にゃんこのいけにえ

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森田芳光『黒い家』を見た!

森田芳光監督『黒い家』を見た!1999年。主演は内野聖陽大竹しのぶ

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あらすじ

保険の査定をしていただけなのに、相手がサイコパスだったのでめちゃくちゃ大変な目にあいます。

感想

うわー!超最高じゃん!
あまりの面白さに鑑賞後、興奮でなかなか寝付けず、やっと寝れたと思ったら変な中年女性に追いかけ回される夢を見ました。
それくらい強烈な作品でした。
映画が始まった時から、すでに小さな嫌なことは起こっています。
保険屋に勤めている主人公は日々の業務で「やばい人々」と接しているわけですが、その時点でもう「ああ、この仕事、嫌だなあ」と思う。
お金が直接的に絡む仕事ゆえに、そして保険仕事という特性から、日々の業務ですり減っている状態です。
そんな最中に、突然指名で呼び出されて、ある家に行ってみたらそこには……。


さて、そんな家の外観からして、何かやばい気配が漂っている。
それは手入れされていない上に、何か変なものが沢山あって雑然としている庭のせいかもしれない。
もしくはボロっちい見た目の家に対しての停められた黒い高級車というコントラストのせいかもしれない。
もしくは水場の近く、それか巨大な燃料タンクがそばにあるからかもしれない。
なんせ、入る前から「何か、この家は変な気がする」と思わされる。
でも、入るしかない、なんせ仕事だから、仕事はまじめにするしかないから……。


その後も嫌なことは起こり続ける。それどころか、その嫌なことは徐々に徐々に巨大化、もしくは増加していく。
西村雅彦(現:西村まさ彦)が窓口で「そうか~まだなのか~」といらだち、指を口に……のところで「わーっ!」と見てる私が手で口を覆ってしまった。なんて嫌で痛いシーンなのでしょう。なんてことをするのでしょう。なんてことができるのでしょう。
見ている私も、主人公の内野聖陽もあわあわするしかないのです。

物語的にも嫌なことの連続ですが、映像的な追い詰め方も凄い。かちって決まった構図の連続は息苦しくなるような効果を生んでいますし、視認するので精一杯な細かく短いカットの連続やイマジナリーラインを合わせないカットと神経を逆なでするような編集も凄まじい。
音の演出もすごくて、西村雅彦が登場するたびに鳴るドリルのような音は特に印象的。なにこれと思うけども、やっぱり鳴るたびに嫌な気持ちになる。
あと画面に出てくる色がとてもビビット。特に「緑」と「黄色」と「赤」が映えている。そして「緑」の服を西村雅彦は着ていて、「黄色」の服を大竹しのぶは身につけている。その緑と、黄色が、身の回りに溢れ始めると奴らの気配が漂ってくるのです。もうこの色が見えたらお終いだよ!
それから三日月と満月の演出も凄い。三日月が満月に変わったら死の予兆って、なんのこっちゃわかんないけども、そうなっちゃう。映像の力じゃん!と興奮しました。


それらが合わさり、緊張感が最高潮に達してからの終盤、あの家に再び行くことになってからの異様かつハイテンションな展開の数々ったら!超怖いし超ぶち上がりまくりだよ!
なんせもう最悪が連続していくのです。
あの家の最初には見なかった部屋の内部のあまりにも俗っぽさったら(アレがうぃんうぃんと動くの最悪でしたねえ)、そしてあの拷問部屋の「なんそれ……」と言いたくなるような禍々しさったら。『悪魔のいけにえ』的でもありますし、悪魔のいけにえの鉄のドアみたいな見た目をした冷蔵庫も出てきますし。
でもそれ以上に「えっ、この映画ってもしや」と思ったのはあの風呂場の描写。
もしかしてこの映画って後に『冷たい熱帯魚』で映画化もされる「愛犬家殺人事件」もイメージ元にあるんだろうかって思いました。
原作は未読なのでその辺がどうなっているのか知らないのですが、あのあたりの描写が『冷たい熱帯魚』的、つまりは「愛犬家殺人事件」のやつじゃんって思ったりしました。
その上、主人公の彼女がフラッシュバックする映像があまりにもきつくて、うわーってなったりしました。あんまりな暴力だよー。

で、ここが物語の終着点かと思ったら、ここではまだ終わらず、クライマックスは主人公が勤めている会社で起こる!
その異様な展開の数々ったら!異様がどんどん加速して、もうどうにかなりそうでした。なにあれ、超やばい。どうかしてる。
大竹しのぶの有名なあれもほんまに怖いんですけども、トドメをさすために消化器を噴射するって行動に出る主人公が良かったです。
主人公の行動が終始、普通の人だから本当に安心できなくていい。自分も消化器噴射するだろうなってここは思ったりしました。
にしても異様なことが異様なテンションで起きる作品っていいですね。超怖いし痛いし嫌だ~って思うけども、なんか元気は出ました。


ただ映画のラスト、主人公や主人公の彼女の傷ついた肉体は治れども、心に刻まれた傷はそう簡単には治らない……ってなるのがまた嫌で良かったです。そりゃあんなことに巻き込まれたらもとの日常には帰れないよねえ……。
そんな苦い後味の中、スタッフクレジット中に流れる曲がm-flo
m-floがめちゃくちゃm-floしてる曲で、なんでこの曲なんだろうって思いつつ、映画と食い合わせの悪い感じが、いい感じに鑑賞後の気持ちを落ち着けることができなくてそれもまた良かったです。


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そういえば、この作品があったから『模倣犯』のオープニング曲はtaku☆takahashiだったんでしょうか。そういう流れだったのかな。
私は『模倣犯』のあのオープニング結構すきなんですよね。あの当時、このオープニングかっこいいな~って思ってネットを見たら、めちゃくちゃに叩かれていてしゅん……ってしました。



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さてさて、見た人みんな言ってることですけども大竹しのぶが超怖かったです。
言うなれば地方でたまたま主婦をやってる『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスみたいなキャラクターで、そりゃそんなんに目をつけられたらお終いだよ!
ってことでそりゃ内野聖陽もビビり倒しですよ。にしても内野さんのあのビビり演技最高すぎやしませんか。怖くて先に進みたくない、でも進むしかない、ああ怖い、と懐中電灯を手にとった時の揺れ!あれすっごい。
こんなに怯える主人公も珍しいってくらい怯えるのでそれも良かったです。
にしても内野聖陽な時期もあったんだねえ…豪快な演技のときしか知らなかったので、かなりびっくりしています。
『臨場』って作品で野菜か果物を食べながら、捜査会議に参加している警察官の役の演技とか、濃厚こってりスープみたいだったから、そういう役者さんなんだと思っちゃいけないのに思っていました。
先日「きのう何たべた?」の内野さんを見たときにもこんな演技できる人だったの!って思いましたけども、その時以上に驚きました。
あと町田康みたいな人がいると思ったら町田康だった。
一瞬でも印象的で町田康はずるいなあと思いました。

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にしても、この映画の何が嫌って最悪な目にあってしまうのが「その仕事をしていたから」、そして「目をつけられたから」の二つなのです。
主人公に何の落ち度もない。むしろ、世間的には「いい人」です。でも、どんどん地獄に連れて行かれる。
そして大竹しのぶサイコパスの行動理由も本当に俗っぽい。サイコパスって言えば、賢かったり、すぐデスゲームをしたかったり…な人が多いですけども、そんなことはない。ただただ俗っぽい。
お金がほしい。得をしたい。
そんな理由でどんどん周囲の人々が不幸な目にあっていく。
でもそっちのほうが多い。
なんならこの映画に出てくる最初の方の嫌な客達と行動理由はあまり変わらないのです。
でも「最後のタガ」が壊れている人々だったから、もしくは躊躇がなかったから、それから幼少期の経験のせいだから、なんにせよ「最後のタガ」が壊れているゆえに、やってはいけない超えてはいけない一線を簡単に超えてしまうのです。
そしてそれはいつだってそばにいるかもしれない。
多かれ少なかれ、こんな人はやっぱりいるのです。
というかいたものねえ。ええ~そんな理由で人を攻撃するの~って人とかって。
だからこそ、私は目をつけられたくないって思う。
でも、目をつけられてしまったらどうしよう。
その時は、無事を祈るしかない。
なんとか無事に、目をつけるのをやめるのを待つしか無い。
それしか、究極のところはそれをやることしかどうにもならないんじゃないかな、と思うのです。

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