黒澤明『用心棒』を見た!
あらすじ
ヤクザが対立している宿場町に浪人がふらっとやってきて、最終的に大変なことになります。
感想
初めて見る黒澤明映画です。あまりに偉大な功績が聞こえてきて、むしろ軽い気持ちで見に行けないな…と尻込みしすぎていたらこんな齢になっちゃったよ。で、今回『用心棒』を見たのは『ゴースト・オブ・ツシマ』をやっていた弟が「時代劇見たくなってきたわ」と言って、その流れで「ほな黒澤明でも見てみるか~」と『用心棒』を再生し始めたので、この期を逃すと私も見ないだろうしと一緒に見たのがきっかけなのでした。
めっちゃ面白かったです!というか「いや、名作やんか!」と言うてしまう。散々、みんなが言うてることやけども、名作でした。あざっした。
とはいえ、最初30分くらいは個人的にはだるいな~と思ってみていました。出てくる絵は凄いんですよ。構図は決まりまくってるし、ダイナミックな絵ばかりだし。とはいえ、うーんだるいなーと思っていたのでした。ただ仲代達矢演じるチャカを持ったヤクザが登場してからどんどん面白くなって、どんどんかぶりついて見てしまい、ラストは超最高。本当、終盤の面白さとか物凄くてびっくりした。繰り返しになるけどもいやこれ名作やんか!
でも見せ方としては凄い大胆な作品だなーと思ったのが、この宿場町のセットに、ワンカットごとの構図やその時のカメラの移動、それから役者の立ち位置や小道具、つまりは画面上にあるもの全て何から何まで全部ヤクザ同士のパワーバランスを見せるために構成されていて、めっちゃやべえ〜めっちゃおもしれ~ってなってました。
逆に思い切ってるなあと思ったのが、賭博が横行している、とか主人公が来る前の抗争で亡くなった人間とか、そういうのは話にあがるけども映さない。ある意味、抗争のバックグラウンド的なやつだったり、その結果で起こっていることは具体的には出さない。代わりにちょうど街の中心にある居酒屋から、絵としてこの街が危ういバランスで成り立っていると見せていく。映像としてはシャッターのようにあがる窓から、見せていく。構図でぱきっと見せていく。もしくは音で見せていく、画面外からの棺桶を作る音で見せていく。
印象的なのは、高所から均衡状態のヤクザを見下ろす三船敏郎のシーン。
何がどうで、この宿場町がこうなっているかセリフで伝えつつ、絵として、これ一発で「これだけ大勢の人々が一触即発状態なんだよ~」って見せるのがかっけえな~って思いました。
三船敏郎のかっこよさったら!身体は太いけども身は軽い。身体能力の高さのやばさに何度も惚れ惚れしてしまった。殺陣のシーンの勢いたるや、もう一瞬にして何人も切ることができる人間って説得力がやばい。三船敏郎に追いかけられたらもう無理じゃん。死確定じゃん。そんな鬼みたいな人間で、見た目も怖いし「俺はでぇきれぇだ!」みたいな嫌味も言うし。ガラが悪い。でも浪花節みたいな側面もちらっと見せたりする。我々はギャップに弱い。案の定弱ってしまったよ。
ただ、この話で言えば役割は鬼というよりもはや死神。ふらっと街にやってきて直接的にしろ間接的にしろほぼ皆殺しにしてふらっと去っていくって死神よこんなん。
どんな人なんかもわかんないし。偽名使うし。あとよく顎をさすってる。それから腕を隠しがち。身体の一部分が見えないだけでも、何をしでかすかわからない大物感が出ますね。
それに対しての仲代達矢のスマートさがまた怖い。基本、三船さえいればなんとかなるだろうって感じの宿場町で、こいつはどうやら切れ者だぞこいつに尻尾を握られたらやばいぞな仲代達矢のかっこよさったら。
しかも持ってるのがチャカっすよチャカ。この刀全盛期の時代にチャカっすから。時代の最先端っすよ。インテリヤクザだよ。
ただ仲代達矢がチャカを持っている姿を見たときに私は佐藤浩市の「なぁ、お兄ちゃん。チャカとだんびら、どっちが強いと思う?極道の喧嘩の場合ないつもだんぴらが勝つって決まってんだよ」ってセリフが頭の中でよぎってしまった。
やっぱだんびらは強いよ~。
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佐藤浩市繋がりじゃないけども、ラストのあまりの惨状におかしくなってしまった人の描写は『GONIN』を思い出したりしました。あの撃たれまくっておかしくなったヤクザ。「遊ぼうや~」のところ。あまりの惨状におかしくなってしまう人って描写ってやっぱ、見たあかんもん見てしまったなーって気持ちになりますね。『GONIN』も『用心棒』も娯楽作なのに暴力の結果、狂気の世界にいってしまった人の描写を入れるのって後味は悪いですけども、でもいきすぎた暴力ってそうだよねえ、ってある種の誠実さも感じるのでした。
でもどうなんだろう、『用心棒』のラストのあれって笑い要素なんだろうか。私はうわぁってなったし登場人物もうわぁ…と見ていた気はするけども、怖い描写かつブラックユーモア的な描写なんだろうか。
見ている最中何度も「あ!これが元ネタなのかー!」と色々なってた。それこそ弟がプレイしていたゲーム『ゴースト・オブ・ツシマ』であったり、先日見ていたドラマ『マンダロリアン』のある回って、ここからだったのかー!と興奮してしまった。
ゴースト・オブ・ツシマはそれこそ黒澤モードって色は白黒で音声モノラルなモードもあるし、スター・ウォーズが黒澤明映画の影響云々ってのは聞いてたけども、でもやっぱ自分で見てみると、これがああであれがこうで、でちゃんと把握できる楽しさってありますよね。
うっひゃー楽しいー。
『用心棒』のリメイク(ほんまは勝手にリメイクしたそうですが)『荒野の用心棒』は昔見ていました。
ただ『荒野の用心棒』のラストのかっこいいセリフ「棺桶の数は二つ、いや三つだ」が『用心棒』では冒頭に出てくるセリフで、そういう入れ替えみたいなことやってたんだ!ってなりました。(といっても昔見たっきりだから記憶違いかもしれない)
やっぱ「名作やで〜」って言われてる作品って見たほうがいいよね、って思ったりした。でも『名作』って聞いちゃうと身構えちゃうから馬鹿おもしれえ映画って言って勧められたい。
用心棒も最初こそはだるいっすけども、そこがちゃんと効いてくるし、最終的には馬鹿おもしれえ映画だったし。
『用心棒』馬鹿おもしれえ映画でした。他の黒澤明作品も馬鹿おもしれえ映画って聞いてるので見てえです。