にゃんこのいけにえ

両目洞窟人間さんが色々と書き殴ってるブログです。

『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』を見た!

 『ジュマンジ ウェルカム・トゥ・ジャングル』を見た!

f:id:gachahori:20180317074341j:image
 ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル!シャナナナナナナナニィーニィーッ!!ってガンズの名曲が頭の中にがんがんになりひびくサブタイトルに期待値ばく上がりで見に行きましたが、見終わった瞬間アクセルローズが定時で公演始めるくらいの最高な気持ちになってしまいました。ニィーッ!ニィーッ!


 前作『ジュマンジ』といえば、ロビン・ウィリアムスが酷い目にあいまくったり、街中に動物があふれたり、子どもが猿になったり、ハンターがくっそ怖かったり、どんこどんどんどこどんとあの太鼓のリズムが耳に付いたり、最後は最後でなんかええ話やなとなったりと、なにより、これはなによりですが、90年代から00年代初頭にかけてめちゃくちゃテレビでやってたななんて印象が強い映画です。 

 つづけてザスーラが作られたらしいんですけども、こちらは未見。監督がアイアンマンやシェフのファブローさんなのでぜってえおもしれえはずって思いはあるけども、まだ未見。沢山未見の映画ってあるよね。そんな一本だよ。


 で、『ウェルカム・トゥ・ジャングル』!前作『ジュマンジ』からの続編という体裁なので、冒頭があの浜辺から始まる!!!!
 そして鳴り響くどんどこどんどんどこどん!
 うっひゃ~嬉しい~。
 ほぼ20年ぶりの新作でここから始まるのとか、わかってるやん?ツボ押さえにきてくれてるんやん?
 でも早々にボードゲームジュマンジさんは「ボードゲームなんて今更誰も遊ばないし」と無視される始末。
 そうしたことに憤ったジュマンジさんは自らをTVゲームソフトにメタモルフォーゼ!
 というわけで、また何も知らぬ若者達を毒牙にかけていきます。というわけで今回も登場人物は酷い目に遭いまくりでございます。

f:id:gachahori:20180317074520j:image


 今回、主人公はロック様ことドゥエイン・ジョンソンにスクール・オブ・ロックジャック・ブラックガーディアンズ・オブ・ギャラクシーのネビュラことカレン・ギランにコメディアンのケヴィン・ハート


 しかし、それぞれはゲーム世界のアバターであり、実際は高校生4人というのがとても面白い設定。
 つまり大人4人、それもむさい男3人にセクシー美女1人なのに、実際の中身は運動部系男子にオタク男子、インスタグラマー女子、そして周りから浮いてる女子の4人なのです。
 オタク男子が入ってしまうのがロック様!インスタグラマーな女子が入ってしまうのがジャック・ブラック!といったように、外見と行動のギャップギャグをどんどん放りこんでくるのも最高。
 特に童貞な行動を終始し続けるロック様!ロック様と童貞なんてそんなの盾と矛以来の矛盾だと思うのですが、それでも童貞に見えてくるんだからロック様~となっちゃいますし、ジャック・ブラックの中身がインスタグラマー女子なんて、無理があるだろと思うのに、徐々にまじで女子に見えてくるあたり半端ないっていうか、改めてジャック・ブラックくっそおもしれえ!ってなること請け合いなシーンがあります。
 めちゃくちゃ笑ったのはナード女子なカレン・ギランにモテる女子の秘訣を教えるジャック・ブラックという異様なシーン。

 最高でした。

 その行動をカレン・ギランがするわけだけども、ロボコップの方がマシな動きをするよ!ってくらいぎこちなくてもう笑いに笑ってしまいました。面白かった~。

f:id:gachahori:20180317074603p:image

 そしてジュマンジなので、めちゃくちゃなことが起きるのですが、もうとにかくあれこれと起こりますので楽しいー。
 パニック!アクション!動物!!!の乱れ打ちで楽しいです。
 そして今回はTVゲームの中という設定ですので、ジュマンジもルール変更して「ライフ」制になっているのがとても面白いポイント。残機が減っていくことで激むずゲームをプレイしているようなはらはら感もうまれましたし、しかもその残機の使い方もまた一ひねりあって「めちゃくちゃうまいやんけ!」と唸ってしまいました。
 そんなジュマンジですけども最後は意外や意外、ほろりとさせてくれるのです。「人生は一度きり」というメッセージと、終盤ある人物との対面に、ベタだけども目頭が熱くなってしまいました。

 笑って、はらはらして、そして少しほろっとして。
 全世界で大ヒットしているのも納得の楽しくて誰にでも勧められる楽しい映画だと思いました。
 気むずかしい顔は劇場の外に捨てて、コーラとポップコーンを持ち込んで、あなたもジュマンジにはいってしまいましょう。
 きっと楽しい2時間が待っているはずです。

f:id:gachahori:20180317074643j:image

溢れんばかりの米を床にぶちまけて

 3月16日と、もう3月も折り返していることにすげえびびってる俺は27歳男性。
 今日は天気が悪いせいか、低気圧のせいか、それとも波的にそういう日なのかわかんないけども、また心身ともにダウナーな日だった。俺がニルヴァーナなら、いい感じのグランジミュージックを奏でられるくらいダウナーだった。
 しかし最近は実家というグッドプレイスに帰ってきているのもあるし、睡眠薬でよく眠れているのもあって、とにかく朝は元気だったりする。いえーい!みたいなぐらい元気じゃないけども、頭は動くし身体も少々動く。


 なので、ただ実家にいるのもなんなので、家事手伝いをさせてくれ~と母に頼むと「お米をボタンワンプッシュで1号出すことができる機械的なものに米袋から米を入れて」と頼まれたので、お安いご用よ~と入れ始めたら、米粒を床にぶちまけてしまった。
 その瞬間、あーもう終わった、まじで終わったと思って、いつもこうだ、俺はいつもこうやって調子にのって失敗するんだと海溝よりも深く落ち込んだ。
 そういうことを言ったりすると「まあ、よくあることだし」と母は励ましてくれた。そういうしかないくらい俺はへこんだりしていた。


 実際問題、よく失敗する。本当失敗する。
 で、こんな性格だから調子に乗ってなんて言われたりする。
 本当は調子になんて乗ってないのに。調子にのったことなんてないのに。
 調子の免許も持ってない。頭に乗ったことなんてない。でも、誤解されて嫌われての繰り返し、そんなことを思っていたら今日は過去の嫌なことを沢山フラッシュバックした。
 「もっとできのいい人が入ったらよかったのに」と上司に面と向かって言われたことを思い出して「うぬわー!」と叫び出しそうになった。でも、あの日言われたときは何も言えなかった。俺はそういう人間だ。

 

 昼過ぎ、映画も本も何も今日は頭に入ってこなくて、寝るしかできなかった。マックスリヒターのスリープという寝る専用のアルバムを聞くことにした。全8時間。流すだけで心地よい睡眠が得られるように、睡眠学を取り入れた音楽だそう。
 俺は思う。作ってる最中に眠たくならなかったのかとか。8時間聞き通すことはマックスリヒターさん本人はできたのかとか、世界中でこれを寝ずに聞けた人は何人いるのかとか。
 実際流しながらだと結構気持ちが良かった。
 マックスリヒターさんに頭があがらない。多分ドイツにいるんだと思うので、ドイツの方角に頭があがらない。

 しんどいどいどい~と言いつつも、今日は家族のためにご飯を作った。途中途中座りながらだけども、作った。
 それだけで俺は99点たたき出しているはずだ。
 社会復帰のことを考えると本当に嫌になる。
 でも、いつまでも家事手伝いをしているわけにはいかない。
 それでも、どうしたらいいものかと思う。
 足踏みばかりしているうちにもうすぐ春になる。

 

 煙草を今日は沢山吸ってしまった。徐々に徐々に中毒になっている。吸っているということを言うとやめた方がいいと何人もの人に言われた。俺もそう思う。健康的にも、金銭的にもやめたほうがいいに決まってる。
 でも、今はこれくらいしか、日常にほっとできる時間がなくて、それが悲しくて、でもこれを見つけることができたのが嬉しくて複雑な気分だ。

 

 明日は、大学卒業前に一度だけ行ったラーメン屋に行くことになった。あのとき一緒に行ってくれた友人はどうしているだろう。僕は彼にひどいことをしてしまったので、多分怒っているだろうなと思う。
 そんな過去やらで今の自分ができている。
 なので少しは未来の自分はうまく動けるようになったらいいですね。
 f:id:gachahori:20180316223406j:image

短編小説『ねこ探偵vsマイケル・J・フォックス強盗団』

 俺はねこ探偵。ねこだけど探偵をしている。毎日、映画館の屋上に構えた事務所で、セブンスターを吸いながら依頼を待ってる。
 ねこに依頼を頼む馬鹿がいるのかって?
 意外とそんな馬鹿は多い。だから俺は毎日セブンスターを吸えているし、そこらへんのねこよりはいい食事をしている。
 昨日はさばの味噌煮だ。いい食事をしているだろう?
 俺がいつものように強情な女のねこのように固いパイプベッドでセブンスターを吸っていた時だった。ドアの開く音がする。ドアは立て付けが悪い。いくらそこらのねこよりいい生活をしていても、あのドアを直すほどの金はない。
 気むずかしそうな男が立っていた。顔が白く、細いフレームの眼鏡。身体のサイズにあったスーツ。どうやらオーダーメイドで作っているらしい。
 「どうしたんだい?依頼なら聞く。宗教と保健所なら遠慮してる」
 「依頼に来たんだ」
 じゃあ、座ってくれと、依頼人が座る椅子へ案内する。俺は依頼人には最大の敬意を払っている。だから椅子はふかふかのものを選んでいる。まず心の内を話して貰うには、小さなストレスから取り除かなきゃいけない。固い椅子じゃ、凝り固まった話は聞けないってもんだ。
 「で、依頼ってのは?」
 男が額の汗を少しぬぐって答える。
 「強盗団を捕まえて欲しいんだ」
 俺は、セブンスターを押しつぶして消す。
 「俺は探偵だ。警察じゃ無いぜ」
 「わかってる。でも、警察じゃ動いてくれないんだ」
 どうやらわけありのようだった。わけありのやつか、動物保護団体しか俺の元にはやってこない。
 「じゃあ、聞かせてくれ、どんな強盗団なんだ?」
 「・・・マイケル・J・フォックス
 「うん?」
 「マイケル・J・フォックス強盗団だ。」
 やれやれ、今日もろくでもない依頼みたいだ。


 僕ははる子さんが書いた小説の冒頭を読む。
 「どうだろ」
 はる子さんは僕に聞く。どうだろも、オープニングだけじゃなんともいえない。でも「とても面白い始まりだね」なんて言う。それは嘘じゃ無くて、ねこ探偵ってのも気になったし、マイケル・J・フォックス強盗団も気になっていたからだ。
 「あーよかった」と言って、はる子さんはコーヒーを飲み始める。よっぽど安心したのかはる子さんはごくごくとコーヒーを飲んだ。そのコーヒーは僕が数時間前に入れた奴で冷え切ってるけども、それでも飲む。

 「私、小説を書く」とはる子さんが言い出したのは昨日、はる子さんが僕の家に帰ってきた瞬間のことだった。
 はる子さんは僕の彼女で、1年くらいそれなりに長い時間を過ごしてきた。だからはる子さんのことをそれなりに知っているつもりだったけども、小説を書きたいなんて言ったのは初めてのことだったので、少しばかり面を食らった。
 どうして?と僕が聞くと、はる子さんは続ける。
 「今日も、会社でめっちゃ怒られてたんだけども、怒られている最中に突然、ねこ探偵なんて言葉が頭に浮かんで」と続ける。
 「ねこ探偵ってなに?」
 「わかんない。でも、多分ねこの探偵だと思う」
 「ねこなのに探偵なの」
 「ねこラーメンみたいな漫画もあったし、ねこが探偵ってのも大丈夫でしょ」なんて言う。
 「とにかく、私はねこ探偵って単語を思いついたってことはこの、アイデアが降りてきたってことで、私は降りてきたアイデアをうまく使わなきゃいけない気がしたんだよ」
 「ふーん」
 「わたし、ねこ探偵の話を書く」
 「小説?」
 「うん。絵、かけないし」
 「そっか」
 「だから、みやじくんは応援しててね」
 なんてはる子さんは言って、しばらく使ってなかったパソコンを引っ張り出して、それをスイッチオン。
 「ねこ探偵」なんて言葉を打ち込んでから、その後、ずっとうーんうーんと唸っていた。
 その日は、結局「ねこ探偵」って言葉より先には進めなかったみたいで、途中で寝落ちして、僕は「はる子さん、ベッドで寝なきゃ」と誘導しなきゃいけなかった。


 次の日、またかえって来るなり「マイケル・J・フォックス強盗団」って言った。「今日もめっちゃ怒られていたんだけども、その最中に、マイケル・J・フォックス強盗団ってのが頭に浮かんで!」と興奮気味に話す。
 そして、ご飯もそこそこにして、人が変わったようにぱちぱちと打ち始めて、気がついたらあの文章が生まれていた。

 「小説って書いたことあったの?」と聞く。
 「ない。初めて」
 「はじめてにしては、凄くよくかけてるんじゃない」
 「ふふふーありがとうー」とはる子さんは言う。
 多分、これまで沢山読んできたからだねー。さて、また書くぞーなんて言って、またパソコンに向かうが、今度はそこから先が全く進まないみたいだった。
 はる子さんは、途中立ち上がってあっちに行ったり、こっちに行ったりしたり、ヘッドフォンをつけて音楽を聞き始めたり、テレビを見始めたり、そして消してまたパソコンに向かったりしたけども、結局は何にもその日はかけなかった。
 で、また寝落ち。
 僕が誘導して、ベッドに寝かしつける。


 はる子さんは、小説なんて書いたことなかった。映画や音楽、本と文化的なものに触れてきてはいたけども、それも普通の人と同じようなものだったし、あくまでずっと受け手だった。僕も同じくずっと受け手の人間。
 いつもも、仕事からお互い帰ってきて、ご飯を食べて、あとはぼんやりしたり、趣味を消化したり、ほにゃららほにゃらら。
 そんなのだったから、何かを産み出すなんてことが生活にはなかった。でもはる子さんは突然、小説を書き始めた。何かあったのかななんて思うけども、でも、とりあえずは作者の分析よりも作品の続きが気になっていた。


 「今日は、お互い外食にしよう」なんて連絡が昼頃届いて、仕事終わった後、僕は松屋で飯を食べる。多分、そんな連絡が届いたのは作品に打ち込みたいからだろうなと推測する。
 だからご飯食べた後も、喫茶店に入って少しばかり時間を潰す。はる子さんができるだけ集中できる環境を作ってあげようと思った。すこしばかり時間を潰してから家に帰ると、案の定はる子さんはパソコンのの前でうんうんと唸っていた。
 「どう?」と聞くと「まあまあ」と返ってきて、少しの間無言があった後に「ちょっと読んでみて」と返ってきた。
 マイケル・J・フォックス強盗団の非道さが伝わるページだった。

 

 マイケル・J・フォックス強盗団は、マイケル・J・フォックスのマスクを被っては各地の銀行を荒らしまくっていた。彼らはデロリアンで銀行に乗り付けて、スケボーで侵入し、金を奪った後に、未来にタイムスリップという名目で銀行に火をつけて逃走した。
 そのせいで、何人もの人々が焼け死んだ。
 なるほどね。俺にどうしようってんだ。
 ねこに犯行を止めるのは不可能だぜ?


 なんてねこ探偵が悩んだあと、はる子さんも悩んでいた。
 「だいたい、ねこが強盗団を捕まえるなんて無茶なんだよー」とはる子さんは自分で書いたことに対して、自分で苦言を呈する。
 「強盗団結構酷いね。金を取った後に火もつけるんだね」と言うと「うん、それがマイケル・J・フォックス強盗団の特色だからね」とはる子さんは言う。
 「ひどいことをするんですよ」
 「へえ」
 「ねこ探偵なんて、勝てやしないよ」と言った後に、でも解決しないとなあとまた悩んでる。
 はる子さんは悩む、悩む、悩む。そして寝る。
 毎日、毎日よく考えるなあと思う。
 はる子さんは毎日仕事が大変だと言っているのに、家に帰ってからもこんなに悩んで大丈夫なのかなと思う。
 だから僕にできることと言えば、パソコンの前で寝落ちしているはる子さんを起こしてベッドに誘導することくらいだった。


 マイケル・J・フォックス強盗団の手口はどんどん残虐になっていった。
 強盗団は犯行現場にミキサーを持ち込んで、支店長の手を・・「あー読めない。痛い痛い」と僕は目を背ける。
 「えー読んでよ」
 「痛いのむりなんだよ」
 「頼みますよ後生だから」とはる子さんは言い慣れない言い回しで頼んでくる。
 はる子さんは家に帰って来るなり「今日も怒られていたんだけども、その最中に強盗団の手口を思いついたよ!」って言ってパソコンに向かい始めた。また食事もそこそこに書き始めた。
 そしてしばらくして、あがってきたのが「ミキサーで」って文章だった。
 「うーん。なんか、僕はねこ探偵の話が読みたい」って言う。
 「でも、思いつくのがマイケル・J・フォックス強盗団のことばっかりなんですよ」
 「なんでなんだろう」
 「私、ねこ探偵なんてどうでもいいくらい、強盗団の酷いことだったらどんどん思いつける」
 それを言ったらおしまいだろうって思うけども、はる子さんはパソコンに向かって今まで見たこと無い勢いで書き始める。

 ・人質の顔に布を被せて水攻めする強盗団
 ・人質の皮をはぐ強盗団
 ・人質のつめをあれこれする強盗団
 ・人質の首にナイフをあれこれする強盗団
 ・デロリアンで180キロ出して人質をあれこれする強盗団

 はる子さんは目をきらきらさせて僕に読ませてきたそれは、全てが全て殺害方法のディティールだった。でもそこに物語はなくて、物語は進んでいない。
 「これって、ねこ探偵、まだ事務所で話を聞いているだけだよね」と核心をついたことを僕が言う。
 「・・・うん」
 「これじゃマイケル・J・フォックス強盗団があちこちで虐殺しているのの記録だよ」
 「でも、これしかかけない。強盗団をねこが捕まえる方法なんてわかんないし、そもそも思いつくのがこういうことしか思いつけない」
 ちょっとずつはる子さんの言葉が強くなっていく。
 「毎日、毎日、怒られている時にアイデアが降ってくるけども、そんなことしか思いつけない。なんでだろう。なんでねこ探偵が活躍するアイデアは思いつけなくて、殺す方法しか思いつけないんだろう」
 なんてはる子さんは次第に涙声で話始める。
 うーん。
 僕はケトルでお湯をわかしてホットコーヒーを作る。
 とりあえず飲んで落ち着いたらと思うけども、なんかはる子さんは気が抜けたようになってる。泣きながら言う。「私、猫舌だから、今、これ受け取れない」そんなどうでもいいことも、泣きながらじゃないと言えない。僕はどうすることもできなくて立ち尽くす。そんな些細な気遣いも僕も出来なくなっていた。
 わんわんとはる子さんは泣いて、コーヒーは徐々に冷え切った。
 それから、しばらくしたあと、はる子さんは小説を書くことをやめてしまう。
 辞めてしまった後も、ねこ探偵を書いていようが書いてなかろうがはる子さんははる子さんで怒られ続ける。
 だからはる子さんは徐々にふさぎ込んで、そして気がついたら身体が思うように動かなくなってしまって、会社に行けなくなってしまった。


 はる子さんは「ごめんね」と本日何度目かわからないごめんねをベッドから言う。この光景もすでに数ヶ月経っていた。
 はる子さんは1日中家にこもるようになって、ぼんやりと日々を過ごしている。
 僕はなるべく仕事を早く終えるようにして、家にまっすぐ帰ってはる子さんのそばにいるようにする。
 でも、はる子さんは感覚が過剰になってるからかごめんねを繰り返すし、気がつけば僕の家はどんよりどんよりと重たい空気が常に流れている。
 そんな折に、僕も仕事でミスをしてしまって、大きく怒られてしまう。
 叱責する上司の声が頭を駆け巡る。はる子さんのこと、仕事のことが頭で増幅して、涙がこぼれそうになる。
 「助手のわとにゃんくん」
 というアイデアがそのとき突然浮かぶ。叱責の最中に、ねこの助手の姿が僕の頭にスパークする。
 あ、これだ。助手のわとにゃんくんだ。数ヶ月間書いてなかった小説を進める方法はこれだ。
 僕はこれだと思う。これをやるべきだと思う。だから半休を取る。怒られた直後に半休の申請をして、おいおいと言われるが、節々が痛えんだよ!とアピールをしてゲット。なんて思われたっていい。急いで帰る。急いで帰らなきゃ行けない日だ。
 家に帰るなり、僕ははる子さんに言う。
 「助手のわとにゃんくんを出すべきだよ!」
 「わとにゃんくん?」
 そりゃそうだ。そういう反応だ。
 でも、僕は説明する。ねこの助手わとにゃんくんのことを。
 そうするとはる子さんは徐々に笑顔になっていく。


 はる子さんと僕は数ヶ月触ってなかったパソコンを開く、スイッチオン。
 あの小説を開く。そしてマイケル・J・フォックス強盗団の非道さを消していく。
 その代わり、書き始めるのは強盗があった銀行に入るねこ探偵と助手のわとにゃんくんだ。現場検証を二人で行う。何をどうすればこの事件を解決できるのかなんてことをねこ探偵とねこ助手は行う
 はる子さんと僕は話し合う。
 数ヶ月ぶりにちゃんと話し合う。
 どうやったら解決するのかを話し合う。
 「マイケル・J・フォックス強盗団が押し入った銀行に二人は入っていく!」
 「で、二人は証拠を見つけていく!」
 僕たちはアイデアを思いつくたびに大きな声でそのことを伝える。次第に部屋の空気が変わっていく。そうだ。そうだ。そうだ。この部屋に元々流れていた空気が戻っていく。
 わとにゃんくんはは現場に落ちている破片を見つける。
 わとにゃんくんは聞く「ねこ探偵!もしかしてこれ!」
 「これは・・・あの建物の・・・!」
 「じゃあこれは!」
 「解決の糸口だ!」
 そしてマイケル・J・フォックス強盗団は些細な証拠から自分たちの正体がばれてしまう。
 でも、ねこ探偵がマイケル・J・フォックス強盗団に敵う訳がない。そこで、僕たちの手は止まる。でも、考え続ける。僕たちとねこ探偵達はマイケル・J・フォックス強盗団に勝たなきゃいけない。 「あ!」とはる子さんは叫ぶ。
 「でもねこ探偵は現場にはいかないの、探偵だから!でも捕まえてくれるのは!」
 「警察!」
 「それも、動物の警察だよ!ねこ探偵がいるなら、動物の警察がいたっていいじゃない!」
 「じゃあ捕まえてくれるのは」
 「わんわん刑事!!」
 「ゴーゴーゴーゴー!!!」とわんわん刑事(デカ)がマイケル・J・フォックス強盗団のアジトに突入する。壊されるドア。炸裂する閃光手榴弾。光と音が満ち、皆が動けなくなる中、わんわん刑事はその持ち前の嗅覚でマイケル・J・フォックス強盗団を1人ずつ確保していく。
 「確保ー!!!」
 マイケル・J・フォックス強盗団は捕まった。
 それを遠くから眺めるねこ探偵とわとにゃん助手。
 「事件はこれで解決」
 「でも、これでは終わらない」
 「で、最後は、いつも通り」
 「事務所で話すんだ!」


 そうやって出来上がった小説を僕とはる子さんは読む。
 つたなくて、おぼつかなくて、どうしようもない小説。
 でも、書き上げたはる子さんと僕は晴れ晴れとした顔をしている。
 「みやじくん」
 「うん?」
 「あいらーびゅー」
 なんてまたもや言い慣れない言い回しで言ってみせて僕は少し照れる。
 「はる子さん。コーヒー飲む?」
 はる子さんはうなずく。
 「あ、でも、私、」
 「わかってるよ」と言って冷蔵庫を開ける。


 「ねこ探偵。今日も無事解決しましたね」
 「いや、わとにゃんくんが証拠を見つけてくれたおかげだよ。君がいたからやっと事件は解決した」
 「いや、ねこ探偵、あなたが始めたからですよ」
 ねこ探偵はふっと笑ってセブンスターを吸い始める。
 わとにゃんくんが聞く「ねこ探偵。コーヒーはいかかがです?」
 「もらおう、あ、でも」
 「もちろん、アイスコーヒーですよね。」
 「ああ、猫舌はつらいよ」

 

f:id:gachahori:20180315164608j:image
 

27歳男性はびくびくしてる

 どうも27歳男性です。実家に戻ってきました。実家でのびのびとしています。あの一人暮らしの部屋 a.k.a社会と隔絶された空間とは違い、家族と話ができるのはいいですね。今のところ、家族と会話もしていい調子。グッドバイブス感じてる。


 で、ただ家にいてグッドバイブスを感じてるだけなのもよくないので、27歳男性は率先して家事を手伝っている。俗に言う家事手伝い。ご飯を作ったり、洗濯したり、私、ちゃんと家事手伝いしているわ。


 しかしながらちょっと驚いたことがあったのだけども、母に見られながら洗濯物を干している最中、胸の動悸が半端ないことになったのだった。
 どうやら怒られてしまうんじゃねえかっつう不安が俺をさいなんで、まともに行動ができやしねえ。俺、怖え。


 ということを母に言うと「そんなに会社に居たときに怒られてたの?」と言われたけども、俺怒られてたわ。一挙一動怒られてたわ。それでどちゃくそ萎縮してたわ。


 というわけで、自分の根源的な不安に気がついてしまった。シックスセンスのラストのブルースウィリスみたいな顔で、うわわと思ってしまった。


 27歳男性は何をするにしても怒られてしまうんじゃないか、何をするにしても馬鹿にされるんじゃないかって不安がつきまとっていて、それが何なら家事って領域まで来ていたのが「うぉいうぉ~い!」ってツッコミをいれたいけども、誰もぼけていないし、誰も笑うことない。


 どうしたら、この不安はとりのぞくことができるんだろう?
 どうやったら、27歳男性は27歳男性のままでいることに不安を感じなくてもすむようになるんだろう?
 まるで、迷子になった5歳児のような気持ちが気持ちの中核にいて、27歳男性の中心で延々と泣きわめいている。
 僕は僕にそんなに怖いもんじゃねえよ!と言ってあげたいけども、なかなかその言葉も自分では信じることができない。

 

 レディオヘッドのノーサプライゼスを思い出す。何の驚きもない世界に行きたい。
 俺は何も怒られることがない世界に行きたい。
 出る杭は打たれるというけども、出たつもりもないのに怒られすぎて、俺はすっかりだけど萎縮しすぎて、疲れてしまっている。

 

 徳利さんという方がトーフビーツのライブに乱入して歌い上げて、今日の自分の点数を「99点!」って言ってる動画があって、笑いながらかっこいいなと思った。
 そりゃ不安もあったりしてるはずなのに、そうやって外には99点!なんて言えちゃう徳利さんが俺は凄く好き。
 俺も99点って叫びたい。なので叫んでみる。俺の今日の家事は99点だ。残りの1点は未来への1点だ。
 だから萎縮する必要なんてないし、怒られるようなことなんてしてるわけがない。
 それだけをちゃんと刻んでおきたい。じゃないと、ずっと、ずっとおびえたままだ。俺は迷子で泣き叫んでる5歳児みたいな自分を早く見つけてあげたいのだ。

f:id:gachahori:20180315092453j:image

三題噺『水中都市で焼肉を』

弟から三題噺しろや!と脅されたので、三つお題をもらいました。以下がお題です。

・焼肉
・水中
・喪服

制限時間30分

 

では本編をどうぞ

 

三題噺『水中都市で焼肉を』


「始めにタンでって言うの、俺は嫌いなんだよ」って宮本は俺によく言っていた。
「だってよ、タンって焼肉の中でもあっさりだろ。焼肉ってこってりした肉を食べたいから焼肉に行くのに、そこであっさりしたものを最初に食べるって、馬鹿じゃねえの。何、通っぶってるんだよ。スタートからカルビ。焼肉食べてえなら、これからスタートする方が誠実だろ」
もっともだと俺は思った。

久しぶりに喪服に袖を通す。俺は親友の葬式というものが初めてで、現実感なんてのは等に無くて、それでも喪服を着なきゃいけないから、そのほか、数珠やらを持って行かなきゃいけないから。
 現実的じゃ無いことにたいして、あまりに準備しなきゃいけないことは現実的すぎるのだ。


最後に宮本に会ったのは水中焼き肉店だった。あいつとはあちこち行ったけども、最後に行ったのは水中都市だった。
水中都市は最近できたばっかの都市とは名ばかりのテーマパークで、テーマパークが好きな宮本と、出来たし気になるし行こうぜなんて行って、それで1日水中都市を遊んだ。
透明のチューブを歩いた。チューブの周りを魚が踊っていた。宮本はフラッシュ禁止って言ってるのに、光を焚いて写真を撮って係員に怒られていた。
水中都市で一番深い場所にあるビルの一番低層階(水中の中じゃ、深ければ深い方が価値があった)の展望で、あいつははしゃいでいた。
「おい、ジンベイザメがいるぞ」なんてはしゃいでいた。

宮本が死んだことを俺はまだ実感としてわかない。
そして最後にあいつと飯を食った人間が、俺だと言うことも実感がわかない。

魚がうようよ泳いでいるのが見える焼き肉店で俺と宮本は焼肉を食った。わざわざ水中都市で焼き肉店なんて開いているのもどうかしているけども、水中だからこそ焼肉が食べたくなるってのが人間ってもので、そういう欲がわきあがるからこそ店は開かれていたし、繁盛もしていた。

「あのさ、やりたいこと、あるんだよ俺」と宮本は俺に言った。
「何がしたいの」
「世界中のテーマパークを回りたいんだ」
「へー」
「フランスにすげえのがあるんだぜ。中世の世界を完全再現していて、完全再現しすぎて年に数ヶ月しか開いてないってやつ」
「まじかよ」
「まじまじ。Youtubeで見れるし。俺、それ行きてえんだよな」
なんて夢を語っていた宮本は地上にあがったあと、あっさりと事故に巻き込まれて死んでしまった。

焼肉店で、あいつは大盛りのご飯を頼んでいた。太る~肉食って、こんだけ飯も食ったら太る~なんて言ってたのに、太る前に死んでしまった。
水中都市の諸々をインスタグラムにあげる前に死んでしまった。
ジンベイザメと戯れる宮本。焼肉を食べる宮本。地上にあがって、俺と一緒にセルフィーを撮る宮本。全部、全部最後になってしまった。

「今日は、来てくださってありがとうございます」と宮本の母が俺に言う。宮本の母は憔悴しきっていて、見てられない。俺は励ます言葉をかけるけども、そんなもの何の意味もないことを知ってる。
だって俺も、まだ消化なんてできていない。
遺影は、俺が送った写真が選ばれた。水中都市で楽しそうに笑ってる宮本の写真。テーマパークが好きな宮本にとってはここほど自然に笑える場所は他にあったんだろうか。

家に帰って、喪服を脱ぐ。喪服は嫌いだ。着づらいし、固いし、なにより人が死んだときにしか着ない服なんて。
テレビをつける。あの水中都市の特集が流れていて、俺は反射的に、テレビを消してしまう。
まだ、受け入れられない。


洗濯物の山にパーカーがある。あの日の焼肉の匂いがしみついたパーカー。
これを洗ってしまうと、俺は宮本の記憶も洗い流してしまいそうで、嫌になる。
でも、そんな俺を宮本はなんていうだろうか?
焼肉ですら思想が強かった宮本。俺がこんだけお前のことで悲しくなっているのをみたら笑ってしまうのだろうか。それとも、嬉しく思うのだろうか。

そんなこともうわからない。
だから、俺は喪服をしまって、テレビを消して、パーカーも洗わない。
水中都市のこともなるべく目にしない。
焼肉も食べない。
一度、会社で焼肉に行き、初っぱなでタンを頼みだすみんなを見て、俺は馬鹿にして、そして泣いてしまったのはお前のせいだ。
なあ、宮本、俺はお前と言った焼肉が一番楽しかった。
あっさりだの、そんなこと考えずに、馬鹿みたいに食べることができた焼肉が。
宮本、俺はただただ、寂しい。

f:id:gachahori:20180313230846j:image