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今泉力哉『街の上で』を見た!

今泉力哉『街の上で』を見た!

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あらすじ

彼女に振られたばかりの古着屋の兄ちゃんが自主映画に出ることになります。

感想

友人に勧められて『街の上で』を見てきました。めっちゃ面白かったです。130分と少々長いですけども、飽きなかった、というより私は気がついたら作品舞台の下北沢にいて、そこでぼんやり過ごしているうちに、映画が終わっていた。そんな感覚になる作品でした。
今泉力哉監督の映画を見るのは初めてだったのですが、めちゃくちゃ好きでした。「え、このシーン、ずっとカット切ってなくない!?」とびっくりするくらいの長回しも結構多めなんだけども、そのめちゃくちゃな長回しにも気がつかないくらい…というかその場で一緒に座って登場人物の話を自分もうんうんと頷きながら聴いてるような、そんな映画でした。
今泉力哉監督の映画見なきゃなーと思いつつも、見てなかったのを、というか敬遠していたのを少し後悔しました。
主演は若葉竜也さん。『愛がなんだ』でも出てたそうです。やっぱ見なあかんよな、『愛がなんだ』。
公開時も評判を友人から聞いていたのですが、私は恋愛映画が怖くて見れんのです。なんつうか心の溝にレコード針を落とされて、その時の感情を再生されるような感覚があって、それがね面白いところだとわかりつつ、やっぱ相当怖くて見れない。というわけで『愛がなんだ』も怖くて見ていなかった。(先日、霊障がえぐいっていう呪われた心霊動画XXXは見ることができたのに。)
でも『街の上で』を見たら、そんなことも言わずに見なきゃなって思いました。本当。がんばりますよ。

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映画が始まって最初の若葉竜也さん演じる主人公と彼女との別れ話の時の、主人公青の喋り方がちょっと気に障った部分があって、そんで下北沢というおしゃれな街ですし、これは自分とは違う文化圏の人の話だ、って構えてしまったんですね。そう思って、しばらくは見ていたんですが、気がついたら最初は嫌いだった人も好きになっていくというか、徐々に我の事のようにあわあわしたり、笑ったり、しんみりしたり。終わった頃には「なんていうか、人間関係だとか、人を好きになるとか、面倒で難しいけども、でもいいものだよなー」ってすっかり思ってしまう始末でした。でもそれって感動したってことじゃん。

構えていたのが、徐々にガードを下げる要員になったのは笑いどころの多さからだったと思う。
気まずい瞬間ってなんであんなに傍からみたら面白いんでしょうね。最初の古着屋で試着するところから笑ってしまった。あのスペース猫な服を巡ってあんなに気まずくなるなんて。
見ながら「これコントやんか!」って思ったりした。
古本屋で会話を踏み込もうとするとお客さんが入ってきて会話が止まっちゃうとか、出ハケで笑いを取るとても舞台的な演出ともいえるし、気まずさの塊みたいなあの自主映画の控室とかたまらなかった。なんか昔のダウンタウン松ちゃんのコントをちょっと思い出したりした。
以前、深夜番組で今泉監督が漫才師「金属バット」を勧めていたけども、お笑い好きなんだろうか。気になるなーと思いました。

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主人公の青くんを中心にした群像劇だけども、登場人物の中だと一番好きなのは中田青渚さん演じる城定イハさんだった。城定秀夫監督とジェームス・イハを足して二で割ったネーミングが天才的。しかも初対面の人にタメ口でくる関西弁の女の子。一人だけキャラ濃度が強い気がするよ。
でもそんな城定イハさんと青くんが延々と夜中に喋るシーンが一番好きだった。
力士の番付を延々と解説するところとか。
元カレの聞いての「幼馴染で」「そのパターンね」の話の流れとか。朝の「生きてたなあ」とか笑ってしまった。
ここらへんは見ながら、昔、友達と宅飲みしてる時の深夜の空気を思い出してしまった。なんか思わず喋っちゃう人と時間帯ってあるよねえ。
でも少し踏み込みすぎて「あーごめんー」ってなるときとかも凄くわかるし、イハさんが言う「恋愛関係になったら、こういう感じで異性と喋られへんくなるやん」っていうのが凄く刺さった。しみじみしちゃったよ。
宅飲みの終わり際、一気に睡眠に流れるときの感じとか、何十回と繰り返した動作を映画で見ると思わぬ感動があった。生活にはあったけども映画で見たことないシーンだったから。
城定イハさんとのシーンだけでも大好きな映画確定なんだけども、それでいて主人公にとって都合のいい女みたいにならないのは凄く良かった。
今泉監督、女性から人気があるイメージというか、友達の女の子も今泉監督作品ファンなんだけども、その理由は凄くわかった気がする。人の言葉に耳を傾けている人だなあって思った。
昔、タランティーノが「デス・プルーフ」の時に、延々と続く女性達の会話をなんでかけたの?って聞かれた時に「異性の友人の話を聞くのが好きだから」って言ってたけども、それに通じるものを感じました。
今作は共同脚本に漫画家の大橋裕之さんが関わっている。音楽とか。最近だと「ゾッキ」が公開されたり。マンガでいうと「シティライツ」を読んでいました。大橋裕之さんの漫画も改めてちゃんと読んでみたいなー。

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先程も書いたように若葉竜也さん演じる主人公荒川青くんが中心の群像劇的な作りだけども、でも群像劇でよくなっちゃいがちな「全てのパズルのピースが揃いました!」みたいなことはしないようにしているのもとても好みでした。
そういうふうなパズルのピースが全て揃ったみたいな映画もとても大好きなんだけども、それをしちゃうと下手すると世界が閉じてしまうというか世界が狭く見えてしまうって欠点もあると思っています。
だから下北沢って街を舞台に、そしてその街の広がりを見せるには、こういうふうに全てがカチッとハマってないって作りが合っていていいなと思いました。
だから最後のバーの意図的な外し方とかたまらなかったです。結局誰なんだいっていう。
一方で「こいつのこれ、ここにつながるんだ」みたいな楽しさもあって面白い。それもやってるのに、全部はしないっていうバランスが好きでした。

あと、最初違う文化圏の人たちだ…って言ったけども、結構同じ文化圏じゃんってことに途中で気がついた。主には魚喃キリコの『南瓜とマヨネーズ』が出てきたところだけども、学生時代に読んでいたけども。でも私は、なんていうか地方でおしゃれになれへんかったからっていう自己肯定感の低さがあるからちょっとそういうところに引け目を感じてるんだなって思ったりしました。でも、そういうのを感じるのも変な話よね。

でも、なんていうか、この映画の感想とはずれるかもだけども、やっぱり人と話すことだったり、もっと言えば、相手の話をちゃんと聞くこと。それって凄く大事だし、それこそが世界を広げるってことなんじゃないかなって思った。
あと、恋愛っていうものの不可思議さ。私は結局恋愛ってなんやねんと、ここについてはわかってないし、その不可思議さに怒ったりすることもあるけども、この映画を見たときはその不可思議さがなんだか肯定できた。ある種の理路整然さを求めるともう混乱に入ってしまって、それで私はわけがわかんなくなっちゃうけども、そもそも人をすきになる、それも友情以上の気持ちとして、ってのか変なことだし、というか変なことをみんなやっていて、みんな混乱しているっていうのが微笑ましかった。この不可思議さは大事にされるべきだねえ。

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ここまでは感想で、ここからは映画を見て個人的に思い出したことをつらつら書いていきます。
私も大学生の頃に学生映画に参加したことがありました。でも、寝坊しちゃったり、めっちゃ迷惑かけたり。公園で体操着を着て、逆上がりしようとしたり、そんなことをしたり。後々に作品を見たら自分の棒読みっぷりにびっくりしたり。全然演技できてへんやんかって愕然としたことを思い出しました。
あと序盤に出てくるライブハウスにも関東に住んでいたころ行ったことがあった。下北沢THREE。しかもそこで見たライブの出演者には今作の音楽入江陽さんもいたのです。そういえば入江陽さんの音楽かっこよかったですね。オープニングの音楽に合わせて下北沢を歩くシーンかっこよかったなー。

gachahori.hatenadiary.jp

その時の日記。
そこにも書いているけども、その時はにゃにゃんがプーっていうミュージシャンのライブをどうしても見たくて、見に行ったのでした。
本当に凄くよかったけども、睡眠不足で終わった頃はグロッキー状態だった。
そこで喫煙スペースに行って、タバコを吸っていたら、知らない女性に「火ぃ、貸してくれませんか?」って言われたんですよね。
『街の上で』を見てたら、あの時の、あの場所で、主人公が同じようなことになってて、一瞬現実と映画がぐにゃ~ってなるような感覚があった。
でも、その時の現実の私は「いいっすよ」って渡したのが、以前女の子の友人から「これやばくないっすか?最高じゃないっすか?」ってもらっていた風俗のキャッチのライターだった。私は知らない女性にライターを貸しながら「わーやってもうたー」って思ったりしてました。
そのことを思い出したりしました。

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あと恥ずかしいからちゃんとは書けないですけども、私も青くんみたいなこともう一つあって、私は「君みたいないい子はこんな汚いところに来ちゃだめだよ」って言われたことがありました。何がって言いづらいですけども。
でも、そういうのも含めて、なんか自分のちょっと普段は思い出さない記憶が空いていくような感覚があって、ああいい映画だなー、さっきと言ってること違うけども、自分の心の溝にレコードの針が落とされて、記憶が再生されたりするから映画っていいなーって思ったりしたのでした。

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