にゃんこのいけにえ

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岡本喜八『殺人狂時代』を見た!

岡本喜八監督『殺人狂時代』(1967年)を見た!

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あらすじ

水虫持ちの冴えない大学講師が突然殺し屋たちに命を狙われて大変なことになります。

感想

うひゃーおもしれー、と見ながらとても興奮しました。
岡本喜八監督作品は見るたびに「こんな面白い映画を作ってた人がいたなんて!」と興奮しちゃうわけですが、この作品もご多分に漏れず超面白い作品でした。
ただ、めっちゃ変な映画でもあるのです。なんていうかあらすじから想像する作品とは、少しずつ、ズレているというか、トボけた味わいが全編に渡ってあります。
それは主人公の桔梗信治演じる仲代達矢のぼんやりとした佇まいだったり、敵方の溝呂木博士を演じる天本英世の狂気盛りだくさんなのにキュートなキャラであったり、現れる殺し屋たちの個性豊かっぷりだったり(須田51のゲームじゃんか!)、それらがトボけた味わいになっていて、でもそれでいて、キビキビとしたテンポや巧みなシーンつなぎにかっこいいアングルと手触りは超クールなのです。
スティーブン・キングの文章術に副詞は削れというものがあります。テンポよく文章を読ませる上で、副詞はいらないと、なんなら副詞は地獄への続く道だとさえいいます。あいにく、わたしはその文章術がなかなか見についていませんが、この『殺人狂時代』を見て思ったのはこの文章術でした。
スティーブン・キングの言う副詞のない文章のように、無駄のないテンポ感があって、それがたまらなかったのです。
そしてこのテンポ感は現代のスピードに慣れた観客でも、一切退屈させないどころか前のめりにさせる、そんな魅力があると思うのです。
というか、この語り口ができる映画ってなかなか現代でもないくらいだよ!

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奇妙なキャラクターたちによる殺し合いと言えば、私世代では石井克人監督の『鮫肌男と桃尻女』(1998)を思い出しました。
しかしあの映画よりもより奇妙なキャラクターたちが出てきて、度肝を抜くアクションをし、そしてびっくりするようなスケールへ向かい、何より超テンポがいい。うぇへー、と岡本喜八監督の偉大さだったり、よく映画好きな人がいう「いや、昔の映画凄いんだから」の意味を今更ながら、そして何度目ながら味わうのでした。


しかし見ているうちに主人公仲代達矢の衣装であったり、佇まいであったり、セリフであったりが、初めて見た映画なのにどんどん既視感が出てくるのです。「もしかして、これは……」と思っていると、終盤でついに確信に変わります。これはあの『ルパン三世』の元ネタじゃないか!!
といっても、『ルパン三世』は多くの作品を元ネタにしているようなのですが、源流の一つにまさか当たるとは思わずとても興奮してしまいました。
クライマックスでもある富士山麓のアクションなんて見たよ!ルパン三世で俺見たよ!ってやつでしたし。

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しかし溝呂木博士を演じる天本英世のかっこよさも素晴らしい。一見して完全にやばいおじいちゃんなのですが、ドイツ語を堪能にしゃべるわ、アクションもするわで、見どころ満載です。なんせこういう黒幕的な人と最終的に戦うって以外と無い気がする。ちゃんと仲代達矢天本英世が戦うシーンがあるのはめっちゃ偉い。その前のゴリラのような男と仲代達矢が戦うシーンもめっちゃいい。あのシーンは順番が逆だけどもバーチャファイターを何故か思い出した。バーチャファイターみたいな格闘シーンだった。

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にしてもあらかた実験的なこと、ってのはやられているんだな~と思ったりした。天本英世が第四の壁を超えるところと、車で移動していたら外の風景がヒトラー時代のドイツの映像になっているシーンはあまりにかっこよくて呆然としてしまった。もうこんなかっこいい映画なのに、当時は記録的な不入りだったそうで「えー」と思ったけども、今では岡本喜八監督の代表作の一つに数えられているんだから、何がどうなるかわかんないですね。

というわけでやっぱり岡本喜八監督の映画はちゃんと見ていかなあかんなーと思いました。「岡本喜八監督だから」という理由ではなく「わくわくする私が面白いと感じる映画を作っていた人」の諸作品がまだ眠っているからです。それは見なきゃ!もったいない!