にゃんこのいけにえ

両目洞窟人間さんが色々と書き殴ってるブログです。

エモめの写真を見てほしい 天王寺編

 27歳になればいろいろなことがわかると思っていたけども、実際のところはクイズマジックアカデミーで芸能だと満点がとれるだけの人間になっていた。
 それ以外は全くわからぬ。
 もう全然わからぬ。
 政治とか全然わからぬ。
 邪知暴虐かすらわからぬ。
 邪知暴虐って漢字を書くことはできぬ。
 漢字がわからぬ。
 全然覚えられぬ。
 生きていくのが不安になるくらい漢字が弱くて困ってぬ。


 というわけで、全然わかってないんだけどもお彼岸という時期らしくて、27歳男性は母と共に四天王寺と一心寺に行った。
 お彼岸の由来も母に聞いて「へ~」とか言ったんだけども、この時点ではもう既に忘れている。
 なぜ人は忘れてしまうのか。
 大事なことがするすると抜けてしまうのか。
 忘れないために、人間が産み出したものとはなにか。
 そう写真。
 写真で瞬間を切り取って、届け未来へ。
 というわけで撮ったエモめの写真を見て欲しい。

 

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 ちなみにこの日に歩きすぎて翌日は疲れ果てて寝込んでしまいました。27歳男性は未だ闘病中です。
 

舞城王太郎『ディスコ探偵水曜日』を読んだ!

 舞城王太郎ディスコ探偵水曜日
 ついに読み切った。1000ページ越えの大作をついに読み切った。
 買ってから「9年」もの本棚で「読んで・・・」と訴えていたかの本をやっと読むことができた。いや、1000ページ越えっすよ。なんどかチャレンジしたのですが、そのたびに挫折していたのですが、今回はなぜかするすると読むことができた。
 多分、今回がそういう時だったんだと思う。
 というわけで、早速だけども、本は読まなきゃいけない時があって、そんなときはするすると読めてしまうものなのではないのかという仮説を立てておく。

 そんな俺のトンデモ理論はどうでもよくて『ディスコ探偵水曜日』だ。変なタイトル。ディスコで探偵で水曜日だ。
 今とここを組み合わせた言葉がどこでも無い場所という意味になる国に生まれた俺はディスコ探偵水曜日。なんてドライブ感ある文章から始まるこの物語は、そのドライブ感そのままに最後までつっきっていく。1000ページを走りきる。
 とても奇妙な物語だ。こんな奇妙な物語は読んだことがない。
 何しろ、物語の始まりが6歳の女の子の身体に17歳のその子がはいってしゅるるるるると大きくなるところからスタートするのだ。
 なぜそんなことが起きているのか?が物語のスタートだ。
 それから物語はドライブする。
 物語は一気に場所を変えて、ある密室殺人事件に移る。
 その密室殺人事件を解決しようと探偵達の推理合戦がどんどん行われる。
 ここで俺は前回挫折した。だから読もうとしている人、ここは辛い。でも、読み進めろ。全てはつながる。その解決編だという顔をしているそのページは、実のところは「伏線」だ。
 いや、伏線というのも変だけども、全てはつながっていく。
 全ては意味がある。
 単行本で言うところの下巻では一気にハードSFになる。
 全てがつながっていく。
 あの密室殺人事件がなにがなにやら世界の中心へと形を変えていき、壮大な未来VS俺になるのだ。
 もうわけがわかんねえついていけねえってなってはだめだ。とにかく読み進めろ。
 踊り続けるように読み進めろ。リズムは聞こえているはずだ。
 その言葉のリズムを常に耳をすませろ。目を動かせ。読み続けろ。 そうしているうちにこの物語が1000ページものかけて描きたかったことがわかる。
 これは希望の物語だ。
 この世界はどうしようもなくくそで、そしてどうしようもない悪もいる。
 それでも、希望は捨ててはいけなくて、そして愛というのは誰かに注がれるべきだということがわかる。
 己の中にある愛と希望と勇気の物語。
 アンパンマンだ。
 しかしそのアンパンマン的な帰結が胸を熱くするのはそこまでの旅路を知っているからだ。
 この本を読んだ後は「自分の気持ち」というものですら、命があることに気がつく。
 全ては踊り狂っている。
 だから、愛は誰かに注がれなきゃいけないし、悪には勇気を振り絞って立ち向かわなきゃいけないし、そして希望は捨ててはいけないのだ。
 「私は光の道を歩まねばならない」というのは、舞城王太郎の『淵の王』の印象的な台詞だ。
 この作品もまさしく「光の道」を歩むことを決意した者達の物語だったことがわかる。
 舞城王太郎が書く物語が好きなのは本気で愛と勇気と希望と物語を信じている人の書く物語だからだ。
 本気で信じている。
 言葉を、愛を、勇気を、希望を、物語を。
 本気で信じている。
 だから、俺は読み終わったあと勇気がもらえる。
 その勇気によって俺を、そして他者を、そしてなにより世界を揺らすことができれば、舞城王太郎の意のままってやつだろう。
 でもいい、踊らないよりは、怖がってステップを踏まないよりは。
 どんなステップでも踏むべきなのだ。
 そこで音楽がなって、リズムが生まれたならば。
 1000ページを踊るように読ませる、前代未聞の奇書。
 踊るように読んで、踊るように生きろ。
 まるで複雑な打ち込みによるハイテンポな楽曲のように思えるけども、そこにはリズムがある。一歩だけでも踏み出せばOK、余裕。後は踊り続けるから。
 そして最後に胸に残るその暖かさを持って、フロアを後にしよう。

 舞城王太郎、渾身の一作。踊り続けるには体力がいるけども、大変面白い作品でした。おすすめ。

 

 

ディスコ探偵水曜日〈上〉 (新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日〈上〉 (新潮文庫)

 
ディスコ探偵水曜日〈中〉 (新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日〈中〉 (新潮文庫)

 
ディスコ探偵水曜日〈下〉 (新潮文庫)

ディスコ探偵水曜日〈下〉 (新潮文庫)

 

 

 

連載小説『シュガーカヴァードリアリティ』 第4話

連載小説『シュガーカヴァードリアリティ』

第4話

 

 6.困惑の再生

 私は案の定、ずっと混乱している。
 目の奥はずっとずっと痛いままだ。でも、それでも、目隠しした女は話を続ける。
 「あの子を見つけるためには、このビデオを見て貰う必要があるの」と、ぐちゃぐちゃの文字が書かれたラベルが張られたVHSテープを渡しに渡す。その文字は読めないし、理解ができない。
 「あそこにテレビがあるわ」
 と指さした先に、さっきまでなかったはずのテレビとビデオ再生機がある。目が痛くなる。それでも、再生すべきなんだろう。ビデオテープなんて再生するのいつぶりなんだろうか。
 私はとにかく、ビデオを挿入する。がちゃうぃーん。
 再生。
 トラッキングノイズ。
 画面がゆがんで、ワンルームが映る。
 ワンルームの部屋では相撲の力士がオルゴールを回していた。
 ねじをぎりぎりぎりと回して、音が流れ出す。
 オルゴールは数音を小さな鉄の音をならした後に、テノールボイスで叫び始めた。
 世界3大テノール歌手のようなテノールボイス。
 その音に、力士は「うおおおうおおおうおおお」と頭を押さえ悶え苦しみのたうちまわる。
 そして、次の瞬間、ばこーんと力士の土手っ腹が爆発した。
 飛び散る肉片。
 まき散らされる大量の血液と内蔵。
 次のカットではちぎれた下半身に向かって、まだ生きていた力士が「どすこい!どすこい!」と渇を入れている。張り手でどすこいどすこーい。
 そこに白地で「ストップ!力士爆発!!」とテロップが出て、どうやらこれが公共広告だったことがわかる。
 なんだ力士爆発って。と思っているうちにこのCMが終わって、次は朽ち果てたコンビニエンスストアが映る。
 コンビニには絶えず人が出入りするけども、人の顔には全てブロックノイズが被さっているので、認識はできない。そもそも朽ち果てたコンビニにここまで人が入るってなんだろう?
 そのコンビニエンスストアの正面にはちぎれた腕が六つほどロープで釣り下げられていて、風に煽られてゆらゆら揺れている。
 右から二本目のちぎれた腕の指が徐々に伸びていく。徐々に徐々に。アハ体験の映像みたいだなと思っていると「頭、いかれていませんか?」とテロップが入った。
 「指が伸びてきたら、ロボトミー手術」とテロップが出て、これまた公共広告だったんだなってことがわかる。
 映像が切り替わると、下あごを小銭入れにしている老婆が、原付に乗った力士に下あごをひったくられる映像になった。
 下あごを取られた老婆が力士に向かって叫ぶ。
 下あごがないから言葉にはならない。すると、力士が爆発した。
 「ストップ!力士爆発!!」とテロップ。
 「ごめんなさい。そのテープ、CMカットしていなくて」と目隠しした女が私に話しかける。
 「あ、CMだったんですね」「そう。本当に見て貰いたいのは、この後だから」
 「このCMって何?」
 「念写をすると必ず映るの」
 「念写?」
 「そう、私の力」
 「カットできないんだ」
 「そう、絶対に入る。彼らの力が強いから」って目隠しした女は答える。「そろそろだから」と言うと、切り替わった映像にはペンギンたちがぞろぞろ蠢いているのが見える。
 ペンギンたちは一斉にバイクにのり、あちこちへ散らばっていく。そのうちの一台の後ろをはりつくような映像。
 その張り付かれたバイクはしばらく走った後に巨大な耳の形をしたトンネルに入っていく。
 「耳のトンネル」と目隠しした女が言った。
 「そこに行くの。あなたは今から」
 「耳のトンネル?」
 「そう、耳のトンネルにあなたは今から行く。行かなきゃいけない」

 

7.飽食の唸り

 耳のトンネルとやらに私は向かわねばならないらしい。
 といったものの、なぜこんなことが?や、なぜわたしが?や、この女はなにもの?といった疑問が渦巻いている。
 このピンクい照明で照らされた部屋で、謎めいたビデオテープを見たぺたんと座った私に、目隠しした女は身体を、そして顔をずずずずっと近づいてくる。
 目隠ししているのに、確実に私に顔を寄せる。
 「もうすぐ、団地は止まる。止まったらすぐにこの部屋を出て、B棟の503号室に向かって」
 「あ、はい」
 「そこが出口だから」
 と目隠しした女はささやく。だからそれに従う。
 今は従う他ない。私は頭の中に疑問が渦巻いている。
 でも、その疑問を追いかけていたら、疑問を追いかけるだけで終わってしまうだろう。
 だから、疑問を追いかけない。
 とにかくやるべきはあの女の子を救い出す。それだけだ。
 だから、私は全ての疑問を遠くへやる。
 そのとき、ビデオテープが再び動き始める。
 トラッキングノイズの後、流れ始めるのは昔見たあの戦隊物の1シーンだ。
 雨の中、赤色のヒーローが叫ぶあのシーンがノイズ混じりで流れる。
 「俺は、俺の正義を信じるぜ」
 と叫ぶ。
 「あなたの心の支柱でしょ?」と目隠しした女はささやく。
 「はい。」私は正義の人になりたかった
 「なれる。なれるから」目隠しした女は私の心を読んだようにささやく。女のその声はビデオテープに収録された雨音にかき消されそうだった。
 念写が出来るくらいなら、心を読むことも余裕なのかもしれない。OK、余裕。ってやつなのかもしれない。
 テープは巻き戻される。トラッキングノイズ。
 「俺は、俺の正義を信じるぜ」
 私は私の正義を信じる。
 女が私の手にパンプスを渡す。それは私のパンプスで、散々ペンギンの頭を殴ったあのパンプス。
 「これが、必要でしょ」
 と語りかけるので、私はうなずく。
 そのとき、部屋全体が揺れる。「団地が止まった。急いで」
 とぷしゅーと油圧が抜ける音がして、白い煙を吐き出して、壁の一部分が四角に開く。
 「ここを抜けて、さあ」
 と、目隠しした女は私の身体をその四角に押し込む。わっわっわっちょっとちょっとと思っているうちに、私の身体は押し込まれて。ぷしゅーと音が再び聞こえた時には、団地の廊下に立っている。

 団地の廊下だとわかったのは、延々と続くドアの群れが見えるからで、それは私の記憶を揺さぶる風景。
 団地に住んでいた私は過去にこの風景を見た。団地の廊下で鬼ごっこをしたことを思い出すが、今はそれには関係ない。とにかく急ぐほかはない。
 団地の廊下には窓がない。外に抜ける空間もない。閉鎖された空間。廊下の天井は蛍光灯が、定期的に並んでいて、それ以外はパイプが敷き詰められている。パイプはどれも脈打っていて、鼓動の音が聞こえた。
 ここはA棟の405の前。名前は読めない。私たちの知っている言葉では書かれていない。だから、読み飛ばす。関係ない。
 歩く。歩く。歩く。
 私はとにかく歩く。B棟の503号室に向かわないといけない。でも、A棟からB棟へどうやっていくかなんてわからない。とにかく出口を探さなきゃいけない。
 「げるぐぐうぐ。げるぐぐうぐ」と声が聞こえる。うなり声。
 私はこの声の正体をしらない。
 遠くからうなり声が聞こえる。
 その声のする方に近づく。近づいてはいけない気がするが近づく。 声は低く、そして空気を震わしている。
 ぴりりり、ぴりりりと空気が震えて、私の腕のそのたびにちりちりと痛む。
 そっと、近づいた先に、階段の踊り場があって、その踊り場にはクマの着ぐるみがしゃがんでいる。クマの着ぐるみだと気がついたのは茶色の背中にファスナーが見えたからと、首と背中の隙間に熊ではない肌色の皮膚が見えたからだ。
 しゃがんでいるクマの着ぐるみは「げうるううるう。ぐげるるるるう」と唸りながら、ぺんぎんをむさぼり食っていた。
 「やめうぺん・・・いたいぺん・・・」とペンギンは悲鳴をあげていた。 私がしばき回したあのペンギンではなかった。でも、多分仲間の1羽だろう。1羽?ペンギンの数え方は1羽でよかったよな。と思っていると、ごとりという音が聞こえて、ペンギンの1つの身体が二つに分裂している。踊り場にびちゃたたたと血しぶきが飛び散る。
 クマの着ぐるみはペンギンの身体をむさぼり食べていた。
 私はクマの着ぐるみに気がつかれないように、そっと移動した。
 踊り場がここにあるということは、どこか別の場所にも、階段があるはずだ。それだけを信じて移動を開始する。
 「げるぐうぐ。げるぐうぐ」
 背後からうなり声が聞こえる。まだまだ聞こえる。
 あのクマの着ぐるみは私を見つけたら、私を食べるだろうか。
 多分、食べられるんだろうな。
 だから、見つかってはいけないと強く思う。怖いけども、それほど怖くないと思ってしまっているのは、麻痺しているからか、それとも正義の人であると私が私をごまかしているからか。
 どうもわからない。
 この空間に来てからというものの、思考がうまくまとまらない。
 異常なことが連続すると、人の思考は温度が低下するようだった。 起こっている出来事に対して、妙に冷静な視点になってしまう。
 本当はもっと怖がるべきだったのだろうか。
 あのクマを見つけた時も、あの部屋に行ったときも、あのピエロを見つけたときも、あのペンギンをしばいていたときも、なんなら、あの路地裏に入ったときも。
 そういえば、首筋の嫌な感じはいつの間にかとれてしまった。
 多分だけども、異常が連続するとそれは日常になってしまうのかもしれない。そう思うと、私は意外と順応性が高いのかもしれない。
 そんなことをおもっているうちに、別の踊り場を見つけて、そこにはクマの着ぐるみも、ペンギンの姿もいない。うなり声も勿論聞こえない。
 だから降り進む。とんとんとんとん。
 降り進んでいくと、1階の共用スペースに出る。
 そこには膨大な数のポストがあって「へー、この世界にも郵便というものがあるのか」と思う。裏側の世界だろうと意外とインフラは整備されているのかもしれない。インフラが世界を作るならば、裏側の世界だろうと同じなのだろう。
 そして、共用部の出口から外へ出る。今のところ、あのクマ以外には誰にも出会って無くて、それはそれで不気味だ。
 外へ出ると、夕焼けが差し込む。
 団地に食べられてしまったのに、夕焼けが見えるというのは、何がなんだかわからないけども、紫色の夕焼けが私の視界に飛び込む。その夕焼けが目に入った瞬間、ぶわわわわわわわと言う音と、視界が昔の3D映画のように赤と青になる。
 あの夕焼けは直視したら、だめだ。脳がいかれてしまう。
 ぶっわわわわわわと言う音が頭に響く中、目が完全に痛くなる。
 わけがわからなくて、痛くなる。もう嫌だ。こんな場所。
 すると、とことことこ~と目の前を歩いて行くペンギンの後ろ姿が見える。
 あ、ペンギンだ。
 私は、走る。
 あのペンギンから話を聞こう。
 情報こそが全てだ。
 私はそのペンギンに向かって走っていって、ペンギンの後頭部にドロップキックをかました。f:id:gachahori:20180323103330j:image

連載小説『シュガーカヴァードリアリティ』第3話

連載小説『シュガーカヴァードリアリティ』

第3話

 

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4.消化の吐露

 あなたは食道を歩いたことはあるだろうか?私はある。というか今歩いている。
 巨大な団地に食べられてしまった私は、巨大な団地の食道を歩いている。目の奥が痛い。ずっとずっと痛い。
 団地に食べられた私はしばらくのブラックアウトの後に食道に立っていた。
 食道と言っても、内蔵的な場所ではなかった。
 むしろ路地裏と言った方が通りは早い。
 団地の食道の上部はパイプがぎっしり張り巡らされている。
 等間隔に蛍光灯が配置されていて、白い光を放っている。
 地面は、湿っぽい。所々、ゴミが散乱している。そしてたまに、壊れた家具や家電に混じって、損壊した遺体も散乱している。
 ここが、食道だということを知ったのも、そんな損壊した者が教えてくれた。彼はまだ死んでいなかった。
 でも、半分以上溶けていた。
 ブラックアウトから戻った私が数歩先に、下半身が溶けたピエロがへたり込んでいた。
 というより、下半身が溶けているからへたり込むしかなかった。
 ピエロの右手にはいくつかの色とりどりの風船が握られていた。でも、徐々に力がなくなっているようで、右手から離れた風船が、食道の天井のパイプを覆っていた。赤、青、黄色。割れた風船がただのゴムになって床に散らばっている。
 私がそのピエロの姿を見たとき、目の奥がまた痛くなり、吐き気を催した。えづく。
 そのえづき音で半分溶けたピエロは私の姿に気がつく。
 「悪い冗談だよ。これは何かの悪い冗談なんだ」とピエロは言った。
 「大丈夫ですか?」大丈夫じゃないことはわかっていたけども、そういうしかなかった。こんな時にかける言葉を私はもっていなかった。
 「まあね。身体が半分溶けても、12時間も生きてる」
 「そうですか」
 「そうだよ。意外と生きながらえるもんさ。でも、もう死んでしまうだろう。12時間もあったから、いろいろとこの人生について考えてた。悪い冗談だと思った。何にもいいことがなかった。終いにはこのわけわかんない生物の食道の中で、溶けていってるんだ。冗談にしてはエッジが効き過ぎている。こんな冗談じゃ、観客は付いてこない」
 「え、食道?」
 「知らなかったのかい?ここは食道だよ。この生物の。というより団地の
 このパイプで埋め尽くされた空間が食道とは考えられない。そして何より、そのピエロの溶けた身体が矛盾している。
 「え、でも食道って消化器官じゃないんじゃないですか」
 「この看板を読みな」
 と半分溶けたピエロが指さした先に茶色く色あせたホーロー看板が置いてある。丸めがねをかけた男が「ここ、食道。逆流性食道炎につき、胃液に注意」と叫んでいる。
 「あーなるほど」と私は言う。
 ということはこのピエロは胃液を被ってしまったということなのか。
 「うたた寝してたらこれさ。あっという間だったよ。君も身体半分溶ける機会があれば、試してみればいい。ゆっくり溶けていくんだ。ずっと痛くて、ずっと死が隣にある気配がするんだ。一瞬でも気を抜いたら死んでしまう感覚はやみつきになるよ。寝落ちは君もあるだろう。あれが死に変わるんだ。こんなに生きてるって感覚初めてだ」
 ピエロが楽しそうに語気を上げると、ピエロの右手から風船がまた飛んでいく。今度は紫色の色の風船。天井の風船で虹が生まれている。私は感覚が少しだけ麻痺していったのか、半分溶けたピエロと話しているうちに、吐き気は催すことは減っていく。
 でも、虹色になっている風船を見て突如として吐き気がこみ上げてきて、私はついに吐いてしまった。
 「ここで吐くんじゃ無いよ。吐瀉物を見ながら死ぬのは嫌だよ」
 「ごめんなさい。もう耐えれなくなってしまって」
 「というと、やっぱり外の人なんだね。」
 「ええ」
 「じゃあ、早く出るといいよ。なんとか出るんだ。食道って言ってるくらいだから、どこかに通じてるはずだろうし」
 そう言って、ピエロは食道の先を指さす。深い深い深い闇と、等間隔に立ち並ぶ蛍光灯の光がぽつぽつ見える。
 「出口は必ずあるはずさ。もう僕はここで死ぬけどね。君は行くといいよ」
 「ありがとうございます」
 「あ、これをあげるよ」と言ってピエロは水色の風船を私に渡す。風船の表面に蛍光灯の照り返し。
 「最後のピエロらしいことだ。」

 

 食道を歩く。ひたひたと歩く。私は歩く。
 正義の人に私はなりたかった。あの日、夢見たような。あの日のテレビで見たような。
 蛍光灯を辿って歩く。ほのぐらい闇の中を歩く。
 ピンクのネオン管の光が射してきたのは、そこから15分ほどあるいた先だった。
 ネオン管はBarという形に折り曲げられている。
 そのネオン管の下には小さな扉がある。まるで茶室に入るような小さな扉だ。
 私は入ろうかどうか悩む。久しぶりに見た扉だ。入ってみたい気もする。そのとき、食道の奥からごごごごごごごごと地響きが聞こえて、私の足に鼻を刺激する匂いがする液体が流れてくる。
 胃液だ。
 逆流性胃炎。
 とすると、あの地響きは。
 胃液の洪水に巻き込まれる前に、私はバーに飛び込む。
 バーに飛び込んだことなんて、初めてだった。

 

 

5.叫びの反射

 飛び込んだ私はバーの床に倒れ込む。
 バーの床はこぼれた酒のせいで、ぬちゃぬちゃしていて気持ちが悪い。カシスオレンジの匂いがした。
 天井にはミラーボールが回っている。ミラーボールは回転しながらずっと「殺してくれ、殺してくれ」と叫んでいる。
 よく見ると、ミラーの一枚一枚が大きく開かれた口になっていて、そこから叫びが聞こえる。歯が光る。おあああああああ。と唸る。
 バーには人がいない。誰もいない。
 昭和歌謡が流れているような気がして、耳を傾けるが、歌詞は日本語ではない。
 「ぐんぐりゅ、ぐんぎゅる、だぱづと、すちゅるぬ」という歌詞が情感たっぷりに歌われている。
 ここは私の知っている場所なんかじゃない。バーなんて入ったこと無いけども、それだけは強くわかった。
 「すいません誰かいませんか?」私は叫ぶ。目が痛い。
 返事は無くて、ミラーボールの叫びだけが聞こえる。
 バーのさらに奥に赤い布が牛脂のようにぶよぶよ付いた扉が見える。誰もいないバーに見切りをつけて、私はそこに向かう。
 扉は重たい。押し込むとぐっむと音がして外の空気が流れ込む。冷たい。そのまま、扉を押して開くと光で目が一度潰れる。
 出口?
 そのうちに目が慣れてくると、私は外が見える廊下にいるのがわかる。そして手すりから向こうの目の前の景色が高速で流れていく。
 がしゅがしゅがしゅがしゅと機関車が10台ほど併走して走っているような轟音。流れていく風景。山肌。山肌。
 出口だと思ったけども、出ることができない。
 どうやら亀の形をした団地はどこかに高速で向かっている。
 私は乗客だ。途中下車はできない。
 コートから、目薬を取り出す。目薬を注す。
 しぱしぱと瞬きを繰り返して、目をぎゅっとつむる。
 目を開ける。
 流れる景色の山肌が途切れる。
 遠くの遠くの遠くに観覧車が見える。
 観覧車は小さいのが4つ、大きいのが1つ、馬鹿でかいのが1つあった。

 途中下車することもできず、どうすることもできない私はもう一度バーの中に戻る。昭和歌謡が流れているが、歌詞は相変わらずどこの言葉がわからない。
 時折、日本語のようなものが聞こえるが、「脳みそ、とけた。たまらず溶けた」と聞こえるので、私は無視をする。
 ミラーボールも殺してくれ、殺してくれと叫んでいる。
 そもそも、私はなんでこんな場所にいるんだ?本当はあの路地裏に入った瞬間に死んでしまったんじゃないだろうか。これはもう本当は死後の世界で。それも地獄で、私は今現世で起こした罪の精算をしているのだ。
 現世の罪を数える。
 教習所で別の教習車にぶつかってしまったことが一番大きい罪な気がする。
 そんな私でも地獄行きなのだろうか。しかしキリストは生きてるだけで罪です・・・とか言っていた気がするし、いやキリスト勝手なこと言ってんじゃねえよ。なんだよ生きてるだけで罪って、メンヘラサブカル女かよ、生きてることに対して意味を持とうとして変な方向にこじらせるんじゃないよ。
 しかし、別の教習車にぶつけたことも罪だとしたら、私は今地獄にいて、この変なバーで、変な歌謡曲と、苦しむミラーボールのあえぎを聞かなきゃいけないんだ。
 それが途端にたまらなく悲しくなって、泣きそうになる。
 私が何をしたっていうのだろうか。
 泣きそうから、泣きにクラスチェンジして涙がぽろぽろぽろぽろ。
 もしかしてあのペンギンも本当は天使とかそういう類いのもので、私の最後の行いを見ていたのではないだろうか。
 じゃあピンヒールでしばきまわした私は間違いなく地獄行きだ。さよなら家族のみんな。私は地獄に行きました。
 地獄は思っていたような世界よりもしんどいです。
 本当むりです。
 するとどこかからピアノのメロディが聞こえてきた。
 あのピンクのネオンの部屋で聞いたのと同じメロディ。「ここは池なのでフナはつれない」と連呼していたレコードの回転数を変えると聞こえてきたあのメロディ。
 私はそのメロディがどこから流れているかを探す。ミラーボールの叫びが邪魔でどこから流れているかよくわからない。
 でも、探す。それが何かにつながる気がしているから。
 床。
 床からどうやら、音が聞こえているらしい。
 床の一部分取っ手のようになっていることに気がつく。
 私はその取っ手、多分に漏れずこぼれた酒でぬちゃぬちゃしている、その取っ手を掴んで引き上げる。
 するとそこはピンク色のネオンが輝く部屋で、床には三輪車に乗った猿のおもちゃがぐるぐる回っている。
 「やあ、やっと来たね」
 と声がする方を向くと、あの女が座っている。
 でも今回は影になっていなくて、女の顔もはっきり見える。
 女は黒い布で目隠しされている。それが当たり前のようなたたずまいで、私に話しかける。
 「あの子を見つけないと」

(つづく)

50音の殺し方「ら行」「わ行」

50音の殺し方

 

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最終回。

 

 

皆さま、お久しぶりです。時間が開きましたけども、50音への殺意、忘れてませんか?私は忘れていませんでした。ここまで時間がかかったのは最後の「ら」行と「わ」行を殺すことにとにかく手こずったからです。でも殺せました。ではそちらを紹介します。最後なので、徹底的にやってやりましょう!

 

「ら」は下部分をよく見てください。くりんとまわっていますね。そこは口です。内側の部分に石膏を流し込んでやりましょう。すると、息ができなくなって死にます

 

「り」は皆様お気づきでしたでしょうか。「い」の反転なのです。生き残りだったのです。なので「い」と同じく、両方を掴んで一気に離れてください。できるだけ遠くです。すると自我が崩壊して死にます。

 

「る」は最後の回転部分がコアです。ここを破壊してください。その他の部分はフェイクです。攻撃が一切通りません。最後の回転の部分を破壊すると死にます。

 

「れ」はですね、この文字のアップサイドダウン感から見るに躁鬱なので、躁の時は攻撃しづらいですね。最後のダウンしている鬱状態になったら精神攻撃をしてやりましょう。すると自壊します。

 

「ろ」は躊躇無く数字の群れにぶちこんでやると「3」と部分で正体がばれてしまい、袋だたきにあい、死にます。

 

「わ」はこれは知恵の輪ですね。なんとか引きちぎって分離させてやりましょう。ばらばらにされると死にます。

 

「を」はラリアットかましてやりましょう。思いっきりです。全く躊躇なくラリアットかまして殺しましょう。

 

「ん」は釣り針にしてやりましょう。パン屑でも先にくっつけて、琵琶湖に沈めて、ブラックバスに噛ませて、そのまま引きちぎらせて死なせてやりましょう。

 


これで、50音全員殺せましたね。なんとか殺せました。いやーよかったよかった。
最後にですが、皆様に伝えたいことがあります。
文字は殺せても、言葉は殺せないということです。
死んだ文字を使っても、言葉になるとどうしても生き返る。
それが文字の不思議なところであり、アンデッド性でもあります。
だからこそ、しかし言葉を殺すことはできます。それは、我々の使い方次第です。死んだ言葉を使って話すことはできます。考えることだってできます。
でも、死んだ言葉を使うことは我々の思考の死も意味をするのです。だから、私たちはいくら文字を殺そうとも、生きた言葉を話したり、考えたり、使いこなさなきゃいけません。
それが言葉であり、文章であり、詩であり、小説なのです。
そのことを最後に伝えた・・・あっあれは!
゜と゛!!!!
復讐に来た!くっそ!今日は油断していた!
あっやめろ!
俺を襲うな!やめろー
う゜わ!思゜考゛を゜の゜っとられていく!
み゛ん゛な゜・・・に゛げ゜て゛・・・