっかり忘れてしまっていたけども、そうだったよなと思い出してしまった。
けども苦しい映画じゃ全然なくて、終始ポップなのだ。
めちゃくちゃとぼけているけども、終始ポップ。
そのポップさがすごく救いになっている。


ポップさの一端は、ほぼ女性キャストで撮られているというのもあると思う。
先ほども書いたように主役は男子学生なんだけども、その役を女性が演じている。
もろに女性の見た目なのに、男子役というそのチグハグさが、重力みたいなのを開放している。
男子学生をそのまま男子が演じていたら、多分ちょっとやだみがあったんじゃないかなって思う。
リアリティのないことで、開放されるものもあるんだなーとか思ったりした。
リアリティがないといえば、序盤の集会のシーンで、体育館で誰もいない椅子だけずらっと置いてあって、主役二人が座ってるだけで、集会を表現しているのとかもかっこよかった。
もちろん、そんな人を集めれないよってのが乗っかってるかもですが、人を集めれないなら椅子並べちゃえばいいじゃんっていう演出のかっこよさ。

そういうかっこいい演出が終始続く。
私はこの映画が何に影響を受けて作られたんだろうって思ってしまった。
何に影響を受けて作られたのか全くわからなかった。
監督が作ったZINEによると「60年代を目指した」と書いてあった。
ネットの感想にはゴダールっぽいとか大島渚的とも言われていたので、そういうヌーヴェルヴァーグとかが根底にあるのかなと思ったりするけども、この感想を書いている現在、私はヌーヴェルヴァーグを一本も見たことない。
だからわからない。
とりあえず見たことない映画だ……と思ってしまったのだった。



それでも、多分、凄い映画だったのだと思う。
同時に本当にわからないというか、全然刺さらない人がいても納得する。
でも、この世界にはこの映画が刺さって刺さって仕方ない人もいるんだと思う。
その人に届けばいいなと思っている。


繰り返しになるけども、戸惑ってはいる。
同時にもう一度見たい。あの世界に戻りたいと思っている。
ただ、今はなかなか見るのが難しいみたいだ。
舞台挨拶の監督曰く「東京での上映を目指して頑張ってる」と言っていた。
この作品が実際に上映され、より多くの人に波及したらいいと思う。
また大阪でも上映があれば嬉しい。
その時はまた見に行きたいと思う。
そしてその上映の時までに『地獄のSE』という映画があることを一人でも多くの人が知ってくれたらと思う。


最後にこの映画を見ることができて本当に良かったと思う。
それは映画を見てこんなにも戸惑うのは珍しいことだったし、終始何を見せられているんだろうと思ったこともだし、凄かったと呆然したこともだ。
けども何よりもこんなに可愛らしくて愛おしい映画に出会えたことが嬉しいと思う。
またぜひ見ることができる日が来たら嬉しい。
それまではなんとか生き延びたいと心から思ってる。



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それにしても『地獄のSE』ってどういう意味のタイトルなんだろう。
結局わからなかったな。
これもいつかわかったら嬉しいと思っています。