第三話『すべては一歩の勇気から』
本当に30歳になるまでにアイドルマスターを見終えることができるのだろうか。
と日々不安になっている。すぐになんでもやります!なんて言ってできない悪い癖を持っていて、それを後悔し続けているような30歳だった。
私だって、嫌な自分があって、そんな嫌な自分に日々攻撃されているような気分になる。
そしてそんな自分のことを普段は見ないふりをしている。
でも、その自分のせいで、うまくいかない日々にやりきれなさを感じ続けている。
そんな中で今、私は『アイドルマスター』を見ている。
30歳になるまでの二週間。本当にアイドルマスターを見ることができるだろうか。
見たことで何か変わることができるんだろうか?
アニメを見たくらいで、何かつかめるなんて、何か変わることができるなんて思ってない。
でも、変わりたい。
私は、少しだけ、昨日の自分よりよくなりたいと思っている。
第三話は765プロに営業の仕事が舞い込んでくる。しかも全員参加の営業。そしてライブ付き!
高待遇!!好条件!!
沸き立つ765プロだったけども、行ってみたらそこは地方…どころか田舎は田舎の夏祭りに呼ばれたのであった。
会場は小学校の校庭。その小学校もまるで黒沢清の『CURE』の最後に出てくる病院のような見た目。
そんああまりにもな風景や思っていたのとは違う現実にすっかり765プロの面々は意気消沈してしまうのだった……
第三話も引き続き、泥水すすっておりますシリーズである。
相変わらず、765プロは弱小事務所も弱小事務所である。
アイドルたちも全く売れていない。
だから小さな仕事もコツコツと~!と西川きよしさんの言うてたことは大事なんだけども、わかっていることと、理解すること、そして頑張れることはまた違うよね。
しかし、いくら現実はまだキラキラした夢からは遠くとも、そしてそこがいくらアウェイでも、踏ん張らなければならない。
ピンチをチャンスに変えていこう!って言葉は大嫌いだ。
ピンチはピンチだし、逆境は逆境だ。
ピンチをチャンスに!と平然と使う人々は「ピンチ」が来たら簡単に「チャンス!」と言い換え始める。
それが嫌なのよ。と、突然尖ってしまってしまう。
その一方で「アウェイがホームになるまで戦う」という内容の曲があって、それは好きだったりする。
『アウェイ』という文字通りのタイトルの曲。
歌っているのはスクービードゥーという日本のファンクバンドだ。
日本全国の多くのアウェイに行っては、そこにいるお客さんたちを、一見さんのお客さん達を踊らせて完璧なまでに「ホーム」に変えてきたバンドだ。
スクービードゥーは「アウェイ」で戦うことを歌いながら、最終的には「好きだぜアウェイ」と歌ってしまうところまで行ってしまう。
そんなことが言えちゃうスクービードゥーがかっこいい。でもこの感想はスクービードゥーの感想じゃない。
アイドルマスター第三話の感想だ。
だからそこに戻っていく。
そして第三話で一番のアウェイに叩き込まれるのが萩原雪歩だ。
萩原雪歩は状況のアウェイにプラスしてまずいことになってしまう。
男性恐怖症だ。
萩原雪歩はひどい男性恐怖症を抱えている。
萩原雪歩には男性がまるで怪物のように見える(そのビジュアルはグレイ宇宙人と半魚人を足したような異様な見た目。)
それを乗り越えなきゃいけないと思う。萩原雪歩だってアイドルを目指している。男性恐怖症を拗らせている場合じゃないと思うからだ。
仲間の天海春香と菊地真も「自分たちだって不安なんだ」と伝える。
凛と立っているように見えた2人の足も震えている。
誰だって緊張はする。
そう誰だって。
怯えているのは自分だけじゃない。
そのことに勇気づけられた萩原雪歩はステージに向かおうとする。最前列のお客さんが犬を抱いているのを見てしまう。
萩原雪歩の顔は青ざめて、走り去ってしまった。
萩原雪歩は犬も苦手なのだ。
男性恐怖症を抑えつけるだけで精一杯だったのだ。でも犬まで。なんで犬まで。しかもなんで最前列に。
世界の全てがまるで萩原雪歩をステージに立たせないようにしている。
そして逃げてしまったことにも後悔している。
もう本当にダメかもしれない。
そこにプロデューサーがやってくる。
ステージを逃げ出した萩原雪歩をプロデューサーは叱ることはしない。
「そうか犬も苦手だったんだな」と理解をしめす。
それから、戻ろうと言う。
「絶対に犬をステージに寄せ付けない。吠えさせもしない。俺が見ているから」
プロデューサーは萩原雪歩と約束をするのだ。
口約束じゃない。
指切りで約束をする。
それは弱い約束かもしれない。
それでも約束だ。
プロデューサーは頼りない部分も勿論ある。でも約束を破ったことなんてない。
萩原雪歩はもう少しだけ時間をくださいと走り出す。
ステージじゃなくて、控室に行く。
そこには間違って持ってきてしまった衣装がある。
それはパンク風のファッションで、萩原雪歩からは一番遠いような衣装だ。
でも、それを着る。
即席のメイクもする。
そしてステージに上がる。
ステージに立つために。その勇気を持つために。その勇気を保つために。
そして叫ぶ。
慣れない叫び。
マイクはハウリングを起こす。
呆然とする客席の人々。
それでも叫ぶ。
もうやるしかない。それでも。
その次の瞬間、菊地真が叫ぶ。そして天海春香も。
2人は走り出した萩原雪歩を追いかけてくれる。
三人で叫ぶことで、それは異常事態からパフォーマンスに変容する。
そしてその熱が客席にも伝播し始める。
客席が叫びに応え始めたのだ。
ライブが始まる。
765プロの夏祭り営業は見事大成功で幕を閉じた。
最初は「知らねえ~!」なんて笑ってた子供たちのTシャツにサインをする。
「早くテレビでろよな!」と笑われてるけども、当初の揶揄はない。
朝、その村は完全なアウェイだった。
夜、その村は完全なホームに変わった。
そこには萩原雪歩達のステージの成功もある。
でも、萩原雪歩は別人になったわけじゃない。
まだ男性恐怖症は残っている。
犬への恐怖もある。
でも、ほんの少しだけ変わった。朝とは、もう完全に違う。
萩原雪歩はプロデューサーが本当は犬が苦手だったことを見抜く。
苦手なのになぜ?
「雪歩が変わろうとしているから俺も頑張ろうと思った」と言う。
変わるのは難しい。苦手なものを克服するのは難しい。
プロデューサーはそれを知っている。
ああ、プロデューサーは大人なのだなと思う。
大人として取るべき行動をプロデューサーはとったのだ。でもそれがどれだけ難しいか、すっかり年齢だけ重ねてしまった私は痛いほど感じてしまう。
この夏祭りの営業は小さな仕事かもしれない。
そしてステージに立とうとした萩原雪歩の行動は小さなものかもしれない。
でも、この変化がいずれは大きなことに繋がっていく。
その予感が満ちている。
それは帰り道を歩く萩原雪歩の横顔からも、感じ取ることができる。
突然、大きな変化なんて起こせない。でも小さな変化を積み重ねることはできるのだ。
ALRIGHT *
今日が笑えたら
ALRIGHT*
明日はきっと幸せ
大丈夫
どこまでだって
さあ出発オーライ