にゃんこのいけにえ

両目洞窟人間さんが色々と書き殴ってるブログです。

短編小説『ちゃん呪』

『ちゃん呪』


「じんちゃ~ん!この駅でぇ~写真撮るとぉー、幽霊がうつりこむって話にゃよ~!!」と酔った友達でねこのきいちゃんが呂律回らずにそう言うので、私はうへうへ笑いながら「じゃあ、撮ってみようよ~!」ってiPhoneのインカメラできいちゃんと「いえーい!」って言ってたらきいちゃんが「あ、動画だったにゃー!」って言って「動画かーい!」って突っ込んでいたら、そんな私たちの背後に叫ぶ顔をしたような人影が映り込んでいたので、私の脳裏に浮かんだビートたけしは「常識では考えられない出来事、アンビリバボー」と言うのだった。
 ってわけで常識では考えられないような出来事が起きてしまって、怖くなった私たちは「除霊 神社」で調べて、近隣(っていっても電車で1時間半かかる)に除霊に強いとされる神社があることを知る。
 で、次の休みの日にきいちゃんとその神社に行く。
「山だにゃ~」「暑いね~」「あ~ブーツで来るんじゃにゃかったにゃ~」「今日、神社に行くっていったじゃん」「けどにゃ~」と言いながら到着した神社で、除霊に強いとされる神主さんに「これがその動画なんですけども」って見せたら、神主が「うわー!!」って叫びながら後方へ吹き飛び、柱に頭を打ち付け、頭から血をだくだく流す神主は「これは私の手には負えない。知り合いの霊能者に連絡します」と言って、血をだくだく流しながら電話をかける。
 きいちゃんが「え、そんなにやばい動画にゃの?」って聞いてくるけども私は「やばいんかなあ」としか言えない。私もきいちゃんも霊感が全然無いのだ。
 神主は「霊能者と連絡が取れました。これから言う場所に行ってくれますか」と言われて、調べるとまた街に戻って、歓楽街の雑居ビルの4階。
「え、今からですか」「今からです。霊能者曰く、早く対処しないと恐ろしいことが起きると言っています」と言うが、私たちは電車とバスで神社まで来たので、すぐに行く足がない。
 というわけで、神主さんが車を出してくれることになる。神主さんは、頭に包帯をぐるぐる巻いている。そんな人に車を運転させるのは申し訳ないけども、私もきいちゃんも運転免許持っていないのだ。
 神主さんのジープに乗る。神主なのに、ジープなんだと思った。
 ジープの後部座席に乗って、街へ急ぐ。
 頭から血を流し、私たちのためにジープを走らせてくれる神主さんには悪いなと思いつつ、私たちは車の揺れで眠たくなっていてうとうとしてしまい、ちょっと寝てしまう。


 夢の中で、サンリオのシナモンがプロレスのリング上でバットばつ丸にラリアットを決めて、そのまま押さえ、3カウント取って、勝利。
 シナモンはチャンピオンベルトを肩から提げつつマイクパフォーマンスをする。
 シナモンは泣きながら「ぼくが見たい景色はまだまだ先です。1.4、マイメロさんと東京ドームで戦わせてください」と言い、観客と私が騒然となっているところでと「つきました」と神主さんがジープを駐車場に停めて、私たちも夢の世界から戻ってくる。
 私たちはあくびをしながら駐車場から、3分ほど歓楽街を歩く。
 歓楽街を先導するのが頭に包帯を巻いた神主さんだ。
 包帯を巻いた神主さんの姿にキャッチの人々もぎょっとして、全然話しかけてこない。
「ここです」と神主さんが指さすビルの階段を4階分上がる。エレベーターはない。
 きいちゃんは「ブーツ履いてこなきゃよかったにゃ」と言うから「今日、神社行くっていったじゃん」って言ったら「だって新しいドクターマーチン買ったんにゃよ。履きたかったんにゃよ」って言うから、きいちゃんはそういうところがあるよなあって思うけども、そう言ってる恥ずかしそうな顔がかわいいので、きいちゃんはそのままでいてねって思う
 神主さんが「ここです」と指さす扉には【株式会社アル企画】と書いてある。
 あれ、会社?霊能者じゃないの?て思っていると、扉が開いて、ボブヘアで眼鏡をかけた女性が出てくる。
 「入って」とその女性が言うので、【株式会社アル企画】内に入ると、そこには大量のDVDが積まれている。そのDVDのジャケットは半分くらいは不気味で怖いもので、半分くらいが銃を持ったヤクザ。DVDは積まれてタワーのようになっている。片側がホラーDVDのタワー、片側がヤクザDVDのタワー、その真ん中を通れば、応接間がある。
 応接間にはソファーとテーブル。そして棚があってそこにはやっぱり怖いジャケットのDVDとヤクザが銃を持って睨んでいるジャケットのDVDがずらっと並んでいる。
 私は「こういうときってどっちに座ればいいんだっけ」ときいちゃんに聞く。
「うにゃにゃにゃにゃ・・・ねこに上座も下座もないのにゃ」と言われてしまう。そうだよね。
 ボブめがね女性は「奥にどうぞ」と私たちを誘導するので、私たちは奥のソファーに座る。座り心地がめっちゃよくて「凄いふかふか!」と咄嗟に言ってしまい、恥ずかしいなって思う。
 ボブめがね女性は名刺を渡してきて「株式会社アル企画の関根です」と言い、その名刺を見ると「映像制作 有限会社アル企画社長 関根實和子」と書いてある。
「え、社長さんにゃの」「あ、これでも社長でして」「凄いにゃ」「いやいや、Vシネ系の映像制作会社ですよ」「Vシネめっちゃ好きですにゃ」「え、ねこなのに?」「ねこもVシネ見るにゃよ。『ジパング統一』とか大好きにゃ」「へえーねこもVシネ見るんだ。『ジパング統一』人気だよね。私の会社じゃないけども」「それは失礼しましたにゃ」「いいよいいよ。うちの主力商品はこれ、ちゃんのろ」って関根さんは棚から怖いジャケットのDVDを取る。
「ちゃんのろ?」私は聞き返す。
「『ちゃんとあった!呪いのビデオ』じゃにゃいですか!」と突然きいちゃんのテンションがあがる。私はびっくりする。
「え、ちゃんのろ作ってるのって」
「私の会社だよ~」関根さんは言う。
「えー!凄い!じんちゃん!すごいにゃよ~!」ってきいちゃんは私の肩を叩きながら言うけども、全然すごさが分からない。
「『ちゃんとあった!呪いのビデオ』、通称ちゃん呪(のろ)は現在100巻を超える心霊ドキュメンタリーシリーズなんですよ。一般投稿者から送られてきた心霊が映り込んだ映像を収録し、時に取材をし、心霊やその謎を追う作品です」と神主さんが解説してくれる。なんで神主さんが口を挟んできたのかわからない。
 神主さんは続けて「関根さんは『ちゃん呪』やヤクザのVシネを作っている映像会社の社長なんですけども、同時に霊能者もしている方なんです」と説明してくれたので、へーそんな副業もあるんだー、ってかキャラ濃くない?って思う。
「キャラ濃いよね」と関根さんが笑う。こいつ、霊能者だから心読めるのか。あれ、霊能者って心読めるんだっけ。そもそも霊能者って何をする人なんだっけ。
「あの、霊能者って何する人なのにゃ?」とちょうど良いタイミングできいちゃんが聞くから、きいちゃんも心読めたりする?って思ったりする。
「まあ、簡単に言えば除霊ですね。あとは、送られてきた本物の心霊映像をみんなが見れるような状態まで持っていったりしてます」
「みんなが見れるような状態ってのはどういうことにゃ?」
「本物の心霊映像をそのままみんなが見れる状態にしちゃうと、それを見ちゃうことで、霊による悪影響、霊障が起きてしまうんですよ。それが無いように除霊したり霊力をなくすのが私の仕事です」
「へ~。え、本物の心霊映像ってことは、偽物の心霊映像もあるのにゃ?」
「あ~。夢を壊してしまったらごめんなさいだけども、『ちゃん呪』も9割は偽物というか作った映像です」
「えーそうにゃの!ってことは1割は本物にゃの?」
「はい。本物です」
「凄いよ!じんちゃん!本物の心霊映像がちゃんとあったんだにゃ!」
「え、そもそも全部本物じゃないの?」私は聞く。
「心霊映像界隈では公然の嘘ってのがまかり通っていて、みんな心霊動画は作り物というのを知っているけども、本物だと楽しむと言う姿勢が求められていたんです」と神主さんがまた挟む。神主さん、やけに心霊映像に詳しいな。
「そうにゃ。だからだいたいは嘘というか、それ込みで怖いにゃ~って楽しむのが心霊動画だったのにゃ」
「そうだったんだ」私は返答しながら、テーブルの上に置いてあるお菓子を見ている。
「でも、1割は本物だったにゃんて!これは凄い話にゃよ!!」
「へー」テーブルの上のお菓子、やけにパインアメが多いな。
「とりあえずだけど、その本物の動画、見せてよ」関根さんが言う。


 動画データをAirdropで送って、関根さんの会社のマックで見る。神主さんはまた吹き飛ばされたら大変だということで、応接間に残ってお茶を飲むことにした。
マックで動画の再生をすることになって、髭面男性がやってくる。髭面男性はビデオカメラを持っている。
「あ、どうも、今の『ちゃん呪』の演出をやっています、酒寄です」酒寄さんはどもですとお辞儀をする。カメラもお辞儀の動きをする。
「あ、どもです」私ときいちゃんもお辞儀をする。
「久しぶりのまじの映像って聞いて。あ、カメラ回してもいいですか」
「あ、大丈夫、ですけども、きいちゃんは?」
「私も大丈夫ですにゃ」
「じゃあ、これからカメラ回していきますんで」と言っているけども、持ってきた段階で録画を示す赤いポチっとした光が点っていたのを私は気がついている。けども特に何も言わないでおく。
「じゃあ、再生するね」と関根さんが言って、マック内で映像が再生される。


「じんちゃ~ん!この駅で~写真撮ると、幽霊がうつりこむって話にゃよ~!!」「じゃあ、撮ってみようよ~!」「いえーい!」「あ、動画だったにゃー!」「動画かーい!」
って場面が繰り返し流されて、軽すべりし続けていて恥ずかしいけども、検証のためだ、仕方ないと私は自分に言い聞かせる。
 繰り返し流されるたびに、私たちの後ろにちゃんと叫ぶ顔の人影がいるのが見える。くっきり見えていく。なんか口をぱくぱくしているようにも見える。
「そういえば、関根さんは吹き飛んだりしないんですね」ふと思ったことを聞いてみる。
「そういう動画だって知ってるから、今、霊力で身体を押さえているからね」
「霊力ってなんか凄そうですにゃ。霊感とは違うのにゃ?」
「霊感は霊を感じる力で、霊力ってのは、なんだろう、霊と対することができる力かなあ」
「にゃるほど~」きいちゃんは言う。
「この人影、もしかして、なんか喋ってないですか」酒寄さんが言う。
「そうにゃ?」
「ちょっと拡大して、スローにしましょう」
 拡大した人影の口がぱくぱくしているのをスローで見ていく。
 ぱくぱくぱくぱく。ぱくぱくぱくぱく。
「結構動いているね」「そうにゃね~」
「これなんて言ってるんでしょうね」酒寄さんが関根さんに聞く。
「うーん。わからないけども、口の形的には“い”と“え”って言ってそうね」
「“い”と“え”。あーじゃあ、“死ね”とかですかねえ」
「死ね・・・・・・」そう思って画面上を見ると、そう言っているように見える。
 ぱくぱくぱくぱく。死ね。死ね。ぱくぱくぱくぱく。死ね。死ね。
 ぞっとしていると「うぎゃああああ!!!」と突如、応接間から叫び声。
 何!?と思い、皆で応接間に駆け寄ると、神主さんの身体から煙が出ている。
「熱い、熱い、熱い!!!あぎゃぎゃぎゃぎゃああああ!」神主さんは身体の火を消そうとするように身体をはたいているが、神主さんの身体に火は付いていない。ただ、煙が立ち上っている。
「あぎゃあああああ!!!」と叫んだあとに「あっ」と魂が突然抜けたようになり、じゅっ、と燃えた炭に油が落ちたような音を立てて、神主さんの身体は消え去ってしまった。
 え?と私が呆然としていると、応接間の床には神主さんが着ていた服と包帯が転がっている。
「あー蒸発しちゃったか・・・・・・」関根さんが言う。
「蒸発?」
「あの動画からの霊障を、私は霊力で押さえていたけども、それがこっちの部屋に流れ込んできてたんだね。それで蒸発しちゃったんだよ」
「え、じゃあ、神主さんは?」
「だから蒸発しちゃったよ。霊力で焼かれて身体が消えちゃったんだよ」
「えーこっわ・・・・・・」
「こわいにゃね・・・・・・」
 私たちは震えている。
「あ、大丈夫だよ。こういう霊障の被害に遭うのは、まず霊感がある人だから。だから酒寄くんも大丈夫でしょ」
「俺も霊感ないですし、あと、慣れてるってのもあるんで」
「慣れるんですか・・・・・・」
「映像のディレクターやってるとなんでも慣れちゃうんですよ」酒寄さんは言う。
「でも、まあ、神主さんを蒸発させちゃうほどの霊力持ってるのは、想定外だね。急がないとまずいかも」
「まずいって何がですか?」答えはわかっている気がするけどもそれでも私は聞く。
「君たちの身体もこんな風に蒸発しちゃうかもってこと」
「霊感無いですけども」
「あまりにつよい霊力だからね、霊感なくても何が起きてもおかしくないよ」
 私たちは何も言えずに押し黙ってしまう。
「じゃあ、とりあえず行くしかないね」
「え、どこへ」
「撮った場所。その駅のホームに行くしかないよ」


 関根さんは神社に電話を入れて、神主さんが蒸発したことを伝えると、電話の向こうの神社職員は「こういう稼業ですから、いつかこんなことが起きるとは思っていましたが、まさか今日とは・・・・・・」という嘆きをもらした後「では、後処理は我々が致します」と言い、数時間もすれば、このビルには神社職員が来るらしい。
 その間に、私たちはその駅に行かなきゃならない。時計を見ると20時。
 私たちはアル企画の社用車であるところのハイエースに乗り込む。運転は関根さん。酒寄さんは撮影で、私たちにカメラを向けたり、車外の風景にカメラを向けたりしている。
「あの、さっきの蒸発した神主さんの映像って使うんですか」私はふと思ったことを聞いてみる。
「あー、まあ、神社サイドや遺族から許可が降りたらだけども、使いたいは使いたいよね」
「え、使いたいんですか。結構怖かったじゃないですか」
「うーん。そういう映像が撮れちゃったら使いたいって思うんだよ。やばいことが起きれば起きるほど、っていうか、そういう映像が撮れれば撮れるほど。倫理的にやばいとは思うけども、職業病だよねえ」
「えー。怖くはないんですか」
「怖いよ。すっごくね。ねこちゃんはどう?怖い?」ってきいちゃんに聞くと、きいちゃんは頭をぶんぶん縦に振る。
「そっか、だよね」って酒寄さんは言って、カメラを車外に向けて風景を撮った。


 駅に到着した。関根さんは「一旦、パーキングに入れてくるから、先に行ってて」と言って車を走らせる。
 私ときいちゃんと酒寄さんで、駅のホームに向かう。
 駅のホームは蛍光灯色のLED照明のせいで、やけに白く見える。
 ホームの電光時計は20時30分と表示している。
 一週間前にお酒を飲んではしゃいでいた空間とは違って、誰かの怨念が禍々しく渦巻いているような空間に見えて、私は胃に落ちる重たい感覚をどうにかしたいと思った。
 酒寄さんはカメラを向けながら私たちに聞く。
「ここで、あの映像を撮ったんだよね」
「あ、はい」
「私が、ここで撮ると、霊が撮れるにゃって噂を聞いてたんで、それで撮ってみようって言いましてにゃ」
「ちょっと再現してみて」
 酒寄さんに言われて、私たちは、えーと、こんな感じで・・・・・・と言いながらスマホを自分たちに向けて、当時の状態を再現してみる。
 ファーン!と音がして、電車が通過していく。少しびっくりする。きいちゃんが私の腕をぎゅっと掴む。
 電車が通過したあと、酒寄さんが「今撮った感じだと、霊は写り込んでないね」と言う。 その言葉に少しほっとしていると、スマホのインカメラが、私ときいちゃんの隙間の誰もいないところに「顔」の判定をし、黄色い四角が誰もいないところに浮かび上がる。
 その黄色い四角は私たちに近づいてくるように徐々に大きくなる。私は怖くて、スマホを見たくないと思う。けども、目をそらすのも怖くて、見てしまう。
 そこには叫ぶ人影がまた写っている。口をぱくぱくさせながら私たちに近づく。
 助けを求めるように酒寄さんを見ると、酒寄さんはカメラのモニターを見ながら「おいおい、聞いてねえよ」と言っている。
「酒寄さあん。今、幽霊が私の後ろにいますにゃあ・・・・・・」
「それ、幽霊じゃないよ・・・・・・」
「え」
「もっと、違うもんだよ・・・・・・」と酒寄さんがビデオカメラのモニターを回転させて、私たちに見えるようにしてくれる。
 モニターに映る私たちの後ろに巨大な半透明のオオサンショウウオみたいなものが蠢いている。
 仮にそれを霊体オオサンショウウオと言うとすれば、その霊体オオサンショウウオの口の上部に人がくっついている。
 その人は口をぱくぱくとさせている。
 映り込んでいたのは、その人だったのだ。
 そして、今ならこの人がなんて叫んでいるか、わかる。
「しね」って言ってたんじゃない。
「して」って言ってたんだ。
「ころして。ころして」とその人は叫んでいたのだ。
 私たちは怖くて動けない。
「ぬばああああ」と霊体オオサンショウウオの口が開くのがわかる。
「あ」と叫ぶ間もなく、私ときいちゃん、そして酒寄さんは霊体オオサンショウウオに食べられてしまった。

 気がつくと、真っ暗闇だ。
 いや、スポットライトが当たっている。
 プロレスのリングに光が当たっている。
 そこにはサンリオのシナモンがいる。
 シナモンはバッドばつ丸の身体を引きずっている。
 バッドばつ丸の身体がちぎれる。
 ちぎれた身体からおびただしい量のパチンコ玉が溢れ出る。
 シナモンは何度も「1.4、マイメロさんと戦わせてください。1.4、マイメロさんと戦わせてください。いってんよん、まいめろさんとたたかわせてください。イッテンヨン、マイメロサント、タタカワセテクダサイ」と繰り返す。
 バットばつ丸の身体から転がったパチンコ玉が、パチンコの穴に入り、天井がうぃんうぃんと回転し始め7と7が揃った瞬間「チャンス!!!!」と赤字予告が入り「うお~~~」とガラス越しの鈴木もぐらと岡野陽一が叫んでいる。
「揃え!揃え!!」と叫ぶが、7は揃わなくて「なんでだよう~」と鈴木もぐらと岡野陽一が嘆いているその後ろは砂漠だ。
 砂漠の一本道をミニバンが走っている。
 私は乗せて欲しいので、親指を立てる。
 ミニバンが止まると、その車の中には色んな双子が乗っている。
 ミニバンから双子が溢れ出し、どんどん溢れ出し、もっともっと溢れ出し、気がつけば砂漠は双子の海になっている。
 私は双子の海におぼれそうになると、そこにいかだがやってくる。
 そのいかだをよく見ると、『タイタニック』でジャックがローズを乗せたあの扉だ。
 いかだというか扉だ。
 いかだの上には震えているローズ、の代わりにきいちゃんがいる。
「じんちゃん!手をつかんで!」
「きいちゃん、なにこれ」
「話はあとにゃ!とにかく手をつかむのにゃ!」
 私はきいちゃんの手を掴む。肉球が柔らかい。掴んだ瞬間、大きな地響きが起きて、双子の海が割れる。
「離さないで!!」ときいちゃんが叫ぶ。私は必死にきいちゃんの手を握る。
 いかだが割れた海に落ちていく。
「問題」
 声がする方をみると赤いジャケットを着た関口宏がこちらを見ている。これ、見覚えがある。『東京フレンドパーク』だ。
トミーフェブラリー
「・・・・・・」
トミーフェブラリー、正式名称Tommy february6、ご存じですね。Tommy february6のシングル曲を5つ答えて。さあ走って!」
 隣を見るときいちゃんが走っている。
「にゃっにゃっにゃっにゃっ!」あの相方が走って速度を稼がないと答えられないクイズのコーナーのやつだ。きいちゃんが何故か走る羽目になっている。でも考えている間はない、私はTommy february6の曲名をなんとか答えようとする。
「えーとえーと。EVERYDAY AT THE BUS STOP、♥KISS♥ ONE MORE TIME、えーと、Bloomin'!、あとー♥Lonely in Gorgeous♥、あと、あと、なんだっけ、えーと、えーと、トミーフェブラッテ、マカロン(ブーッ!)I'm in the mood for dancing(ブーッ!)えー、えー、Pray!(ブーッ!)え、Pray違う!?Prayはシングルだったじゃん!」とここで時間切れ。
 関口宏が「je t'aime☆je t'aimeやLove is forever,L・O・V・E・L・Y~夢見るLOVELY BOY~がありますね」
 渡辺正行が「PrayはTommy heavenly6なんですねえ」と言う。
 私は「そんな」と落胆し、隣できいちゃんが「はぁはぁはぁ・・・」と肩で息をしている。「きいちゃんごめんね」と言うと「Prayがヘブンリーだにゃんて・・・」と返す。
 私は東京フレンドパーク収録中のスタジオを見渡すと、カメラマンの一人の持っているカメラが他のよりも小さくて、それを持ってる髭面の男性はよく見れば酒寄さんだ。
「酒寄さん!」と私が言うと酒寄さんはカメラをこちらに向けたあとに「あっ」と顔をしてどうやら正気に戻ったっぽい。
「これ、ずっと何が起きて・・・・・・」と私が言いかけたところで、カットが切り替わって、私はダーツを持って回転する的に向かって投げようとしている。
 客席からは「パ~ジェロ~パ~ジェロ~パ~ジェロ~」ってかけ声が聞こえる。
 狙うパジェロの的は狭い。しかし赤い。
 回転する的の赤色だけを注目する。
 あの赤の回転するスピードをつかみ、ダーツの投げる軌道を予測する。
 私は息を吸い、そして吐いて、回転する的を見て、その感覚を掴む。
 私がダーツを投げると、当たった感覚がする。
 的がゆっくりになり止まる。
「たわしです~!」と渡辺正行が叫ぶ。
 ダーツはパジェロの隣のたわしの的にに刺さっていた。
 その瞬間、スタジオに置かれたローションまみれの巨大な階段のてっぺんから、ローションまみれのたわしが大量に降ってくる。
 私は避けようとするけれども、いつの間にか足下にたまっていたローションに足が滑って思うように動かない。
 きいちゃんも同じようで「うにゃにゃにゃにゃにゃ!!!」とつるつる滑っている。
 気がつけば、スタジオは同じTBSでも『東京フレンドパーク』から『オールスター感謝祭』になっている。
 だからローション大階段があるのだ。
 私は足をもつれさせながら、芸能人があつまる壇上を見ると、島田紳助東京03を恫喝している。2009年の『オールスター感謝祭』だ。
「全員スタンドアップ!!」と司会の島崎和歌子が叫ぶと、床が開き、私は暗闇に落ちていく。


 暗闇に落ちていきながら、私は霊体オオサンショウウオに飲み込まれたはずだよな。
 なんで、こんな変な世界をさまよってるんだ?って思っていたら、暗闇に目が痛くなるほどの一点の青い光が迷い込んでくる。
 私は落下しながらその青い光を見ているとそこから声が聞こえる。
「~~~~~~~~~」
 なんと言ってるかわからない。
 段々、ラジオのチューニングが合うように、その声は大きくクリアになって「おーい。この光が見えるー?」と声がする。
 関根さんの声だ。
「関根さーん?あ、見えますー!」私は声を張り上げる。
「じゃあ、光に掴まって」
「あ、それは無理ですー」
「なんでー?」
「今ー落下していますー!」
「落下?」
「暗闇を落下してますー!」
「落下してないよ。全部あなたの無意識がむき出しになっているだけだよ」
「うーん?わかんないですー?」
オオサンショウウオみたいのに食べられた結果なんだけども、あなたは今、あっちの世界に半端に足を浸かってるみたいになってるのー」
「はー」
「それで、あっちの世界のせいで、あなたというかあなた達の無意識がべろんと裏返しになった世界を彷徨ってるわけー」
「じゃあ、どうしたらいいんですか」
「わたしが力で出口を開けるから、とりあえずその光をつかみにきて」
「光を掴むってのがわかんないんですけども」
「とりあえずやってみて、なんとか無意識をコントロールして、なんとかやって。じゃないと、本当にあっちの世界に引きずり込まれて死んじゃうよ」
「死ぬのはいやですー」
「じゃあ、なんとかしなさーい」って言ってた光がそのまま、ぴゅーんと遠くへ飛んでしまう。
 相変わらず私は暗闇を落下している。ひゅーんと落下している。
 けども落下してないって関根さんは言っていた。
 というわけで、私は「落下していない」と思い込む。
 落下していない。落下していない。落下していない。
 そしたら、私は横たわっている。眩しい。冷たい。スタジオの床。
 ぴっと笛を鳴らされる。赤いジャケットを着た関口宏が笛を吹いている。また『東京フレンドパーク』のスタジオだ。
 隣を見れば、きいちゃんがヘッドフォンをして、光るパッドを叩いている。
 ベース音と光るパッドを正確に叩いたときだけ正確なメロデイがスタジオに流れる。
 きいちゃんは汗を流しながら、パッドを叩いてる。けどもだいたいは外していて、全然メロディは聞こえない。ベースの音だけがスタジオに鳴っている。
「じゃあ、答えをどうぞ」と関口宏に言われる。
 きいちゃんが不安そうに私を見ている。
 でも多分、あの曲だろう。ベース音でなんとなくわかる。
「・・・・・・長州力の入場曲」
「正式なタイトルは?」関口宏が言う。
「パワー・ホール」
「・・・・・・正解!」
 正解してほっとした私はそのままパッドの前に走っていって、じんちゃんの手を持って走りだす。
「にゃっ!どうしたのにゃ!?」
「逃げるんだって、ここから」
「ここから?」
「覚えてない?ここあのオオサンショウウオの身体の中だよ」
「え?あ!あ!!!」
「あ、酒寄さん!カメラ撮ってないで、こっちきて!」と言われた酒寄さんも再び正気を取り戻し、慌てて、私たちの方に近づいてくる。
 ぴーっ!ぴっ!と関口宏が笛を吹く。
 怒っているだろうが知らない。
 私はスタジオ観覧席に向かって走る。観覧席を登り切ったその上に、逃げるための大事なものが置いてある。
 パジェロだ。
 酒寄さんがようやく合流する。
「プロレスの会場になったり、砂漠になったり、フレンドパークになったり、なにこれ」「関根さんに説明してもらったんだけども、説明はあと。今はあのパジェロに乗らなきゃ」
「わかった」
 酒寄さんはカメラを回しながらだけども、付いてくる。
 こんな異常事態、撮っておくべきだと思う。
 私たちは観客席を駆け上がる。
 すると、その観客席が『オールスター感謝祭』のぬるぬるローション階段に突如としてなる。
「わっ」と滑りそうになるのを手すりを掴んでなんとか耐える。
「わっあっ!あー!」と前にいたきいちゃんが滑りそうになっている。
「きいちゃん耐えて!」
「むりむりむり!むりにゃ!!」きいちゃんは足をつるつると滑らせて、つるんと腰から落下し「にゃーーっ!!」と階段をすべり落ちそうになる。
 私は手をなんとか伸ばすと固い物に手が届く。必死にそれを掴む。
「にゃっ!」きいちゃんの落下をなんとか止めることができる。
 私が必死に掴んでいるのはきいちゃんが履いてきたブーツだ。
 それを見て逆さ吊り状態のきいちゃんが「ドクターマーチン・・・・・・!!」と言う。
「履いてきて良かったね…っ!」
「にゃあ……」
 階段の下から、ぴっ!ぴっ!と笛の音がする。
 下を見ると、笛の音が吹かれる度にホンジャマカ石塚が階段を駆け上がってこようとしている。ホンジャマカ石塚は何段かを駆け上がっては滑って落ちていく。ホンジャマカ石塚の巨体がローション階段を転げ落ちるたびに、振動がこちらまで伝わってくる。
 急いで逃げないと。
 なんとかこの階段を上がらないとと思うけども、ローションはめちゃくちゃぬるぬるしていて動けそうにない。
 というかきいちゃんを掴んだ状態のままどうすることもできない。
 どどどどどどっ!という音がして階段の下を見ると、ホンジャマカ石塚が階段を駆け上がっては、つるっと滑って、滑り落ちていく。
 何度も繰り返しては、その度に徐々に私たちとの距離を狭めていく。
 急がないと。けどもどうすることもできない。
「あっ、やばい。二人、逃げて!」と酒寄さんが言うのでそっちを見ると、階段の手すりに身体を寄せた酒寄さんが階段の上を指さしている。
 その指の先、階段を上がった最上段に置いてあったパジェロがローションでぬるぬるになった影響でずるずると滑り落ちている。
「わ、やばい」
「え、にゃにが起きてるの?」
パジェロがローションで落ちそうになってる」
「え、にゃにそれ!」
 ずるずるとパジェロが落ちてきているので、私は自分の身体ときいちゃんを階段の端に寄せようとする。でも思うように動かない。ぬるぬるとしたローションのせいだ。
 ぴっ!ぴぃっ!と笛の音がしてどどどどどど!とホンジャマカ石塚が駆け上がってくる。まずいこの振動は。
 そう思った瞬間、最上段に飾ってあったパジェロはずるるるるっ!と階段を滑り落ちていく。
 私は力を振り絞って、きいちゃんと私の身体をなんとか、階段の端にやる。
 その同時にパジェロが滑り落ちて、私ときいちゃんの身体の側をパジェロがかすっていく。
 パジェロは滑り落ちていき、階段中腹にいたホンジャマカ石塚を轢く。
 がこんっとパジェロは跳ね、それで勢いが付いたかのように、滑り落ちていく。
 ぴいいいっ!と笛の音がして、階段の下にいた関口宏がはね飛ばされて、パジェロはそのまますーっと滑って、さっきまできいちゃんが叩いていたパッドをもひきつぶして、やっと制止した。
 パジェロがあっちに行ったのなら、階段を登る必要なんか無い。
「きいちゃん、酒寄さん!パジェロあっちにいったんで、階段降りましょう!」と言って、私はきいちゃんを持っていた手を離す。
 きいちゃんは「にゃっにゃにゃにゃにゃにゃっ!」と叫びながら階段を滑り落ちていく。
 私と酒寄さんも階段を滑り落ちる。
 パジェロに駆け寄る。足にくっついたローションでまだぬるぬるするけども、階段に比べたら全然ましだ。
 私はパジェロの運転席に行こうとするけども、そこで気がつく。運転免許持ってない。
「酒寄さん!私もきいちゃんも免許持ってない!」
「俺、運転できるよ」
「本当?」
「映像のディレクターやってたら色々できるのよ。あ、鍵っ」
「鍵、あ、車の鍵」
 そうだ鍵がないとパジェロは動かない。
 私はわたわたしながら、スタジオを見渡すとスタジオの隅にデカい鍵が置いてある。
 昔のバラエティ番組でよく見た「車を手に入れた人が貰えるでかい鍵」だ。
 私はとりあえずそれに走って近づく。
 関根さんが言っていたように、この世界が無意識が裏返しになっているものならば、ある程度意識をコントロールすることで、今見えているものを変えることができるはずだ。
 だからでかい鍵を手に取って、私は「元のサイズに戻って」と思うと、でかい鍵はしゅるるるるんぱんと小さくなる。
 それを持って、パジェロに駆け寄ろうとすると、赤いジャケットを着た渡辺正行から強烈なタックルをうけて、吹き飛ばされる。
 渡辺正行が肩で息をしている。
 渡辺正行がまだ残っていた。
 渡辺正行は私の髪を掴むと「ホンジャマカ石塚!関口さん!この二人の痛みだよお!!」と投げ飛ばす。
 観覧席の壁にぶつけられる。痛くて「っちゃあ~~~」って声しかでない。
 痛い肩と腰をさすっていると、渡辺正行がのしりのしりと近づいてくる。
 もうだめかも。
 と思っていると、渡辺正行の身体にランニングマシンがぶつかり、観客席の壁まではね飛ばされる。
 きいちゃんがランニングマシンを押して突っ込んできてくれたのだ。
「あんなに走らせやがってにゃ!!」
「きいちゃん!」
「じんちゃん!急いで!!」
 私は立ち上がり、きいちゃんの手を取って、パジェロまで走って行く。
「酒寄さん!」運転席の近くにいる酒寄さんにパジェロの鍵を投げる。
 酒寄さんがパジェロに鍵を入れると「ETCカードを確認しました」と音声が流れ、がこぶろろろろろとエンジンが始動する。
 私が助手席に座ると、酒寄さんがカメラを渡してくる。
「俺運転するから、これから起こること、全部撮って」
「あ、はい」
「きたきたきた!きたにゃ!!」ときいちゃんが言う。
 後ろを見ると、頭から血を流した渡辺正行が近づいてきている。
「どこ行くんだよお!」と渡辺正行が叫んでいる。
 酒寄さんはレバーを動かし、バックにし、パジェロ渡辺正行を轢く。轢いた瞬間に、パジェロはがこっと跳ねる。
「渡辺リーダーごめん・・・・・・」と酒寄さんは言った。
「酒寄さん、とりあえず走らせて」
「って言っても、どこに行けばいいの?」
「関根さんがなんかやってくれてるらしくて、青い光が見えるからそれを掴めだって」
「あの人はまたよくわかんない注文をしてくれるなあ」
 すると私たちの前に青い光が降りてきて、その場で二、三度くるくる回ったあとに、飛んでいってしまう。
「多分、あれ!追いかけなきゃ!」
 酒寄さんがレバーをがちゃがちゃってやって、パジェロが走り出す。
 青い光はスタジオの扉を通り抜けたので、パジェロもそこへ突っ込む。
「つかまって」
 パジェロがスタジオの扉を破壊しながら通り抜けると、そこはサバンナの砂漠が広がっている。
 砂漠だ・・・・・・。と思ったのも束の間、ぱおーんだのひひーんだのがおおおだの、様々な動物の鳴き声が聞こえる。
 ゾウ、キリン、ウマ、ライオン、ゴリラ、カバ、ヒョウ、ダチョウが駆け抜けていく。
 パジェロはそれら動物と併走している。私は動物たちにカメラを向けるが、疾走感と立ち上る土煙で上手く撮れない。
 青い光はパジェロの前を結構なスピードで飛んでいる。
「掴めって言ったって、凄えスピードで飛んでんじゃんか」と酒寄さんが言う。
「もっとスピードでないのにゃ?」
「アクセルベタ踏みだよベタ踏み」
「にゃにゃにゃにゃにゃっ!!」ときいちゃんが叫ぶので何!?って聞くと「うしろー!」と言うからカメラを向けると猛スピードで巨大なオオサンショウウオが追いかけてくる。
 巨大なオオサンショウウオは「ぬば~~~」と声を発して、びたびたびたと手足を前後に動かし近づいてくる。
「酒寄さん!後ろ!」って叫ぶと酒寄さんはバックミラーでそれを確認したらしく「わっ!なんだよなんだよあのオオサンショウウオ!」と言う。
「逃げなきゃ!」
「つっても逃げてるよ!」
 走り疲れたゾウが、少しそのスピードを落とした瞬間だった。
 オオサンショウウオがそのゾウを食べてしまった。
 オオサンショウウオはゾウを食べるとより身体を大きくした。
「なんか大きくなってにゃい?」
 走り疲れて少しスピードを落としてしまった動物たちがどんどんオオサンショウウオに食べられてしまう。ゾウ、キリン、ウマ、ライオン、ゴリラ、カバ、ヒョウ、ダチョウの脱落していくものたちから食べられて、その度にオオサンショウウオは身体を大きくした。
「ぬば~~~!」とオオサンショウウオ叫ぶ。その姿は巨大を通りこしてもう超巨大で超やばい。
「やばい、どんどんでかくなってるにゃ・・・・・・」
「えっまじ?」と酒寄さんが言う。酒寄さんが進行方向を指さす。それを見ると、これまた超巨大なクジラが大きな口を開けて待ち構えている。
 避けなきゃ、って咄嗟に思うけども、なのに青い光はそのクジラの口の中に入ってしまう。
「え、そういうこと?入って大丈夫なやつなの?」と酒寄さんは言うから私は「多分・・・・・・」って答える。
「もうオオサンショウウオに食べられちゃうにゃ!」ときいちゃんが叫ぶ。後ろを振り返るとオオサンショウウオは目と鼻の先だ。
 だから酒寄さんは意を決して、パジェロでクジラの口の中に飛び込む。
 クジラが私たちのパジェロを飲み込むとそこはオフィスになっていって、飛び込んだ瞬間に机を破壊してしまう。
「うちの会社じゃん」と酒寄さんが言う。
 クジラの口の中は【株式会社アル企画】社内で、疾走するパジェロはホラーのDVD、ヤクザのDVD、机、モニター、パソコン、文房具、椅子、コピー機、ファイル、その他アル企画社内にあるものを次々と破壊してしまう。
 様々な物が吹き飛び破壊される中、青い光がアル企画の壁を突き抜ける。
 その光を辿ってオフィスの壁を突き抜けると、学校の廊下に繋がっている。
 学校の廊下をパジェロが駆け抜けていく。
 幸い、廊下に子どもがいない。
 疾走し、一瞬で横切っていく教室の中に、幼い時のきいちゃんがいる。
「あっ」ときいちゃんが言う。
 幼い時のきいちゃんはほうきを持っていて、疾走するパジェロを見送っていく。
 青い光が廊下の突き当たりを突き抜けるので、パジェロも突き抜けると、そこは陸上のグラウンドだ。
 遠くで槍投げの選手が、槍を投げる。
 その槍はまっすぐ、パジェロのフロントガラスを割って、私たちは「ひぃっ!」と叫ぶ。 槍投げの選手が槍を次々と放ってくる。
 酒寄さんは「そんなにドラテク無いんだけどもな」と言いながら、左右に避けていく。
「うんなああああ!!」と声がしたので、見ると室伏広治が投げたハンマーがパジェロの上をかすめていく。
 見ると100人近くの室伏広治がいて、次々とハンマーを投げてくる。
 ハンマーが次々と落下する。
 パジェロの屋根をかすめ、パジェロのサイドミラーを割り、パジェロのボンネットにぶち当たる。
 凄い音がするけども、パジェロはまだ動く。さすがパジェロだ。
 青い光が一体の室伏の身体を通り抜けていく。
「室伏さんごめん」と酒寄さんは言って、パジェロで室伏に突っ込むと、そこは真っ暗だ。
 突然、全てが真っ暗になってしまう。
 でも、その真っ暗がちょっとずつ変形していることに気がつく。
 ここは「真っ暗」に見える何かが蠢いているのだ。
 そこら中から、叫び声が聞こえる。
 助けてえ。痛い!あああああああ!!嫌だあ!嫌だあ!あぎゃぎゃがぎゃぎゃあ!!きぃいいい!あああああああああ!!おえええええええ!!ぎひぃ!ぎひぃ!!
 何も見えないけども、そこがその「あっちの世界」なのだと私は一瞬でわかってしまう。
「真っ暗」の中、前を飛ぶ青い光だけしか見えない。
「じんちゃーん。そこにいる?」
「いるよ」
「ねえ、お願いだから手をつにゃいで」
 私はきいちゃんと手を繋ぐ。
 きいちゃんの手の感触だけがかろうじてわかる。それ以外は全て真っ暗で何もわからないし、わかってしまうと私の精神がどうにかなってしまいそうだ。
 その瞬間、私たちはパジェロから降りている。
 いや、正確にはパジェロが消えている。
 パジェロは私たちの無意識の裏返しだから、消されてしまったのかもしれない。
 私たちは気がつけば「真っ暗」の中に取り残されている。
 四方から叫び声が聞こえ、蠢く「真っ暗」が見える。
 きいちゃんが私の手を強く握る。
「大丈夫?」酒寄さんの声が聞こえる。酒寄さんもまだ大丈夫らしい。
「多分、大丈夫です」と私は言うけども、怖くて声が震えている。
 四方からの叫び声はより大きく聞こえ、蠢く「真っ暗」はより近づいてくるのを感じる。 青い光が見える。
「おーい!こっちから見えた!ここまで走ってきて!!」青い光から関根さんの声が聞こえる。
 けどもどうやったらいいかわからない。恐怖で身体が支配されて何ができるかわからなくなってしまっている。
「おい、聞こえただろ!走るぞ!!」酒寄さんの叫びが聞こえて、私は走らなきゃと思う。
 私たちは走る。「真っ暗」の中、目に入る青い光に向かって走る。
 何かを踏みつけている感触がする。
 それはやわらかいときもあるし、固い時もあるし、水っぽい時もある。
 何にせよ、考えたくない。
 叫び声が聞こえる。私は耳に叫び声を入れたくなくて「ああー!!あああー!!!」と声を発しながら走った。
 きいちゃんも同じようで「にゃああー!!にゃあああー!!!」と叫んでいるのが聞こえる。
 息が上がる。足も痛い。
 けども、走らなきゃ、死んでしまう。
 後方から「ぬば~~~」という叫び声も聞こえた。あのオオサンショウウオもここにいるのだ。
 べたべたべたべたべたとオオサンショウウオが這いずる音が聞こえる。
 私は走る。ずっときいちゃんは掴んでいる。
 青い光が徐々に大きく見える。
 光に手が触れそうと思ったとき「掴んで!!」と光から声が聞こえる。
 私は青い光に手を伸ばす。
 光の向こう側で手を掴まれる。
「いくよ!!」って声が聞こえた瞬間には、身体は宙に放り出されていて、次の瞬間には地面にたたきつけられている。
 目を開けるとそこはあの駅のホームだ。
 私の隣にはきいちゃんがいて、その後ろに酒寄さんもいる。
 横たわる私たちの目の前に関根さんがいる。
 関根さんは片手を広げて、何かを押さえ込んでいる。
 カメラを持っていることを思い出して、関根さんの姿を撮ると、関根さんの向こうに霊体オオサンショウウオがいる。
 関根さんは何かを念じると、広げた手を上に移動させる。それに連動するように霊体オオサンショウウオも宙に浮く。
 駅のホームの照明が点滅し、ホームも揺れる。
 関根さんが何かを叫ぶ。すると宙に浮いた霊体オオサンショウウオがパンっと破裂した。 その瞬間、振動はなくなり、ホームの照明も元に戻る。
 電車がファーン!と警笛を鳴らし通過していく。
 私たちはやっと起き上がることができる。
 ふうと関根さんは息をついて、こちらを振り向くと「すごい映像撮れた?」と言った。
 ホームの時計が見えた。
 まだ20時35分だった。


 結論から言えば「すごい映像」は撮れていなかった。
 霊体オオサンショウウオに飲み込まれて以降、カメラが記録していたのは「真っ暗」だけだった。
 映像は全て真っ暗で、それに時折ブロックノイズが走っていた。
 フレンドパークも、パジェロを盗む下りも、オオサンショウウオに追われるところも一切収録されていなかった。
 ただ1時間ほどテープが回ったところでノイズまみれの音声が収録されていた。
 ちゃんとは聞こえないけども、それはどうやら叫び声のようだった。
「あああああああ!!あぎゃぎゃがぎゃぎゃあ!!きぃいいい!ぎひぃ!ぎひぃ!!」という叫び声がノイズまみれの中、収録されていたのだった。
「その言うところの、あっちの世界の映像がちゃんと撮れていたら、良かったんだけども、でもそれだと『恐ろしスギ!』みたいになっちゃうか」と関根さんは言った。
「『恐ろしスギ!』ってのは心霊ドキュメンタリーだけども、心霊と戦ったり、異世界に行ったりするシリーズのことなのにゃ」ときいちゃんが教えてくれた。
「ってなると、神社からもNG出たし、私がオオサンショウウオと戦ってるのも使っちゃだめだから、結局使えそうなのは君らが送ってくれた映像だけだねー。どう、使ってもいい?」関根さんは言う。
「あ、いいですよ」
「ありがとうね。また収録したら、連絡するよ」と言った数ヶ月後『ちゃんとあった!呪いのビデオ105』が発売される。
 私ときいちゃんはAmazonプライムビデオでレンタルして見る。
『叫ぶ人影 投稿者:寺本佳穂(仮名)』はビデオの中盤辺りで流れる。
 私ときいちゃんが酒寄さんにインタビューされてて「二人で飲んだときに撮った映像なんですけど~」と言ってて、散々見たはずのその映像が流れる。
 けども人影は元の動画よりも薄くなっているような気がする。関根さんは本当にこの映像を誰が見てもいいようにしたんだなと思う。
 映像は「おわかりいただけただろうか?」とリプレイされ、スローになり、叫ぶ人影にズームする。
 人影が口をぱくぱくさせる中、ナレーションが聞こえる。
「まさか、あちらの世界からの誘いだとでも、言うのだろうか」
 とでも言うのだよ、と私たちは思う。