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にゃんこのいけにえ

映画と音楽と本を中心にいろいろと。

可愛い世界で生きたい。「グランド・ブダペスト・ホテル」を見た。

グランド・ブダペスト・ホテルを見てきた。
ウェス・アンダーソン監督の映画は「ファンタスティックMr.FOX」を劇場で見ることが出来て以来、公開されれば必ず映画館で見ようと心掛けているんですよ。

理由は簡単です。
めっちゃ面白いからです。
あともっと言えばシンメトリカルな画面設計や洋菓子のような色彩設計…この辺は世界中で何千回と触れられている監督のスタイルに、御多分に洩れず私もすっかり骨抜きにされてしまい、もうウェス・アンダーソンさんが新作を作ったとなればパブロフの犬のように涎を垂らして待つ日々。

僕にとってはそんな監督の映画なのです。
といったものの、過去作品はまだ全て見てはいません。最近やっと「ザ・ロイヤル・テネンバウムス」を見ました。
見ている最中から気がついていましたが、僕、この映画めっちゃ好きです。
それに気がついたのはhey jude流れてる時です。開始5秒でお気に入り。


そんな監督の新作ですから、そりゃもう期待に胸を膨らませて見に行きました。
結論から書くと、もう本当に面白かったですし、とても大好きな映画になりました。
でもそれ以上に僕は胸に穴を開けられた気分になりました。
見終わって暫くは喋れなくなり、街を彷徨い歩いたほど。

なんでそんなことになってしまったかを、ポツポツと書きます。
ここからはネタバレも込みで書きます。
本当面白い映画でしたので、また見ていない人は是非。
じゃあネタバレ込みで話していくよ!






かつてその場所にはある「文化」が存在していた。
その文化は時代と共に消え去ろうとしていた。
しかしある男はその文化があたかもまだ存在しているかのような幻を作り上げた。
人々はその幻の虜になった。
幻とはいえ、人々にとっては救いであり、希望であり、何より生活でもあった。

数十年後、その場所はもう「廃墟」同然になっている。
かつての文化はもう消え去った後だ。
そして何よりあの人々が見ていた幻は徹底的に破壊された後だった。


老人は語る、かつてのその場所の姿を。
その場所の名前はーーー



どこを切り取ってもウェス・アンダーソン監督映画。
シンメトリーな画面構成、大胆かつキュートな色彩設計、異常にキャラが立った登場人物達、一瞬の空きもないテンポの良い話運び、オフビートな笑い。
どれをとってもウェス・アンダーソン監督の映画。


端的に言っちゃうと可愛い。
とにかく可愛い。
可愛くて仕方ない。

オフビートな大冒険もとにかく楽しい。
特にストップアニメーションを使ったチェイスシーンの可愛らしさと高揚感ったら。
ウェス・アンダーソン監督が撮るアクションシーン特有のキッチュさったら!
思わずたまんねえ!と思いましたもの。

映画は舞台をホテルから、監獄、雪山と次々と移動し、さながら一大冒険ものの雰囲気に。なのにどこか気が抜けていて可愛らしい。
にやにや、ふふふと笑っているうちに大冒険は終わってしまいます。
素直に面白かったー!といえる映画ならここで終わればよかったでしょう。
でも、話はここで終わりません。
終わってくれたら、ここで終わってくれさえすれば、めでたしめでたしで終わるのに。
でもそうはしなかった。
何故ならば歴史がそうだったから。
歴史同様、起こって欲しく無いことがおこります。

その気配は序盤からありました。
新聞記事、封鎖される国境、兵舎に使われるホテル。
序盤からちらついていた戦争の影。
それがついに登場人物達に覆い被さります。



視点が改めて1960年代のその場所に戻った時、そこには殆ど何も残っていないことを実感します。
残っているのはその場所とあの絵。それ以外は全て何もない。

その場所を構成していたものは全て破壊されてしまった。
戦争に破壊されてしまった。
消えかけていた文化とそれを幻として守ろうした男とささやかで幸せだった日々。それらは全て破壊されてしまった。


ウェス・アンダーソン監督は破壊され消え去ってしまった愛おしい時代の描写として自らのスタイルを効果的に使っている。
僕があれ程までに可愛いと思った時代は、破壊されてしまった。


これは昔はよかったね、という話ではない。
過ぎ去って消え去った時代へのどうしようもない愛の話だ。
そして、愛おしいさなんて関係なく破壊してしまう戦争への怒りの話だ。


これは1930年代のヨーロッパの話だろうか?
きな臭くなる自国の状況を見ても、ただ可愛かったと言えるだろうか。
愛おしくて可愛らしい世界なんて簡単に潰される。そしてそれは血と暴力に塗れた可愛くもなんともないやつだ。


甘い事を言うかもしれないけども、僕は可愛いものが存在する世界がずっと続けばいいと思う。
可愛くない世界なんて反吐が出る。
可愛いことだけで出来てるわけじゃない、可愛くないこともたくさんある、そんなことわかってる。でも、それでも、可愛くない奴らに破壊されるのなんてまっぴらだよ。


失われた文化は失われたままなのか?
そうじゃないこともこの映画は伝えている。
映画のラストカットでは墓地で本を読んでいる女学生の姿を捉えている。
その本のタイトルこそ「グランド・ブダペスト・ホテル」だ。
かつて文化や幻が存在したその場所の名前だ。
僕はこのシーンで涙が止まらなかった。
文化は失われてしまう。
それでも、繋がることは出来るんじゃないか。
例えば「本」を使うことでその文化と繋がることは出来るんじゃないか。

だからいくら失われてそれが幻になっても、それが破壊されても、その文化が死ぬことない。
途方もない人々の努力によって現在でもその文化を繋げることができる。
そんな希望が一瞬見えたような気がした。
それは儚いかもしれないけども、確かに希望なんじゃないかとちょっと思ったりした。