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トマス・ピンチョン『LAヴァイス』を読んだ!

トマス・ピンチョンの『LAヴァイス』を読んだ!

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私立探偵ドックの元にかつて愛した女が訪ねてくる。どうやら今付き合っている不動産王が陰謀に巻き込まれてるらしい。OK、調べてやろうじゃないの。と言ってるそばから、不動産王と元カノが失踪。そして死体が一つ。そしてあれよあれよと陰謀の渦に巻き込まれていく。しょうがないので探偵はマリファナを吸って終始ラリラリ。ドックは事件を解決できるのだろうか!

 

と言った内容の本。あらすじを説明すると探偵小説っぽいですし、実際探偵小説的な話運びで進むように思えるのですが、そこは世界文学最大の巨人と言われるトマス・ピンチョンさん、一筋縄ではいかないです。

目を丸くしてしまうのが、とにかく詰め込まれた膨大な数のポップカルチャーの数。

時代はヒッピーカルチャーが終わりに向かっていった70年代初頭。そこにありとあらゆる文化が詰め込まれる。TV、映画、音楽、車、食事、麻薬、あれやこれや。

もう本筋が見えなくなるほど詰め込まれ、そして肝心の探偵もラリっちゃってるし、どんどんわけのわからない登場人物は出てくるし、読むのが大変ちゃ大変。

しかし、ネットの力を使って、出てくる固有名詞を調べたりしながら読んでいくと、あら不思議、固有名詞が一つ一つ輝きを帯びて、しまいには当時のLAの空気感を感じるようになる。

海。海から流れてくる風。タバコの煙たい空気。マリファナからの空腹感。タコスの匂い。排気ガスとそれに伴うスモッグ…。そういったものが浮かび上がっていく気がしました。

 

そしてそういう風に読んでいくうちに、感じるのは過ぎ去ってしまった文化への敬意。そして悲しみでした。それも昔は良かったなあではなく、時代というものが暴力的に変化していくことの悲しみというか。他の本のタイトルですが、ノーカントリーフォーオールドメンのような悲しさというか。この本も最初はおちゃらけて始まるけども一番大きな陰謀はアメリカそのものの闇に迫るもので、よくいうイノセントなアメリカの死みたいなものかもしれない。と聞きかじったことを言ってみる。

まあ、そんなアメリカ文化史的な楽しみ方もできるけども、徐々に高まっていくサスペンス性とそれでもラリり続ける性で生じるオフビート性が両立したこの物語を読んでいくのは単純に楽しい。

そして終わり側、思わぬ熱い展開に少しほろっとしてしまった。まさかのハートフルな展開。うるっとしてしまったな。

それから続くラストはある種の意思表示に思えました。消えゆくヒッピーカルチャー。それはマリファナの火を消すように簡単かもしれない。しかし、その次はやってくる。その次にまた備えればいい。また次の季節に向かって車を走らせるだけなのだ。それが波にのるってことなのだ。

 

あまりに癖が強くて(それでもピンチョンのなかでは一番読みやすいらしい!)誰でも彼でも勧められる本ではないのは間違いないのですが、しかし文学界の巨人の本と聞けば、その山に登りたくなる人もいるのではないでしょうか。

探偵小説でありつつ、アメリカ文化史的な小説でもあり、ポップカルチャーガイドでもあり…と盛りだくさん。正直読みきれた気はしないです。

でも読んだ後に「読んだぞー!」と言いたくなるような"山"を感じさせる読みがいのあるいい本でした。