にゃんこのいけにえ

両目洞窟人間さんが色々と書き殴ってるブログです。

『マイティ・ソー バトルロイヤル』を見た。

マイティ・ソー バトルロイヤル』を見た。

 f:id:gachahori:20171107220107j:image


マイティ・ソーの三作目で、アベンジャーズやらを考えると…何作目になるんだろう。もう膨大すぎてわかんないっすよね。そんなマーベルシネマユニバースの中の1作品。
とても面白い映画でした。

今作は『マイティ・ソーの路線バスの旅』みたいな映画で、突然思いがけない場所に落とされたマイティ・ソーが目的地までなんとか帰ろうとするって内容。蛭子さん的な立ち位置はハルク。
「いやんなちゃうよねー」とマイペースにめちゃくちゃなことをしちゃう蛭子ハルクに対して太川陽介ソーがツッコミながらの珍道中。ヒロインはもちろんロキだ。

 

 

実際、結構なことが劇中起こっているのだけども、全体的に漂うコントっぽさがいい意味で深刻さを中和していて心軽く見ることができる。
監督タイカ・ワイティティはマーベル随一のぼんやりシリーズマイティソーを今作で笑う犬もびっくりなスペースコントに昇華。
結果としてキャラクターが全盛期のウッチャンのコントキャラクターのように生き生きしまくる映画になっていた。

 


一作目は異文化コミュニケーションギャグ、アベンジャーズではシェイクスピアギャグ、二作目では地下鉄移動ギャグ、アベンジャーズ2では温泉入浴悟りギャグとこれまでシチュエーションギャグに頼っていた雷王子様のマイティ・ソーも今作では自身のキャラクターを開花させ、ギャグとしてもストーリーとしても一皮むけていた。

 

 

今作の見どころを語っていきたい。何よりの見どころはケイト・ブランシェット姐さんの怪演であろう。

f:id:gachahori:20171107215853j:image


ヘラ様という戦隊ものの敵女幹部のような出で立ちで登場するやいなや、圧倒的な戦闘力で浅野忠信率いる軍隊を壊滅。浅野忠信は頑張るも殺されてしまった。死ぬのは今日であった。
そんなヘラ様を見た瞬間、心の底から「ビンタされたい」って気持ちが湧き上がった。キャロルでケイト・ブランシェットを一目見たルーニー・マーラーの気持ちになっていた。ケイト・ブランシェットになら世界燃やされてもいいでしょまじで。

f:id:gachahori:20171107220034j:image

 

見どころのもう一つがジェフ・ゴールドブラム。あのハエ男、もしくはマルコム博士、もしくはセクシーオブザイヤーに輝いたとかどうとかそんな話があった人。

そんなジェフ・ゴールドブラムがある星のリーダーなのだけども、その怪演っぷりよ。

f:id:gachahori:20171107220050j:image
「今から殺し合いをしてもらいます」とたけしばりになんだこのやろうなことを言ってるのだけども、その最中シンセサイザーを弾き始める。パ〜〜と音がなる。なんだばかやろう。

 


そしてその星のデザインも素晴らしい。見渡す限り一面のゴミ、ゴミ、ゴミ。いわゆる夢の島なゴミ溜めなのだ。
莫大な金をかけて作られたゴミの景色にたまらないものを感じてしまった。
このあたりは私のフェチなので、気にしなくてもいいが、作られた汚い世界が好きな人はぜひこのシーンだけでも見てほしい。

 

 

音楽好きにはたまんないのがレッド・ツェッペリンの『移民の歌』という大ネタ中の大ネタの使い方だ。デンデデンデンデンデデンとあのイントロが聞こえた瞬間、スクリーンに映し出される一大アクション絵巻。「あっひゃ〜〜気持ちいいぃ〜」とシャブを打たれたジャンキーのように歯をカチカチ鳴らして喜んでしまった。
苦役列車森山未來が言ってたところの「てめえが暴れてるような気になれる」アクションがあるのでそういうのが見たい人の期待は勿論裏切らない。

 


改めて今作を見て、壮大な連載漫画として楽しむのがマーベル映画の楽しみ方なんだなと思った。
1話に100億〜200億かけた連載漫画だ。しかも、歴史的にファンも多いキャラクターの中の人は名優ぞろい、作画担当こと監督は新進気鋭を起用となにせ噛みどころが多い。
ヒップホップアーティストのPUNPEEも「今、リアルタイムで追っていたら10年後自慢できる」と言っていたのは本当だろう。映画のシリーズ化は多くあれど、映画の連載漫画化は初めてだろう。
そしてそんな連載漫画もいよいよ佳境みたいである。
次は新連載の『ブラックパンサー』、その次は合併号の『アベンジャーズ インフィニティウォー』だ。
こんな風に数ヶ月先に楽しみがあるというのはとてもいいことかもしれない。
何百億もかけてヒーローの話を作って、それに多くの人が駆けつけるのは、それが楽しみで仕方ないからだ。
そんな風に楽しみを週刊漫画のように次々と映画で供給できるような作り上げたマーベルってやっぱやばいなと思いつつ、この世の憂さに潰れてしまいそうになる私は次の楽しみを待つことにする。勿論その時に聴く音楽は移民の歌だ。デンデデンデンデンデデンデンデデンデンデンデデン。

DAOKOを聴いたら『ひかりをあててしぼる』を思い出した話

 YouTubetofubeatsの動画を流していたら、水星を契機にDAOKOに行ってしまって「わしはtofubeatsが聴きたいんや」と怒りを感じながらDAOKOをぼんやり聞いてたら、80's風味を感じる楽曲が流れてきて、そういう音は私好きよ!と聞き耳たてたら「渋谷交差点〜」ってサビで、なんだこの曲となった次第。

https://youtu.be/P5cI2Phbv8Y

 DAOKOのShibuyaKって曲なんですけども、そんなにみんな渋谷へ強めの感情を抱いてるんでしょうかとなってしまった。

だって梅田でそんな曲ないじゃないですか。「ビッグマン前〜」とか歌わないじゃないですか。

というわけで根強い渋谷信奉は一体なんなのだろうと思ってしまった。

 そんなことを思っていたら『ひかりをあててしぼる』って映画を思い出したのでその話をしてみたい。

 

 

 以前に見た『ひかりをあててしぼる』という映画はエリートバラバラ殺人事件という実際にあった事件を元に作られた映画だった。

新宿・渋谷エリートバラバラ殺人事件 - Wikipedia

誰もが羨む側から見ればいわゆる勝ち組夫婦だったのに何故妻は夫を殺害して死体をバラバラにしなくてはいけなかったのか?
とその謎に迫る映画であって、その殺害に至る大きな要因であったDV描写も迫真なものであって、鑑賞に痛みを伴うほど重たい見応えのあるものだった。

ただ、不満がいくつかあって、徐々にその妻の描き方を「理解できないモンスター」になっていく。
最初は経歴を偽っていた夫を執拗になじるような人間的に嫌な部分がある妻だったのに、DVを経て殺人に至ると下着姿で「ばっちこーい!」な気概でのこぎりで死体を切り出す始末で、新たな殺人鬼像としては素晴らしいなと思いながらも、妻を理解のできないモンスターとして描き始めたのはもにょってしまった。
下心見え見えで助けてくれようとした夫の友人を執拗に以上に詰った後に、その友人が「繋がろうとしたのは、暴力だったのかもしれないな…」とわかったようなことを言っていたけども、実際えぐいDV起きてましたやん、繋がりが暴力だとかふんわり概念の話をするまでもなく、えぐい暴力起きてましたやん。
それを例え下心があったとしても手を差し伸べようとしたら「暴力だ!」って描き方はそれはどーうなんだい?と心のなかやまきんに君がマッスル叫んでいた。

 


映画のラストはバラバラにした死体の一部を持って妻がタクシーに乗って、住んでた渋谷から出るってところで終わるんだけども、そこでタクシーの運転手からは「なんか匂いますね」って言われて、妻は「そうですか?」と不敵な笑みを浮かべるだけなんですよ。
これ、元の事件にもあったエピソードなんですけども、元の事件だとタクシーの運転手にそう聞かれて妻は不敵な笑みを浮かべる余裕もなく動揺してしまってそのまま降りてしまうんですよ。
なのでこのエピソードの取捨選択からもわかるように、妻を完全無欠のモンスターとして描く方に舵を切ってるんですよ。

 


その見た回で監督の舞台挨拶があって、このラストについて「渋谷から出ることで渋谷から解放してあげたいと思った」って言っていて、それは言うなればその彼女の行動原理でもあった見栄や消費社会での生き方からの脱却をさせたかったってことかもしれないんだけども、なんかそういう風に「渋谷から〜」と言っていたのを見て監督めちゃくちゃ東京人っぽいなと思った。
今、そんなに渋谷って特別な街でもないじゃないですか。
何度か訪れても人がめちゃくちゃに多い以外は何かが特別な街だとは思えない。
それは一番の全盛期の渋谷ってのを知らないからかとしれないけども、この渋谷に縛られてしまうと思ってしまうほど強い磁場があるような場所には思えなかった。
まだ異界へのゲートとしての役割を持っていた白石晃士監督の『オカルト』や怪獣コラテラルダメージ大災害としての場で描かれた『ガメラ3』、ワイドショーのお天気コーナーを乗っ取り世間に犯行声明をいう場として描かれた『攻殻機動隊 S.A.C』、そして"様々な人々が行き交う"という場所そのものが生き物であるという描かれ方だったゲーム『428』。これらの渋谷の描き方の方がしっくりする。ただこのラインナップのボンクラっぽさに頭がくらくらする。

 


むしろ変に「渋谷」というか、消費社会だの、そんなものを彼女に背負わせなくてよかったんじゃないだろうか。
度重なるDVの果てに夫を殺しバラバラにした妻。これだけで勝負してもよかったのでは。
なにか飛び抜けたモンスターであったとか、その彼女の姿をメタファーのように用いらなくても、追い詰められた末に殺人をしてしまい、死体をバラバラにして、その処理に困ってしまったというのを真っ直ぐに描いてもよかったのではないだろうか。

殺人なんてのは、一生関わるものなんかじゃないって思っている。けども、もし自分がそれに関わってしまったら?それも犯人という立場で関わってしまったら?という視点を追体験できるのが創作物の醍醐味だと思う。
なので、理解のできないモンスターという描き方になって観客から遠くの場所に行ってしまった瞬間、物凄く寂しく感じた。
ただの一介の保険セールスマンが稀代の犯罪者に転がり落ちてしまう『ファーゴ』のような描き方でこの作品を作ってもよかったのではないかとも思ったりしちゃったりなんかしたり。


ただ、妻を演じた派谷恵美さんの演技は本当に凄まじくて必見だったのです。DVを受けてる最中に精神が一線を超えてしまって笑ってしまうって演技では背筋が凍ってしまいましたし、何より下着姿で死体処理するシーンはホラーモンスターとして後世に語り継がれるほどフォトジェニックだった。


なので、なにが言いたいかと『ひかりをあててしぼる』って映画、面白いですよ。

 

https://youtu.be/fuK8GewYfuQ

 

ひかりをあててしぼる [DVD]

ひかりをあててしぼる [DVD]

 

 

 

「お前は人として何かが足りない捜索隊」

電車の前の座席に神妙な顔をしたカップルが座っていた。女は一点をずっと観続けていて、男はその女に時折耳元でなにかをささやいていた。
そしてお互いの手を大事そうに握り合っていた。
そんな光景を『銃・病原菌・鉄』を読みながらちらちら見ていた。
というより、ちらちら見えた。
我々はどこから来てどこへ向かうのかな『銃・病原菌・鉄』が高尚すぎて頭に入らない分、目の前の神妙な顔つきのカップルの行動が入ってくる。
なぜそんな顔つきで電車に乗らなきゃいけなかったのか。なにがあったのか。なぜ女の方は一点を凝視しているのか。男は耳元で何を囁いているのか。
そして全体的にそのカップルに漂う主役感は一体なんなのだろうか。
一切わからないまま電車はある駅で一気に人が乗って、気がついたらそのカップルはいなくなっていた。


まともに彼女がいたことないですって話をすると、大抵の場合「お前は人として何かが足りない捜索隊」が作られて、僕はロズウェル事件の宇宙人のようにあちこちを解剖される。あれが足りてない。これが足りてない。あれをやってないから。これをやってないから。
最終的にその捜索隊は「もっと頑張れ」と僕にエールを送って、現実に送り出す。律儀にわかりましたと答えて現実に出てみてもどうすればいいのかわからない。


一年以上前のこと、人に誘われてクラブイベントに行ったらブレイク直前のアキラ100%が出演していた。
受けに受けたネタの後に「今日、一人で来てるってやつ、手を挙げて!」
と手を挙げた。
「おい男!一人で来てるって女性がこんなにいるんだから声かけておけって!俺にわーわー!言ってる場合じゃないから!」
と叫んでいた。
僕は手を叩いて笑って、誰にも声をかけずに帰った。

 


『オタクは彼女もできたことないから女性の服の相場もわかっていない』みたいなことがTwitter上で回っていて、それについて多くの人達がプライドで作った牛骨で殴り合っていて、阿鼻叫喚の大惨事になっていた。
僕も女性の服の相場なんてわからない。
この前にコム・デ・ギャルソンの服が可愛いと思って値段を調べて目が飛び出て顔が溶け落ちるほど驚いた。
身なりにお金をかけられる人って、外見としてなりたいようなモデルがあって、その目標に向かって自分を構築しようとしていて、それは物凄いことだなと思う。
いうなれば自分の視点なんて3人称には一切なれない、年がら年中POVな主観視点なわけで、鏡やスマホのインカメラがなければ自分の外見なんて見ることができない。
ということは脳内に既にモデリングしてある自分があって、そこになりたい目標を重ね合わせて、実際に行動に移し、鏡等でリアルタイム修正しているわけで。どっひゃー。
なので、そんな風に身なりを整えてる人はめちゃくちゃ凄いと思うのです。

でも、だからと言って身なりを整えていない人達をプライドで出来た牛骨で殴っていいわけではないし、なによりも彼女が出来たことないのを、光る弱点を見つけた勇者のように突き続けるのは良くないと思うのです。
逆もしかり。身なりにお金をかけている人をプライドの牛骨で叩くのはよくないし、そこから男女間論争になるのはもっとよくない気がする。

 

 

「あの子、今別れたばっかで弱ってるから、声をかけたら」
と以前言われた時に強烈に拒否反応が出てしまった。
それは人の心を弄んでるみたいで気味が悪いと思ったのだった。
それがありなら、人の弱みに付け込んで洗脳するのと何が変わらないんだろう。北九州一家殺人事件の犯人と縮小したサイズじゃないか。
でも、そんな僕も何も変わらない。たまに自分の弱さを見せびらかして、それで助けてもらおうとしている。つまりやっていることは何も変わらない。僕のどこかにも北九州一家殺人事件の犯人がいるはず。

 


時折、分からないことが多すぎて疲れてしまう。分からないことを分かるためにやっぱり本を読むべきなんだろうと思う。
我々はどこから来てどこへ向かうのか。
そのためにも『銃・病原菌・鉄』を早く読まなきゃいけない。上巻だけで一ヶ月以上かかってる。
色々思い悩む前に腰を据えて読書を出来る力をまずは手に入れなきゃいけないのかもしれない。はー。めんどくさい、めんどくさい。

 

f:id:gachahori:20171107014311j:image

 

 

短編小説『宇宙ネズミ、地球を侵略する』

『宇宙ネズミ、地球を侵略する』

 

「ぺるぺるぺるぺる」と宇宙ネズミは僕に話しかける。意味はわからない。
しかしここ1時間、宇宙ネズミは僕に銃口を突きつけながら時折「ぺるぺるぺるぺる」と言うのだった。
僕は仕方なく、両手を上げ続けているが、1時間も両手を上げ続けるのはとてもしんどい。
プルプルと筋肉は振動しているし、指先の感覚もなくなってきた。
「ぺるぺるぺるぺる」
「だから、わかんないんですよ」
「ぺるぺるぺるぺる」
「あーもー」
「ぺるぺるぺるぺる」
先程から宇宙ネズミが語りかける「ぺるぺるぺるぺる」にはいくつかの変化点がある。
怒気が含まれているような「ぺるぺるぺるぺる」。
穏やかな口調の「ぺるぺるぺるぺる」。
早口の「ぺるぺるぺるぺる」。
低い声の「ぺるぺるぺるぺる」。
多分、感情を乗せて伝えようとしているのだろうが、僕には「ぺるぺるぺるぺる」という音以外は何もわからないのだ。


宇宙ネズミに出逢ったのは河川敷でぼんやりしていた時だった。
川を見ながらぼんやりしていると、宇宙ネズミが突然川から現れて、僕の隣にやってきて、銃口突きつけて「ぺるぺるぺるぺる」。
全く意味がわからなかった。
そもそも、僕が河川敷でぼんやりしていたのはこの先の人生が全く見えなくなってしまったからで、僕の人生まじで無意味だなどうしようかなとなっている最中にさらにどうしようかなってことが起こってしまったのだからタチが悪い。

「あのー、なんか、翻訳機とかないのですか?」
「ぺるぺるぺるぺる」
「僕には"ぺるぺるぺるぺる"しかわからないんですよ」
宇宙ネズミの目が光った。
「ぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺる」
突然まくし立てる宇宙ネズミ。
なんだなんだ。何が彼をさせたんだ。
「"ぺるぺるぺるぺる"って言われてもわかんないんですよ」
「ぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺる」
もしかして、僕が"ぺるぺるぺるぺる"と言ったから話せると勘違いしているのか。
しまった。いつも僕は間違えてしまうんだ。
「ぺるぺるぺるぺる。ぺるぺるぺるぺる。ぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺる。ぺるぺるぺるぺる。ぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺるぺる」
口調が大仰になってきた。こういった口調には聞き覚えがあった。
演説だ。
宇宙ネズミは僕に演説をしているのだ。
僕は人生に迷ってたどり着いた河川敷で宇宙ネズミから全く意味がわからない演説を聞かされている。
その間両手は上げっぱなし。
なんだこれおい。
「ぺるぺるぺるぺる。ぺるぺるぺるぺる。ぺるぺるぺるぺる。ぺるぺるぺるぺる!ぺるぺるぺるぺる!!ぺるぺるぺるぺる!!!!ぺるぺるぺるぺる!!!!」
どんどん語気が強くなる。
演説が佳境に差し掛かっているのだろう。
「ぺるぺるぺるぺる!!」
と叫んで胸ポケットからお弁当箱みたいな機械を取り出した。
そしてその機械のつまみをいじり始めた。
機械から油のさしていない自転車が20台並んで走っているような音が聞こえる。
「ぺるぺるぺるぺるーー!!」
と宇宙ネズミは空を指差した。
僕もその指差した先の空を見た。
そこには大きなポン・デ・リングが浮かんでいた。
実際にはポン・デ・リングのような宇宙船が浮かんでいた。
「ぺるぺるぺるぺる!!ぺるぺるぺるぺる!!ぺるぺるぺるぺる!!!ぺるぺるぺるぺる!!!」
なおも続く宇宙ネズミの演説。
そして耳障りな音を鳴らす機械。
むにゅーんと地面に近づくポン・デ・リング
もう何が何やらだ。
僕は状況が全然読み込めていないが、世界の終わり感は強いなと感じていた。
「ぺるぺるぺるぺるーー!!!ぺるぺるぺるぺるーー!!!」
宇宙ネズミが両手をあげる。
ポン・デ・リングからその両手をあげるのに呼応したように女性コーラス隊のような「ふぁああああ」という音が鳴り響く。
「ぺるぺるぺるぺるーー!!」
宇宙ネズミが両手を下ろし、僕に改めて銃口を向ける。
「ぺるぺるぺるぺる、ぺるぺるぺるぺる、ぺるぺるぺるぺる!!」
何か決め台詞のようなものを言い放つ宇宙ネズミ。
最後に聴く言葉が"ぺるぺるぺるぺる"だったなんて。
その時だった!
「ひぎゃぺるぅ!!」
突然、宇宙ネズミの頭が弾け飛んだ。青い体液と脳漿が僕に向かって飛び散る。
何事かと思いきや、川面に吹き矢を持った半魚人さんが浮かんでいた。
半魚人さんが吹き矢で宇宙ネズミの頭を吹き飛ばしたのだ。
それから川面に次々と半魚人さんが浮かびあがった。その数は50を超えていた。
「よーい、構え!」
その半魚人さん達は吹頭上のポン・デ・リングに向かって吹き矢を構えた。
「撃てーー!」
半魚人さん達が吹き矢を吹いた。
ポン・デ・リングに吹き矢が大量に刺さり、次の瞬間、大爆発が起こった。
「ぺるぺるぺるぺるー!」
裂けたポン・デ・リングから大量の宇宙ネズミが落ちていく。
ポン・デ・リングは煙を吹き上げながら近くの団地に突っ込んで、大きなコラテラルダメージを引き起こしていたが、半魚人さん達はハイタッチをしていた。
「君!無事かね!」
最初に宇宙ネズミの頭を吹き飛ばした半魚人さんが僕に話しかける。
「あ、はい、大丈夫みたいです」
「そうか、それなら良かった。君が宇宙ネズミを引き止めてくれたおかげでなんとか地球は救われたよ」
「そうなんですか」
「ああ、そうだよ。じゃあ、我々半魚人はこれで。後のことは人間に任せるよ」
「あ、はい」
半魚人さん達は消えていった。
後に残ったのは頭のない宇宙ネズミの死体と、火を吹き上げる団地と、宇宙ネズミの体液まみれの僕だけだった。
家に帰って宇宙ネズミの体液をシャワーで落とそうとしたが、粘り気があってなかなか落ちない。
なので体液をぽんぽんぽんぽんと叩きながらシャワーを浴びると体液はどんどん落ちていった。
ローションを落とす時の技がこんなところで役にたつとは思わなかった。
そう思うと人生に意味のないものなどないかもしれない。
人生の深みってやつを体液を落としながら考えていた。

 f:id:gachahori:20171105175357j:image