にゃんこのいけにえ

映画と音楽と本を中心にいろいろと。

短編小説『なんとなく、遠くの方へ行く。』

 『なんとなく、遠くの方へ行く。』

 


 サンデーモーニングのスポーツコーナーで頑張ってる若者に「渇!」を入れてる老人の姿を見ていたら、日曜日をこれで消化するのは嫌だなって気持ちになって、なんとなくレンタカーでも借りて出かけようかと思い立つ。
 でも1人で行くのはどうも寂しいから、暇そうな奴に声をかけることにして、そうしたら思いつくのは後輩のひろしげ君だった。
 僕はひろしげ君に電話をかける。「あーひろしげ君。ひさしぶりー。急だけども、今日暇?」「今日っすか。TSUTAYAの返却くらいしか予定ないっす」「じゃあさ、ちょっとどっかいかない」「どっかってどこっすか」「全然決めてない。レンタカー借りてどっかいこうかと思って」「じゃあ、海行きたいっす」「いいねー」「いつ集合にします?」「じゃあ、今から1時間半後に駅前で」「うっす」
 そんなこんなで、1時間半後にはひろしげ君と落ち合って、駅前のレンタカー屋で車を借りて、海に向かってる。

 

 「ひろしげ君は最近何してるの?」なんてことを国道を走りながら聞く。
 「最近っすか、働き始めましたよ」とひろしげ君は答える。
 「えー。遂に」
 「はい。遂にっす」
 「どんなとこで働いてるの」
 「あの、山っすね」
 「山?林業?」
 「すげえなんて言ったらいいかわかんない仕事なんですけども、勤務地は山です」
 「ええ、どこの山?」
 「全国っすね。どこでもっす」
 「まじで、転勤ってこと?」
 「いや、呼ばれたらいくって感じっすね」
 「何その仕事。大変そう」
 「めっちゃやばいっすよ。めっちゃ痩せましたよ。足の筋肉とか超ぱんぱんになりましたし」
 「ははは」
 国道沿いを走ると、TSUTAYAが見えてくる。
 「あ、このTSUTAYAでも大丈夫なの?」
 「同じ県内なら大丈夫らしいんで、入って貰っていいっすか?」 とひろしげ君のDVDを返すためにTSUTAYAに入る。

 「何借りてたの?」って僕はひろしげ君に聞くと「あの、まじではずいんですけども、白雪姫っす」と答える。
 「え、なんで」
 「最近、知り合った女の子がディズニー好きらしくて」
 「へえー。話合わせようと思って?」
 「そうっす」
 結構ひろしげ君はまめなようだ。
 「さとるさんって最近、映画見ました?」
 「あー最近はジャッキーばっかり見てるよ」
 「へー、なんでっすか」
 「ジャッキー面白いから」
 「そうなんすか」
 「え、見たことない?」
 「そっすね、あんまっすね」
 「ポリスストーリーとプロジェクトAは押さえときなって」
 「へー」
 「いや、まじで」
 なんてことを話しながらひろしげ君がDVDを返却ボックスに投函するのを見届ける。

 


 ぽーん、目的地まで、あと2時間ほどです。
 とカーナビが言う。
 今日は透けるような青空でとても気持ちが良い。
 ラジオからは最近のヒット曲と、昔のヒット曲が交互に流れている。
 バックストリートボーイズのアイウォントイットザットウェイが流れてひとしきり笑いながら2人で歌う。
 「ひろしげ君ってバックストリートボーイズって世代?」
 「おれ、姉ちゃんいるんすよ。姉ちゃんがよく聞いてて」
 「へー」
 「さとるさんは世代っすか」
 「世代っていうか、よく流れてたからなー」
 「世代じゃないっすか」
 車は高速に乗る。
 ぶん、ぶん、ぶん。と道路のつなぎ目で車が軽くバウンドする。 

「さとるさんは最近なんかないんすか?」とひろしげ君が聞いてくる。
 「最近か-。本当俺、なんもないよ」
 「最近は何してるんすか」
 「いや、何もしてないよ。今日も、ぼーっとテレビ見てるだけの日曜になる予定だったし」
 「じゃあ、本当これ思い立ってだったんですか」
 「うん。思い立って。で、ひろしげ君絶対暇だろうなって思って」
 「うわー。暇とか言わなきゃ良かった」
 「ははは」
 「絶対、今狙ってる子といい感じになってやるからな」
 「ははは」
 サービスエリアの看板が流れていく。休憩も取りたかったので、一旦入ることにした。


 サービスエリアは車、車、車、バス、バス、トラックトラック、家族連れ、家族連れ、カップル、団体客、じいさん、ばあさん、老若男女でごった返している。
 屋台めいたものがいくつか出ていて、結構な人だかりが生まれていた。
 じっと見ると名物極上コロッケ!というのが売っているようだった。
 「買ってく?」「いいっすね」
 ってことで、買って、食べて、そこら辺のゴミ箱に包み紙を捨てて、また車に戻る。


 「さっきのコロッケ、美味しかったっすね」
 「よかったねー」
 「米欲しくなる味でしたね」
 「わかるわー」
 「ってか、海鮮丼食いたくないっすか?」
 「あ、いいな」
 「ちょっと俺調べますね」
 と助手席のひろしげ君はスマホで今から行く海の近くで海鮮丼を出している店があるかどうかを調べ始める。
 すると「あ、ありましたよ」と言って、じゃあ昼飯そこにすっかと決まる。


 次の信号を右です。というのを左に切って、海鮮丼屋に向かう。
 何度も、カーナビがリルートをする。戸惑っているんだろうなと思う。
 「あ、ここっすね」とひろしげ君が言う。
 一見古びた定食屋にしか見えない。
 石が敷かれた駐車場に車を停めて、店の中に入ってもその感情は変わらない。
 「こういうとこって、絶対美味しいっすよ」ってひろしげ君は言う。

 「うっわ。すっごいわ」とひろしげ君は目の前に出されたウニ丼のウニの量にびびっている。
 「こんな量のウニ、俺見たことねえっすわ」
 「これ、写真撮った方がいいんじゃない」
 「ちょい、撮りますね。うっわ。すっげ。スマホ越しでもウニの量半端ねえ。ってかさとるさんの三種丼半端なくないっすか」
 僕の頼んだサーモン三種丼も量がえげつない。
 大量のサーモン、あぶりサーモン、そしてこぼれんばかりのいくら。
 「案の定美味しい奴でしょ。案の定美味しい奴でしょ」とひろしげ君はテンションあがりながら、口に放り込む。
 「案の定っすわ~」とはしゃぐ。
 僕は笑いながら、楽しいな~と思う。


 「海、いいっすね」
 「海、いいなあ」
 寄せては返す波を見ている。
 目の前に見える景色がまるで夢の続きのような色彩に変わっていく。
 波の音が永続的に聞こえて、遠くでは小さな子どもが初めて見る波に驚きの声をあげている。
 海に目をやれば、サーフィンをしている人影がゆらゆらしている。 「俺、言ったらだめなこと言っていいですか?」
 「何?」
 「この状況でとなりにいるの、さとるさんじゃねえっすわ」
 「馬鹿野郎。同じ言葉返すわ」
 「まじで、彼女作ります」
 「はよ作れ作れ」
 海に来た物の、別に泳ぐつもりもないので、適当に見て、ぶらぶら歩いていく。


 「あー、ここのコンクリのところ、すっごい、気持ち悪いことなってますよ」とひろしげ君が指さした先のコンクリにフジツボがわっさりいて「うっわ気持ち悪」と笑う。
 「やっぱ、海いかれてますね。生態系きもちわり-」
 「おめえが海来たいって行ったんじゃねえかよ」
 「海って、たまに来たくなりません?」
 「わかるわー」
 僕も家でテレビ見ているよりは断然海に来ている方が楽しい。


 車に乗り込んで、レンタカー屋を目的地にして戻り始める。
 車内BGMは相変わらずラジオ。1日聞いていたら、少しずつ最近のヒット曲が何かもわかってきた。
 行きに比べてはしゃぎ疲れてしまって、お互い無言の時間が増えてくる。ちらっと見たらひろしげ君はスマホで何かをしていた。気になってる子にLINEでも打ってるのだろうか。


 車を走らせているとひろしげ君が「あっ」と言う。
 看板が見える。スーパー銭湯の看板。
 「行きません?」と提案に、僕は即座に乗る。


 湯につかった途端、全身がほぐれて「あぁ~」と弛緩しきった声が出た。疲れが一気に湯に溶けていくような錯覚。
 「さとるさん、露天行きます?」
 「いいねー」
 と外に出て、露天風呂に浸かる。外気と湯の温度の差がちょうどよくて、ずっと浸かっていられるなとなんとなく思う。
 そうしているうちに、ひろしげ君と今日の振り返りをする。
 今日の行き帰りで見た景色の話、海鮮丼の話、海の話。
 振り返るとどれも笑ってしまうほど愉快な思い出にいつの間にやらなっていた。
 ひとしきり笑った後に「でも、俺らずっとこんなことやってますねー」とひろしげ君は言う。
 そういえばそうだ。大学の頃、ひろしげ君と出会ったときからこんなことばっかりやっていた。
 「ひろしげ君、今度さ。あれいかない?」とチラシを見せながら言ったり「さとるさん、今度、これいかないっすか」と言ったり。
 湯に浸かりながら「思えば長いなこの感じも」と笑いながら言う。 「でも、彼女出来たらもう終わりっすからね」とひろしげ君は言う。
 「そんなこと言って、全然できないじゃない」
 「言いましたね。すぐ作りますからね。見ててくださいよ。就職した俺はひと味違いますからね」と言うのを「はいはい」と流す。

 レンタカー屋に車を返した頃にはもう日も暮れてる。
 ひろしげ君は「じゃあ、明日早いんで、今日は早めに帰ります」と言う。
 「いやいや。ありがとうね。急な誘いでも来てくれて」
 「また誘ってくださいよ」
 「彼女出来てたら、誘ったらだめなんじゃないの?」というと。
 「ケースバイケースですやーん」とひろしげ君は言う。
 それからひろしげ君と駅で別れて、それから僕は自分の最寄り駅までかえって、最寄り駅の近くのスーパーで総菜を買って、家に帰る。


 布団に入る前に、今日の写真を見た。
 はしゃいでいるひろしげ君、コロッケの写真、海鮮丼の写真、海の写真、はしゃいでる僕らの写真。
 「いい日だったなー」と気がついたら口に出していた。
 と、同時にいつかこんな日も終わってしまうんだろうなとなんとなく寂しくなってしまった。
 昔は、唐突に遊べるのはひろしげ君だけじゃなく、多くの友人達がいた。
 けども、みんな遠くへ離れたり、家庭を持ったり、その他諸々。
 こんな何でもない日、なんでもないけども、もう二度とないかもな、なんてそんな寂しいことが頭によぎってしまう。
 まあ、そうなったら1人で海にでも山にでも行ってやるか。
 電気を消す。
 にしても、あの量のウニは凄かったな。
 ふと、旅のメインが食事なったんだから、もう大人になってしまったんだなと思う。
 そうしているうちに眠りにおちて、目覚める頃には月曜日になっている。

 

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