にゃんこのいけにえ

映画と音楽と本を中心にいろいろと。

短編小説『ネヴァー、エヴァー、キャッチー、ミー』

 

 あのイタリアで起きた大使館テロを解決したのはまみこ先輩らしいよ。
 と大学の時の友人の鎌田から聞いたときは、最初げらげら笑って、どんな話だよーあのまみこ先輩がーうそだろーあはははは、えーしんじられねーとひとしきり驚いた。
 ってかそれ本当なのかよ。
 「嘘みたいだけど、本当らしいぞ」
 で、鎌田から別れたあともまみこ先輩がテロを解決したなんて想像がつかなかったから、帰りの電車の中でなんどもふふふ、ふふふと笑ってしまったのだった。

 

 まみこ先輩は「あの」を「あのう」と発音するようなやわらかい語尾とそのやわらかい語尾がそのまま顔になったような人だった。
 まみこ先輩とまじめな話をしているときだった。こっちの案の方がやりやすいと思います。と提案したら「確かに。・・・かに」と両手でピースサインを作ってかにを突然表現する人だった。
 卒業式の日に「まみこ先輩のこの4年で一番の思い出ってなんですか」って聞いたら「一人暮らしして初めての冬にこたつの中でハーゲンダッツ宇治抹茶味を食べたことかな」と言った。
 そういう人だった。


 だからテロだ、テロを解決しただ、全く想像がつかなかった。
 まみこ先輩が?あのまみこ先輩が?
 でも、強引に想像してみる。
 テロリストに占拠された大使館。そこに歩いて行くまみこ先輩。
 まみこ先輩は深々と頭を下げる。「こんにちはあ」
 それで渡すのだ。「これ京都土産の生八つ橋の宇治抹茶味です。ぜひぜひどうぞお」
 テロリストは生八つ橋を食べる。「アーオイシイネー。ウマイネー。ヒトジチ、カイホウスルネー」
 まみこ先輩は「やったーやったーやったー」と両手を挙げて
 テロリストも「ヤッターヤッターヤッター」と両手を挙げて。
 人質も「やったーやったー」って・・・馬鹿か。


 俺はあまりの馬鹿みたいな想像に嫌になりながらも、まみこ先輩がテロを解決するとなったら、これくらいだよなとしか思うことができない。
 一体どうやって解決したんだよ。


 「まみこ先輩って、今、宇宙開発の指揮を取ってるらしいよ」
 と大学の時の友人の川島から聞いて、またげらげら笑ってしまった。
 「はあ?前に聞いたのは大使館テロを解決したって話だったんだけど」
 「まみこ先輩が?テロ解決?そんなわけあるかよ」と川島もげらげら笑い始めた。
 で、川島が言うところには、次世代のロケット開発に携わっているようだった。
 それ本当なのかよ。まみこ先輩が指揮っていくら何でも、若手すぎるだろうし、そんなわけないだろ。
 「嘘みたいだけど本当らしいぞ」
 それ、テロの時も聞いたんだよな。

 


 まみこ先輩が宇宙開発の指揮を取ってる?
 全く想像がつかない。
 「あのお、火星に、行きたい。・・・わん」とこっそり「台湾」ってワードを織り交ぜてはふふふと一人笑っている。そんな様子を見るNASA職員。
 「ごーとぅーまーず。おー」
 片手を挙げて気合いを示すまみこ先輩。
 「OH!!」と賛同するNASA職員。
 そしてロケットは打ち上げの日。管制室で腕組みをして推移を見守るまみこ先輩。
 「3,2、1!!」
 ロケットは打ち上がり沸き立つ管制室。
 「やったーやったーやったー」と喜ぶまみこ先輩
 「ヤッターヤッターヤッター」と喜ぶNASA職員。
 「ヤッターヤッターヤッター」と喜ぶ宇宙飛行士たち・・・馬鹿か。

 

 

 俺の想像力が貧困だからか、それともまみこ先輩ってフィルターが強すぎるのか?
 とにかくテロも宇宙も全くもってまみこ先輩とつながりそうにない。
 「でも、本当らしいよ」
 じゃあ、どっちが嘘なんだよ。
 ってかどっちも嘘じゃねえの?

 


 「まみこ先輩ってスーパーヒーローになったらしいよ」
 と大学の時の友人の森山が言っててさすがに笑うよりも前に「嘘だろそれ」と言ってしまう。
 「嘘じゃねえんだって!!」
 テロを解決した話と宇宙開発した話を伝えると森山は「はあ、そっちの方が嘘だろ。だってまみこ先輩だぞ」って言う。俺には全部つながらねえけども。
 「いや、この間でけえビル火事あったじゃん。そのときに、謎の人物が救出ってニュースになってたじゃん。あれがまみこ先輩らしいんだって」
 あはははは。さすがに嘘だ。まみこ先輩は火どころか暑いのですら苦手だったのに。
 「いや、本当なんだって、山崎が現場にいたらしいんだけども、火が回ってきてもうだめだってなった時に壁をぶち壊して助けてくれたのがまみこ先輩だったらしい」

まみこ先輩が壁をぶち壊して人々を助けた?
全く想像ができない。
壁を素手で破壊するまみこ先輩。
「みんなー逃げるんだー」
爆発するビルを背に人々を助け出すまみこ先輩。
「やったーやったーやったー」
「やったーやったーやったー」
「やったーやったーやったー」
いい加減にしよう。

 


その後も、まみこ先輩が今何しているという情報は錯綜した。
「今は小説家になったらしい」「あのSNSを立ち上げたのはまみこ先輩らしい」「海外を一人旅しているらしい」「新型アシモの開発に携わってるとか」「海外で映画化が進行しているらしい」「自走式戦車になったらしい」「殺人で捕まったとか」「魔法使いになったんだって」「殺し合いのゲームを勝ち抜いたとか」

どれが本当なんだか。

 


ある日、道でまみこ先輩とばったり会った。
「おー久しぶりー」
まみこ先輩は全く変わってなかった。
まみこ先輩は元気ですか?
「元気だよー。すごくー」
そうですか。まみこ先輩は今何をしてるんですか?
「あ、うぉーきんぐー」
今って言ったんですけども、今じゃなくて。
仕事とか。
「あー。それはねー」
その時、携帯の着信音が鳴り響く。まみこ先輩が携帯を取り出す。
「あー、もしもしー。はいー。はいー。わかりましたー」
まみこ先輩は携帯を切ると「ごめんー仕事入ったからーまた会おうねー」
と走り出した。
まみこ先輩が角を曲がって、その姿が見えなくなった途端に白い煙が勢いよくその角の先から噴き出した。
そしてごごごごと体を震わせるような音が響き渡り、その音は空へと飛んでいく。
その音の先に空高く消えていく一点の光。
その光が俺にはまるでまみこ先輩に見えたが、これもまた俺のくだらない想像力のせいかもしれない。

 

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