にゃんこのいけにえ

両目洞窟人間さんが色々と書き殴ってるブログです。

戯曲『向き合うために逃避する』

アケノヒ処女公演のために提供した『向き合うために逃避する』の戯曲を公開します。

大体尺は60分くらいです。

男3人、女1人で上演できるようになっています。

これをやりたいなんてそんな変わった人がいるかわかりませんがもし連絡を取りたい方は、こちらのコメント欄、もしくはメールアドレス

hotelhiroki@gmail.comの方までよろしくお願いします。

そうじゃなくても、読んでいただけるだけでも大喜びです。

ちなみにアケノヒ上演版とは少し異なります。展開は同じですが、上演版はセリフとして言いづらい部分は言いやすいように変更されてあったりします。

アケノヒ上演版を見た方はその辺の違いも楽しんでもらって、私の台詞書きとしての未熟さを笑ってもらえればと思います。

長くなりましたがというわけで本編になります。

 

 

 

 

戯曲『向き合うために逃避する』

 

作:両目洞窟人間

 

登場人物


中村くん

石渡くん

古川さん

田沢くん

 

 

 

0

 

 

 

1 卒業旅行帰りの車の中(過去)

 


中村、石渡、古川、田沢が車に乗っている。

エンジン音とBGM。雨が当たる音とワイパーの作動音。

中村が運転している。中村以外は寝ている。

中村 あくびをしながら運転している。

後部座席の古川が目を覚ます。

 


古川「みんな寝てる・・・」

中村「あ、起きた?」

古川「いつから寝てた?」

中村「さあ。でもかれこれ1時間くらいはみんな寝てた」

古川「本当?」

中村「うん。もう退屈やったわー」

古川「あーごめんごめん」

中村「いいよいいよ」

 


古川 グミを取り出して

 


古川「手、出して」

中村「あ、ありがとう」

 


中村 グミ食べる。

 


古川「え、もう高槻?」

中村「そうみたい」

古川「あー、そうかー」

中村「どうしたん」

古川「もう終わりかーって思って」

中村「そうやな」

古川「こうやってみんなで旅行行くのも当分できひんようになるねんな」

中村「そうやなー。あれ?古川って就職はどこ?」

古川「大阪やけど」

中村「そしたら、またみんなで集まれるやん。みんな、だいたいはこっちで就職みたいやし」

古川「そうやけども。・・・でも」

中村「でも?」

古川「・・・多分やけど、就職したらそんなみんなとうまく予定とか合わなくなって、それでたまにあっても2時間くらいの飲み会くらいしかしなくなって、それで適当に話すだけで終わって、なんていうか・・・なんていうか・・・くだらないことばっかりしゃべりあって嫌になるくらいにお互いのことをわかり合う時間なんてもうないのかなって思うねんな」

中村「・・・・・・オザケンやん」

古川「オザケン?」

中村「いや、なんか好きな歌の歌詞みたいだったから」

古川「ちょっとちゃかさんといてーやー(中村の頭の部分をたたく)」

中村「ごめんって!ちょっとあぶないから」

古川「もうー中村くんと真剣な話したらいつもこうや」

中村「恥ずかしいからなー」

古川「そうなん?」

中村「俺もずっと思ってたから。このこと」

古川「このこと?」

中村「もうないんやろうなーってこと」

 


助手席の石渡 目を覚ます

 


石渡「(あくび)。もう京都ついた?」

中村「まだ、高槻」

石渡「まだ高槻かー。お、ふーも起きてた?」

古川「もう、みんなと居るときはその呼び方やめてって言ってるやん」

石渡「なんやけちくさいわ。なあ」

中村「俺に振るなよ。一番どうしたらええかわからんねんから」

石渡「あーすまんすまん」

古川「ほら(グミを渡す)」

石渡「おーさんきゅー。あ、レンタカーの返却間に合うかな?」

中村「今の時間やったらまだ大丈夫やろ」

石渡「そっか。あ、雨止んできたな」

 


雨の当たる音が引いていく。

夕日の照明

 


石渡「うわ、まぶしいな」

古川「あ、あっこ」指指す

中村「え、どうしたん」

石渡「あ!すごい」

中村「え?何?」

石渡「あれ!あれ!」

中村「え?運転してるからわからんって!」

田沢 目を覚ます

 


田沢「うるさいなーもうー。うわ、まぶし、なんや・・・おい!虹出てるやんけ!」

中村「虹?」

古川「だから言ってるやん」

中村「あっこだけじゃわかんないって!今も?」

石渡「今も出てるほらほら!」

中村「えーどこ?どこ?」

田沢「あれ!あれ!あれ!」

中村「あれじゃわかんないって!!」

 


夕日がまた雲に隠れていく。

大きくなっていくエンジン音

それと同時に中村以外ははけていく。

音はどんどんはげしくなる。

全ての音が消える

受付の女「中村さん、一番へどうぞ」

 


2 心療内科(現在)

 

 

 

中村 白衣を来た医者と向かい合う

中村「最初は風邪かと思ったんです。身体が動かなくなって・・・でも、ある朝会社に行けなくなってしまって、涙も止まんないし、もう無理って叫びながらクローゼットに入ったりもして、もうどうしたらいいかわからなくなって・・・」

医者「それはどすねえ。適応障害どす」

中村「どす?」

医者「そうどす。あなた適応障害起こしてるんどすよ。辛かったどすねー。大変だったどすねー」

中村「そうですか」

医者「(くいぎみに)そうどす。なので、あなたはこれから会社を休職して頂き、そんで治療に入ってもらうどすからね」

中村「はあ」

医者「どうしたどすか?」

中村「休んじゃっていいのかなって」

医者「いいもなにも、あなたは今は働ける状態じゃないんどすよ。休まなきゃいけないどすよ~。はい、診断書と抗うつ剤を出しておくどすからね。休むどすよ~」

 


医者はけていく

 


中村 携帯を取り出す。

 


中村「・・・あ、もしもし、母さん。・・・そうそう。病院に行ってきたよ。えーと。休職しないといけないことになった。・・・うん。うん。・・・大丈夫だと思うよ。うん。とりあえず、また連絡するし。・・・大丈夫だって、泣かなくても。だって休めるんだよ。何もそんな絶望しなくたって。・・・うん。じゃあ。切るから。はい。はいはーい」

 


電話を切る。

中村がため息をついた瞬間、アタック25の音楽が流れる。

 


司会者とアシスタントが入ってくる。

司会者「今週も始まりましたクイズ!なぜ適応障害になったでSHOW!司会は私、メンタルよわおです!で、アシスタントはこの方!」

よわこ「メンタルよわこです!」

よわお「え~よわこさん!」

よわこ「なんですかよわおさん!」

よわお「最近、気圧のアップダウンが凄いじゃないですか」

よわこ「凄いですよね~」

よわお「気圧のアップダウンが精神のアップダウンにつながる・・・わしのメンタルは富士急ハイランドか言いましてね~」

よわこ「はい!では本日の回答者です!大阪府からお越しの中村さんです!」

 


拍手の音

 


中村「どうも・・・」

よわお「今のお気持ちはどうですか?不安ですか?」

中村「抗うつ剤を飲んでそろそろ24時間経ちそうなので、薬が切れそうで不安です」

よわこ「あーいい不安ですね~。ちなみに今は何ミリくらい飲んでますか?」

中村「サインバルタを60mgです」

よわお「おーいいペースですね!」

よわこ「これ以上増えなければいいですね!」

中村「はい(笑)」

よわお「じゃあ、問題の方にいきたいと思います」

よわこ「では問題!(デデン!)営業、事務作業、肉体労働・・・このうち佐藤さんが苦手なものはなんでしょうか!」

よわお「ではシンキングタイムです!」

 


レディオヘッドのオプティミスティックが流れる。

 


よわお「シンキングタイムはいつものようにレディオヘッドです」

よわこ「明るい音楽はしんどいですもんね」

よわお「ちなみにこの曲のタイトルはオプティミスティック。楽観的という意味だそうです」

よわこ「この暗さの曲につけるタイトルじゃないですね」

 


ピロン!

よわお「中村さん!」

中村「・・・全部」

よわお「・・・正解!」

よわこ「まずは10ポイントです!」

よわお「いや~ど屑ですね~」

中村「はい・・・」

よわお「人のできることが全くできないんですね~」

よわこ「はい・・・」

よわこ「ちなみにエクセルを触らせると入力ミス。営業いくとどもり。肉体労働させるとけがをするそうです」

よわお「詰んでますね~」

中村「よく言われます(笑)」

よわお「では第二問です!(デデン!)」

よわこ「・・・1日8回、これは何の数字でしょうか?」

よわお「ではお考えください!」

 


Syrup16gのex.人間が流れる。

 


よわお「シンキングタイムはいつものようにSyrup16gです」

よわこ「Syrup16gはまじもんの心療内科ヘビーユーザーですからね」

よわお「バンドを解散してから、しばらくまじで社会に出ることができなかったそうです」

よわこ「いやーほんものですねー」

 


ピロン!

 


よわお「中村さん!ではお答えください」

中村「・・・会社にいる時にトイレに逃げる回数」

よわお「・・・正解!」

よわこ「10ポイントです!!」

よわお「え~中村さんは社内にいると息詰まるような感覚を覚えてほぼ一時間に一回トイレに逃げ込んでいたと」

よわこ「トイレに逃げ込んで15分くらいはサボっていたようです」

よわお「15分×8回・・・つまり二時間はサボっていることになりますね」

中村「はい」

よわお「どうですか?恥ずかしくないですか?」

中村「生きてて恥ずかしいです(笑)」

よわお「すがすがしいまでのテンプレート回答!」

よわこ「いい感じにメンタル弱ってますね!」

中村「はい(笑)」

よわこ「では、最後の問題です!!昨年、心身症になってしまった中村さん・・・」

中村「ピロン!お前は頑張っていない!」

ブー!

よわこ「最後まで問題をお聞きください。昨年、心身症になってしまった中村さん。友人にに相談したところ、話がずれにずれてお前は頑張っていないと説教を受けてしまった。ですが、今年に入り心身症が再発しそうになったときに職場で年長者の女性に相談したところ言われてしまったのは何?シンキングタイムですどうぞ!」

 


犬神家の一族の音楽が流れる。

 


よわお「犬神家の一族の音楽は落ち着きますね」

よわこ「中村さんは一時期駅のベンチでこれを聞きながら何本も電車を見送ったそうです」

よわお「わかりますねー。ベンチから動けなくなるときありますよねー」

よわこ「ひたすらリピートを繰り返して、心の安寧をはかるんですよねー」

よわお「そこに安寧はないんですけどもねー」

 


ピロン!

 


よわお「中村さん!どうぞお答えください!」

中村「・・・感謝の気持ちがお前には足りてない」

よわお「・・・正解おめでとうございます!!!!」

ファンファーレが鳴る

よわお「心身症であると告げたところ、周囲の人に感謝の気持ちが足りていない、嫌ならやめてしまえと会社の近くのパスタ屋で2時間説教を食らったそうです!」

よわこ「おめでとうございます~!」

よわお「今のお気持ちはどうですか?」

中村「えー、辛い境遇に耐えれている人もたくさんいるのに、私だけ適応障害になってしまって恥ずかしいです!」

よわお「本当そうですよね!」

中村「はい!」

よわお「全問正解した中村さんには3ヶ月の休職期間が贈呈されます~」

よわこ「総務との連絡はきっちりおこなってくださいね!」

中村「ありがとうございます!」

よわお「ではクイズ!適応障害また次回お会いしましょう~!さようなら~」

よわこ「さようなら~!」

 


電話の音が鳴り響いて、司会者の2人ははける。

 

 

 

中村「あ、もしもし」

田沢「俺や」

中村「おー田沢やん。久しぶり。どうかしたん?」

田沢「どうかしたんも、何も、中村、お前こそどうしてん」

中村「あー、ちょっとね」

田沢「なんかTwitterでみたけども、今休んでるんやって」

中村「うん。まあ」

田沢「そんで、どうしてるんや」

中村「どうしてるもなにも。休職しているし、何もする元気もないし」

田沢「そうか・・・中村、飯は!飯は食えてるか?」

中村「まあ、ぼちぼちわ」

田沢「ほんなら、お前今度、飯食べに行こうや」

中村「あーありがとう」

田沢「どこがええ?焼き肉にするか?寿司にするか?それかなんやパンケーキでもええし」

中村「でも、今は外に出る気分でもないし」

田沢「あー・・・そうか・・・」

中村「せっかくの提案ありがたいけども」

田沢「(くいぎみで)じゃあ、お前の家ですき焼きするのはどうや」

中村「はあ?」

田沢「お前のことやし、どうせ大したもん食べとらんやろ。すき焼きや、肉や。しみるぞー」

中村「いや、ちょっと待てって」

田沢「大丈夫、肉代くらい全部出したる。友達の財布は使え使え!あ、俺と二人っきりですき焼きするんが嫌言うんか。」

中村「それはいってないけど」

田沢「(くいぎみ)あほ!俺だってお前と2人で鍋なんかするかいな!ちゃんとあの2人にも声かけとくし!わかっとる!わかっとるから!じゃあ、俺がちゃんと手配しておいたるから!じゃあ、また日にち決めよな!ほな急にすまんな!ほななー!」

 


一方的にしゃべるだけしゃべって田沢は電話を切る。

 


中村「なんだよ・・・」

リモコンを手にとって音量をあげていく。

 


4 中村ノンフィクション(現在・妄想)

 


音楽 ザ・ノンフィクションのテーマ曲サンサーラが流れる。

「生きてる生きている~♪」

 


ナレーション「近年増加している会社にいけなくなる若者。彼らはなぜ会社にいけなくなったのだろうか。彼らの心の闇に迫りたいと思います」

 


カメラマンが入ってきて中村に近づく。

中村「え、何?ちょっと、これ撮ってるの?」

ナレーション「今回密着するのは中村弘二。26歳。一般企業に勤める一会社員でしたが、現在は休職中です」

 


カメラマンとナレーター中村の方をじっと見る

中村「はあ?」

さらにじっと見る2人。

中村 察して

中村「・・・会社に、ある朝からいけなくなったんですよね・・・」

2人 よしって顔をする。

ナレーター「なぜ行けなくなったのだろうか。再現VTRを交えてお送りしたい・・・」

中村「ちょっとまって!これ何これ!」

ディレクター「カット!」

 


ディレクターが入ってくる。(昔のたかじんさんとか紳助的なうさんくさいしゃべり方のイメージ)

カメラマン「ディレクター」

ナレーター「ディレクター」

中村「ディレクター?」

ディレクター「ちょ、ちょ、ちょ、中村くんな、君な今回な取材対象者やねん。言うたら役者やねん。わしらの番組はドキュメンタリーであり、一種のドラマやねん。わかる?中村君」

中村「はあ。・・・なんとなくですが」

ディレクター「あ、あ、あ、なんとなくでもわかってたらよろしい。よろしいわ。だからな、君の半生を今からこのカメラで撮る(うなずくカメラマン)。でナレーターが声で色づける。で、視聴者はどう思う?」

中村「どう思うって・・・」

ディレクター「涙がぽろりや!君の人生を見て、視聴者の涙はぽろりぽろりや!」

中村「はあ」

ディレクター「だからな、中村くん。あのな、君の人生の話を聞かせてくれや。さぞかし、会社を休むくらいやから、重たい、重たい理由があるんやろ。ほな聞かせてくれや!」

ナレーター「中村さん。私からも一つお願いです。ぜひ聞かせてください」

カメラマン「(うなずく)」

中村「え、ええ・・・」

ディレクター「さあ、教えてくれ。何で君は会社を休むことになったんや!」

中村「・・・ないんです・・・」

ディレクター「うんうんうん。パワハラ上司に池に入れと命令された。はー!それはそれは!大変じゃー!大変じゃ!ってええ、無い?理由が無い?どゆことどゆこと?」

中村「・・・無いというか、ここの小さなことはあったんです。任された仕事がちょっと大変だったり、残業が多い月もあったり、上司から怒られることも、お局さんからぐちぐち言われたことも。でも、大きな、そんなドラマティックな理由はないんです・・・」

ディレクター「うんうんうん。パワハラ上司に月200時間の残業を命じられた。はー!それはそれは!大変じゃー!大変じゃ!ってええ?ドラマティックな理由が無い?まじで?まじで?」

中村「・・・はい」

ディレクター「・・・おおお・・・ほーん・・・けど休職している・・・ほーん・・・」

中村「・・・はい・・・」

ディレクター「(手を叩いて)よし!わかった!みんなよう聞いてくれ!・・・撤収!!」

カメラマンとナレーター「はい!」

2人即座に片付けるモーション。

中村「撤収!?え、撤収?」

ディレクター「うん。撤収。ドラマティックな理由がほしいのよ。みんなが納得できるそういう理由が。でも君にはないもの。残念マジ残念。はいお疲れしたー!ぷるるるるっとおっと着信着信。はいもしもし~え!?何!?片足の無い子供が!?跳び箱100段にチャレンジ!?おいおいおい~そっちを撮りに行くしかねえだろ!おい!いくぞ!」

 


撤収するテレビクルー。

 


中村「ドラマティックな理由・・・みんなが納得するドラマティックな理由・・・」

 


中村 ゆっくり横になっていく。

 


中村「そんなの無いよなあ・・・」

 


中村 横になりながら「あーーーーー」と叫び初めて、途中から「何でや!何でや!何でや!」と連呼。

そして中村 静かになる。

 

 

 

5 卒業旅行で行った海(過去)

 


波の音。

中村がその音に誘われるようにきょろきょろすると3人が走って出てくる(青春っぽい雰囲気)

石渡「うわー!冷てー!」

田沢「うぇーい!(波をかける)」

石渡「ちょ、ふざけんなって!あーまじ冷てえ!」

古川「あっははは、馬鹿じゃないのー」

中村「あれ?みんな?」

石渡「おー、中村!お前もそこで寝てないで、こっちにこいって!」

中村「え、みんななんでここに?」

田沢「なんでってお前が卒業旅行中に海みたいって行ったから寄ったんだろ?」

古川「せっかく来たんだし、こっちまでおいでよー」

中村「え?え?今はどこ?」

石渡「どこって過去だよ!お前の過去の中!」

田沢「お前の過去の記憶の中の俺たちだよ」

古川「もう一回、楽しかった瞬間を繰り返そうよ」

中村「あ・・・、うん・・・あー!いくぞー!(その瞬間チャゲアスのSAY YES的ないかにもドラマティックな音楽が流れる)」

 


スローモーション風味になる4人。

照明も幻想的になる。

 


中村「うわー!過去楽しいー!」

石渡「だろう!過去は最高だろ!」

古川「過去はいつだって人類最後のユートピアだからね!」

田沢「お前が願えばこのユートピアにはいつだってこれるんやで」

中村「まじかー。すげえー過去やべえー。え、これって、さらに過去に行けるの?」

石渡「ああ、もちろんとも」

中村「うわーまじかよ!」

古川「どこに行きたい?」

田沢「明治?幕末?」

中村「そこまでさかのぼらなくていいんだよなー」

石渡「じゃあ、中村の高校時代とか見る?」

田沢「いいねー」

古川「中村くんの高校時代気になる~」

中村「あ、ちょっと高校はまじで勘弁してもらっていいっすかね」

3人「・・・あー・・・」

石渡「じゃあ、じゃあ!お前が生まれた瞬間ってどうだよ」

中村「う、生まれた瞬間?」

古川「そうだよ!生まれた瞬間!」

田沢「きっと思いも寄らぬものが見れるかもしれへんで」

中村「生まれた瞬間かー!見てみたいな!」

石渡「よしそうと決まったら、みんなデロリアンの準備だ!」

中村「デロリアン?」

 


3人冒頭と同じ、席の配置になる。

中村「あー、なるほど」

石渡「おい!中村、早くしろよ!」

中村「おっけー!」

 


中村 席を移動させる

中村「ドク!デロリアンの準備はいいか?」

石渡「いいぞマーティ!」

中村「オッケー!じゃあタイムトラベルだ!」

 


アクセルの加速音とタイムスリップに入った音。

照明でタイムスリップを表現。

暗転

 

 

 

6 タイムスリップ(中村くんの走馬燈

 


薄明かり

中村だけが残されている。

中村「あれ・・・みんな。みんなー。どこだー」

 


小田和正の言葉にできないが流れてくる。

中村「あれ、なんだこの音楽」

スポットライトがつく

その明かりに古川がフリップを持って入ってくる。

中村の写真(25歳)と書いてある。

以後、フリップはそれから生まれた頃にどんどん戻っていく。

 


中村「(できれば中村役の人の、実際その頃のエピソードを話していく感じで)」

古川は真顔でめくり続ける。

 


中村「うわー懐かしいなー」

そして赤ん坊の頃。

赤ん坊の泣き声

中村の父と母の声が聞こえる。

母「見て、あなたとっても元気な子よ」

父「あー。見てるよ。(涙声で)」

母「もうあなた、この子よりも泣いてどうするんですか」

父「いや、なんていうか、生まれてきてくれたことが嬉しくて」

母「そうねえ。本当に生まれてきてくれて嬉しい」

父「ああ、嬉しい」

赤ん坊の笑い声

父「あ、笑った!笑ったよ!」

母「笑いましたねえ」

父「この子は、将来大物に育つなあ」

母「もう何を言ってるんですか」

父「なんとなくそんな気がするんだ」

母「もう。いつもあなたは、勝手なんですから。私は別にそんなこと思ってないですからね」

父「じゃあ、何を願ってるんだい」

母「そうね。ただ健康で居てくれさえ、そう健康にいてくれさえいればいいわ」

父「そうだな健康で、健やかに育ってくれたらそれでいい」

中村「ちょっと、止めて」

母「健やかに育ってくれたらそれだけでいい」

中村「ちょっと止めて、止めて、止めろつってんだろ!!!」

 


無音になる。

古川がスポットライトの中立ち尽くしている。

中村「・・・・・・もううんざりだ。何が過去はユートピアだ。こんな、叶えられなかった夢の空手形を見せつけるようなことして何が楽しい」

古川「・・・」

中村「ああ、そうですよ!健やかに育ちませんでした。はいはい、僕は親不孝者です。あーそうですよ。親不孝者だ。腹を痛めて生んだ母の夢も、血反吐吐いて稼いだ父親の金も踏みにじってのうのうと生きているのが今の僕だ」

古川「・・・」

中村「戻せよ。今に戻せよ。もううんざりだから。もう親の声なんて聞きたくない」

古川「・・・」

中村「なんかしゃべれよ」

古川「本当にいいの?」

中村「何が」

古川「今に戻って本当にいいの?」

中村「いいに決まってるだろ」

古川「じゃあ、2017年に戻してくださーい」

 


巻き戻しの音が大音量で鳴り響く。

 


その音に合わせて、古川がはける。そして社会ってTシャツを来た人が現れる。

巻き戻しの音が止む。

 


中村 社会マンと二人っきりになる。

 


中村「・・・」

社会マン「・・・」

中村「あの・・・どちらさまですか」

社会マン「あ、申し遅れました。私、こういうものです」

社会マン 名刺を渡す。

中村「あ、社会マンさん。なるほど」

社会マン「・・・」

中村「・・・」

社会マン「・・・」

中村「・・・あ、本日、名刺の方切らしていまして」

社会マン「社会の鉄槌キック!」

中村にけりを入れる。

中村「痛え!」

社会「社会人たるもの、息は切らしても名刺は切らすな、それがTHIS IS 社会!挨拶オア社会!社会マン!」

社会マンと名乗りの後、爆発音。

中村「・・・すいませんでした」

社会マン「わかればよろしい」

中村「あの・・・」

社会マン「・・・なんだね」

中村「次はどうしたら・・・」

社会マン「・・・」

中村「・・・」

社会マン「社会の鉄槌パンチ!」

中村にパンチを入れる

中村「痛え!」

社会マン「社会人たるもの常に次の行動を考える!考えないやつは即死刑!THIS IS 甘くない社会!ブラックオア社会!社会マン!」

爆発音

中村「・・・すんませんでした」

社会マン「わかればよろしい」

中村「・・・(黙っている)」

社会マン「・・・(中村を見ている)」

中村「・・・・・・」

社会マン「社会の鉄槌エクスカリバー!」

中村切られるモーション

中村「痛え!」

社会マン「社会人たる者、わからなかったらすぐに聞きに来る!クエスチョンオアダイ!THIS IS 正論!正論オア社会!社会マン!」

爆発音

 


ビービー!とブザー音。

社会マン「うん!?お前の体から社会不適合者のパワーがみなぎっているようだ!何何~?ケアレスミスの連発~?いつもびくびくしている~?その癖朝早くから来ない~?その他上げ続けたら山ほどある~?お前~毎日毎日ミスばっかりだな~!」

中村「あ、ハイ」

社会マン「これは必殺技、エンド・オブ・マンカインドを使うしか無いようだな」

中村「なんですか、え?エンド・オブ?」

社会マン「エンド・オブ・マンカインド!!」

 


社会マン、 中村を倒して、マウントを取り顔を殴り続ける。

社会マン「エンド・オブ・マンカインド!エンド・オブ・マンカインド!エンド・オブ・マンカインド!」

 


お局ウーマン「待って!!」

社会マン「その声は」

 


Tシャツにお局と書かれたお局ウーマンが入ってくる。

お局ウーマン「社会マン、それまでにするのよ」

社会マン「お局ウーマン・・・!くっ・・・!中村!今日のところはここまでにしといてやる!」

社会マン 去って行く。

お局ウーマン「さ!中村くん、大丈夫?」

中村「あ、はいなんとか・・・大丈夫です」

お局ウーマン「そうよかったわ」

中村「あ、ありがとうございます」

お局ウーマン「全然いいのよ」

中村「あのまま、だとどうなってたか。本当、大変な目に遭いました」

お局ウーマン「・・・・・・」

中村「・・・・・・・あれ」

お局ウーマン「・・・中村君、もしかしてあれ?ただ怒られただけだと思ってる?理不尽に怒られただけだと?」

中村「(やべえって顔する)」

お局ウーマン「えー、あんなに言われてただ怒られただけって思ってるの、えー?信じられない!えー!うそー!!ちょっとありえないんだけど」

中村「え、違うんですよ」

お局ウーマン「何が違うの何が違うの何が違うの~?」

中村「いや、そういうことじゃなくて」

お局ウーマン「入社してから~ずっと見てたけども~中村君の態度って問題あるよね」

中村「いや、そうじゃなくて」

お局ウーマン「いやじゃなくて」

中村「はい・・・」

お局ウーマン「ずっと受け身だし。なんかさ、全体的に感謝の気持ちが足りてないじゃない。それがありえないんだけども~」

中村「(不服そうな顔をしている)」

お局ウーマン「なんか~もう~本当やってけないよ~この会社だけじゃなくて、社会全般において。わかるのー、私わかっちゃうんだよねー。本当わかっちゃうから~うん~うん~」

中村「ちょっと、戻して」

お局ウーマン「何言ってるの~まだ話合いは終わってないよ~」

中村「早く戻して!もう無理だから!早く現在に戻して!戻せ!戻せよ!!!」

 


巻き戻す音が聞こえる。

音に巻き取られるように消えていくお局ウーマン。

 


1人取り残される中村。

中村 巻き戻しの音の中、目を閉じている。

 


巻き戻しの音が止む。

目を開ける。

中村「・・・夢?」

 


7 心療内科

 


医者が入ってくる。

医者「それはどすねえ~抗うつ剤の副作用どす~」

中村「はあ・・・」

医者「抗うつ剤の副作用で悪夢をとにかく見るんどすよ」

中村「そうなんですか」

医者「抗うつ剤を飲むといわゆる浅い睡眠ばっかになるんどす。浅い睡眠の時に人は夢を見るんどすが、今って精神状態が最悪どすよね?」

中村「ええ」

医者「だから、どす。夢をよく見がちな上に、精神状態が悪いから悪夢を見がちなんどす」

中村「そんなことってあるんですか?」

医者「あるんどす」

中村「はあ」

医者「みんなによくあることどすからね。大丈夫、大丈夫、次第に悪夢は見なくなるどすから」

中村「そういうものなんですか」

医者「そういうものどす。にしても。」

中村「にしても?」

医者「想像力、豊かどすね」

中村「はあ」

医者「じゃあ、お薬の方増やしとくどすね」

中村「はあ?」

医者「もっと飲むどす」

中村「なんで」

医者「そういうものどす」

中村「そういうもの」

医者「そう。治したいどすよね」

中村「治したいです」

医者「じゃあ、増やすどすね」

中村「はあ」

医者「じゃあ、また二週間後に来るどすよ~」

 


医者はけていく

 

 

 

8 居酒屋

 


石渡が入ってくる。それと同時に大きくなる居酒屋の音。

石渡「あー待たせてごめんごめん。なんかトイレめっちゃ混んでて」

中村「・・・あれ?」

石渡「おい、どうしたぼーっとして」

中村「ここどこ?」

石渡「鳥貴族」

中村「へ?」

石渡「しっかりせえって。お前、そこまで病んでるの?」

中村「いや、さっきまで病院におった気がして」

石渡「ほんまに大丈夫か?」

中村「あー・・・大丈夫・・・」

石渡「無理すんなよ」

中村「うん」

石渡「最近は飯食べれてる?」

中村「まあ、意外と抗うつ剤飲むと腹が減るから食べちゃうんだよね」

石渡「そうか。食べれてるんやったら十分やわ」

中村「ってかいっしゃんは、どうなん?」

石渡「どうって」

中村「なんていうか、人生」

石渡「人生ってなんやねん」

中村「人生は人生やけども」

石渡「まあ、俺は、まあ・・・うーん・・・」

中村「大変?」

石渡「大変やな」

中村「残業とか多い?」

石渡「多いで-。毎日やわ」

中村「職場の環境はええの」

石渡「最悪」

中村「まじかよ」

石渡「上司は俺のこと嫌いだし、同世代はいないし、社内がぎすぎすしてるし、ノルマは多いし」

中村「まじで、大丈夫?病まへん?」

石渡「まあ、いまんところは」

中村「あの、なんで耐えれてるの?なんか秘訣あるの?」

石渡「秘訣言うたかって、まあ、なんとかやれてるってくらいやで」

中村「なんとかやれる?」

石渡「まあ、俺はな」

中村「辛くない?」

石渡「だから辛いよ」

中村「あのさ・・・もう、全部嫌になってしまわない?」

石渡「なんやねん、急に」

中村「全部が全部嫌になったりせえへんの?」

石渡「・・・なるよそりゃ。毎朝嫌やし、日曜の夕方から憂鬱になるし、謝ってるときとか何してるんだろうって思うけども」

中村「けども」

石渡「それを言ってたら、保たへんやろ、心が」

 

 

 

居酒屋の周りの音とノイズが大きくなって暗転。

 

 

 

9 卒業旅行

 


全員「最初はグー!じゃんけんぽん!」

 


明転

 


明るくなると古川がじゃんけんで一人勝ちしている。

 


古川「っしゃ~!」

3人「うーわつえ~」

古川「じゃあ、お題言うからなー」

3人「古川のお題むずいからな~」

古川「えーと今から、人工知能が自我を持ち始めたって設定でエチュードします」

3人「え、むずない?」

古川「で、私と、中村が人類で、石渡がマザーコンピューターで、田沢が死にかけのAIBO

田沢「ちょい、俺だけ難易度馬鹿高くない?」

古川「いくよー!よーいスタート!」

 


(2分ほどエチュードシーン)

 


古川 2分経つか、もうどうしようもなくなったら手を叩く。

 


古川以外3人「(感想を言う)」

古川「やっぱ楽しいなーこのメンバーでやるエチュード

石渡「毎回、死屍累々やけどな」

田沢「なんで俺だけ毎回むちゃぶりなん」

古川「ぜったい答えてくれるからやな」

中村「いやいや言うて毎回はずさへんからなー」

田沢「いや、おれ、必死やで?」

石渡「お前は必死な方が輝く」

田沢「なんやねんそれ」

中村「ってか俺らこれ4年で何回くらいやったんだろうな」

古川「えー、どれくらい?」

石渡「まじで100は普通に超えてるんじゃね?」

田沢「4人集まったら絶対にエチュードやってたからな」

中村「あほやな」

石渡「ほんまやで」

中村「大学生やったらもっとましなことしたらよかったのに」

古川「私はこれでよかったと思ってるよ」

石渡「えー?」

古川「こんな風に、すぐにエチュードできるような友人がおってよかったなーって思ってる」

田沢「めっちゃエモいこと言うやん」

古川「いやまじで。だってこんなん普通やらへんやん」

石渡「まあ、せやなー」

古川「だから、よかったなって、思ってる」

田沢「だからめっちゃエモいこと言うやん」

古川「ちゃかさんといてー」

中村「じゃあ、もっとエモいこと言っていい?」

石渡「何?」

中村「俺ら、この卒業旅行終わったらばらばらになるけども、また4人集まったら・・・エチュードやろな」

3人「えっも!!」

 

 

 

病院の受付「中村さーん一番へどうぞ~」

 


10 医者

 


病院で医者と話している中村

 


医者「中村さん、このテストを受けるどす」

中村「はい」

中村 テストを受ける。書き終わってテスト用紙を医者に渡す。

医者「中村さん。よく聞くどすね。中村さんは」

の声がどんどんフェードアウトして音楽が被さって(イメージ50/50と言う映画のがん宣告シーンみたいな感じ)医者の言葉は全く聞こえない。

中村は呆然とする。

一通り説明を受けた医者から薬を貰う。

貰ったまま動けない中村。

医者ははける。

 

 

 

中村 電話を取る

中村「はいもしもし。なに?おとん?どうしたん。ああ、ちょっとメンタルやったから休職することにしたよ。・・・大丈夫なんかって、何が?いや、クビとかそういう話をしてるんじゃないねん。行けなくなったから会社に。・・・だから、そんなに休んで大丈夫なんかじゃないねんって、そもそも行けなくなったって言ってるやろ!もうええから!あーわかったわかった!!あーもう!!」

 


電話を切る

 

 

 

中村「ああーくそ!」

中村がいらだって部屋を歩いてると歓声が聞こえる。

 


ナレーター「さあ始まりました!メンヘラストラックアウト!父親の心無い言葉で傷ついた中村選手は怒りにまかせて何を投げるのでしょうか。おっと、紙くずを手に取った。投げるか!いや、投げない!本を手に取った!その本はまだ読んでないやつだぞ!投げるのか・・・!いややっぱり投げない!このまま何も投げずに終わるのか!おっと・・・冷蔵庫に向かいましたね・・・お茶でも飲んでクールダウンするつもりですね。これはノーゲームでフィニッシュか!おっと氷を取りだそうとしてますね、あっ!氷が固まってとれない!いらだちが高まっていきます!あ!氷を掴んで!投げたー!投げたー!投げたー!(ここの三連発、中村はアングルを変えるみたいに体を動かして)見事壁に氷がストライク!!!怒りの二枚抜きだー!!ではメンヘラストラックアウトまた次回お会いしましょうー!」

 


中村 肩で息をしながら、横になっていく。

 


中村「くっそくそくそ!!」と太ももを殴る。

痛がる中村。

 


中村「あーなんでや!なんでや!なんでや!なんでや!」と叫びながら徐々に泣き声になっていく。

 


電話の音

 


中村 電話を取る。

 


田沢「俺や」

中村「田沢」

田沢「今週の土曜空いてる?」

中村「空いてるけど」

田沢「すき焼きするぞ」

中村「え、どこで」

田沢「おまえのいえで」

中村「はあ?」

田沢「いや、だって、移動させるのわるいやろ?」

(と言いながら、徐々に徐々にすき焼きがセッティングされていく)

中村「いや、でも」

田沢「大丈夫、大丈夫。ほら、ほらみてみ、セッティングされていくやろ」

古川「中村くん、心配せんでええよ」

石渡「俺らがやったるから大丈夫大丈夫」

中村「あ、ありがとう」

田沢「じゃあ、というわけで、すき焼きスタートしよか」

石渡「ちょいちょい~、まだできてないって!」

田沢「まじで!」

古川「田沢はいつもせっかちやからなあ」

田沢「ごめんやんごめんやん」

中村以外の3人が笑う。

中村「あのさあ」

3人「なに?」

中村「これって、現実?それとも悪夢?」

3人 間をおいてから笑う。

古川「もうーなにいってんの現実に決まってるやんか」

石渡「この日にやろうって前から話してたやんか」

田沢「やっぱ中村疲れてるねんな」

中村「いや、わかってるねんけども、なんか頭がぐちゃぐちゃしててな」

古川「今日は食べよ!食べて元気だそ」

石渡「肉いっぱい買ってきたからな!好きなだけ食べれるし!」

中村「ありがとう」

田沢「あっ!あとで石渡と古川は俺が立て替えた分払えよ」

石渡「ごちになります」

古川「なります」

田沢「おい、まじで、やめろって!絶対にはらえよ!」

中村 笑う

3人黙る

中村「いや、本当ありがとう。俺のためにこんなのすき焼きなんて開いてくれて」

石渡「いいよ、いいよー。別に気にすんなって!」

古川「中村のことみんなで心配していたし」

田沢「ほんまやで、まさかこんなことになるなんておもわんかったからほんまに心配してるんやで」

中村「それは、俺も同じ」

 


四人笑う

 


石渡「だんだん出来てきたんちゃう?」

古川「あ、いいにおい」

田沢「夢いっぱいやな」

中村「夢あるなあ」

石渡「卵回すわ」

田沢「おっ、さんきゅー」

 


4人に卵回っていく。

 


田沢「そういえば卵のいい割り方って知ってる?」

中村「え、そんなんあるの」

田沢「あんねん」

石渡「割り方なんてなんでも一緒ちゃうん?」

田沢「一緒ちゃうねんちゃうねん。大学でそういう研究」

古川「え、どこの大学?」

田沢「早稲田」

古川「うっそ~」

石渡「アカデミックすぎひん?」

田沢「それがほんまやねんって。まあ、学生がやってたやつやけど」

中村「なんや」

田沢「でもでも、ここからやねん。話は。でね、俺らこれまで卵割るときに斜めからいってたでしょ、こういう感じに」

石渡「はいはい」

田沢「だめなんだって」

古川「え、これじゃだめなん?」

田沢「無理、生きていけない」

古川「そんなに?」

田沢「正しいやり方は、これ(90度に振り下ろすモーションを行う)」

中村「なにこれ」

菅原「90度」

石渡「は?」

田沢「は、じゃねえって。90度がいい角度なんだよ」

古川「えーなんか思ったのと違う」

田沢「逆にどういうの想像してたんだよ」

古川「なんか、すっごいやつ」

田沢「うっすいなあ」

石渡「で、90度がいいの?」

田沢「そう。まじで。90度の角度で90度の物にぶつけるのが、卵が一番よくわれるんだって。」

古川「へー」

石渡「怪しいなあ」

田沢「いやいやいや、90度、いい悪いべつにして、俺ら新しいこと取り入れていかないとやべえぞ。脳細胞すぐ死ぬぞ」

古川「これくらいで脳細胞死ぬんだったら死んでいいかな」

田沢「脳細胞殺しに行くなって」

 


中村 90度で割る。

 


石渡「あっ」

田沢「中村、あ、今の90度?」

中村「うん」

田沢「どう、割りやすい?」

中村「あー、まあ、なんか割りやすかった」

田沢「ほら!」

中村「気がする」

古川「ほらー」

田沢「えー」

中村「あーでもこっちの方が割りやすいよ。なんかぱかっていったし・・・」

古沢「田沢、中村に気つかわせてるやん!」

田沢「あー!気をつかわせちゃだめなときにすまんな!俺わかんないしそういうの!」

中村「いや気にせんで、本当、うん」

 


4人 なんとなく間が生まれる。

 


石渡「・・・あー。とりあえず食べよか。」

古川「食べよ!食べよ!」

田沢「あー俺、取り分けるわ!中村!肉多めの方がええよな!」

中村「あ、ありがとう」

石渡「元気出るし肉食べとけよ~」

古川「さっきも言ってたけど、今日肉いっぱいあるし、遠慮ええからね」

中村「ありがとう」

石渡「遠慮するなよー」

田沢「じゃんじゃん食べろよー」

中村「ありがとうー」

 


とりわけてもらっている中村にスポットライトがあたる。

(その間に3人は部屋に置いてある人形をそれぞれ持つ)

 


中村「こんな風に、友達に親切にしてもらっているのに、頭の中では、ずっとお医者さんから言われたことがぐるぐると回っていた。ついに言われてしまった言葉を。あの言葉を」

 


うさぎ(石渡)「中村ぴょん!あなたの病名を言うぴょん!」

中村「はい」

ねこ(古川)「あなたの病名は発達障害だにゃん!」

中村「発達障害?」

ペンギン(田沢)「いわゆるADHDってやつぺん~」

中村「ADHD?」

うさぎ「注意力欠如多動性障害だぴょん」

ねこ「忘れ物が多いことも」

ペンギン「ミスばっかりしてることも」

うさぎ「段取りができないことも」

ねこ「学校でうまくいかなかったのも」

ペンギン「就活うまくいかなかったのも」

うさぎ「社会にでてうまくいかなかったのも」

ねこ「全部、全部、あなたが発達障害だったからだにゃん!」

中村「それって、治るんですか?」

うさぎ「治らないぴょん!」

ねこ「一生付き合っていくにゃん!」

中村「え・・・」

ペンギン「というわけでこの薬を飲むんだペン!」

中村「なんですかこれ?」

うさぎ「ストラテラだぴょん」

中村「これを飲めば治るんですか?」

ねこ「だから治らないにゃん」

ペンギン「でも、押さえることができるペン」

うさぎ「その代わり」

ねこ「想像力は押さえられる」

中村「はあ」

ペンギン「あなたの頭を静かにするんですから、それくらいひつようでしょ」

うさぎ「中村さんがまた社会に戻るためには必要なんです」

中村「社会に適応するためにはその薬を飲まないとだめなんですか」

3人「だめです」

中村「あ、はい」

3人「じゃあ、飲んでくださいね。社会に適応するためだから」

 


3人は消えていく。

 


中村「僕の手元には薬だけが残った。これを飲めば、僕の頭の中は静かになって、それで社会に適応できるらしい。でも、でも、でも」

 


照明が戻る。

3人は飯を食べてる。

中村はうつむいている。

石渡「・・・中村?」

古川「どうした?」

田沢「どうかしたか?」

中村「・・・俺、この前、病院行ったんだよ。そしたら、発達障害って言われて・・・正直、わけわかんなくて、でもこれまでのことを考えたら、全部あてはまっててさ。あ、俺の生きづらかったのってこのせいだったんだってわかって。楽になったよ。正直、楽に。でもさ、同時に薬出されて。これを飲めば社会に適合できます~なんて言われて。あー俺って薬漬けにならないと社会には適合できないんだーって思っちゃって。ばからしくなっちゃった。なんかさ、もういいやーって思っちゃった。」

石渡「・・・何が?」

中村「もう、生きていくのが馬鹿らしくなった。」

 


 


中村「あ、死にたいってわけじゃないよ。死にたくはない。痛いの嫌だし。でも、もうなんか、嫌だ。何もかも嫌だ。発達障害も、薬漬けにならないと社会に適合できないって言われるのも、こんな生活も、こんな身体も、こんな人生も、全部全部嫌だ。だから、もういっそのこと壊れて欲しい」

石渡「えーと、やっぱり何が?」

中村「世界が」

そういった瞬間から、徐々に照明が変わっていく。

そして音響もまじっていく(ビームの音や爆発音)

中村「なんかさ、ある日突然、宇宙人なんかがやってきて、あ、世界をめちゃくちゃにしていくんだよ。ニューヨークは消滅、ロシアは宙に浮かんで、ドイツも全国民が液体になってとか、そんな風に。もうめちゃくちゃにやられるの。で、俺も、その中で、死ぬ。そうしたら、死ねる。消えれる。この世界も消えるし、俺も消える。でもさ、そんなことしたら・・・みんなも消えちゃうんだよね」

(照明、音響戻る)

 


 


中村「だから、そんなことを考えてる自分も嫌になる。もうね、どこにも動けないんですよ。なんか、もう嫌だなー。全部嫌だなー。あ、本当ごめん。飯中に、こんな話して。食べよう。食べよう・・・ってむりか、こんな重たいこと言った後に。あー、もうほんとう嫌だ」

古川「私ね、今の職場の50歳のばばあが毎日死ぬことを想像してる」

みんな古川を見る

古川「その50歳のばばあ、本当頭おかしくて、毎日私にぐちぐち言ってきて、そのくせ、自分は新しい仕事のやり方とか学ぼうとせず、全部私に振って、仕事をやったらやったで「若い子はいいね~すぐ覚えれて~」とか言ってきて、その癖自分は歳の甲だとかなんだとか言って、この会社を回してるのは私だ~とか言い出して、はぁ何言ってんだよって、私だから、毎日想像してる。殺し方想像してる。首を絞めて殺したし、ナイフで腹を何回も刺したし、煮えたぎった油をぶっかけたことも、あと、裁縫針でちくちくと刺し殺したりとか」

田沢「うわ、それ痛え。想像したくねえ」

古川「ちくちく、ちくちくーって」

田沢「あーやめて。マジで無理」

古川「もう毎日殺してるうちに、本当キツくなってきた。もう、私も限界だなーって思ってる。私さ、言ってなかったんだけども、今度ついに心療内科行くことなって」

 


 


石渡「・・・まじで」

古沢「うん」

中村「・・・予約取るの難しかったでしょ」

古川「難しかったー。二週間後しか無理ですーって言われて難儀だったー」

中村「キツいの今だって言ってるのに、そっから二週間とかキツいよね」

古川「うん。だから今、本当限界(笑いながら)」

中村「あー」

古川「だから、中村くんが言った、もう全部壊してしまいたいーってのすっごくわかる」

田沢「俺は、そういうのは無いけども。でも、たまによ、俺の人生ってこんな風に終わっていくの?って日々思ってる」

3人「あーわかる」

田沢「なんかさ、もっと人生ってすげえ可能性に満ちてた気がしたんだけども。もう、どんどん収束していってる感じが日々してて。だから、俺も、共感はしたよ。今の中村の言葉。でも、俺も死にたくはないなー」

中村「ふふふ」

石渡「あ、これだと俺もなんか言う流れか」

古川「流れとかないよ」

石渡「でも、なんか言っておくよ。俺はこの前中村と飲んだときにさぽろっと言ったけども、まともに受け止めると限界だと思ってて、でもそれって裏返せば、まともに受け止めきれないことを日々やってるってことじゃん。だから本当くそだなって思ってる」

古川「なんだ、みんな限界じゃん」

 


4人笑う。

 


中村「そっか、みんな限界だったんだなー」

田沢「俺らやっぱ気い合うな」

石渡「合わんかったら、こんな長いこと付き合いないよ」

田沢「そっか」

中村「でも、どうしよね。こんな限界だったら」

古川「・・・エチュードしない?」

石渡「はあ?」

古川「やろうよ、エチュード。そのさっきの中村の考えてた妄想のエチュード。一旦、想像上でも世界壊しちゃおうよ。」

石渡「なんで?」

古川「一人だと、気が狂っちゃうけども、みんなでやればそれはエチュードになるんだよ。それって凄くない?そうやって書き換えようよ」

田沢「何を?」

古川「みんなが嫌な現実を!一旦壊しちゃって、それから、もう一回頑張ろうよ。想像力で、壊して、書き換えようよ!」

中村「・・・でも、俺はみんな殺すのは嫌だし」

古沢「だから、逆の」

中村「逆?」

古川「中村が、私たちを最終的に守るエチュード。そしたら、世界も壊せるし、みんな助かるし、一石二鳥。中村、エンディングは変えれるんだよ!」

中村「・・・やるか。エチュード

田沢「じゃあ、やる?」

中村「うん」

田沢「とりあえずすき焼き食べよか」

中村「OK」

 


4人 ばくばく食べ始める。壮大な音楽が流れながら暗転する

 


明転すると、田沢が卵を持っているしゅごーと言っている。

 


田沢「卵星人だエッグ~、世界を壊すでエッグ~」

田沢の渾身のビーム音。

その後、うわー!という人々の声

 


田沢「まずはアメリカを燃やしてしまうでエッグ~」

石渡「あっ、豊かな国のアメリカが、燃やされていく!」(石渡はタンクトップ姿になっている)」

古川「きゃー!きゃー!」(白衣に眼鏡の姿)

田沢「次はロシアを宙に浮かしてやるでエッグ~」

石渡「あっ!豊かな大地を持つロシアが宙に浮かんでいく!」

古川「きゃー!きゃー!」

田沢「次は若手社員をいびることに生きがいを感じている老害を全員、粉にするでエッグ~」

石渡「あっ!若手社員をいびる老害がみんな粉になっていく!!」

古川「しゃーっ!しゃーっ!」

石渡「このままじゃ、俺たちに勝ち目はないのか・・・」

古川「石渡軍曹、例の兵器を使う時ではないでしょうか」

石渡「古川博士・・・!よし、あの兵器を使う時だ!最終兵器中村いけー!」

中村が入ってくる。

中村「とぅ!最終兵器中村登場!」

石渡「(無線のような手つきで)どうだ、最終兵器中村、準備はできてるか?」

中村「ああ!いつだって、戦場にもピザの配達にもいけるぜ」

古川「(キーボードを叩く手つきで)システムオールグリーン!最終兵器中村出動します!」

石渡「いけー中村!あの卵野郎をぶちのめすんだ!」

中村「とおっ!」

田沢「おお~なんか妙な兵器があらわれたでエッグ~」

中村「俺が来たからには好きにはさせないぜ、うぉら!」

中村、田沢に攻撃するが、田沢の華麗な動きに翻弄される

 


中村「くっそ!攻撃がきかないどころか、今の動きのせいで、石渡の会社が潰れてしまった!」

石渡「なんてことだ!」

古川「コラテラルダメージよ!」

 


もう一度攻撃する

 

 

 

中村「くっそ!攻撃がきかないどころか、今の動きのせいで、田沢の会社が潰れてしまった!」

石渡「なんてことだ!」

古川「コラテラルダメージね!」

中村「石渡軍曹!全くこいつに攻撃がきかねえ!どうしたらいいんだ!」

石渡「くそ・・・あの卵野郎・・・うん、卵・・・?90度だ!!」

古川「はっ!!割れやすい角度こと90度!」

石渡「最終兵器中村!よく聞くんだ!・・・90度だ」

中村「90度・・・はっ!了解だぜ軍曹!うおー!」

田沢「やめるでエッグ~!」

中村、田沢の腕から、卵を取って、取り皿で割る。

 


石渡「やったー!」

古川「やりましたね!」

中村「やったぞー!!」

田沢「・・・ふふふ・・・ふふふ・・・」

中村「・・・何・・・?」

田沢「まだ私の真の正体に気がついてないですね・・・」

中村「何?」

田沢「私の真の正体・・・それは・・・(服を脱ぐと下に社会マンと書かれたTシャツ)社会マンだ!!」

中村「なんだって!!」

石渡「なんてことだ、やつは、やつは・・・」

古川「社会マンだったなんて!」

田沢「エンド・オブ・マンカインド!」

 


田沢の攻撃に中村やられる

 


石渡「最終兵器中村!」

する「最終兵器中村が社会に負けてしまう!」

田沢「中村~社会に負けるがいい!」

田沢 大きく拳を振り上げる。

古川「いや~!」

 


田沢の拳をキャッチする中村

 


田沢「何!」

中村「俺は、社会には負けやしない!俺は、社会には、負けやしない!俺たちは社会には負けやしないんだ!!」

田沢「なに~!」

中村「俺も、石渡も、古川も、田沢も、みんなも、こんな社会には負けやしないんだ!!俺たちは無敵なんだ!!そしてこれは俺たちの光だ!!」

 


そういって、部屋の隅っこにあった自転車を持ち出す。

立ちこぎで漕いで光を出す。

 


中村「ヒューマン・ライツ!!」

ともるライトの光 そしてそれに呼応する照明。

 


田沢「うわー!光にきえていく~しゅわ~!」

田沢 社会マンのTシャツを脱ぎ捨てる。

石渡「やった-!社会マンを撃破したぞ!」

古川「ありがとうー!最終兵器中村-!」

石渡「ありがとうー!」

 


撃破し、照明は元に戻る。それでも、自転車を全力で漕ぐ中村。

 


石渡「中村?」

古川「中村くん」

田沢「中村」

中村「俺も、石渡も、古川も、田沢も、ここにいない友達も、もう会えなくなった友達も、みんな、みんな頑張れ」

石渡「中村」

中村「俺、頑張るから!とにかく頑張って生きるから!」

古川「中村くん」

中村「とにかく負けんな、逃げてもいいから絶対に負けんなー!」田沢「中村ー!頑張れ-!」

石渡「中村頑張れ!」

古川「中村くん頑張れー!!」

中村「俺は、この世界が嫌いで、この社会が嫌いで、何よりも自分が嫌いだけども、それでも、たまに、こんな嫌いな世界でも、社会でもなにより自分でも、いいなって思う瞬間があって、その瞬間のために生きてて、でもそれって、しんどいのとか、つらいのとか、そんなのに比べたらあまりに少なすぎて!でも、それでも、その一瞬間が、あまりに愛おしいから!今みたいに、友達が一緒に遊んでくれることや!美味しい飯を食べたときや!手をつなげた時や!夜の三時のなんてことない空気や!そんなの、そんなのをまだまだ味わいたいから!みんなにも味わって欲しいから!だから頑張れ!みんな頑張れー!!」

3人「頑張れー!!」

 


音楽流れる。世界が一瞬、光り輝くような照明。そして暗転。その間も、自転車のライトは光り続けていて。そして、ライトも消える。