どてらねこのまち子さん
素直なにゃんこ。
「素直なにゃんこですー。素直なにゃんこですー!」
とどてらを着た二足歩行で喋るねこのまち子さんが街角で叫んでいた。
どうしたのだろうと思って、私は近づいてみた。
「どうしたんですか?まち子さん」
「あ、山本さん。こんにちは。」
「私は岸本です」
「あ、岸本さん。すいません。いつも間違えちゃって」
「いえいえ」
「素直なにゃんこですー。素直なにゃんこです-!」
「その素直なにゃんこってのはなんですか?」
「あ、これです」
とまち子さんが見せてくれたのは銀色の猫型ロボットだった。
「これは?」
「猫型ロボット“素直なにゃんこ”です」
「素直なにゃんこ」
「はい。猫ってあまのじゃくでしょう。そんな猫への不満を解消するために作られた猫型ロボット“素直なにゃんこ”です」
「まち子さんが作ったんですか」
「はい」
えっへんと言わんばかりに腰に手を当ててまち子さんは胸をはる。
「まち子さんってロボット作れるんですね」
「喋って二足歩行する猫ですからね。無理なことなんてないんですよ」
「まち子さん凄い」
「うにゃにゃにゃにゃ」
とまち子さんは顔をほころばせて喜ぶ。
「しかし、素直なにゃんこって名前は伝わりづらいですね」
「そうなんです。なかなか、ロボットってことわかってもらえなくて」
「うーむ」
私は考える。
そうだ。
「素直なにゃんこをこの場で実際に動かしてみてはどうですか?」
「なるほど!」
素直なにゃんこは全身メタリック。可動する度にぎぃぎぃっと歯車の音が聞こえる。
しかしそれ以外は猫そのものの動きをしていた。
つまりは4足歩行で、喋りはしない。まち子さんとは真逆の構造。
「喋る猫ってそういえばなかなか見かけませんね」
「どこかには居るみたいなんですけどもね」
「へえ」
「なかなか出会えないんですよ」
「素直なにゃんこは喋る猫にしなかったのですか」
「うむむむむ・・・その観点はなかったです・・・」
うーみゃ。と素直なにゃんこが鳴く。にゃーご。
確かに普通の猫に比べたら過度になついているように思える。
「素直なにゃんこでしょう」
「素直かどうかはわかりませんが、確かに人によくなついている気がします」
「あと、機能としては芸ができるんですよ」
「へえ」
「いけっ素直なにゃんこ!バク転宙返りだ!」
とまち子さんが命令すると素直なにゃんこはぎぎぎぎと歯車の音を立てながら、バク転を始めた。
そのまま素直なにゃんこはバク転をしすぎて、道路に出てしまった。
「あっ」とまち子さんが呟いた瞬間、素直なにゃんこは8トントラックにひかれて粉々になってしまった。