にゃんこのいけにえ

両目洞窟人間さんが色々と書き殴ってるブログです。

短編小説『宇宙ネズミ、地球を侵略する』

『宇宙ネズミ、地球を侵略する』

 

「ぺるぺるぺるぺる」と宇宙ネズミは僕に話しかける。意味はわからない。
しかしここ1時間、宇宙ネズミは僕に銃口を突きつけながら時折「ぺるぺるぺるぺる」と言うのだった。
僕は仕方なく、両手を上げ続けているが、1時間も両手を上げ続けるのはとてもしんどい。
プルプルと筋肉は振動しているし、指先の感覚もなくなってきた。
「ぺるぺるぺるぺる」
「だから、わかんないんですよ」
「ぺるぺるぺるぺる」
「あーもー」
「ぺるぺるぺるぺる」
先程から宇宙ネズミが語りかける「ぺるぺるぺるぺる」にはいくつかの変化点がある。
怒気が含まれているような「ぺるぺるぺるぺる」。
穏やかな口調の「ぺるぺるぺるぺる」。
早口の「ぺるぺるぺるぺる」。
低い声の「ぺるぺるぺるぺる」。
多分、感情を乗せて伝えようとしているのだろうが、僕には「ぺるぺるぺるぺる」という音以外は何もわからないのだ。


宇宙ネズミに出逢ったのは河川敷でぼんやりしていた時だった。
川を見ながらぼんやりしていると、宇宙ネズミが突然川から現れて、僕の隣にやってきて、銃口突きつけて「ぺるぺるぺるぺる」。
全く意味がわからなかった。
そもそも、僕が河川敷でぼんやりしていたのはこの先の人生が全く見えなくなってしまったからで、僕の人生まじで無意味だなどうしようかなとなっている最中にさらにどうしようかなってことが起こってしまったのだからタチが悪い。

「あのー、なんか、翻訳機とかないのですか?」
「ぺるぺるぺるぺる」
「僕には"ぺるぺるぺるぺる"しかわからないんですよ」
宇宙ネズミの目が光った。
「ぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺる」
突然まくし立てる宇宙ネズミ。
なんだなんだ。何が彼をさせたんだ。
「"ぺるぺるぺるぺる"って言われてもわかんないんですよ」
「ぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺる」
もしかして、僕が"ぺるぺるぺるぺる"と言ったから話せると勘違いしているのか。
しまった。いつも僕は間違えてしまうんだ。
「ぺるぺるぺるぺる。ぺるぺるぺるぺる。ぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺる。ぺるぺるぺるぺる。ぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺる」
口調が大仰になってきた。こういった口調には聞き覚えがあった。
演説だ。
宇宙ネズミは僕に演説をしているのだ。
僕は人生に迷ってたどり着いた河川敷で宇宙ネズミから全く意味がわからない演説を聞かされている。
その間両手は上げっぱなし。
なんだこれおい。
「ぺるぺるぺるぺる。ぺるぺるぺるぺる。ぺるぺるぺるぺる。ぺるぺるぺるぺる!ぺるぺるぺるぺる!!ぺるぺるぺるぺる!!!!ぺるぺるぺるぺる!!!!」
どんどん語気が強くなる。
演説が佳境に差し掛かっているのだろう。
「ぺるぺるぺるぺる!!」
と叫んで胸ポケットからお弁当箱みたいな機械を取り出した。
そしてその機械のつまみをいじり始めた。
機械から油のさしていない自転車が20台並んで走っているような音が聞こえる。
「ぺるぺるぺるぺるーー!!」
と宇宙ネズミは空を指差した。
僕もその指差した先の空を見た。
そこには大きなポン・デ・リングが浮かんでいた。
実際にはポン・デ・リングのような宇宙船が浮かんでいた。
「ぺるぺるぺるぺる!!ぺるぺるぺるぺる!!ぺるぺるぺるぺる!!!ぺるぺるぺるぺる!!!」
なおも続く宇宙ネズミの演説。
そして耳障りな音を鳴らす機械。
むにゅーんと地面に近づくポン・デ・リング
もう何が何やらだ。
僕は状況が全然読み込めていないが、世界の終わり感は強いなと感じていた。
「ぺるぺるぺるぺるーー!!!ぺるぺるぺるぺるーー!!!」
宇宙ネズミが両手をあげる。
ポン・デ・リングからその両手をあげるのに呼応したように女性コーラス隊のような「ふぁああああ」という音が鳴り響く。
「ぺるぺるぺるぺるーー!!」
宇宙ネズミが両手を下ろし、僕に改めて銃口を向ける。
「ぺるぺるぺるぺる、ぺるぺるぺるぺる、ぺるぺるぺるぺる!!」
何か決め台詞のようなものを言い放つ宇宙ネズミ。
最後に聴く言葉が"ぺるぺるぺるぺる"だったなんて。
その時だった!
「ひぎゃぺるぅ!!」
突然、宇宙ネズミの頭が弾け飛んだ。青い体液と脳漿が僕に向かって飛び散る。
何事かと思いきや、川面に吹き矢を持った半魚人さんが浮かんでいた。
半魚人さんが吹き矢で宇宙ネズミの頭を吹き飛ばしたのだ。
それから川面に次々と半魚人さんが浮かびあがった。その数は50を超えていた。
「よーい、構え!」
その半魚人さん達は吹頭上のポン・デ・リングに向かって吹き矢を構えた。
「撃てーー!」
半魚人さん達が吹き矢を吹いた。
ポン・デ・リングに吹き矢が大量に刺さり、次の瞬間、大爆発が起こった。
「ぺるぺるぺるぺるー!」
裂けたポン・デ・リングから大量の宇宙ネズミが落ちていく。
ポン・デ・リングは煙を吹き上げながら近くの団地に突っ込んで、大きなコラテラルダメージを引き起こしていたが、半魚人さん達はハイタッチをしていた。
「君!無事かね!」
最初に宇宙ネズミの頭を吹き飛ばした半魚人さんが僕に話しかける。
「あ、はい、大丈夫みたいです」
「そうか、それなら良かった。君が宇宙ネズミを引き止めてくれたおかげでなんとか地球は救われたよ」
「そうなんですか」
「ああ、そうだよ。じゃあ、我々半魚人はこれで。後のことは人間に任せるよ」
「あ、はい」
半魚人さん達は消えていった。
後に残ったのは頭のない宇宙ネズミの死体と、火を吹き上げる団地と、宇宙ネズミの体液まみれの僕だけだった。
家に帰って宇宙ネズミの体液をシャワーで落とそうとしたが、粘り気があってなかなか落ちない。
なので体液をぽんぽんぽんぽんと叩きながらシャワーを浴びると体液はどんどん落ちていった。
ローションを落とす時の技がこんなところで役にたつとは思わなかった。
そう思うと人生に意味のないものなどないかもしれない。
人生の深みってやつを体液を落としながら考えていた。

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