にゃんこのいけにえ

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『コリアタウン殺人事件』を見た!

コリアタウン殺人事件』を見た!

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近所のコリアタウンで殺人事件が起きた。夫婦の妻が旦那を刺し殺したらしい。でも、その夫婦の家からは少し離れた場所で血痕を見つけたし、妻も少し離れたところで逮捕された。これはなぜだ?ぼくはこれを調べようと思う。なぜならば、今ぼくは無職で時間はある。毎朝起きるきっかけにもなるだろう。何より、殺された旦那さんのことが気にかかる。昔、お母さんが亡くなったときのような感覚が、彼が死んでからするんだよね。これは彼がぼくにメッセージを投げかけている証拠だと思うんだ。そういえば、街中にハングル文字で書かれた落書きはあるし、十字架を持って叫んでいる人たちもいる。これは意味があるんじゃないか。全部繋がってるんだって。ほら、見てみてよ。ぼくが狂ってるわけじゃない。すべては繋がってるんだ。すべては、すべては、すべては…



コリアタウン殺人事件』は2020年の夏に突然Amazonプライムにて配信開始になった映画だ。監督もキャストも「わからない」と表記され、劇中に出てきた殺人事件はどうやら本当にあったらしい。そしてこの撮影者はどこかに消えたそうだ。この映像は本物なのか?偽物なのか?それすらもわからない。誰が作ったかも。真偽を確かめるにはまず見てみるしかない。それからじゃないと話は始まらない…。



というわけで以下ネタバレを交えつつ、書いていこうと思います。79分と見やすいのでAmazonプライム会員の人はぜひぜひ。

www.amazon.co.jp



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駅に毎日、画用紙を持って立っているお婆さんがいる。雨の日でも、夏の暑い日でも、冬の寒い日でもそのお婆さんは立っている。
そのお婆さんが持っている画用紙には文字が書き殴られている。でも、なんて書いてあるかわからない。しかし「何かを訴えたい」ことだけはわかる。
そのお婆さんは時折、画用紙に何かを書き足していく。そのお婆さんの足元には無数の画用紙が置いてあり、そのどれもにびっしりと文字が書き殴られている。
そのお婆さんは「真実」に気がついてしまった人のようだ。世間の誰も知らない、そして信じようとしない「真実」に。だからお婆さんは毎日立ってその画用紙に「真実」を書き込んで、訴え続けている。誰も足を止めることはなくとも、それでも訴え続ける。なぜならば、私しか「真実」に気がついていないからだ…。



<幻覚>現実にないものをあるように感じる
幻覚は、実際にはないものをあるように感じることです。視覚や聴覚、嗅覚、触覚などさまざまな感覚で現れます。
なかでももっとも多くみられるのが、実在しない人の声が聞こえる幻聴です。その声は、自分に対する悪口や噂であったり、何かの命令であったりします。ときには、テレパシーや電波などの形で感じることもあります。
そのほか、ほかの人に見えないものが見える幻視、普通なら感じないような身体の症状を感じる体感幻覚、幻嗅、幻味などが起こることもあります。

<妄想>現実にはあり得ないことを信じ込む
妄想は、非現実的なことやあり得ないことなどを信じ込むことです。
自分の悪口を言っている、見張られている、だまされているといった被害妄想が代表的です。周囲の人の言動がすべて自分に向けられたものだと確信する関係妄想、有名スターの子どもであるなどと思い込む誇大妄想などがみられることもあります。

https://www.mental-navi.net/togoshicchosho/understand/type/positive.html


上記は統合失調症の症状である。
何も突然関係ないことを言い出したわけではない。
コリアタウン殺人事件』の主人公は明らかに統合失調症的な症状によって正気を失っていく。そしてこの正気を失っていく様を追体験するような映画である。
統合失調症の患者は何が見えているのか。もっと言えば「何」を見てしまっているのか?
世界から受け取る様々な情報を自分の都合のいいように解釈し、そしてそれをつなぎ合わせて大きな陰謀に仕上げていく。
これがあのお婆さんが見ているもの。そしてこの映画の主人公が追い求めようとする「真実」だ。
その情報はどんなものでもいい。街の落書き。街中に立っている人。天気。人の受け答え。他人の視線。日付。風の動き。すべてが都合のいい真実に変わっていく。
そうなると更に厄介で「それは違うよ。あなたは正気を失いかけているのよ」と伝えても「お前も奴らの手先なのか!」となってしまうわけです。
自分にとって都合のよい陰謀や真実で自分の世界を固め、世界の真実を追い求める。
そこには何もない。
それはただの精神の疾患である。
ネット上にはそんな統合失調症になってしまった人が投稿した漫画や映像がある。
彼らは「自分が奴らに監視されている証拠」として様々なものを提示する。でも、それはただの普通の風景で、写っているものはただの偶然だったりする。
でも、本人達にはとても恐ろしい状態なのだ。
みんながみんな集団で俺を監視している。なんでそれに気が付かないんだ!そうか、お前らも仲間か。わかったぞ。わかったぞ!


そういう映像を見てしまったときの、厭な感じでファウンド・フッテージを作ったらええやん!と思いついたこの製作者は間違いなく天才だと思う。
それと同時にこの映像はやけに本物っぽさが漂っている。数カ所の明らかな演出めいたシーン以外は、なんていうか「厭な本物さ」が漂っていて、正直気色が悪い。逆にホラー的なシーンは「あ、作ったものだったんだ」と怖いシーンだけども、安心してしまった。それ以外があまりに本物っぽすぎるのだ。

誰が作ったかを知りたくとも、製作者の名前は完全に伏せられている。しかし、伏せられている今だからこそ楽しめる映画であるのは間違いない。
私は『ノロイ』という映画が大好きだけども、その映画は初め「本当にあったことで、登場人物の多くは死んでいる」という宣伝を信じ切ってしまい本当に怯えたのだった。でも、それからこれは作られたものだと知った。監督の名前は白石晃士というのも知った。
あれから多くのファウンド・フッテージが作られたが『本当にあったもの』という宣伝の仕方は徐々になくなっていった。
みんな慣れてしまったというのが一番だし、観客を完全に騙し続けるのはやっぱり大変なのだ。
というわけで製作者は死んだが映像は残ったのでそれをみんなで見ましょうというこの「ファウンド・フッテージ」はすっかりただのホラーの設定の前提になってしまい、もう「本当にあるもの」として見ることはなくなった。

しかし2020年7月11日現在、この『コリアタウン殺人事件』はリアルかフェイクか一切まだわかっていない。
あまりにホラーっぽいシーンにこれは作り物だろうと思っていても、100%フェイクだとは言い切れない。なぜならば、証明ができないからだ。
誰が作ったか、一切わかっていないからこそ、これが偽物だと言い切ることはできない。ということは本物の可能性があるということだ。
その本物の可能性はたまらなく気持ち悪い。
映画の中でどれだけひどいことがあっても、作り物だということが安心に繋がっている。でも、本物だったら?このひどいことは本当にあったら?
本物の暴力が収められていたら?本物の狂気だったら?本物の死だったら?

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さらに厄介なのは殺人事件に対して統合失調症的なヤバい人の考えた推理というのが、徐々に「本当かもしれない」という展開になっていく。
それどころか、主人公の彼女が突然消えてしまう。
それから彼の周りには警官もちらほら見える。自分は捕まるかもしれない。
そしてどうやら撮った覚えのない写真もいくつかある。
どうしたらいいかわからない。
この映像は友人に送る。そして判断してほしい。
映画にばら撒かれた謎に明確な答えは出ない。最後の写真が意味するのは?主人公の彼女はどこへ行ったのか?そして主人公はどこへ消えたのか?
何よりも狂っていたのか?狂っていなかったか?それすらにも答えはでない。


劇中に出てきた殺人事件は実際に起きたという話もある。
2017年、ある掲示板で「映像のフッテージが友人から送られてきて…」という投稿もあったそうだ。
どこまでがフェイクでリアルなのか。
それを追いかけることはあまりおすすめしない。
それもまた狂気の入り口なのだ。
目に映るものはなんにも関係ない。
あれとこれが繋がっているなんてことはない。
そうなんだ。そのはずなんだ。
俺は狂ってない。狂ってないんだ。だって、俺は真実を知っているんだから。狂っているのは世界だ。なんでみんな気が付かない。そうかみんな、奴らの手先なんだ。どうりで。だから誰も耳を貸さないんだ。俺の言葉に誰も。俺だけはわかってる。俺はこの真実を世界に伝える義務があるんだ。俺には。俺には…。

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