にゃんこのいけにえ

両目洞窟人間さんが色々と書き殴ってるブログです。

虚構日記 2020年9月3日

本屋に取り置きしてもらっていた本をもらいにいった。

「取り置きの本をください」というと、店員がぴりっと空気が変わったのを感じた。

「外は雨降っていましたか?」と店員に聞かれたので「……小雨が少し」と状況を伝えた。

「じゃあ袋がいりますね」と言われる。

「いえ、カバンを持ってるので大丈夫です」

すると店員は「わかりました。こちらへ」と言って、私をエレベーターに誘導した。

エレベーターの2階と3階、そして8階のボタンを同時に押すと、がこんっと大きな鉄の音がして、エレベーターは上でも下でもない動き方をし始めた。

再びがごんっと大きな鉄の音がして、エレベーターが止まり、重苦しいきしみ音を叫びながらドアが開いた。

薄暗い場所で車椅子に座った老人が唸りながらこちらを睨んでいた。その隣にはペストマスクを被った長身の女性が立っていた。床は赤いカーペットだった。

戸惑っていたら「取り置きですか?」とペストマスクの女が喋りかけてきた。

はい。と答えると、ペストマスクの女性は老人の車椅子の手押しハンドルの部分にかけられていた藁の袋から本を3冊取り出した。

頼んでいた本3冊だった。

「支払いは、カウンターでお願いします」とペストマスクの女性に言われた。

老人が唸りながら私に手を振った。

私も手を振り返す。

エレベーターのドアがしまった。

 

 

帰りの電車で買ったばかりのユリイカ2020年9月号『女オタクの現在』を読んだ。

読みたかった西田藍さんの文章を読んだら泣きそうになった。

虚構日記2020年9月2日

エアコンが効いた部屋にいても、汗が止まらない。
体内の水道の元栓が壊れているみたいだ、と思っていたら冷蔵庫に「体の水道のトラブルを解決!」と水道屋のマグネット広告を貼っていたのを思い出して電話をした。
数時間後に業者が来て、私の体のパイプを調べ始めた。
「あーこれはだめです。もういかれちまってますね」
「どうしたらいいですか」
「これうちじゃないっすね。行政っすよ。行政」
って言って業者は帰っていった。
行政かーと思いながら引き続きエアコンが効いた部屋で汗だくに成り続けていたら、汗をかきすぎて、次第に自分の感情や記憶も汗から流れ落ちてしまった。
必死に、元の体に戻った。
これだから夏は。

虚構日記 2020年9月1日

依然として体調が悪いままだ。

なぜこれほどまでに体調が悪いのかと、悩んだ末に頭を切り開くことにした。

腕時計を分解する時に用いるような細いドライバーで、耳の裏やおでこにあるネジを外していって、頭カバーをぱかっと外して、頭の様子を鏡で見てみた。

すると頭の冷却装置が壊れているらしくて、小さな作業員がうちわを仰ぎながら電話をかけていた。

あまりに大変な様子に、これではいけないと思い、しばらく手に持つタイプの扇風機を頭カバーを外した状態のむき出しの頭に強風をあててみた。

すると作業員が突然の突風に驚き始めた。

室内だと思っていたのに突然の台風のような風に驚きすぎた小さな作業員は驚きすぎて嘔吐した。

私も嘔吐した。

 

 

頭の様子もわかったので、頭カバーを再びつけてネジを締めていった。

ネジが一本余った。

考えても仕方ないので、カレーパンを食べることにした。

カレーパンのカレーが家カレーじゃなくてスパイスカレーでがっかりした。

 

虚構日記 2020年8月31日

虚構日記 2020年8月31日

3年半使っていた携帯電話が使い物にならなくなってきた。
私が使っている携帯電話は当時としては最新機種であった肩からベルトでぶら下げて、受話器をとって「もしもし」なんて言えるモデルである。
それを使ってSNSソーシャル・ネットワーク・サーヴィス)を使いまくっていたのだ。
Twitterに書き込むときは受話器を耳に当てて、マイクに向かってその都度、呟いていた。
難しいのがアドレスを送付してつぶやくときだ。いちいちアドレスを間違えないように呟くのは骨が折れた。
画像を添付するときは、画像を2400分割して、一行ごと色の配列をその都度呟いてた。
そうやって私はTwitterと向き合ってきたのだった。
しかし、ここ一年くらいは携帯電話は熱を放出するようになってきた。
冬ならば暖房として使うことができるが、夏になるとそれは殺人的な暑さになってしまう。
その上、数年に渡り肩からぶら下げていたせいもあって、私は左と右の肩のいちがずれてしまっていた。
常に身体を斜めに歪ませながら生活をし続けているうちに、平衡感覚を失い、そして気分が悪くなって横になる日々ばかりになっている。


しかしそんな日々ももう終わりである。なんせ携帯電話を機種変更するのだから。
私は携帯ショップに行き、機種変更の旨を伝えた。
店員は鉄製のドアを開くと、薄ぼんやりとした廊下を進んでいった。店員の姿は暗闇に包まれて、それから見えなくなった。
足音もしばらくは聞こえていたが、暗闇が思ったよりも深くてその音もマットにボールを落としたような音に変わっていき、そして聞こえなくなった。
半時間ほど経つと店員が戻ってきた。
店員の手には黒い物体があった。テープだった。
私はTシャツをまくりあげて腰にあるテープ挿入口を外気に触れさせた。
「失礼しますね」と店員が私のリジェクトボタンを押して、テープ挿入口からこれまで使っていたテープが吐き出された。
そのテープには「エンヤベスト」と書かれていた。
次に入るテープはなんですか?と聞くと「ストップ・メイキング・センスです」と言われた。


テープを入れ替えて、そして携帯電話をまた肩からぶら下げた。
「ありがとうございました」と店員の声が背後から聞こえた。
帰りに鶏のもも肉を買った。
明日はクリームシチューを作る予定だ。