にゃんこのいけにえ

映画と音楽と本を中心にいろいろと。

DAOKOを聴いたら『ひかりをあててしぼる』を思い出した話

 YouTubetofubeatsの動画を流していたら、水星を契機にDAOKOに行ってしまって「わしはtofubeatsが聴きたいんや」と怒りを感じながらDAOKOをぼんやり聞いてたら、80's風味を感じる楽曲が流れてきて、そういう音は私好きよ!と聞き耳たてたら「渋谷交差点〜」ってサビで、なんだこの曲となった次第。

DAOKO 『ShibuyaK』 Music Video Midium ver[HD] - YouTube

 DAOKOのShibuyaKって曲なんですけども、そんなにみんな渋谷へ強めの感情を抱いてるんでしょうかとなってしまった。

だって梅田でそんな曲ないじゃないですか。「ビッグマン前〜」とか歌わないじゃないですか。

というわけで根強い渋谷信奉は一体なんなのだろうと思ってしまった。

 そんなことを思っていたら『ひかりをあててしぼる』って映画を思い出したのでその話をしてみたい。

 

 

 以前に見た『ひかりをあててしぼる』という映画はエリートバラバラ殺人事件という実際にあった事件を元に作られた映画だった。

新宿・渋谷エリートバラバラ殺人事件 - Wikipedia

誰もが羨む側から見ればいわゆる勝ち組夫婦だったのに何故妻は夫を殺害して死体をバラバラにしなくてはいけなかったのか?
とその謎に迫る映画であって、その殺害に至る大きな要因であったDV描写も迫真なものであって、鑑賞に痛みを伴うほど重たい見応えのあるものだった。

ただ、不満がいくつかあって、徐々にその妻の描き方を「理解できないモンスター」になっていく。
最初は経歴を偽っていた夫を執拗になじるような人間的に嫌な部分がある妻だったのに、DVを経て殺人に至ると下着姿で「ばっちこーい!」な気概でのこぎりで死体を切り出す始末で、新たな殺人鬼像としては素晴らしいなと思いながらも、妻を理解のできないモンスターとして描き始めたのはもにょってしまった。
下心見え見えで助けてくれようとした夫の友人を執拗に以上に詰った後に、その友人が「繋がろうとしたのは、暴力だったのかもしれないな…」とわかったようなことを言っていたけども、実際えぐいDV起きてましたやん、繋がりが暴力だとかふんわり概念の話をするまでもなく、えぐい暴力起きてましたやん。
それを例え下心があったとしても手を差し伸べようとしたら「暴力だ!」って描き方はそれはどーうなんだい?と心のなかやまきんに君がマッスル叫んでいた。

 


映画のラストはバラバラにした死体の一部を持って妻がタクシーに乗って、住んでた渋谷から出るってところで終わるんだけども、そこでタクシーの運転手からは「なんか匂いますね」って言われて、妻は「そうですか?」と不敵な笑みを浮かべるだけなんですよ。
これ、元の事件にもあったエピソードなんですけども、元の事件だとタクシーの運転手にそう聞かれて妻は不敵な笑みを浮かべる余裕もなく動揺してしまってそのまま降りてしまうんですよ。
なのでこのエピソードの取捨選択からもわかるように、妻を完全無欠のモンスターとして描く方に舵を切ってるんですよ。

 


その見た回で監督の舞台挨拶があって、このラストについて「渋谷から出ることで渋谷から解放してあげたいと思った」って言っていて、それは言うなればその彼女の行動原理でもあった見栄や消費社会での生き方からの脱却をさせたかったってことかもしれないんだけども、なんかそういう風に「渋谷から〜」と言っていたのを見て監督めちゃくちゃ東京人っぽいなと思った。
今、そんなに渋谷って特別な街でもないじゃないですか。
何度か訪れても人がめちゃくちゃに多い以外は何かが特別な街だとは思えない。
それは一番の全盛期の渋谷ってのを知らないからかとしれないけども、この渋谷に縛られてしまうと思ってしまうほど強い磁場があるような場所には思えなかった。
まだ異界へのゲートとしての役割を持っていた白石晃士監督の『オカルト』や怪獣コラテラルダメージ大災害としての場で描かれた『ガメラ3』、ワイドショーのお天気コーナーを乗っ取り世間に犯行声明をいう場として描かれた『攻殻機動隊 S.A.C』、そして"様々な人々が行き交う"という場所そのものが生き物であるという描かれ方だったゲーム『428』。これらの渋谷の描き方の方がしっくりする。ただこのラインナップのボンクラっぽさに頭がくらくらする。

 


むしろ変に「渋谷」というか、消費社会だの、そんなものを彼女に背負わせなくてよかったんじゃないだろうか。
度重なるDVの果てに夫を殺しバラバラにした妻。これだけで勝負してもよかったのでは。
なにか飛び抜けたモンスターであったとか、その彼女の姿をメタファーのように用いらなくても、追い詰められた末に殺人をしてしまい、死体をバラバラにして、その処理に困ってしまったというのを真っ直ぐに描いてもよかったのではないだろうか。

殺人なんてのは、一生関わるものなんかじゃないって思っている。けども、もし自分がそれに関わってしまったら?それも犯人という立場で関わってしまったら?という視点を追体験できるのが創作物の醍醐味だと思う。
なので、理解のできないモンスターという描き方になって観客から遠くの場所に行ってしまった瞬間、物凄く寂しく感じた。
ただの一介の保険セールスマンが稀代の犯罪者に転がり落ちてしまう『ファーゴ』のような描き方でこの作品を作ってもよかったのではないかとも思ったりしちゃったりなんかしたり。


ただ、妻を演じた派谷恵美さんの演技は本当に凄まじくて必見だったのです。DVを受けてる最中に精神が一線を超えてしまって笑ってしまうって演技では背筋が凍ってしまいましたし、何より下着姿で死体処理するシーンはホラーモンスターとして後世に語り継がれるほどフォトジェニックだった。


なので、なにが言いたいかと『ひかりをあててしぼる』って映画、面白いですよ。

 

この夫婦の運命やいかに!映画『ひかりをあててしぼる』予告編 - YouTube

 

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