にゃんこのいけにえ

両目洞窟人間さんが色々と書き殴ってるブログです。

27歳男性はびくびくしてる

 どうも27歳男性です。実家に戻ってきました。実家でのびのびとしています。あの一人暮らしの部屋 a.k.a社会と隔絶された空間とは違い、家族と話ができるのはいいですね。今のところ、家族と会話もしていい調子。グッドバイブス感じてる。


 で、ただ家にいてグッドバイブスを感じてるだけなのもよくないので、27歳男性は率先して家事を手伝っている。俗に言う家事手伝い。ご飯を作ったり、洗濯したり、私、ちゃんと家事手伝いしているわ。


 しかしながらちょっと驚いたことがあったのだけども、母に見られながら洗濯物を干している最中、胸の動悸が半端ないことになったのだった。
 どうやら怒られてしまうんじゃねえかっつう不安が俺をさいなんで、まともに行動ができやしねえ。俺、怖え。


 ということを母に言うと「そんなに会社に居たときに怒られてたの?」と言われたけども、俺怒られてたわ。一挙一動怒られてたわ。それでどちゃくそ萎縮してたわ。


 というわけで、自分の根源的な不安に気がついてしまった。シックスセンスのラストのブルースウィリスみたいな顔で、うわわと思ってしまった。


 27歳男性は何をするにしても怒られてしまうんじゃないか、何をするにしても馬鹿にされるんじゃないかって不安がつきまとっていて、それが何なら家事って領域まで来ていたのが「うぉいうぉ~い!」ってツッコミをいれたいけども、誰もぼけていないし、誰も笑うことない。


 どうしたら、この不安はとりのぞくことができるんだろう?
 どうやったら、27歳男性は27歳男性のままでいることに不安を感じなくてもすむようになるんだろう?
 まるで、迷子になった5歳児のような気持ちが気持ちの中核にいて、27歳男性の中心で延々と泣きわめいている。
 僕は僕にそんなに怖いもんじゃねえよ!と言ってあげたいけども、なかなかその言葉も自分では信じることができない。

 

 レディオヘッドのノーサプライゼスを思い出す。何の驚きもない世界に行きたい。
 俺は何も怒られることがない世界に行きたい。
 出る杭は打たれるというけども、出たつもりもないのに怒られすぎて、俺はすっかりだけど萎縮しすぎて、疲れてしまっている。

 

 徳利さんという方がトーフビーツのライブに乱入して歌い上げて、今日の自分の点数を「99点!」って言ってる動画があって、笑いながらかっこいいなと思った。
 そりゃ不安もあったりしてるはずなのに、そうやって外には99点!なんて言えちゃう徳利さんが俺は凄く好き。
 俺も99点って叫びたい。なので叫んでみる。俺の今日の家事は99点だ。残りの1点は未来への1点だ。
 だから萎縮する必要なんてないし、怒られるようなことなんてしてるわけがない。
 それだけをちゃんと刻んでおきたい。じゃないと、ずっと、ずっとおびえたままだ。俺は迷子で泣き叫んでる5歳児みたいな自分を早く見つけてあげたいのだ。

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三題噺『水中都市で焼肉を』

弟から三題噺しろや!と脅されたので、三つお題をもらいました。以下がお題です。

・焼肉
・水中
・喪服

制限時間30分

 

では本編をどうぞ

 

三題噺『水中都市で焼肉を』


「始めにタンでって言うの、俺は嫌いなんだよ」って宮本は俺によく言っていた。
「だってよ、タンって焼肉の中でもあっさりだろ。焼肉ってこってりした肉を食べたいから焼肉に行くのに、そこであっさりしたものを最初に食べるって、馬鹿じゃねえの。何、通っぶってるんだよ。スタートからカルビ。焼肉食べてえなら、これからスタートする方が誠実だろ」
もっともだと俺は思った。

久しぶりに喪服に袖を通す。俺は親友の葬式というものが初めてで、現実感なんてのは等に無くて、それでも喪服を着なきゃいけないから、そのほか、数珠やらを持って行かなきゃいけないから。
 現実的じゃ無いことにたいして、あまりに準備しなきゃいけないことは現実的すぎるのだ。


最後に宮本に会ったのは水中焼き肉店だった。あいつとはあちこち行ったけども、最後に行ったのは水中都市だった。
水中都市は最近できたばっかの都市とは名ばかりのテーマパークで、テーマパークが好きな宮本と、出来たし気になるし行こうぜなんて行って、それで1日水中都市を遊んだ。
透明のチューブを歩いた。チューブの周りを魚が踊っていた。宮本はフラッシュ禁止って言ってるのに、光を焚いて写真を撮って係員に怒られていた。
水中都市で一番深い場所にあるビルの一番低層階(水中の中じゃ、深ければ深い方が価値があった)の展望で、あいつははしゃいでいた。
「おい、ジンベイザメがいるぞ」なんてはしゃいでいた。

宮本が死んだことを俺はまだ実感としてわかない。
そして最後にあいつと飯を食った人間が、俺だと言うことも実感がわかない。

魚がうようよ泳いでいるのが見える焼き肉店で俺と宮本は焼肉を食った。わざわざ水中都市で焼き肉店なんて開いているのもどうかしているけども、水中だからこそ焼肉が食べたくなるってのが人間ってもので、そういう欲がわきあがるからこそ店は開かれていたし、繁盛もしていた。

「あのさ、やりたいこと、あるんだよ俺」と宮本は俺に言った。
「何がしたいの」
「世界中のテーマパークを回りたいんだ」
「へー」
「フランスにすげえのがあるんだぜ。中世の世界を完全再現していて、完全再現しすぎて年に数ヶ月しか開いてないってやつ」
「まじかよ」
「まじまじ。Youtubeで見れるし。俺、それ行きてえんだよな」
なんて夢を語っていた宮本は地上にあがったあと、あっさりと事故に巻き込まれて死んでしまった。

焼肉店で、あいつは大盛りのご飯を頼んでいた。太る~肉食って、こんだけ飯も食ったら太る~なんて言ってたのに、太る前に死んでしまった。
水中都市の諸々をインスタグラムにあげる前に死んでしまった。
ジンベイザメと戯れる宮本。焼肉を食べる宮本。地上にあがって、俺と一緒にセルフィーを撮る宮本。全部、全部最後になってしまった。

「今日は、来てくださってありがとうございます」と宮本の母が俺に言う。宮本の母は憔悴しきっていて、見てられない。俺は励ます言葉をかけるけども、そんなもの何の意味もないことを知ってる。
だって俺も、まだ消化なんてできていない。
遺影は、俺が送った写真が選ばれた。水中都市で楽しそうに笑ってる宮本の写真。テーマパークが好きな宮本にとってはここほど自然に笑える場所は他にあったんだろうか。

家に帰って、喪服を脱ぐ。喪服は嫌いだ。着づらいし、固いし、なにより人が死んだときにしか着ない服なんて。
テレビをつける。あの水中都市の特集が流れていて、俺は反射的に、テレビを消してしまう。
まだ、受け入れられない。


洗濯物の山にパーカーがある。あの日の焼肉の匂いがしみついたパーカー。
これを洗ってしまうと、俺は宮本の記憶も洗い流してしまいそうで、嫌になる。
でも、そんな俺を宮本はなんていうだろうか?
焼肉ですら思想が強かった宮本。俺がこんだけお前のことで悲しくなっているのをみたら笑ってしまうのだろうか。それとも、嬉しく思うのだろうか。

そんなこともうわからない。
だから、俺は喪服をしまって、テレビを消して、パーカーも洗わない。
水中都市のこともなるべく目にしない。
焼肉も食べない。
一度、会社で焼肉に行き、初っぱなでタンを頼みだすみんなを見て、俺は馬鹿にして、そして泣いてしまったのはお前のせいだ。
なあ、宮本、俺はお前と言った焼肉が一番楽しかった。
あっさりだの、そんなこと考えずに、馬鹿みたいに食べることができた焼肉が。
宮本、俺はただただ、寂しい。

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連載小説『シュガーカヴァードリアリティ』第2話

シュガーカヴァードリアリティ

第2話

 

3.団地の倍音

 目が覚めると真っ暗闇の中、固い場所の上で私は横たわっている。 先ほどまでピンクのネオンの部屋にいたはずなのに。私はさっきのリアリティありすぎる現実が一瞬にして夢へと遠のくのを感じる。 固い。
 横たわっている場所の固さが肩へ一定の痛みを与える。周囲に何があるかを見渡そうとするけどもあまりに真っ暗なので、目を開けても夢の中にいるようだ。
 夢。
 ここもあのピンクのネオンの部屋と同じく夢なのか?
 というよりもしかしたら、あのあーむっと食べられた瞬間に私は瞬間に死んでしまったのかも。
 死んでしまったと考える方が合点がいく。
 すうぅ。すうぅと私は私の呼吸音が聞こえる。
 私は今、呼吸をしている。
 すうぅ。すうっと呼吸音が聞こえる。
 死後の世界で呼吸なんてするのだろうか。呼吸をしているのなら、まだ生きているに違いない。
 私は道路に突然現れた大きな口に食べられてしまった。あーむっと食べられた。
 でも生きているみたいだった。不思議なことに。
 なぜ。ということをつきつめると、また目の奥が痛くなってきた。さっきから、全てのことが予期していないことばかりで目の奥がいたたたとなってきたので、いつもの動作で、私はコートのポケットの奥から目薬を取りだそうとする。
 赤色の目薬はちゃんとそこにあって、そこに目薬があるということが余計にどうやら私は生きているらしいという実感が持つ。
 私は暗闇の中で目薬を注そうとする。手の位置からして、多分、ここに眼球があって・・・と想像しながら、注す。二三粒は外すが、その後目薬は眼球に着地。くぅ~。と私はまた唸る。
 しかしあの地面の口に食べられたとしたら、私は今、胃袋の中だ。 今更、目の痛みなんて気にしてどうなるのだろうか。そんなことを頭によぎる。
 悲しくなる。めちゃくちゃ悲しくなる。
 まさか今日が人生最後の日だったなんて、そんなこと思わなかった。
 父、母、姉、そして亀のペロ。私はどうやら今日死にます。
 でも、後悔はありません。というと嘘になります。めちゃくちゃ後悔あります。死にたくなかったです。でも最後に私は私よりも正義を優先できたのです。所謂、戦隊もののレッドになれたのです。私は正義の人になれたのです。それは、そのことは私は誇りに思う。 でも、あの女の子は救えなかった。
 それどころかペンギンも。
 目頭がぎゅぅうっと熱くなる。正義の人にすら私はちゃんとなれなかった。
 涙があふれでそうになった瞬間に空間が点滅する。
 何回かの点滅を経て、光がつく。
 目が痛い。光に目をならしていく。徐々にわかっていく。
 蛍光灯の灯りだ。
 そして私がいま横になっているこの場所がわかった。
 胃袋なんかじゃなかった。フローリングだった。だから固かったのか。
 見渡すとそこは団地の一室だった。それも古い団地の
 私は団地のリビングにいた。
 光が付いた瞬間から、部屋にあるものにも命がともったようで一斉に唸り始める。
 緑色の扇風機がからからと回り、色あせたカラーテレビが何かを火あぶりにされている様子が延々と映し出していた。火あぶりされている誰かが叫んでいる声が音割れして耳に差し込む。
 外からは夕日が差し込んでいた。外?
 あの点滅で、「外」にも光が付いたことに気がつく。メカニズムなんて物まったく私にはわかんないけども、外があるならそれを確かめなきゃいけない。
 鍵をあけてベランダに出る。植木鉢がいくつかならんでいる。
 風が吹く。干してある洗濯物がばらびらぼらとたなびく。公共料金の支払い用紙のようなものが印刷されたTシャツ。とてもリアルなかえるが描かれたタオル。このかえるは見覚えがある。アフリカのめっちゃ毒を持ってるタイプのかえるだ。毒があるやつだ。村上龍の半島を出よの表紙になってたようなやつ。
 団地は延々と延々と立ち並んでいて、地平線は団地でできていた。 ノスタルジックな風景のようだけども、地平線まで団地で出来ているので、あまりノスタルジックにはならず、エッシャーのだまし絵を見ているときのような脳の稼働音が聞こえた。やっぱり私は死んでいるのかも知れない。こんな風景はありえないのだ。
 どこからか、子どものような甲高い声聞こえる。遊んでいる声だろうか。でも、そのあと野太い叫び声が聞こえて、地面に何かがたたきつけられる音がした。甲高い叫び声が響いて、響いてそしてやむ。死んだ?私の背筋が少し凍る。
 どこからかカレーと、タイヤを燃やしているような匂いがした。そのにおいに吐き気がこみ上げて、えずいてしまう。
 扉が開く音がした。誰かが入ってくる。私は助けを求めるか、なんとか抜け出す方法を聞かなきゃと思う。
 すると「ただいまぺーん」と声が聞こえる。
 リビングにペンギンが入ってくる。あのペンギンだった。「落ちる~」とか散々言っていたペンギンが入ってきた。
 「あ、起きたペンか」とペンギンが言う。
 あまりに冷静にペンギンは言う。その口調は「知っていた」やつの口調だった。全部知っていた。こいつ、私を誘い出したんだなと気がつく。
 ふと私は手に握っている物体を思い出す。
 ヒールだ。あの子を追いかけるために脱いでいたヒールをまだ持っていた。
 私はペンギンにつかつかと近づいて、ペンギンの頭にヒールを振り下ろす。ぱーん!と音が部屋に鳴り響く。カラーテレビの火あぶりされている何かが「うぉおおお」と叫び声をあげる。
 「痛いペン!何するペン!」
 私は片手でペンギンを押さえ込む。そしてもう片手でピンをペンギンの頭にぐりぐりする。私は怒っている。もう、どうしようもないくらい怒っている。
 「何するペンじゃねえよ!ああ?何がペンだうぉら!殺すぞ!」
 「痛いペン!その、ぐりぐりはやめるペン!」
 「おら、ペンギン風情が、命令するんじゃねえぞ!あぁ?いかれてんのか。この状況で命令っていかれてんのか」
 私はもう一度ヒールでペンギンをはたく。ぱーん!同時にテレビでも火あぶりされている何かの叫び声が音割れして聞こえる。
 ああ、私は普段は本当静かな人間なのだ。読書が好きな静かな女性。
 「伊藤さんって、なんか、取っつきにくいっすよね~」と後輩に言われてしまうくらい、静かな女性なのだ。そのときは「あ、そう?そうなんだ」とどもった。そんな私がいやだった。
 でも私は普通の女性。
 普段は総務の仕事を淡々とこなす、普通の女性なのだ。
 お昼ご飯も昨日の晩ご飯をベースにしたお弁当を作って持って行くような、そんな女性なのだ。
 でも、今日は違う。
 女の子がさらわれて、マンホールは吹き飛んで、私は食べられて、変な場所に今居て、どうやら目の前のペンギンは全てを知っている。 殺す。
 情報を聞き出して殺す。
 「痛いペン!ペンギンの頭はやわらかいんだペン!ヒールは痛いペン!人間と違ってやわなんだペン!丁寧に扱うんだペン!」
 私は頭にぐりぐりを再開する。うぎゃおおおおとペンギンは唸る。
 「なに、長々と喋ってんだ、おぁ?状況飲み込めや?殺すぞつってんだよ。おめえの頭の固さなんてどうでもええんじゃ。ああ?むしろ柔らかいんだったらすぐつぶせるから楽でええのぉ。おお?ヒールで何回しばいたらお前さんの脳みその色わかるんかのぉ!」
 私は今は正義の人でも、お昼に自分で作った弁当を食べる総務の人でもなかった。
 私は怒りに身を任せたただの女性だった。
 言葉使いは高校の頃に見ていた深作欣二映画の影響だった。深作欣二映画を見ていた私に友達はいなかった。それを思い出して怒りがこみ上げたのでそれもペンギンにぶつけようとおもった。
 目の前にいるにはペンギンだ。でもペンギンだろうと容赦はしない。
 仁義。
 それこそが命と命を張り合うのに必要な物。仁義の無いペンギンなど、ただの動物。鳥になれなかったただの動物よ。こちとらうん千年かけて文明を手に入れた霊長類の末裔。ペンギン風情とは違うところを、皮膚感覚で理解するがいい。
 「返事」
 「・・・」
 「・・・返事はぁ!!」
 「わかったペン!話を聞くんだペン!すまなかったペン!!」
 すまなかったという言葉を聞いてもう一発ヒールでしばく。謝ったところではまだ許さない。暴力によるコミュニケーションは継続していることを教える。
 大丈夫。さっきからピンの方ではしばいてはいない。表面積がまだ広い方でしばいている。ここで殺したら情報が手に入らない。
 この団地から抜け出すにはこのペンギンからありったけの情報を手に入れる必要があった。そのためにはまだ殺してはならない。
 すまなかった。つまり自分の過失を意味する言葉。それをこのペンギンは言い放った。その過失を問いただす必要がある。
 私は問いかける。
 「じゃあ話せや。なぜ、わしゃ、ここにおんのじゃ。」
 「なぜ・・・なぜってそれはペン・・・」
 「・・・」
 「・・・」
 私は一発ビンタを入れる。
 「しゃきっとせんかい」
 「すいませんだぺん!話すぺん!話すからペン!!」

 

 「よいこのための都市計画」
 むかしむかし・・・

 

 私はペンギンにビンタをかます
 「なんじゃ、この話し口調は」
 「違うペン!違うペン!この口調が一番わかりやすいんペン!許してくれぺん!!続けさせてほしいぺん!!!」
 「わかった、ならつづけんかい」
 「はい・・・」

 

 「よいこのための都市計画」
 むかしむかし、「裏側の世界」にとても寂しがりな王様が

 

 私はペンギンにビンタをもう一発かます
 「なんじゃ、裏側の世界って」
 「ひぃ!この世界のことだペン!ここは裏側の世界!さっきあなたがいた世界が表側の世界で、ここは裏側の世界だペン!」
 「裏側の世界?」
 「いわゆる異世界だペン!あなたがいままでいた世界とは違うんだぺん」
 「ストレンジャーシングスかよ」
 「はぁ?」
 ぱぁん!とペンギンをもう一度しばく。
 もがき苦しむ、ペンギン。
 「それは死後の世界とは違うんかいのぉ」
 「違うペン!また違うんだペン!」
 「おお。わかった。こっからはぁ、わしにわからん用語があったら丁寧に話せよ」
 「はい・・・」


 「よいこのための都市計画」
 むかしむかしある「裏側の世界」に寂しがりの王様がいました。
 むかしむかしのそれよりもむかしむかしの裏側の世界はそれは魑魅魍魎が耐えずうごめく年中お祭りのような楽しい楽しい土地でした。
 ひぃぃっ!ビンタはやめるペン!魑魅魍魎はあなたのいた世界でいうところの妖怪とかモンスターだペン!この世界には昔はそれはそれはたくさんいたんだペン!
 しかし近年は魑魅魍魎達が減ってきました。
 高齢化、治安の悪化、物価の上昇。その他の要因。
 また住みにくい世界ワースト3位に入ったことも大きな要因でした。えっ!どこ調べって・・・ちょっとそれは今は思い出せないペン・・・。うぎゃあおおおおお!!違うペン!冗談なんて言ってないペン!全部本当のことだペン!!
 はぁ・・・はぁ・・・そんな住みにくい世界ワースト3位の風評被害により裏側の世界に新たに住み着くのも減ってしまったのでした。
 寂しがりの王様はどんどん寂しくなりました。
 でもそこは王様、頭が回ります。
 「表側の世界から連れてくればいいんじゃ!」
 というわけで表側にいた幽霊や人間を拉致することになったのでした。
 めでたし、めでたし…

 

 「というわけなんだペンよ・・・」
 ぼこぼこになったペンギンはおびえた目で私を見る。その目をじっと見る。この目は真実を言っている目だ。わしゃにはようわかる。
 「つまり、私はその人口不足で連れてこられたというわけか」
 「いや、予定外だったペン」
 「なんや、予定外ってのは」
 「元々はあの女の子だけをさらう予定だったペン」
 回鍋肉が台車で運んでいた赤い着物を着た女の子がフラッシュバックする。
 「あの子は、いわゆる座敷童だペンよ。表の世界にいた座敷童を裏側の世界に拉致するだけでよかったペンよ。でも、おまえさんがなぜか気づいてしまって」
 だから、周りの人たちは気がついていなかったのか。そうだったのか。
 え、でもなんで私気がついたんだろう。あ、もしかして。
 「え、私もしかして、霊感強い感じ?」
 「そうだペンよ」
 「えー!全然気がつかなかった!」
 「強いと、くっきり見えるペンよ」
 「えー!じゃあ今までも見てたってこと?」
 「そうだペンよ」
 「えー!もったいな!えー!霊能者になればよかったー!うわーもったいないことしたー!」
 もう総務なんて飽き飽きしていたのだった。霊能者、絶対面白い。そっちの仕事の方が絶対楽しい。私も深夜の寺をグラビアアイドルとお笑い芸人と回って、グラビアアイドルについた霊を除霊したいのだ。
 よし、戻ろう。元の世界に戻ろう。なんだっけ!表の世界だ!そっちに戻ったら、この才能を活かした人生設計をしよう。
 まずは霊能者になるでしょうー。で、売り込もう。「私見えるんです」とか言って、なんか怖い話をでっちあげたらいいっしょ。
 宜保愛子が亡くなり、織田無道が捕まった今、あの席はまだ空いているはずだ。よしよしよし!私、霊能者になりたーい!
 「よし、だいたいのことはわかった。で、あとはどうやったらでれるの?」
 「え、でるペンか?」
 私はピンを頭にぐりぐり押しつける。うぉぉぉおおおお!とペンギンが泣き叫ぶ。
 「やめるペン!わかったペン!!」
 「どうやったらでれるの?」
 「そっ、それにはゲートをでるペン」
 「ゲート?」
 「ほら、こっちに来るペン」とペンギンは私をベランダまで誘導する。
 「あれだペン」とペンギンが指さした遠くの山に、地味な建物が見える。
 「あの、地味な建物?」
 「そうだペン。公民館だペン」
 「公民館」
 「あれの3階の会議室Bが表の世界とのゲートになってるペン」
 「なんでそんなところにあるの」
 「ゲートはいろいろあるんだけども、今の最寄りはあそこにあるんだペン。それに」
 「それに」
 「地味なところの方がいいペン」
 「そういうものなの」
 「そういうものだペン。今から行くんだったら位置関係を把握しておくペン」とペンギンは私にアドバイスする。
 ベランダに出て、私は公民館を見る。山の上。ここからはどうやら少し遠いみたいだ。どれくらいかかるのだろう。
 というかここは裏側の世界ってやつらしいので、何が起こるかわからない。ただの人間である私がたどり着けるのだろうか。
 まあ、このペンギンに案内してもらうか。
 そのときだった。
 ぴしゃり。かちゃり。と音が背後で聞こえる。
 ベランダとリビングを行き来するガラス製の扉が閉められていた 丁寧に鍵もかけられていた。
 私としたことが、一瞬の隙をペンギンに与えてしまった。
 「死ね!この人間っ!お前なんて死んでしまえ!」とペンギンはわめき散らして、ガラスの向こうで中指を立てている。ペンギンに中指があるのかはわからないが、私にはそう見える。くそが。すぐに死ぬのはどっちか教えてやるよ。
 私はヒールのピンでガラスを割ろうとする。しかし何度が殴打しても傷一つ付かない。
 ガラスを割れるものがないか探す。植木鉢があったので、それを取ろうとすると植木鉢は液体であったらしくて、目の前で溶けてしまう。
 ペンギンが高笑いしている。私は残った土と植物を投げる。植物はガラスに当たった瞬間に悲鳴を挙げて血を吹き出した。血は私の顔にも飛んでくる。眼鏡に血しぶきが飛び散って反射的に嫌だなと思う。もっと嫌なことは溢れているのに、眼鏡が汚れてしまった瞬間に強く嫌だなという気持ちが芽生えた。植物はベランダでじたばた悶えている。
 ペンギンは覚えていろ。次にこの手でお前を掴むことがあったら、生まれたことを後悔させてやる。
 しかし、私の現状はペンギンに閉め出されてしまって裏の世界とやらのどこかにある団地のベランダに放り出されていて、リビングに入るためのガラスは割れなくてどうすることもできない。
 「そういえば、もうすぐ始まるから、覚悟するペン」
 とペンギンは私に言う。
 「何が」
 「そこで見ておくペン」
 そう言って、ペンギンはどこかへ立ち去ろうとする。
 突然団地全体に金楽器のような音が鳴り響く。
 その音は全てを振動させる。団地を、ガラスを、ベランダを。
 地平線の団地が隆起する。団地に団地が重なっていく。重なった団地は形を作っていく。
 音が大きくなる。倍音倍音倍音倍音になる。
 地平線から団地が重なっていく。団地は巨大なボックスに変容する。その巨大な団地ボックスはまた周囲の団地を飲み込む。
 そうしてまた一回り大きくなる。
 それを繰り返す。そのうちに私がいる団地に徐々に近づく。
 空に近づくほど大きくなった団地のボックスは、さらに叫び始める。叫び声の倍音倍音が響いてるなか、団地のボックスは手足と頭をはやす。
 それはまるで巨大な亀のように見えた。というか巨大な亀だ。
 団地で出来た巨大な亀だ。
 巨大な亀になった団地は新たに生まれた口をつかって、別の団地を飲み込んで、また大きくなっていく。飲み込んで、大きくなって、飲み込んで、大きくなって。
 そうしているうちに空を覆うほどに大きくなった亀の団地は私がへたり座り込んでいるベランダにまで近づいてくる。
 亀は大きな口を開けて私を食べようとする。
 また食べられる。なんで今日はこんなに食べられるんだろう。
 まさに食べられる。その瞬間、思い出すのは私が飼っている亀のポチだった。
 亀のポチはとても食いしん坊なのだ。
 「ねえ、なんで亀なのにポチって名前を付けるの?」と姉は聞いた。
 「なんか、ポチって感じがして」
 「へえ。あんた変わってるね」
 その思い出を思い出した瞬間に私はまた食べられた。

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連載小説『シュガーカヴァードリアリティ』 第1話

連載小説『シュガーカヴァードリアリティ』

第1話

 

1.ふたの回転

 マンホールのふたが回転している。まだ回転している。斜めにずれず、ふたが円の状態で、ぶおんぶおん回転している。こうじっと見ている間、まだ回転している。もういいだろう回転は。
 この路地に入った時に首筋がひんやりした。ひんやりしすぎて、腕まで鳥肌がたった。俗に言う嫌な予感というやつかもなと思ったら、目の前でマンホールのふたが吹き飛んで、地面にばいーんと激突して、その衝撃の強さの割にきれいな回転をし続けていて、私には物事の流れがいささか気持ち悪く、目の奥が徐々に痛くなってくる。ぶおんぶおんぶおん。
 私は考えすぎると目の奥が痛くなる癖があるので、日頃あんまり考えないように生きていた。あんまり考えないようにするためには日々の動作をある程度固定化することが必要で、決まり切ったルートを辿り、決まり切った動作を繰り返す。これだけで大丈夫。決まり切った動作を繰り返してさえいれば、私の目の下のクマはこれ以上濃くなることはないはずだ。ただでさえ、肌の色が白い私は、何もしていない状態だとティム・バートンのキャラクターのような顔つきになる。ナイトメアビフォアクリスマスのあれみたいな。あの映画の監督はティム・バートンじゃないんだよって話を私はしすぎて、嫌われてしまう。
 目の奥が痛くならないためには、そして目の下のクマをナイトメアビフォアクリスマスにしないために、私はある程度の動作を固定する。これにより日常動作から生まれる日々の考えること=日常のずれは最小限になる。ずれが生じたそのときにだけ考えればよくて、そうすると身体も頭も調子がよくて目の下のクマも濃くならない。私はとても生きやすい行動をしているものだと自画自賛していた。生存戦略だ。いまーじーん。
 しかしながらこうも一気によくわからないことが噴出するとまあ、どうしたもんかねえとなって、脳の上の方がじんわりと重くなり、目の奥が痛たた、痛たた、となったので私は目薬をさそうとコートのポケットをさぐる。そしていつものように薬局の眼精疲労コーナーでは随一の値段を誇る赤色の目薬を取り出し、オーバルの細いフレームの眼鏡を外して、目に目薬一滴ぽとり、眼球に目薬がくぅ~と染みるの感じとっていても、まだぶおんぶおんと回り続けるマンホールのふた。
 ぶおんぶおんぶおん
 あー何だろうねこれねー。

 そもそも、この日頃通らない路地に入ってしまったのは理由がある。
 いつも通りの仕事帰りに、家の最寄り駅に降りて、スーパーでも入って、金曜日なので豚汁でも作ろうかなと思っていたら、予想外のことが起きたのだ。起きすぎた。
 がらがらがらと音がするので、なんだろなと振り向いたら、青い台車に乗せられた赤い着物を着たおかっぱ頭の小さな女の子が、回鍋肉を擬人化したような脂ぎった男に連れ去られていったのだ。
 女の子は「たすけてーたすけてー」と泣きながら言っているが、周りの人々は見て見ぬふり。そしらぬ顔をし続ける現代社会。回鍋肉はそれよいしょーとばかりに台車で駆け抜けていく。
 私はルーティンを守る人間であるが、それ以上に守るのはこの正義というやつであった。

 さかのぼれば子どもの頃に見ていた戦隊ものになる。敵の攻撃を受けすぎてぼろぼろになったレッド。味方が「もうやめて!」と叫ぶ。でも、豪雨を受けながらぼろぼろのレッドは叫ぶのだった。
「俺は俺よりも世界を守るぜ!」
その台詞は子どもの私の頭の中で響き続ける。
 俺よりも世界を守る。
 それからが、私のどこかで正義の感情が生まれる。正義とは、自分よりも世界を優先すること。
 私も私よりも世界を守る。
 それを胸に、私は日々生きてきた。でも、現実にはレッドになんてなれることはなかったし、平凡な会社の平凡な総務だったけども、それでも、私は私よりも世界を守ろうと思って生きてきた。そんな日が訪れたら、やるべきことは一つ。
 私よりも、世界を、そして正義の信念を守る。
 今日がその日なのだ。
 トゥデイ・イズ・ザ・デイなのだ。
 というわけで、見て見ぬ振りをこのあたりの人々がしているのならば、私が見に行ってやるぜと回鍋肉を追いかけ始めた。
 もし回鍋肉が私を殺そうとしたらどうするか?知るか。勝手に殺すがよい。それでも、あの女の子が「たすけてーたすけてー!」と泣き叫んでいるのに、助けに行かない方が辛いし、このまま家に帰ったところで豚汁は食べること出来ない。
 私は私の世界を守るために回鍋肉を追いかける。
 「おい、待て!」と叫ぶが、回鍋肉は気にせずによいしょーと走る。
 私ははいていたヒールを脱いで、走る。ヒールは手に握る。アスファルトがいくぶんちくちくするけども、そんな痛み、あの子の心に痛みに比べればへでもない。たったったった。
 「たすけーたすけー」とあの子の泣き声が聞こえる。まだ、周りの人々は見て見ぬ振り。「だれか!あの子を助けてあげてください!」と言うが周りの人々はそれでも見て見ぬ振り。それどころか私をいぶかしげに見る。不審者を見る目で見る。なにがじゃうぉら。お前ら鼓膜やぶれとんのか。それでも人間か。玉ついとんのか。うぉら。
 私は走った。携帯を取り出す。スマホでブラインドタッチで110と打つのは難しかったが、それでも入力に成功する。日ごろのネット依存が役に立った。やったね!
 ぴろぴろぴろぴろとコール音の後に「はい警察です~」とビニール袋を3枚重ねたようながさがさの音質で返答が入る。
 「あの!誘拐っ!誘拐ですっ!」
 「誘拐ですか?えーあなたのお子様が?」
 お子様?と違和感を感じつつも「いえ、知らない子です!」
 「知らない子?」
 「はい!目の前で、今台車に乗せられて!」
 回鍋肉がきゅいんと角を曲がる。
 そちらは路地。私がこれまで一切入ったことない路地。
 「台車?ちなみにどこで」
 私も遅れて路地に入る。
 私は駅名を怒鳴る。
 「ここなんですけども!」
 と言うが、がさがさした音質が一切聞こえなくなっていることに気がつく。
 「あれ!もしもし!もしもーし!」
 突然、電話が切れていた。うぉらくそが。税金滞納してやろうか。 私は慌ててもう一度かけ直そうとするが、ぴろぴろもぽぴぽぴも聞こえず、電話は一切つながらない。
 そうしているうちに先に角を曲がったはずの回鍋肉が一切見えなくなっていることに気がつく。
 その瞬間、首筋がひんやりする。
「あっ、よくない場所に来たかも」と思った瞬間、マンホールのふたどーん。
 そういう流れであった。


 目薬が染みて、私は目を押さえる。
 くぅ~。とジョンカビラな気持ちになるけども、いや、こんなことをしている場合じゃない。あの子を探さなければ。あの目の前を走っていたのに、一瞬で消えてしまった回鍋肉とあの子を探さなければ。
 しかしこの路地、とても居心地が悪い。
 駅前だというのに、人気はほぼない。色調はほぼ紺色で、寂しげにいくつか立っている街頭が灯りを放っているけども、その弱々しい灯りはほぼ紺色に飲み込まれていて、光を放っているのに、脳が光と認識しなかった。
 ビルの壁はパイプがやけにぐにゃりぐにゃりぐにゃりと曲がっていたり、埋め尽くすほどのパイプで溢れていたり、何か液体がしたたり落ちていたり。
 壁には室外機も設置されていたが、通常の整然とされた配置ではなく、素人目に見ても乱雑に配置されていて、まるでへたくそなテトリスのように積み上がりまくっている。
 そして依然と回り続けるマンホールのふた。ぶおんぶおんと回り続けるふた。
 マンホールのふたがふきとんだ場合、どこに通報するのが一番いいのだろうか。
 警察、消防、それとも市役所、しかし市役所の電話番号なんて私わかんないぞ。
 すると路地の奥の暗闇からからかすかな声で「たすけー」と聞こえる。
 あの子の叫び声だ。
 私は回っているマンホールのふたと、穴に気をつけながら通りぬけて路地の奥に向かう。待ってな、少女よ。私が助けてあげる!
 しかし、あの回鍋肉が私に襲いかかった場合、どうしたらいいのだろうか。
 私は持っていたヒールのピンを思い出す。そして頭の中でシミュレーションする。
 1、回鍋肉が「がううー」と襲いかかる。
 2、回鍋肉の目をピンで刺す。
 3、ピンを奥までねじ込む。
 4、脳に行き着く。
 5、回鍋肉は死ぬ。
 よし、これでいこう。いけるはず。腕力では絶対に敵わないが、ピンヒールを目玉から脳に突き刺されて生きている人間はこの世にいないだろう。
 殺人になってしまうだろうが、この場合の殺人は正当防衛になるはず。多分。もし追求されても、演技で盛ればいい。私は小学校の劇の白雪姫の魔女の役がめちゃくちゃうまかったことで評判だったのだ。私は、女優。そう女優。
 なによりも私は私よりも今、正義を選んでいる。あの子を救わなきゃいけないのだ。
 路地の奥へ進む。どんどん紺色が濃くなっていく。視界が徐々に暗くなっていく。私はスマホのライトを点灯させるが、光は全く遠くへ伸びない。
 嫌な予感しかしない。嫌な予感だけだ。
 私はピンで、刺して、ねじる動作を頭の中で反復させる。頭の中で何度も回鍋肉が目から血を噴出し「うぎゃおぉ!」と叫んで死に絶える様をリフレインさせる。
 そのリフレインが勇気を奮い立たせる。
 しかしながら、徐々に気がつき始めている。
 この駅前の路地はどうやらまずい場所だと。入っては行けなかった場所だと。そしてもしかしたらこの世の道理が通る場所じゃない気もしている。
 少し、戻りたい気持ちがわき始める。正義よりも私を優先したい気持ちがわき上がる。そんな気持ちが私をこの路地に入ってきた場所をふと振り返らせる。
 するとペンギンがよちよち歩きで歩いていた。
 あ、かわいい~。となっていたのも束の間、なぜペンギンがこんな陰気な場所にと、疑問が浮かびあがった瞬間に、ペンギンはマンホールの穴に入ろうとしていた。
 何しているペンギンよ。そこに入ったら、お前は、お前は・・・。
 「ひゃー!足が止まらないぺーん。落ちてしまうぺーん!」ペンギンが叫び始めた。言葉を喋るペンギンという驚きよりも、悲鳴を上げたことに私は気がつけば走り出していた。
 思い出した。私は今は正義の人なのだ。私は私よりも正義を優先するのだ。普段は総務の人でも、今は正義の人なのだ。だから走って、走って、ペンギンを救おうとする。
 待ってなペンギン。今、私が救ってあげるから。
 「こっちだぺーん!助けてくれぺーん!」
 穴に落ちそうになっているペンギンが私に手をさしのべる。
 私はその手を掴もうとする。もう少しで、私の手が、ペンギンの落ちそうなペンギンの手をつかみそうになった瞬間、地面がぼっこりふくれあがる。まるでトランポリンの上でジャンプしたように「わっ」と私の身体は浮かび上がる。
 私が眼下の地面を見ると、地面は大きな口に代わり、「あーむっ」と私は食べられてしまった。


2.回転数の問い

 道路に食べられたはずの私はピンクのネオン管が光る部屋にいる。そこで気がつけばじっと木製のレコードプレイヤーを見ていた。木製だってわかったのは、木目がうにょうにょとしている部分がテーブルになっているからだ。レコードプレイヤーはまだ回転していない。音も何も流れていないレコードプレイヤーを今はじっと見ている。
 で、そんな私を部屋の隅には丸いすに座った女がじっと見ている。女の顔は影になっていて見えない。でも、体つきと手と足で女であることはわかる。すらっとした手と足。手タレとかなれそうな。
 床では三輪車に乗った猿が回り続けている。じぃじぃじぃと巻かれたねじが解放されていく音が聞こえる。
 レコードプレイヤーにレコードが一枚乗っている。レコードの中央にはラベルが張られている。そのラベルには「私が思うのは、私が思っているからだ」と書かれている。
 私はこのレコードを聞かなければいけない気がしている。
 すると丸いすに座った女は私に言う。
 「大事なのは回転数よ。回転数を合わせて」
 三輪車に乗った猿はじぃじぃじぃとねじのおとを解放する音を奏で続ける。
 私は33回転を選択する。アームを持ち上げるとレコードが回り始めた。針を落とす。ずずっとノイズが鳴り、それからしばらくの空白の後に音楽が始まる。
 「ため池なのでここではフナしか釣れません。ため池なのでここではフナしか釣れません。ため池なのでここではフナしか釣れません。ため池なのでここではフナしか釣れません・・・」
 私は困惑していると女の視線を感じる。
 「回転数が違うのよ。回転数を変えるの」と女が私に言う。相変わらず顔は見えない。手も足も一切動かさずに言う。
 私は45回転に選択しなおす。レコードの回転スピードが変わる。
 すると、何も流れなくなる。ちりちりとノイズだけが響く。
 小さな音で、ピアノがなり始める。メロディがあるようで、ないような音。
 それから小さな子どもの声。
 「目覚めて、私を探して」
 その瞬間、猿が回転を止めた。

 

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動揺する童謡『にくにくこねこね』

動揺する童謡のコーナーです。

メロディはないので童謡っぽいメロディと節回しを想像しながらみんなで元気いっぱいに歌おうね。

 

 にくにくこねこね

 

 にくをこねては、ぶちゅぶちゅぶちゅ。
 あいびきにくで ぶちゅぶちゅぶちゅ。
 たまねぎとうにゅう ぶちゅぶちゅぶちゅ
 たまごもいれるよ ぶちゅぶちゅぶちゅ

 

 今、この1秒間の間にも多くの命が
 食べるという行為のために失われていきます。
 生命の営みのために消えていく命
 私たちの一秒のために消えていく一瞬の命

 

 こねたにくを じゅうじゅうじゅう
 あいびきにくを じゅうじゅうじゅう
 いいにおいが じゅうじゅうじゅう
 よだれがたれて じゅうじゅうじゅう

 

 命を燃やすことができなかった動物は
 我々に何を望んでいるのか
 殺した命を燃やして食べて
 燃やし尽くせ その己(おの)が命

 

 はんばーぐ おいしいな
 こねて やいて たのしいな
 うしさんのちにく おいしいな
 おのれの ちにくに かえてやる