本屋に取り置きしてもらっていた本をもらいにいった。
「取り置きの本をください」というと、店員がぴりっと空気が変わったのを感じた。
「外は雨降っていましたか?」と店員に聞かれたので「……小雨が少し」と状況を伝えた。
「じゃあ袋がいりますね」と言われる。
「いえ、カバンを持ってるので大丈夫です」
すると店員は「わかりました。こちらへ」と言って、私をエレベーターに誘導した。
エレベーターの2階と3階、そして8階のボタンを同時に押すと、がこんっと大きな鉄の音がして、エレベーターは上でも下でもない動き方をし始めた。
再びがごんっと大きな鉄の音がして、エレベーターが止まり、重苦しいきしみ音を叫びながらドアが開いた。
薄暗い場所で車椅子に座った老人が唸りながらこちらを睨んでいた。その隣にはペストマスクを被った長身の女性が立っていた。床は赤いカーペットだった。
戸惑っていたら「取り置きですか?」とペストマスクの女が喋りかけてきた。
はい。と答えると、ペストマスクの女性は老人の車椅子の手押しハンドルの部分にかけられていた藁の袋から本を3冊取り出した。
頼んでいた本3冊だった。
「支払いは、カウンターでお願いします」とペストマスクの女性に言われた。
老人が唸りながら私に手を振った。
私も手を振り返す。
エレベーターのドアがしまった。
帰りの電車で買ったばかりのユリイカ2020年9月号『女オタクの現在』を読んだ。
読みたかった西田藍さんの文章を読んだら泣きそうになった。