突如、山に隕石が墜落!しかしその隕石は見つからない!もしかして地球外生命体なのか!徐々に高まる緊張感!覆い尽くす不安感!でも高校生の主人公は後ろの席の女の子のことが気になって気になって仕方なかった!!!!!
というような小説です。
思春期って時期はとにかく考えすぎる。とにかく考えすぎてしまう。これが片思いとなると、もうブレーキなんて効かない。
相手の一挙一動、相手との距離感、メールの文面、全てが全て気になって仕方ない。
とにかく相手の子と、僕との関係性が全てで、それこそが世界の全て。しかし世界の方が壊れ始めたらどうしよう。
それも自分のあずかり知らぬところで壊れ始めたらどうしよう。
その上、同級生はかっこいいところを見せ始めるし、どうしよう!
この考えすぎる主人公の姿に僕は何度も「うわー」と叫びだしたい気分になった。考えすぎといっても彼は「やれやれ」系と言われるような精神的に高みに立つわけではない。(すぐあいつはだめだと考えたりするけども)だから余計にもう!となってしまう。ほんとうに考えすぎちゃうのだよ!徹底してもうとにかく考えすぎる!
久保田葉子という後ろの席の女の子のことが気になっているのに、最初は恋に落ちるのは非精神的だなんだの言って、全く僕は気にしてませんよ~みたいな顔もする。でも、そんなことを考えている時点で、恋に落ちてるんだって!気がつけよ!と思うけども、そんな私の気持ちは知らずに考え続ける。
そして世界の崩壊も徐々に徐々に進行する。ゆっくりゆっくりと進行する。それでも主人公は女の子のことが気になって仕方ない。同級生の行動が気になって仕方ない。自分と女の子の距離が気になって仕方ない。僕の方が久保田と距離をつめたと勝手に思い込んだりしている。
おい、それは一人相撲ってやつだ!って思うけども、思春期で考えすぎる主人公は気がついていない。
気がつかないうちに、ある日、世界は決定的に崩壊してしまう。
後半、世界が崩壊してからの100ページ超は、もうめくる手が止められない。なにせ、触手をしゃーっとやる宇宙人VS高校生だ。
高校生なので、なんの力もない。宇宙人を倒す能力なんてない。
右往左往するのみだ。
そんな時でも、主人公は久保田さんのことが気になっている。
そんなときでも、気になっている。
もうそんなときじゃ無いよ!って思うけども、気になってしまう!
だって思春期だから!そんな時期だもの!
でもそんなときに決定的なことに、主人公は気がついてしまう。
僕は主役になれないってことに。
タイタニック号だったら二等客室の人間だと。
一等客室でも、三等客室でもない、二等客室。
B級映画だとすぐに殺されてしまうその他、大勢の人物だと。
そのときに、あ、これは私のための小説だと感じた。
ずっとずっと思っていたけども、ついに思った
だって、私は主役になれない。
迫り来る宇宙人を撃退することができない。
好きな子を振り向かすこともできない。
ずっとずっと考え続けているだけだ。
そして同じ思いをする人がこの世界には沢山いるだろう。
そんな人に向けて書かれた小説だ。
作者の佐藤哲哉さんは不勉強ながらこの小説で知ったのですが、こんだけ刺すような若々しい小説を書いてらっしゃるので、めっちゃ若い作家さんかと思ってたら現在57歳と知って驚いた。
もうなんで、思春期の頃の思考回路を描けるんだろう。覚えているんだろう。
私がすっかりわすれかけていたあの混乱と自己弁護に満ちた思春期の頃の思考をこの小説で思い出してしまった。
思春期の頃、混乱し続けていたって人に渡してあげたい。
そして一緒に、そうだったよな!そうだったよなあ!!って言いたい。
この不穏と思考に満ちた小説で、一瞬、ほんの一瞬だけ、自己弁護も混乱もなく、その場をありのままに描く瞬間がある。
久保田さんと一緒に歩いて、一緒に昼ご飯を食べるシーンだ。
本当に他愛もない会話、そして何かがあるってわけじゃないけども、でも、このシーンの特別感はなんだろう。
好きな子とご飯を一緒に食べるってことの特別感をこんな風に描かれたら、私はもうノックアウト。
私、忘れてたなあ。こういう感情忘れていたなあ。
ロロの三浦さんが好きだってのも納得。ここはロロです。端的に言えばロロのいつ高です。
なのでいつ高好きにもぜひ読んで頂きたい一冊です。
西村ツチカさんの挿絵も素晴らしい。(そういえばロロのいつ高のビジュアル担当は西村ツチカさんだ!!)
もう素晴らしい以外に何も言えないタイプの挿絵。
久保田さんがまあかわいいんだ。線がすくないのにかわいいんだ。 そしてはっとする瞬間に差し込まれるビジュアルの良さったら。 この小説の良さを相当ぶち上げてると思うの。
映画で言えばスピルバーグ版『宇宙戦争』のような雰囲気がありますので、あの映画が好きな人もぜひ。あとは『クローバーフィールド』とか。要するに全貌がわかんない系が好きな人にはたまんないものがあります。
この小説は私が書きたかったと何度も何度も思った。
だって宇宙戦争を高校でやるってアイデアに、その上笑えて、心にぶっ刺さって、心底はらはらして、とにかく超フレッシュでって、嫉妬するしかないじゃないか!
あーもう、超面白い青春SF小説でした。
本当大好き!!