にゃんこのいけにえ

両目洞窟人間さんが色々と書き殴ってるブログです。

短編小説『ねこのまち子さん、市民税を払いに行く!!』

 白ねこのまち子さんは二足歩行で歩き、喋ることができるので、税金を納めなければいけないのです。
 鉄球をぶつけられる寒い山荘で夜通し討論する番組『浅間で生テレビ』で「徹底討論!喋る猫に納税の義務違憲なのか!」というテーマが放送されたとき、「喋る猫の生活党」の党首である道場さんは「我々、歩き喋る猫は進化でありまして」と言ったら、田原総一朗に「ちょっとまって、まだ管さんが喋ってるから」と遮られたのでした。
 というわけで進化の過程かもしれないねこに対して、政府は税金を取っていくことにし、ねこ達はデモを行いましたが、機動隊がマタタビを打ち込み、ねこ達はごろにゃーんと国会前でごろごろしちゃってデモは沈静化。
 以来、喋るねこ達は粛々と働き税金を納めることになり、まち子さんも歩き喋る一般事務職ねこなので、税金を粛々と納めるのでした。

 そんなわけで、まち子さんは家に届いた市民税を払うため、ショルダーバッグを肩からかけて、自宅から徒歩7分の最寄りのコンビニへ向かっていると「飛びだしゃいい~」とB'zの稲葉の爆音歌声が聞こえてきました。
 その歌声の方に振り向くと、B'zの『さまよえる蒼い弾丸』を爆音で流す黒塗りのワゴンRが走ってきました。
 そのワゴンRにはサングラスをかけたねこが三匹、窓枠に座っています。いわゆる箱乗りってやつです。
 まち子さんは咄嗟に「暴徒ねこだにゃ」と思いました。

 暴徒ねこ。それは税金を納めたくない一部のねこ達が暴徒と化し、暴れ回っているのでした。
 暴徒ねこは乾燥させて粉末にしたマタタビを鼻から吸引したり、炙ってその煙を吸い込んだりしているそうです。
 マタタビを乾燥させて、粉末にして、鼻から吸引すると、信じられないトリップ効果があるというのです。
 それが発覚してからというもの、粉末マタタビの闇取引が横行。『実話ナックルズ』に末端価格が掲載される始末。
 目に黒線が入った暴徒ねこAは『実話ナックルズ』のインタビューに対して「正直、なんで今までちゃおチュールで我慢していたのかにゃって話。粉末マタタビを知ったらもう戻れないでしょって話」と語り、暴徒ねこBは「政府は俺たち(喋るねこ)の鎮圧にマタタビを使ったわけでしょ。なのに乾燥させて粉末にして鼻から吸引した瞬間に、脱法だって言われたら、はにゃ?ってわけよ」ともっともなことを言うのでした。
 まち子さんもそうだよにゃ~と思いました。
まち子さんは本屋やコンビニで買うのは恥ずかしい雑誌こと『実話ナックルズ』を結構読んでいます。『実話ナックルズ』はKindle Unlimitedで読み放題なので裏社会の話とか好きなまち子さんはついつい読んでしまうのです。読み放題ばんざい。
とはいえ、まち子さんは悪いことをしたいわけでも悪い道に進みたいわけでもありません。悪い情報が好きなだけのただの一般事務職白ねこなのです。

 というわけでB'zの『さまよえる蒼い弾丸』を爆音で鳴らしながら、猛スピードで駆けていくワゴンRを見送りながらまち子さんはちゃんと「こわいにゃー」と思うのでした。
 するとワゴンRはまち子さんが市民税を払おうと向かっていたコンビニの駐車場に停車するじゃありませんか。
「うわ、こわいねこと一緒になるの嫌だにゃー」と思っていると、黒塗りのワゴンRから4匹のサングラスをかけた暴徒ねこが降りてきて、コンビニに入っていくのでした。
 4匹の暴徒ねこたちはコンビニに入るなり、真っ先にインスタント麺コーナーに行き、ペヤング超大盛りを4つ取っていきました。
 レジでペヤング超大盛りを置き「あと、セッタ(たばこのセブンスターのこと)を4つ」と言って、お会計をすませて、ねこ専用のポットでペヤング超大盛り4つにお湯を入れていました。
 まち子さんはそれを見ながら「ペヤング超大盛り4つはさすがにお湯が足りなくなるんじゃないかにゃ」って思っていると、案の定、ねこ専用ポットのお湯が足りなくなったのでした。
 暴徒ねこの一匹が舌打ちをします。そして偉いであろう暴徒ねこが「あれもってこいにゃ」と下っ端の一匹に言いました。
 「にゃい」と言って下っ端暴徒ねこはワゴンRから、鎖がまを持ってきました。
 鎖がまを受け取ったボスねこはレジにいる店員に向かって「お湯!足りにゃいんだけど!」って叫び、鎖がまを焼きそばのUFOに突き刺しました。
 レジの店員が「ひいっ!」と叫びます。
 暴徒ねこたちは自分たちの機嫌が最優先なのです。なのでコンビニでポットのお湯が足りないなんてあってはいけないのです。許されざることなのです。
 ボスねこは鎖がまでUFOを滅多打ちしました。焼きそばのUFOは何も悪くありません。悪いのは暴徒ねこです。
でも暴徒ねこが生まれたきっかけはねこから税金を取ろうとしたことです。
とはいえ、暴徒化し、コンビニの商品に暴力を働くのはまた別の問題なのです。
 このことも『浅間で生テレビ!』で議論が交わされたのです。
 「喋る猫の生活党」の党首である道場さんが「ねこが暴徒化しているって言いますけどもね、そもそも喋るだけで人間と同じ扱いをして税金を取るってのが間違いじゃにゃいですか」と言ったところ「いやそれは」と管さんが反論し始めそうになった途端、田原総一朗は「管さんちょっとまって、一旦コマーシャル」とCMに入り、CMではおばあさんねこと呂布カルマがコンビニで「叩くよりたたえ合うにゃ~」とお互いをリスペクトしあうラップをする公共広告が流れたのでした。

 さて、鎖がまで焼きそばのUFOが破壊されていく光景にまち子さんは「にゃんてひどいことを・・・・・・」と思いましたが、目の前で展開される暴力に足がすくんで動けなくなっていました。
 いくら『実話ナックルズ』を読んでいるからと言って、悪い話題が好きだからと言って、暴力が好きなわけではないのです。そして目の前で暴力が振るわれれば恐怖に震えるのは当たり前なのでした。
 焼きそばのUFOに鎖がまが振り下ろされるたびに、乾燥麺が、かやくが、日清食品の努力の結晶が、コンビニの床に飛び散っていきます。
 駐車場に止められたワゴンRからはB'zの『Into Free - Dangan』が大音量で流れていました。『Into Free - Dangan』は『さまよえる蒼い弾丸』の英語詞バージョンです。B’z稲葉の「Dangan~~~」というシャウトに合わせて、鎖がまが振り下ろされたその時でした。

 自動ドアが開いて、てろてろてろ~と陽気な入店音が響きました。
 誰もがこのタイミングで入店するなんてどんな奴だと、入り口を見ました。
 そこにはクリント・イーストウッドみたいなおじいさんが立っていました。
 クリント・イーストウッドみたいなおじいさんはポンチョを羽織っていました。
 まるで、砂漠を数日かけて渡り歩いたかのような表情で、店内を見渡しました。
 そして飲み物のコーナーに行き、いろはすのペットボトルを1つ掴みました。
 クリント・イーストウッドみたいなおじいさんは渋い顔を崩さず、そのままセルフレジに行き、いろはすを買うと、ゆっくりと店を出て行ったのでした。
 誰もが何故か動けなくなっていました。
 クリント・イーストウッドみたいなおじいさんが持つ表情の力でしょうか。何かを変えるかもしれないという予感でしょうか。ポンチョの持つ緊張感でしょうか。
 とにかく誰も何もできませんでした。
 まち子さんはいったいにゃんだったんだ。と店の外のクリント・イーストウッドみたいなおじいさんを見ていました。
 クリント・イーストウッドみたいなおじいさんは、道路をよたよたと渡っていました。
 すると『君が代』が聞こえてきました。
徐々にその『君が代』が大きく聞こえるなーと思っていると猛スピードの右翼の街宣車クリント・イーストウッドみたいなおじいさんに激突しました。
 クリント・イーストウッドみたいなおじいさんははね飛ばされて、棒高跳び選手のように高く飛び上がり、フライパンに落とした卵のような音を立てて落ちました。
 右翼の街宣車クリント・イーストウッドみたいなおじいさんをはね飛ばし、スピードを落とさず、数十メートル先の電柱にぶつかり、やっと停止しました。
 右翼の街宣車のスピーカーからは『君が代』の「さざれ~石の~」の部分だけがずっと繰り返し流れています。
 一瞬、時間が止まったかのごとく誰も何もできませんでした。

「あ、きゅ、救急車!!」と我に返ったまち子さんは叫びました。
 途端に止まっていた時間が動き出したかのように、コンビニ内が慌ただしくなりました。 店員が持っているスマホで電話をかけ始めます。
 まち子さんと暴徒ねこ達はコンビニの外に出ました。
 まち子さんは道路で横たわるクリント・イーストウッドみたいなおじいさんに近寄りました。
「大丈夫にゃ!?」
 ともこさんはクリント・イーストウッドみたいなおじいさんに話しかけます。
「うう……」
 クリント・イーストウッドみたいなおじいさんの頭からは血が流れています。
 流れる血をつぶれたいろはすから溢れ出る水が薄めていきます。
「……す」
 クリント・イーストウッドみたいなおじいさんが何かを言います。
 まち子さんはおじいさんが何を言おうとしているのか聞き取ろうと大きなお耳を近づけました。
 その頃、右翼の街宣車には暴徒ねこが集まっていました。
 右翼の街宣車はタイヤが空回りしていました。
「開けろうぉら!」
「アクセル踏むのやめろうぉら!」と暴徒ねこが叫びます。
 右翼の街宣車の運転手は「うへへええ」と笑っています。
 暴徒ねこたちは鎖がまをドアの隙間に差し込み、そして4匹の力を合わせて、ひしゃげた運転席の扉を開けました。
 ごろんと運転手が道路に落ちてきました。
「……ぃいす」とクリント・イーストウッドみたいなおじいさんが言いながらポケットから何かを取り出しました。
 煙草でした。
 「ピース……。火……くれ……最後に一本吸いたいんだ……」
 クリント・イーストウッドみたいなおじいさんが言いました。でも持っている煙草はハイライトでした。
 まち子さんは煙草を吸わないので、火を持っていません。
「あの、それ、ピースじゃなくて、ハイライトです。あと私、火、持って無くて……」
「ピ、ピースじゃないのか……?」クリント・イーストウッドみたいなおじいさんが聞きます。
「はい……」とまち子さんが答えました。
「おいお前!そんにゃ状態で運転してんじゃねえよ!!」と暴徒ねこの叫び声が聞こえます。
 ふと見ると、右翼の街宣車から飛び出た男は暴徒ねこに胸ぐらを捕まれていました。
 男の鼻の周りには白い粉が付いていました。
 そうです。コカインです。
 暴徒ねこはコカインが許せないのです。
「粉末のマタタビをいくら吸っても、コカインはやらねえ」
 それが暴徒ねこ達の掟だったのです。
 しかし人間社会ではコカインの流通が問題となっていました。
『浅間で生テレビ』でも討論のテーマになっていました。「粉末マタタビとコカイン、どっちが問題」という討論テーマに対して田原総一朗は「シャブはどうなの?」と言った瞬間、鉄球がついに山荘の壁に穴を開け、機動隊からの冷水が山荘に流れ込み、田原総一朗は「一旦コマーシャル」と言うのでした。
 街宣車のスピーカーからは『君が代』の「さざれ石の~~~」の部分が繰り返し流れ、暴徒ねこ達がコンビニの駐車場に停めたワゴンRからはB'zの『BAD COMMUNICATION』が流れ、遠くから救急車のサイレンが聞こえてきました。
「おじいさん!救急車がもうすぐ来るにゃ!頑張るにゃ!」とまち子さんはクリント・イーストウッドみたいなおじいさんを励ましました。
 するとクリント・イーストウッドみたいなおじいさんはふふっと笑いました。
 それから「……時代は変わる。それは誰も止められない……」と意味ありげな表情と言い方でクリント・イーストウッドみたいなおじいさんは言いました。
「え、それって、え、どういうことですにゃ」とまち子さんは聞き返しましたが、クリント・イーストウッドみたいなおじいさんはぽろっと煙草を落とし、そして動かなくなりました。
「コカインやめろ!」
「コカイン吸って運転すんなボケ!」
 暴徒ねこ達は右翼の街宣車の運転手を説教しながらぼこぼこに殴ったり蹴ったりしています。
「あの、え、時代が変わるって、え、あの、おじいさんー!おじいさんー!」
 まち子さんが何度も語りかけている時、駐車場に停めているワゴンRからB'z稲葉の「バッドコミュニケーション!」ってシャウトが聞こえました。


 まち子さんにとって大変な日でした。
 ただコンビニに行っただけなのに、なんでこんな目に合うのかにゃと思ったけども、そういうことが起きるのも人生ってやつなのでしょう。そしてまち子さんはねこだから猫生と書くのが正しいのでしょう。
 まち子さんは家に帰って、ショルダーバッグを降ろして、ため息をついて、座り込んだ瞬間に「あ、市民税払うの忘れたにゃ」と思い出して、でも今日はもう外に出たくにゃいにゃーと払うのを先延ばしにしていたら、本当に忘れちゃって、一ヶ月後に滞納していますよって通知が届いて「やっぱねこが税金払うのおかしくにゃいか」と憤りながら、あのコンビニに行って払っていると、たばこの棚に「ピース」があるのを見かけて、なんとなく「ピースとライターください」って言って、お店の外でピースに火をつけて吸ってみたら、すっごく苦しくて「ごほごほごほ」と咳き込んでしまって、涙目になっているその頃、街のどこかのワゴンRから、B'zの『LOVE PHANTOM』の「君を探し彷徨う MY SOUL~~~」が聞こえてきました。