にゃんこのいけにえ

両目洞窟人間さんが色々と書き殴ってるブログです。

平山夢明『異常快楽殺人』を読んだ!

平山夢明『異常快楽殺人』を読みました。


f:id:gachahori:20210917135422j:plain

もう二度と読み返したくない本です。
エドワード・ゲイン、アルバート・フィッシュ、ヘンリー・リー・ルーカス、アーサー・シャウクロス、アンドレイ・チカチロ、ジョン・ウェイン・ゲーシー、ジェフリー・ダーマー。
名前を聞いただけでも震え上がる人もいるでしょう。本書にも描かれているようにこれら7人が行ったことの恐ろしさ、おぞましさはここには書けないほどです。
私も読みながら、いくつかの文章は「情報」として受け取ることしかできませんでした。この状況を「想像」してしまうと心に大きなダメージを負ってしまう。そう感じてしまうほど、凄惨で残酷な場面がいくつもあります。
これら7人の殺人鬼による残忍で残酷な犯行の数々が詳細に至るまで書き記されています。一切の容赦もなく。その場に作者がいたかのような筆致で。
エド・ゲインが死体で家具を作っていたという話は知っていました。『サイコ』や『悪魔のいけにえ』のモデルにもなったことも。
でも"どんな家具"を作っていたか、もっと言うならば"人の身体をどんな風に解体し、どう加工をして、それを家具等にしていたか?”
この本にはそれが詳細に描かれています。そしてそれを知ることは、もう知らなかった過去には戻れないほど恐ろしいことなのです。


何度も、読むのをストップし、数日かけて読み終えた頃には体力ががっつりと持っていかれて、少しばかり寝込んでしまいました。
人はここまで残酷になれるのかと思うのと同時に今まで「残酷」だと思っていたことは、そこが終着点ではなかったこと。もっと恐ろしいものがこの世にはあるのだ。そして人はそこまでなってしまうのだ。文字通り、鬼と呼ばれるものに。
しかしそれでも、殺人鬼と呼ばれる鬼は何もないところから生まれたわけではない、ってことをこの本を読んで強く思うのです。
この本に出てくる7人は全員が漏れなく幼年期に虐待を受けていたことや、もしくはひどい環境に置かれていたことが書かれています。
300人を殺したと言われるヘンリー・リー・ルーカスは幼少期から青年期に至るまで母親の酷い虐待を受けていました。
その虐待による心の傷は、実の母親に手をかけるだけではなく、関係のない人にまで向けられることになります。
親や環境への恨みや痛みを世界に復讐しようとするのです。

また世界そのものが、一人の人間の心を破壊することも何度も書かれています。
アーサー・シャウクロスはベトナム戦争が彼の殺人鬼としての才能を開花させてしまい、そして帰還後はその開花した才能と衝動をコントロールできなかったことが書かれています。
世界や社会が一人の人間を鬼に変容させることもあるのです。
旧ソ連下での連続殺人鬼であったアンドレイ・チカチロは社会情勢やコミュニティに養育、そしてコンプレックスが合わさり、一人の男の中に異常なものが徐々に徐々に育まれていったことが描かれています。
読むにつけ「どこかで回避することはできなかったのか?」と何度も思います。どこかで鬼に変容することのないタイミングはあったのではないかと。
この本にはそのタイミングが見つからず、殺人を犯し、殺人を重ね、殺人に溺れていった人々の姿が記録されています。
読むのもおぞましいですが、だからこそ、この本は重要だと思われます。
人を殺さないために、人を殺すものを生みださないために、そして人を救うために。

著者平山夢明はあとがきでこのように書いています。

そして、国内外の重要な資料を発表された人々にも同様の敬意を表したい。起きてしまった犯罪に対してわれわれは無力かもしれないが、未来の犯罪についてはなすべき方法はあるはずであり、その際、もっとも有効に働かせる武器が"知識"であると信ずる。彼らは、そのために貴重な教科書を血の滲むような努力の末に、世の中に押し出したのだ。


もう二度と読み返したくない本です。ですが、この本に書かれたこと、それがいくら正視に耐えなくとも、我々は見なければいけない、知らなければいけない、我々人間のある種の姿を記録したものです。それを知ることはいくら辛くとも大事なことです。ましては知ることが辛いからと言って無いものとするのは断じて違います。
二度と読み返したくありません。しかし、また読まねばならないときもくる。何度も読まねばならないかもしれない。
恐ろしくおぞましいからこそ、読まれなければいけない、そして読んでよかった名著だと思いました。