Netflixで11月1日から配信になったドキュメンタリー『ファイヤー・イン・パラダイス』を見た。
めちゃくちゃに恐ろしいドキュメンタリー映画であると同時に不謹慎な言い方だが、あまりにも恐ろしいディザスター映画でもある。
なんせ街一つが山火事で焼失するという話なのだ。いや、話じゃない、事実だ。
この事実を、この映画では当時の映像と生存者のインタビューを交えた構成で伝えてくる。
いかにして、山火事が発生して、あっという間に街が焼失したのかを。
映画の始まりは"その日"の直前から始まる。
場所はカリフォルニア州の人口約2万人の街パラダイス。
そこで暮らす人々の映像から始まる。
何気ない日々。
そしてそれは続くものだと思われていた。
天気予報も「乾燥が続きます。注意してください」くらいのことしか言わない。
その日は突然始まる。
朝7時。
その山火事は発生した。
そしてその火事は瞬く間に広がっていく。
最初は「いつもの山火事だろう」と思っていた人々もいる。
しかしそのスピードは恐ろしく早く、気がつけば街の側までやってくる。
そして救助を求める電話が鳴り響く。
「裏庭が燃えている」
空は瞬く間に煙に覆われる。朝だと言うのに日の光は一切入ってこない。まるで夜のような暗さだ。
しかしその一方であちこちで火の手があがっている。
小学校にも煙が入ってくる。
子供達を避難させるためにスクールバスに乗せる。
人々は車で逃げようとする。
しかしその数はあまりに多くあっという間に渋滞が出来上がる。
煙に包まれ、あちこちが燃え盛る中、車は動かない。どこにも逃げることができない。
スクールバスの中にも煙が入ってくる。
その煙の中、酸欠ゆえに"眠たくなる"子供達。
バスの運転手は自身のシャツを破って簡易なマスクを作る。
バスの中に一本しかなかったペットボトルの水でその布を濡らしていく。
一緒にバスに乗っていた先生は心の中で祈る。
「もし、死ぬとしたらせめて窒息死で死ねることを」
50メートルもの高さの火が人々に迫る。
車で逃げることが不可能であると分かった警官たちは人々に車を捨てるように言う。
でも逃げる場所はどこにもない。
大きめの駐車場に人々を集める。
火が迫る。
消火活動をしていた消防士は消火を諦め、近くにあった建物の扉を壊して、その中に人々を入れる。
その時、裏手にあったプロパンガスに引火する。
カメラはその時の音を収録している。
まるで戦場かのように爆発音が断続的に響く。
炎でできた竜巻が見える。
お婆さんはまるで「聖書に出てきた黙示録のようだ」と言う。
ある警官は避難民をパトカーに乗せる。
しかし火の手に囲まれる。
必死の決意で炎で覆われた道路を猛スピードで突っ切る。
それは全てあっという間の出来事だった。
あっという間に、街は消えてしまった。
1万以上の建物が焼失した。
死者は88人。
そして行方不明者は1000人にもなるという。
足が不自由だという友人の家を訪ねる人が現れる。
彼が回すカメラには車の中で亡くなったその友人の姿を写す。
生き延びた先生はパラダイスにあった街を訪ねる。
教室はすっかり焼け爛れている。
子供達の絵も灰になってしまっている。
別の街に避難している子供達は不安を訴えている。
子供達が描く絵には「火事の前後」を示すものがある。
そこには街が一瞬にして消えてしまったことを描いたものがある。
一瞬にして職も家も失った人も少なくない。
多くの人が未だに避難生活を余儀なくされている。
警官は語る。「元の生活を取り戻すのは大変だろう」と。
カリフォルニアでは山火事が多発している。
その度に消防士は「未曾有」だと語ってきた。
「未曾有」が当たり前になってはいけないと語る。
原因は環境破壊にあることを指摘する。
近年、日本でも大きな災害が続く。
明らかにそれは酷くなっている。
そしてそれが毎年のように当たり前に起こる。
しかしこれを当たり前にしてはいけない。
このドキュメンタリーは遠いカリフォルニアのパラダイスで起こった出来事だ。
しかし、これを他人事だと見ることはできない。
このような災害はいつか私たちの身にも起こる。いや、すでに起こっている。日本中の至る所で、世界中の至る所で。
どれだけ個人レベルで備えなんかしていても、どうしようもないようなことが既に起こっている。
もうそれは既に起こっているのだ。