にゃんこのいけにえ

両目洞窟人間さんが色々と書き殴ってるブログです。

三題噺『水中都市で焼肉を』

弟から三題噺しろや!と脅されたので、三つお題をもらいました。以下がお題です。

・焼肉
・水中
・喪服

制限時間30分

 

では本編をどうぞ

 

三題噺『水中都市で焼肉を』


「始めにタンでって言うの、俺は嫌いなんだよ」って宮本は俺によく言っていた。
「だってよ、タンって焼肉の中でもあっさりだろ。焼肉ってこってりした肉を食べたいから焼肉に行くのに、そこであっさりしたものを最初に食べるって、馬鹿じゃねえの。何、通っぶってるんだよ。スタートからカルビ。焼肉食べてえなら、これからスタートする方が誠実だろ」
もっともだと俺は思った。

久しぶりに喪服に袖を通す。俺は親友の葬式というものが初めてで、現実感なんてのは等に無くて、それでも喪服を着なきゃいけないから、そのほか、数珠やらを持って行かなきゃいけないから。
 現実的じゃ無いことにたいして、あまりに準備しなきゃいけないことは現実的すぎるのだ。


最後に宮本に会ったのは水中焼き肉店だった。あいつとはあちこち行ったけども、最後に行ったのは水中都市だった。
水中都市は最近できたばっかの都市とは名ばかりのテーマパークで、テーマパークが好きな宮本と、出来たし気になるし行こうぜなんて行って、それで1日水中都市を遊んだ。
透明のチューブを歩いた。チューブの周りを魚が踊っていた。宮本はフラッシュ禁止って言ってるのに、光を焚いて写真を撮って係員に怒られていた。
水中都市で一番深い場所にあるビルの一番低層階(水中の中じゃ、深ければ深い方が価値があった)の展望で、あいつははしゃいでいた。
「おい、ジンベイザメがいるぞ」なんてはしゃいでいた。

宮本が死んだことを俺はまだ実感としてわかない。
そして最後にあいつと飯を食った人間が、俺だと言うことも実感がわかない。

魚がうようよ泳いでいるのが見える焼き肉店で俺と宮本は焼肉を食った。わざわざ水中都市で焼き肉店なんて開いているのもどうかしているけども、水中だからこそ焼肉が食べたくなるってのが人間ってもので、そういう欲がわきあがるからこそ店は開かれていたし、繁盛もしていた。

「あのさ、やりたいこと、あるんだよ俺」と宮本は俺に言った。
「何がしたいの」
「世界中のテーマパークを回りたいんだ」
「へー」
「フランスにすげえのがあるんだぜ。中世の世界を完全再現していて、完全再現しすぎて年に数ヶ月しか開いてないってやつ」
「まじかよ」
「まじまじ。Youtubeで見れるし。俺、それ行きてえんだよな」
なんて夢を語っていた宮本は地上にあがったあと、あっさりと事故に巻き込まれて死んでしまった。

焼肉店で、あいつは大盛りのご飯を頼んでいた。太る~肉食って、こんだけ飯も食ったら太る~なんて言ってたのに、太る前に死んでしまった。
水中都市の諸々をインスタグラムにあげる前に死んでしまった。
ジンベイザメと戯れる宮本。焼肉を食べる宮本。地上にあがって、俺と一緒にセルフィーを撮る宮本。全部、全部最後になってしまった。

「今日は、来てくださってありがとうございます」と宮本の母が俺に言う。宮本の母は憔悴しきっていて、見てられない。俺は励ます言葉をかけるけども、そんなもの何の意味もないことを知ってる。
だって俺も、まだ消化なんてできていない。
遺影は、俺が送った写真が選ばれた。水中都市で楽しそうに笑ってる宮本の写真。テーマパークが好きな宮本にとってはここほど自然に笑える場所は他にあったんだろうか。

家に帰って、喪服を脱ぐ。喪服は嫌いだ。着づらいし、固いし、なにより人が死んだときにしか着ない服なんて。
テレビをつける。あの水中都市の特集が流れていて、俺は反射的に、テレビを消してしまう。
まだ、受け入れられない。


洗濯物の山にパーカーがある。あの日の焼肉の匂いがしみついたパーカー。
これを洗ってしまうと、俺は宮本の記憶も洗い流してしまいそうで、嫌になる。
でも、そんな俺を宮本はなんていうだろうか?
焼肉ですら思想が強かった宮本。俺がこんだけお前のことで悲しくなっているのをみたら笑ってしまうのだろうか。それとも、嬉しく思うのだろうか。

そんなこともうわからない。
だから、俺は喪服をしまって、テレビを消して、パーカーも洗わない。
水中都市のこともなるべく目にしない。
焼肉も食べない。
一度、会社で焼肉に行き、初っぱなでタンを頼みだすみんなを見て、俺は馬鹿にして、そして泣いてしまったのはお前のせいだ。
なあ、宮本、俺はお前と言った焼肉が一番楽しかった。
あっさりだの、そんなこと考えずに、馬鹿みたいに食べることができた焼肉が。
宮本、俺はただただ、寂しい。

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