即興小説
時間は15分
お題は『秋の復讐』
『紅葉狩り』
「あなたは狩られた紅葉の気持ちがわかってない」
気軽な気持ちで紅葉狩りに行こうと彼女に提案したら、こんな言葉だけが返ってきて以降は音信不通。
紅葉狩りって言っても実際には紅葉を狩るわけではない。彼女は僕が槍を片手に紅葉を追い回す姿でも想像したのだろうか。
いやそんなことはないだろう。
彼女はこの国に生まれ育った人間だったから、紅葉狩りを決してそんなウォーリアーなイベントだと勘違いする余地なんで無いはずだった。
でも、そうではなかったらしい。
「今、紅葉狩り用の討伐道具が大流行!」
朝の情報番組で甲高い声を流暢に出すことだけが得意のアナウンサーがそう叫んでいるのを聞いて、僕はしばし固まってしまった。
コメンテーターは「私もね、紅葉狩りだって言ってるのに、実際には紅葉を狩るわけではないでしょ?それがね、おかしいと思ってたんですよ。だってやってることって紅葉見物でしょ。狩りって言うくらいなら狩りなさいよ」なんてまくしたてる。
youtubeでは「紅葉を実際に狩ってみた」みたいなタイトルの動画が溢れ、その内容はどれも鎌やハサミ等の刃物から始まりチェーンソーや火炎放射機等の物騒なもので紅葉を狩るというものだった。
馬鹿げてる。
そうこうしているうちに「紅葉狩り」のシーズンはも紅葉を実際に狩るのが定番となってしまった。
後押ししたのはセブンイレブンで紅葉狩り用のグッズを売り始めたからだった。
セブン&アイグループは恵方巻きで培ったノウハウを投入した。あの地方のイベントを全国の風物詩にした手腕を今度は紅葉に発揮したのだった。
そうこうしているうちに、毎年秋になると武器が山ほど売れた。日経新聞では今年はこんな武器が売れる!と特集を組み、にこにこした家族達が紅葉を狩っていった。それも普通の光景だった。
「ねえ、久しぶり」
彼女から電話がかかってきた。あの日以来だから何年ぶりだろうか。
僕は就職もして結婚もしたよ、なんてことを言う前に彼女はまくしたてた
「この国は紅葉の復讐を受けるべきなのよ。今度は狩られる番になるの」
何を言っているかわからなかった。
電話は途中で切れた。
そんな時だった。紅葉狩りに言った人々が山火事に巻き込まれたというニュースを聞いたのは。
狩られる番か。
僕は思った。僕はただ純粋にあの娘と狩らない方の紅葉狩りに行きたかっただけだったのだ。