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長久允『FM999』を見た!

長久允総監督・脚本、WOWOW制作のドラマ『FM999』を見ました。

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あらすじ

16歳になったばかりの女子高校生小池清美が頭の中で「女って何?」と思った瞬間、女とは何か?についての歌を届けてくれるラジオFM999を受信し始めます。

感想

私は長久允監督のめっちゃファンなので、長久允監督の次回作がドラマ!しかもWOWOWで!そして内容がミュージカルドラマ!って聞いた時は一体どんなものになるのだろう…!と超わくわくしたわけですが、見てみるともう純度100%長久允作品でありながら、たしかにミュージカルドラマで、そしてドラマならではの面白さを兼ね備えた、つまりはめっちゃ面白いドラマだったのです。
どんなドラマかの感想の前に、まず羅列させてほしいのは、この『FM999』で歌を歌っている人々の名前です。

宮沢りえメイリン、 菅原小春、塩塚モエカ、 太田莉菜八代亜紀、モトーラ世理奈後藤まりこともさかりえ、アオイヤマダ、三浦透子ゆりやんレトリィバァ、なみちえ、研ナオコ豊田エリー青山テルマ松本穂香長井短、吉住、坂井真紀、眉村ちあき、真矢ミキ、MEGUMI西田尚美水原希子、内田慈、坂本美雨
そしてラジオDJTARAKO
 
まさにオールスターキャスト…!このキャスティングにまずは震えてしまうわけですが、歌われる歌がまたとてもいいのです。
歌を言葉で説明するのはとてもむずかしいことですし、聞いてもらうのが一番だと思うのですが、それぞれある種のパブリックイメージだったり、それまでのキャリアの流れ、つまりはセルフパロディ的なキャスティングではないことを強調しておきたいです。
それぞれの歌を歌っている時、この人ってこんな魅力があったんだ!と思う瞬間もたくさんありましたし、ある種イメージと真逆的な歌を歌う時もあったり、その人の素敵なものをブーストさせるような歌もあったりで、毎回流れる三曲を聞くのが本当に楽しかったんですね。

それと同時にここで歌われる歌は主人公小池清美さん(演じるのは長久允監督作品だと『そうして私たちはプールに金魚を、』『心臓2つ/父と歴史』でもタッグを組んでいた湯川ひなさん)が「女って何?」と思った疑問に対する歌です。
つまりは女性が抱えている問題の数々に対する歌です。
根源的な女とは?や労働、ルッキズム、セックス、または鬱、そして人生。
この現代社会や歴史的な、もっといえば身体的な部分までに関する、女という歌です。

2022年現在のことを言えば、ネット上ではフェミニスト的なことは残念ながら嫌われています。
またこういった問題を扱ったというか、問題的なものを言ってみただけな作品があるのも事実です。
『FM999』は「女って何?」という問いを考え続けるドラマです。
でも、勉強的な難しさはありません。また「センセーショナルな問題を扱った!」みたいな軽薄さもありません。
このドラマでは徹底的に歌を信じています。
歌は楽しい。
歌は悲しいことも、楽しくできる。
歌の持つ根源的な多幸感や祝祭感を信じているように思えます。
だから一見するとふざけているようにみえるかもしれない。
けれどもその歌が持つ力に伝えたいことを託し続けることで、このドラマは最終的にかなり深いところまで行くのです。
またそれはドラマが持つ力でもあります。
このドラマは30分ドラマ(実質は22分)ですが、ドラマは続き物だとしても、いくら時間が短かろうと、始まりがあり終わりがあるという「1話」を重ねていくものです。
一つの始まりと終わりだけを迎える映画とは違い、何度も始まり何度も終わる。それぞれの「1話」は過ぎ去った記憶のように積み重ねっていきます。
もちろんこれは映画が悪くてドラマがいいって話ではなく、映画にできること、ドラマにできることの話です。一つの始まりと一つの終わりしかない映画の良さもめっちゃあるわけです。誰もがみんな60話のドラマを見れるわけじゃないでうっし。
でも、「1話」を積み重ねていく、それは過ぎ去った記憶のように、といいましたが、またそれは人生というものを描くのに合っているのかもしれません。
そしてこのドラマは「女って何?」という疑問を歌っていくミュージカルドラマであるように、主人公の清美ちゃんの人生の話でもあるのです。


『FM999』の主人公の清美ちゃんは何度も「女って何?」と考えます。そのたびに3曲の歌を聞きます。
ドラマが終盤に向かい、清美ちゃんの状況が大変になっていきます。そしてそのたびに3曲を聞きます。
でも、それらの歌が答えを出してくれるわけでも解決をしてくれるわけでもありません。
清美ちゃんは頭の中のラジオ局『FM999』でその歌を受信するだけなのです。
歌を聞くだけでは問題は解決しない。またわかりやすい回答も得られない。
ただ「その歌を歌う女」がいるというの知るのです。清美ちゃんが抱いた問題に対して、ある種の考えを持った女がいる。ある種の行動をしている女がいる。ある種の諦めを抱いて生きている女がいる。
そういう女がいる。
それを清美ちゃんも、私達も知っていくだけです。
疑問に対するわかりやすい回答はありません。
わかりやすい答えは気持ちの良いものです。でも、それは本当に答えなのでしょうか?
ある種のわかりやすい答えは、誰かや状況や環境をただ否定しているだけかもしれない。
このドラマはただそこにいる女達を見せていきます。
そこに否定も嘲笑も美化もありません。
そこに、そういうふうにして生きてる女達がいる。大きな強調された文字でなくとも、ただそういる。
多様性だなんて言うと難しく聞こえるかもしれません。
でも、ただそこで、そうやって生きている人がいるんだと思うこと、それだけで認識している世界が広がっていく。
そんなふうにして抱えている世界が広くなった人が増えたら、本当に世界が変わるんだと私は思います。

『FM999』の最終話、このドラマで最後に歌われる歌で私はボロボロと泣いてしまいました。
それは上記で書いたことの結集でした。
ただそこにいる人々、そしてその人々は一人として同じ人はいないこと。
それはドラマだからこそできたことだったし、ドラマだからこそ、そして歌を信じた物語だったからこそ、できたことだったように思います。



さて、ここからは少し違う話というか、『FM999』を見てふと思い出したyoutubeのコメント欄の話です。
私は相対性理論ってバンドが大好きなんですけども、相対性理論には"地獄先生"という曲があります。
先生に恋をしている女学生がその思いを歌った曲ですけども"地獄先生"というタイトルだったり、歌詞の言葉の使い方だったり、もっと言えば相対性理論ってこういうバンドだと思っていた認識もあって、これを真っ直ぐなラブソングだと思ってはいなかったんです。
でも先日、この"地獄先生"のMVを久しぶりに見た時、コメント欄にずらっと並ぶ、今、まさに先生に恋をしている学生からのコメントでこの曲を真っ直ぐなラブソングとして聞いてるんだ!とめちゃくちゃに驚いたんですよ。


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でも、それこそが、当事者の持つ力なんですよね。先生に今まさに恋をしている当事者。当事者だからこそ、"地獄先生"が自分の気持ちを歌った音楽として響くわけです。
私は31歳の男性です。「女って何?」って悩みよりも、人生は「男って何?」って悩んだほうが多いです。
つまりは『FM999』で歌われてる歌の当事者ではないのです。
だからこそ、この『FM999』が今、まさにこの瞬間、「女って何?」って悩んでいる当事者に届けばいいなと思いました。
"地獄先生"で自分の歌を見つけたと思った人のように『FM999』の歌を聞いて「自分の歌だ!」と思う人に届いたらいいなあと思います。


それと同時に私は31歳男性という当事者じゃないからこそ、このドラマを見て本当に良かったと思います。
清美ちゃんが10話をかけて何度も何度も問いかけた「女って何?」という疑問は、そのまま私自身を考えるきっかけ、つまりは「男って何?」という疑問になっていきました。
これもまた簡単に答えがでる疑問ではありません。
でも、沢山かんがえること、沢山わからないと思うこと、そして沢山のそうであるものををそうであると思うこと。
そうすることは決して無駄にならないと思う。
そのことが「善き人」につながることなら、私は諦めちゃいけないんだと思う。
そして私も私の生き方を誰かに伝えられたらと思う。
このドラマの最後のように、息を大きく吸い込んで、いつか、その順番が来たら伝えなきゃいけないのだと私は思う。



・ここからは追記。
・名曲ぞろいのドラマでしたが、私がその中でも好きだったのは「まゆげの女」「幽霊の女」「エビで宇宙をゆく女」「ポテトがあがる音をきく女」「ホーミーの女」「ビジーフォーの女」。このあたりは毎日のように聞きたいくらい超好みだった。
・しかし色々な理由でサントラが出てないみたい。
・サントラなんとか出ないですかね……。難しいとは思うのですが……音楽にすがって生きてきたような人生だったから、これが日常的に聞けないのは悲しいなって思います。
・小さなセリフまでもすごくいい。例えばさらりと「ルッキズムの問題は難しいからね」とか「すべてのことに責任を感じるようになってしまうからね」とか、問題を考えるのは大事だけども、人は完璧じゃないからこその逃げ道というかやさしいさじ加減だなあと思った。
・優しさというかですが、このドラマの一番の憎まれ役のある処遇ですら、その処遇に対しての疑問みたいなのを投げていてちょっと「おお……」と唸ってしまった。
・なんていったらいいかわかんないけども、ある意味気持ちよくさせはしないし、そういう親の部分も、考えていけたらねというところは見えたり。
・演出には大熊一弘さんと中村剛さんも参加されている。
・大熊さんはTHE BACK HORNの「美しい名前」のMVを作った人、中村さんはYUKIの「JOY」のMVを作った人だって!やべえぜ!!


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・あとこれは本当私の思いですが、私は「ホーミーの女」みたく生きたいって思う。死ぬなら完璧なホーミーで、って思う。
・あとはエビで宇宙を行きたい。でも宇宙も退屈って思うんだろうね。生きていくって難しいよね、本当ね。