にゃんこのいけにえ

両目洞窟人間さんが色々と書き殴ってるブログです。

どてらねこのまち子さん 第ニ話

「どてらねこのまち子さん」第二話

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"Taken"


どてらを着た二本足で歩くねこの後ろ姿が見えたので「おーい、まち子さん」と話しかけたら、まち子さんは私に気がついて手を振り替えしてくれたところを、まち子さんの隣に止まった黒いバンからC.Wニコルの覆面を被った人間がまち子さんを捕まえて、黒いバンに引きずり込んだ。
「あ、まち子さん」と言ったら、バンは私の方にもやってきて、C.Wニコルは私もバンに引きずりこまれて、フランスパンの匂いがする紙袋を頭から被せられてしまい、周りが何にも見えなくなってしまった。
バンが発進する音が聞こえる。
「うにゃにゃにゃにゃ・・・」
何にも見えないが、まち子さんの声は聞こえる。
「まち子さん、大丈夫ですか?」
「あ、坂本さん。私は大丈夫です。坂本さんは大丈夫ですか」
「私は大丈夫です。あと、私は岸本です」
そうなのだ、私は岸本なのだ。
「あ、そうでした。岸本さん。こんにちは」
「こんにちは」
バンが結構なスピードで移動しているのが振動でわかる。
「まち子さん。なんで連れ去られたんでしょうね」
「うにゃにゃにゃにゃ…わからないです」
「そうですよね」
「ちょっと、犯人さんに聞いてみますね」
「そうですね」
「あのあの、犯人さん。なんで私たちを連れ去ったのですか」
返事は無くてただただバンのエンジンの音だけが響く。
「岸本さん。無視されてしまいました」
「そういうこともありますよ」
そういうこともあるのだ。

 


それから私とまち子さんは移動時間の暇を埋めるためにしりとりをし続けた。まち子さんはしりとりが強い。何よりしりとりで攻撃力が高い「る」の言葉を沢山知っている。
フランプール」と56回目の「る」攻撃にも瞬間的に「ルートビア」と返されて「まち子さん強いな」と思っていたら、バンが突然止まった。
バンの外に連れられて、頭に被せられていたフランスパンの匂いのする袋が取られて、目が痛くなるような光が飛び込んでくる。
目の明暗判別機能が機能して、目の前に見える景色が見える。
釣り堀だ。
私たちは釣り堀にいる。
椅子代わりの黄色いプラスチックビール箱。緑色の水。野球帽を被った中年男性。はしゃぐ家族連れ。あちらこちらで魚が釣れる度に声があがる。
私とまち子さんがぼんやり釣り堀を見ていると、C.Wニコルの覆面をつけた男が「釣り、する」と言ったので、私たちは釣り堀で釣りをする。

 


「私、釣りをしたことないんですよね」
「まち子さん、そうなんですか?」
「釣りなんてできるかどうか・・・」
とまち子さんは言うけども、釣り始めるやいなや釣りの才能をめきめき発揮する。
私は途中から釣りを放棄して、網を持ってまち子さんが魚をつり上げるたびに網ですくってあげる。
「岸本さん。どうしましょう。どんどん釣れてしまいます」
「まち子さん、才能に身を任せましょう」
「怖いです。才能が怖いです」
「あ、またさっきよりも大きい魚ですよ」
「ああ、怖い、怖い」

一時間ほど経って、気がついたらまち子さんの周りには釣り上げた魚が山のようになっている。
どてらを着たねこのまち子さんは誇らしげな顔をして「釣ってしまいましたね」と言っている。
「これ持って帰れるみたいですよ」
「いいですね。ご飯代が浮きますね」とまち子さんは嬉しそうな顔をしている。
「あれ、そういえば犯人さんはどこ行ったんでしょうね」
「あれ、そういえば」
と思って見渡すと、釣り堀のピラニアコーナーにC.Wニコルの覆面をつけた犯人がおぼれていて、その周りにはピラニアが集まり、緑色の水はあっという間に真っ赤に染まった。
水面をC.Wニコルの覆面がぷかぷかと浮いていた。

どてらねこのまち子さん 第1話

どてらねこのまち子さん 第1話

SAVE THE CHILDREN

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 どてらを着た二本足でとことこ歩くねこの後ろ姿が見えたので「おーい、まち子さん」と話しかけたら、どてらねこのまち子さんは振り向いて「あら、竹本さんじゃないですか」と言う。私の名前は岸本だ。竹本ではない。「まち子さん。私の名前は岸本です」
「そうでした。岸本さん。こんにちは」
とまち子さんはお辞儀をしたので私もお辞儀をした。
どてらねこのまち子さんはスーパーの袋を下げている。
「まち子さん。スーパー帰りですか」
「はい、暴力空間から今日も帰ってこれました」
「暴力空間ですか?」
「動物の死体や内蔵があちらこちらですよ」
「スーパーですからね」
「暴力空間です」
「まち子さんは今日は何を買ったのですか?」
「死んだ鮭の肉片です」
「サーモンの切り身なんですね」
「あとはサーモンの子どもたちを買いました」
「いくらですね」
「コンテナに詰め込まれた子どもたちです」
とまち子さんは袋から取り出す。
すると袋の中から、半透明のコンテナが出てきて、その中にはぎっしりいくらが詰まっている。そのいくらは蠢いていて「きゅるるるるるる」と叫び声をあげている。
「見てられなかったので・・・」とまち子さんは言う。まち子さんは優しいのだ。
「まち子さん、その子どもたちをどうするんですか?」
「川に放流してあげます」
そういったので私たちはとことこと川に向かう。


どてらを着たねこのまち子さんと私は流れる川を見ている。
昨日の雨で川は流れが強い。
「まち子さん、流れが強いですね」
「うにゃにゃにゃにゃ・・・」
とまち子さんは子どもたちを流そうか、どうか困っている。
まち子さんは半透明のコンテナを見つめる。
子どもたちは「ぎゅぎゅぎゅぎゅ」と叫んでいる。どうやら自然に帰りたいのだ。
まち子さんは意を決して、コンテナの鍵を開ける。
「ぴゅいぴゅいぴゅいぴゅい」子どもたちが歓喜の声をあげる。
「さあ、自然で生きるのです、子どもたち。帰るのです。自然に」
川に子どもたちが放流される。
子どもたちの喜びの声が聞こえる。
まち子さんと私も笑顔になる。
子どもたちは強い川の流れに乗って下っていって私たちから50メートルくらい離れたところでクロコダイルに食べられて全滅した。

 

 

短編小説『鋼鉄の嘶き』

 トナカイをハーレーに改造して国道を駆け抜ける。
 エンジンは悲鳴を挙げている。俺の臀部に熱を感じる。
 冷たい空気がスピードを経て鋭い刃物のように俺の顔をなでる。
 でもアクセルの手は緩めない。
 マフラーから排気ガスが吹き出る。この町の風景のように。石油を燃やして吹き出るあの風景のように。

 


 俺はこの町で育ってきた。
 石油が出て、おかしくなった故郷の町。
 貧乏人が貧乏人を殴り、その貧乏人がさらに貧乏人を殴る。
 溢れた石油にまみれた金は全て金持ちの胃袋の中だ。

 物心ついたときには全てが狂ってるとおもったが、俺には逃げる術もなくて、この町で生きるしかない。

 石油の炎がいつだって見えた。俺に逃げ場所はなかった。

 


 俺はセンチメンタルを吹き飛ばすために、今に意識する。
 信号は赤。気にしねえ。突っ切るだけだ。
 俺は元は角だったアクセルをぐいっと握って回す。
 悲鳴のようなエンジンの音。加速するハーレー。風景が線になり、飛んでいく。
 視界の端に目的の看板が見える。
 トイザらス
 俺はハンドルを切る。
 歩道の縁石にタイヤが接触し、ハーレーは宙に浮く。
 恐怖におののく家族連れが見える。
 「どけ!!」
 トイザらスの屋外駐車場に突入するハーレー。叫ぶ家族連れ。ハーレーはショッピングカートに衝突し、ショッピングカートがひしゃげて空中に舞う。アクセルは緩めない。

 


 「こんな町、捨ててさ。私と住もうよ」って言ってたあいつは卒業前に交通事故で死んだ。スクールバスに霊柩車がぶつかった。同じ時期に親父も死んだ。石油採掘中の事故だった。

この世には笑えないジョークもあるって知った。俺はまだ若かった。俺は世界に、この町に、たった一人で取り残された。

 

 


入り口が見える。ガラス製の自動ドア。知ったことか。ハーレーは自動ドアに突入する。ガラスが一瞬で粉々に砕け散る。その一枚一枚に赤い服を来た俺の姿が写る。

 


この町で俺がつける仕事は二つしか無かった。この町で死ぬまで石油を掘り続けるか。それかーーー。

 


トイザらスに突っ込む俺のハーレーはレゴのコーナーを破壊する。巻き飛ぶレゴ。店員が必死に作ったスターウォーズのレゴはブロックにまた戻った。

 

 

「子どもたちに夢を与えるって言っても、所詮おれなんてただの宅配ドライバーだ」
俺はバーで知り合った女に愚痴を言った。
「俺が夢を与えられたいよ」
「あんた疲れてるみたいだね」
「この町で疲れていないやつがどこに居る?」
「そうね、みんな疲れているわ」
俺はこの女と寝た。女のトレーラーハウスで。
俺は生まれてこの方いい子だったためしなんてない。
朝、女が早めに出て行くのが見える。
「もう行くのか?」
「ええ、娘を幼稚園に預けないといけないのよ」
「そうか」
「じゃあ、またね。サンタさん」
「その名前で呼ぶんじゃねえよ」

 


ぬいぐるみコーナーの表示。ブレーキをかける。バイクがスライドしていく。逃げ惑う子どもたち。店員。吹き飛ぶ知育玩具。ルービックキューブ。どけ。邪魔だ。視界があれを捉える。
バイクが止まる。俺は急いでそいつを掴む。

 

 

与えられた少ない給料で、生活をやっていく。残ったわずかな金でトナカイをチューンナップする。トナカイをハーレーに仕立て上げるのが趣味の無い俺の唯一の楽しみだった。
同期はみんな辞めた。名ばかりのやりがいとキツすぎるノルマ。
狂った奴も、自殺した奴もいた。
それでも俺はしがみついていた。この仕事に。
鏡の中の俺がこう言っている。
「俺は誰のために仕事をしている?」
鏡の中の俺は答えてくれない。

 


「君、今年の配達が終わったら、もうやめてもらうから」
人件費削減の名目で、俺はお払い箱。学校を卒業してから、馬鹿みたいにしがみついていたこの仕事も切られる時は一瞬だ。
俺は何も考えることができずに、気がついたらバーで出会ったあの女の家に行っていた。雨がぱらついている。
「どうしたの酷い顔をして」
「ああ、俺はこの世にいらないみたいだ」
「そんなことないわよ」
「うるせえよ」
「どうしたの。お酒沢山飲んだんじゃ無いの?」
「今日飲まなくていつ飲むんだよ」
「もう、そんなに追い詰められることなんてないわよ」
「お前に何がわかるんだよ。何がわかるんだよ!」と叫んだ。女の肩を掴んで壁に叩きつける。古いトレーラーハウス。車体が衝撃で揺れる。
奥の部屋のドアがゆっくり開く。
小さな女の子が俺を見ていた。
女の子はおびえきった顔をしていた。今にも泣き出しそうだ。
手にはミッフィーのぬいぐるみ。
俺は「すまなかった」と言って、逃げ出した。

 


最後の配達の日。宅配リストを見る。あの女の家がないことを知った。理由が書かれている。あの小さな女の子は友人の家からおもちゃを取った。あの家を見ればそんなことをした理由もわかる。貧乏人の家。

 

・ほしかったもの―ミッフィーのぬいぐるみ。
     配達―×

 


知ったことか。
俺にはもう関係のないことだ

 


配達をする。
これが終われば、俺はサンタクロースを辞めなきゃいけない。
これが終われば、ただの男に。金も友人もいない、ただのくそな男になるだけだ。
配達をする。
石油の金が町に潤いを持たせている。回る家はどれも保険のCMに出てくるみたいにきれいで、嘘っぱちだ。
暖炉も煙突もただの演出にしかすぎない。
この町に本当なんて何にもない。
あの女の子ども。ミッフィーのぬいぐるみを握っていたあの女の子ども。
俺の頭から離れないのはあの女の子ども。
それを振り払おうと配達を続ける。

最後の家を周り終える。その頃にはもう朝になっている。
あとはこの赤い制服とトナカイを返すだけだ。
でも、俺は事務所には戻れない。いや、戻る気が無くなっている。
そして気がつけばこの町を見下ろす山の頂上に来ていた。

嫌いだった町。貧乏人が貧乏人を殴る町。溢れた石油で得た金を胃袋に詰める金持ちの町。
俺が今日やったのはなんだ?夢が有り余る金持ちの子どもに遊び道具を渡してやっただけじゃねえか。
俺は胸ポケットからたばこを取り出す。
アメリカンスピリッツ。
全ての者に夢を得られるのがこの国のいいところだって聞いたな。
俺は胸一杯にアメリカンスピリッツを吸い込んだ。
それから、たばこを地面にたたきつけて、ブーツで消す。
元トナカイのハーレーにまたがってアクセルを噴かす。

 


「止まれ!」声が聞こえる。警備員が俺に銃を向けている。
俺は無視する。俺はミッフィーのぬいぐるみを持って、ハーレーにまたがる。
「止めたきゃ止めてみろよ」
俺はアクセルを一気に噴かす。煙がはき出る。この町のあちこちの風景のように。
警備員が慌てる。発砲音。叫ぶ家族連れ。加速するハーレー。
粉々になる自動ドア。まったく、こまったあわてんぼうのサンタクロースだ。

 

 

夜の仕事から帰ってきて、眠りこけていた女を小さな娘が揺さぶる。
「ねえ、ママ、起きて」
「・・・どうしたの?」
「サンタさんだよ!!」
女は戸惑う。
「何を言ってるの?」
「家の前にこれがあったの」
と娘が見せたのは大きな大きなミッフィーのぬいぐるみだった。
「サンタさんが来てくれたんだよ!!」
と娘が嬉しそうに笑っている。
女はその姿がとてもいとおしく思えて娘を抱きしめる。

 

 

あれからずっと走り続けた。
あのくそみたいな町から少しでも離れるために。
でも州の境で、俺の前にはバリケードと銃を構える警官隊。
俺はアメリカンスピリッツに火をつけて吸い込む。
すると腹の傷口に響いて、俺は咳き込む。
さっきの銃弾が俺の体を割れたトマトケチャップの瓶にしている。
どちらにせよ、今日で俺の人生は終わりだ。
俺は元トナカイの角を握る。
どうせなら、最後は最高速度を出してやる。
俺は目一杯ハンドルを回す。
エンジンの悲鳴が聞こえる。
それはトナカイのいななきのよう。

そのいななきは空に広がる。

その空から雨が降る。

雨は次第に勢いを増す。

そしてその雨はーーー

 

 


女は娘に朝ご飯を作ってやる。
スクランブルエッグとベーコンとホットケーキ。
皿をテーブルに運んで、女は娘の頭を撫でて、メリークリスマスと言う。
娘は満面の笑みで女に向かってメリークリスマスと言って、隣の席に座らせているミッフィーにもメリークリスマスと言った。

女が窓の外を見ると雪がちらついているのが見える。

「雪!」と娘が叫ぶ。

「あとで、散歩でもしようね」と女はいう。

ミッフィーも連れて行っていい?と娘が聞くから女はもちろんと答える。

 


雪が降り続く中、トレーラーハウスから女と、その娘が出てくる。その娘の手には大きな大きなミッフィーのぬいぐるみが握られている。

雪はその日、ずっと降り続ける。

ずっと。ずっと。

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短編小説『2147年のスーベニア』

荒廃した道後温泉に旅行から帰ってきたさとみさんが温泉まんじゅうを職場のみんなに配る。

「へー。まだ温泉まんじゅうは売ってるんですね」と私が言うと「人間色々考えるもんだよねー」とさとみさんは言う。
さとみさんが写真を見せてくれるがさとみさんは常にガスマスクを付けているし、道後温泉はすっかり荒れ果てているので「なんか、歴史の教科書っぽいですよね」と言ったらみんなひとしきり笑った。

 


気がついたときには世界がぼろぼろになっていた私たちの世代はダークツーリズムだどうのこうの言う前に選択肢がそれしかなくて、それでも旅行はしたいもんだから、荒れ果てた土地を巡るような旅行は意外と大流行り。
「中山も旅行行ったらー。意外と気分晴れるよー」とさとみさんは言う。
「まあ、行きたいですけどねー」と言うけども、本当はあんまりどこにも行きたくなくて、旅行よりは家にいたいなと思う。

 


地下5階にあるメリヤス工場での仕事がおわって、それから私は地下27階にある家まで1時間かけて帰る。
駅から細くて青白くなりすぎてもはや緑色に光るライトで照らされたトンネルを通ってひたひたと水が滴り落ちる中を駆け抜けていけば、私が住んでるアパートはある。

 


いつものように扉のハンドルを回せば、蒸気を噴出しながら開く扉。私は家に入ると先に蔵くんがご飯を食べている姿が目に入る。
「おかえりー」
「え、帰ってたんだったらご飯食べるの待っててよー」
「いやー、今日こんなの貰っちゃってね」
と蔵くんが私に見せるのはクローン松坂牛のふりかけだ。
「えー、どうしたのこれ」
「マーリーさんが旅行行ってきたんだって」
「高かったんじゃないの?」
「いや、前にマーリーさんには貸しがあったからそのお礼だって」
クローン松坂牛のふりかけのパッケージには同じ顔の牛がずらずらずらずらずらずらと並んでいる。
「美味いよ。凄く美味い」と蔵くんはふりかけがかかった合成米をむしゃむしゃと食べる。
「ちょっと私も食べるからー」
と私も晩御飯にとりかかる。クローン松坂牛のふりかけなんて食べないわけがない。



その日、布団に入りながら蔵くんと話す。
「どっか行きたい場所ある?」
「旅行ってことで?」
「そう」
「あー、旧奈良かなー」
「旧奈良?もう焼け野原になってるんじゃないの?」
「昔の大仏がちょっとは残ってるらしいよ」
「嘘だー」
「いや、焼け野原掘ったら出てきたんだって」
「へー」
「どう?今週末、行く?」
「あー」
「興味ない?」
「そうだなー」
私は答えが出てこない。やっぱりあんまり旅行には興味がない。

 


でも、次の日には蔵くんは旧奈良の情報収集にやっきになっている。
「昔の書物も今漁ってて、"るるぶ"って文献も見つけたから」と昔の人々が旅行するときに使っていた文献も見つけてきて、そのホログラムを私のデバイスに転送してくるから、これはまじで行きたいってことじゃんって思って、旅行に行くことにする。

 

 

地下一階の入地下管理局で「明日の夜には帰ってきます」と言って、パスポートにハンコを押されて、そのまま防護服も借りてエレベーターに乗ったら地上。
ちらちらと灰が降り続けている中、地上には防護服をきた結構大勢の人があちらこちらに移動している。
「みんな旅行行くのかな」
「そうみたいだねー」
「旧奈良行きはどれだろう」
「あれみたいだよ」
と指差した先に人工筋肉でできた羽をばざばさしている飛行機があって、乗り込む。

旧奈良はただただ真っ平らな焼け野原だった。そこを私と蔵くんは歩く。蔵くんはデバイス上に"るるぶ"を表示して、旧奈良の街並みと今の焼け野原を比較しているみたいだ。
「本当になんもないねー」と蔵くんは楽しそうに笑ってる。確かにこれほどまでに何にもなかったらただただおかしい。
しかし、何にもない空間の先に、人ではない、何かが蠢いている。
近づいてみると、何かの動物を模したロボットのようだった。
「多分、これが鹿だね」
「鹿かー」
鹿ロボットはあんまり手入れされていないみたいだった。動きがぎこちない。
蔵くんは鹿ロボットの足に何かが詰まっているのを見つけて、それを取り外してあげる。
鹿ロボットは「じゃぼららろららら」と壊れた音声出力でお礼を言う。
すると鹿ロボットは私たちの周りを何周かした後に、悠々と歩き始める。何歩か歩いた後に私たちを見て「ぽまらなじゃむむむ」と言う。
「あー付いて来いって言ってるんだよ。多分」って蔵くんが言ったので私たちは鹿ロボットについて行く。

 


10分くらい歩くと、鹿ロボットがたくさん集まっている場所にたどり着く。
がちゃがちゃきぃきぃと音がし続ける。
「手入れしてあげたらいいのにね」と言うと
「旧奈良は人気がないからお金が回らないんだろうね」と最もなことを言う。
私たちを先導した鹿ロボットは「かむやわわわ」と叫んで、どこかへ一目散に行く。
「なんだろうね」
「あ!ここ、大仏の場所だって」とるるぶを参照していた蔵くんが叫ぶ。
しかし見渡す限りいるのは鹿ロボットだけだ。
「大仏いないね」
「やっぱ消失しちゃったかー」
と嘆いているとさっきの鹿ロボットが走って戻ってくる。
口には垂れ下がるなにかを持っている。
蔵くんがデバイスでスキャンすると大仏の小指のかけらだってことがわかって「鹿ロボットやるなー」と言ったら「ぎゃのぼぼ」と言ってくるくる回って鹿ロボットかわいいなと思う。

 


「ってわけで大仏の小指です」と旅行から帰ってきた私は職場でさとみさんに見せる。
さとみさんはひとしきり笑って「初めて見たわー」と言う。
「どうだった、旧奈良旅行」
「楽しかったですよー。あんまり旅行興味なかったですけども行ってみたら楽しいですね」
「旅行ってそういうもんだよねー」
「あ、写真撮ったんですよ。見ますか」
と言って私はさとみさんに写真を見せる。
何にもない背景に防護服を着た私と蔵くんと鹿ロボットが写ってる写真。
それを見てさとみさんはまた笑って、旧奈良行ってみようかなーと呟いた。

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そんな君もいないけど、最悪の人生を消したい

 前に通っていた心療内科に通わなくなったのは「ADHDですね」と診断された後、即座に「じゃあ薬出すので、飲んでください」と言われたからで、えーそんなすぐに治さないといけないものなんですかと疑問を持ったから「薬飲まないといけないですか?」って聞いたら「え、治療方針に文句あるんですか」みたいな顔をされて、それは被害妄想だったかもしれないけども、それで行かなくなってしまった。

 


 あのとき、貰った薬を見ながら路上で涙がぽろぽろ溢れてきたわけだけども、その理由をうまく言葉にできないままであった。
 一年後の今こたつでぼんやりしていたら、そのときの怒りがふつふつと湧いたので俺はポメラを取り出してだだだだと書き殴っている。
 要するに切れたのは「なんだよ、俺は社会的に治療しなきゃいけない存在なのかよ」ってことで、そこに腹がとにかくたってしまったのだった。
 まあ、その後の仕事でいろいろやらかしたことを考えれば、ちゃんと治療しておくことの方が大事だったのかもしれないけども・・・

 


 でもやっぱり「社会的に治療すべき存在」みたいに扱われたことはとてもショックで、ここから投薬に移るまでの過程をちゃんと埋めてほしかったのだ。
 「こういう理由なので、薬を飲みましょう」とか嘘でもいいから「社会的に治療するってことじゃなくて、これはあなたが生きやすくするためのやつですよ」みたいなことを、かりそめのやさしさでもいってほしかった。心に毛布をかけてほしかったのですよ。おら!薬飲めや!!ってやるんじゃなくて。

 


 先日、メンタルクリニックで心理のテストを受けた。どうなんだろう。「意外とできた」みたいな話もあれば、なんかもにゃもにゃ言われたところもあったので、どうなんだろうって。まだ結果待ちです。
 今、僕は自分のことを知ろうとしている。
 くそマジ無理限界って自分のことを思いすぎて自己肯定感も無く生きてきたから、こうなっちゃったので、何が向いてるとか、そもそも向いているものが無くても生きていけるみたいなことにしたいわけです。
 というか、そもそも、そう言ってるレベルじゃなくて、休職中なので、社会に出れなくなっているわけですから、再び食べれるようになるにはどうしましょうってことです。
 「嫌なことがあるけども我慢しましょうー」で三年行くと無理になるってことに気がついたので、ここからの40年をどうするかですよ。まじで。

 


 今日、渋谷に行った。
 って書くと「うわ、ラブ&ポップぺえ!90年代っぺえ!」ってなっちゃうな。大阪で生まれた男やさかいな。
 まあ、所用で渋谷に行ったんですけども、人多すぎて汗止まらなくなって、吐き気も止まんないし、サラリーマンは「おめえじゃあ話にならねえんだよぉお!!」って駅員に叫んでるし、その近くではカップルが濃厚なキスをしているしで、もう何だよ地獄の釜開いてんじゃん!ってなって、疲れ果ててしまった。

 


 そんで逃げ込んだ昔ながらの喫茶店でずっと舞城王太郎の「ビッチマグネット」を読んでいた。今日は家にあったこの本を手に外に出た。今日は渋谷に出る前から一日めちゃくちゃLOWなテンションであったので「面白いだけの本は今日きっついな、あと麻薬カルテルルポもきっついな」ってことで本を積み上げている俺の家の本の針葉樹林を見たら、この本がぴっかーって光っていたので抜き取ってきたら大正解。
 去年、心身症になったときもこの本をひたすらに読んでいた時があって、片耳が急性難聴になって、耳鼻科で待っていた不安な時もこの本を読んでいた。
 あのときはそしてぼろぼろと泣いたのだった。

 「ときどき悲しくて、ときどき悲しくない」


 これは主人公がカウンセリングを受けて、鬱のテストの回答をめちゃくちゃに答えるシーンのところで出てくる文章。
 「ときどき悲しくて、ときどき悲しくない」なんて、本当なんてことない文章なんだけども、これを見てぼろぼろ涙が出た。
 僕はときどき悲しくて、ときどき悲しくない。
 ずっとそんな気持ちだったのだ。

 


 一年ぶりに開いた本でもそのページにさしかかった。僕はやっぱりときどき悲しくてときどき悲しくないままだった。
 でもそれ以上に、カウンセリングで支離滅裂になる主人公の姿が、他人事に見えなかった。
 自分を矮小化されたくない。自分でこれってそういうことか?と考えて、じゃあこれが原因かって思ってしまうのが嫌で、というか過去のことや、家族のことを引きずっているってのを今のおかしくなっている理由になるのが嫌な感じというのが、自分の状態のような気がした。

 


 この前に二回目のカウンセリングがあった。
 そこでも僕はまたどうしようもなくなっていた。支離滅裂になって、カウンセラーの顔も見ずに、ずっとテーブルの木目ばっかりみて、突然しゃべっている途中で激高したりして。
 「いじられるのが嫌なんです」
 「それ、前も言ってましたね。本当に嫌なんですね」
 「そうなんですかね」
 「人って本当に思っていることって二回以上言うんですよ」
 あー、僕はいじられるのが嫌なのかーと27歳になって気がついた。
 でも、それ以外の処世術を知らないから「どうしたいいんですか?」って聞いたら「嫌なら嫌って言うんですよ」って言われて「やり方、わからないです」って答えたら「練習しましょう」ってなった。

 例:1.カウンセラー、僕をいじる
   2. 僕、嫌だと伝える
   3. カウンセラー、その反応を返す。

 で、やってみた。
 僕は「あーそれ、言われるのほんまは嫌で」って言った瞬間に、心の重しがなんか軽くなった気がして、それで涙がぼろぼろ出てきて、えーこんなに簡単に嫌って言うだけで楽になるもんなんですかーって拍子抜けしながら、涙をぬぐった。
 「こんな簡単に変わるものなんですか」
 「これが、認知行動療法です!」ってカウンセラーは楽しそうに言ってたのであーいいなーって思ったのだった。

 


 その後に見た夢の中に父親が出てきた。
 父親は僕のことをまた正論と称してめちゃくちゃに言ってきた。
 僕は夢の中で、必死に言葉を選びながら反論した。
 夢の中でなら、なんとか言えた。
 言えたのだった。

 


 明日、また実家に帰る。しばらく帰る。
 その間、この治療を生かすことができたらいいなと思う。
 もう変わりたい。本当に変わりたい。
 ザ・ピーズの実験4号に出てくる「君と最悪な人生を消したい」って歌詞、そんな君はいないけども、俺も最悪な人生は消したい。
 どうせ辛いんだったら、ちょっとでもコントロールとれる辛さの方がいい。
 最悪な人生を消したい。

 


 高校の時は「こんな人生いつまで続くんやろう」って思ってたし、大学の時も「こんな人生いつまで続くんやろう」って思ってたし、社会人の時も「こんな人生いつまで続くんやろう」って思った。
 少しくらい、ましになったなってそろそろ思ってもいい頃だと思う。

 


 何かを成し遂げたいわけでも、大きなことをやりたいわけでもない。ただただ馬鹿にされずに生きていたいだけ
 他人のストレスのはけ口になりたくないだけ。
 他人のマウントポジションの相手になりたくないだけ。
 他人が安心する材料に僕を利用してほしくないだけ。
 そんな普通の願いが一生かなわない気がする。ずっと人生のコントロールを誰かに握られている感じ。
 それを少しでも自分のものにするために、こんな場末で長文をまずは書いている。
 少しでも、こんなことでも、最悪の人生を消していきたいのです。

 

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