リズと青い鳥を見た!
いや!緊張感!!!このポスターからは想像できないほどの緊張感!!!
直前にアベンジャーズ/インフィニティウォーを見ましたけども、それに匹敵するかもしくはそれ以上の緊張感で迫り食ってくるのは、青春期のほんのちょっとした不和の物語って山田尚子監督が全力で殴りかかってくるよ姉さん!
というわけで、内容はほんのすこしの不和な話なわけです。でも、90分間絶えずひび割れた氷の上を歩かされているような気分になるのはなんでしょうか。
青春時代の危うさを覚えているからでしょうか。いや、そんなノスタルジーに頼った作品ではありません。
とにかく雄弁な映画です。でもセリフ量は通常の映画の三分の一くらいなのではないかというほど、少ない。
そのかわり、登場人物たちが雄弁に自分たちの気持ちを語る以上に、観客に語りかけてくるのは、腕の動き、足の動き、人と人の距離感、光の動き、朝の空気、足音、フグ、そして楽器の音色です。
それはどんな言葉よりも雄弁に、そして緊張感を持って迫ってきたのです。
青春時代が残酷なのは才能の有無を初めて知らされる時期だからでしょう。
才能がないことを初めて知って絶望する時期です。
でも、それ以上に才能があるから一番好きな人と離れないといけないと、才能があるからこその残酷な別れをも告げられる時期なのです。
才能の有無って残酷っすよ。友人同士でわいわいきゃっきゃやっていたいのに、それを許さないような才能があって、それを使えば遠くまで飛べるって知ったらそりゃ送り出さなきゃいけないじゃないか!
そして、その飛び立つのを阻害しているのは誰なのかって気がついた瞬間の悲しみったら。
ああ、気がつきたくなかった。気がついたらもう元には戻れないのに。
『リズと青い鳥』は始まりと終わりで関係性は全く変わってないような見えるけども、本当のところでは決定的に変わってしまったことを告げるあまりにも残酷な物語といえます。
クライマックスの理科室での告白は、二人の好きが全く異なっているという残酷な真実も炙り出してしまいます。
そして、もう二度と訪れないような本音をさらけ出す、そんな時にでさえ正直になれなかった人間の姿も。
二人は友達で、確実に親友と言えます。
でも、もう二人は一緒の人間ではないのです。
いや、最初から違う人間だった。
それが表面に出てきてしまった。
友人関係なんてそんなものかもしれないけども、それでもそんなことに気がつくのはとても辛いことです。
オザケンの「さよならなんて云えないよ」で「嫌になる程お互いのことをわかり合う時間」みたいな歌詞がありましたけども、これはそんな時間の果てに違う人間だって知ってしまった人々の話です。
でも、そうわかったからこそ、決意が生まれます。
「あなたのソロを支えれるように頑張るからね」はとても悲痛な叫びのように聞こえました。でも、遠くへ行ってしまう友人をさらに遠くへ飛んでもらうためには頑張るしかないのです。
映画『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』で、主人公の男の子が最後、自分はそのまま地元で埋没していくこと、そしていっしょにバンドを組んでいた女の子は才能を開花させて遠くへ飛んでいくことを悟ります。でもそれでも、その一緒にバンドを組んでいた時期を自分にとっての最高傑作だというのです。
そしてそれはまぎれもない真実です。
冒頭から流れている緊張感がついに溶ける終わり側、それは冒頭から流れていた二人の不和がなくなったことを意味していると思いました。
それと同時に、やってくる終わりを二人は認識したのだとも。
だから「コンクール頑張ろうね」に涙せずにはいられませんでした。
その最後のコンクールが彼女たちにとっての最高傑作になればいいなと思いました。
やがて離れ離れになる彼女たちの最後の最高傑作になればいいなと思いました。
とても小さな話だけども、スタイリッシュかつ繊細な演出がダイナミックに感情を揺さぶってくる青春映画の大傑作。
とても大好きな映画になりました。