自転車で淀川を下って行って大阪湾まで出たい。
そんな願望がずっとあった。
ただ、如何せんめんどくさいことだし、しんどいことだし、いつかやればいいと思っていて先延ばし先延ばししていた。
僕は年を重ね、重ね、気がつけば23歳。
もう十分な大人になっていた。
なのに未だ成し遂げたことは何も無い。
就活に失敗し、研究に失敗し、何も手に残らなかった大学生活を目の前にして、行くなら今しかないという思いに襲われた。そりゃもう襲われた。衝動だった。
僕は昼間に起きて、あまちゃんを見て、そして気がついたら自転車に空気を入れていた。
僕はママチャリで大阪湾まで行く事にしたのだった。
河川敷をずっと下っていく。
途中何度か道に迷ったり、車に引かれかけたりした。
旅というにはあまりに小さすぎるスケール。自分探しといえるほど、大きくない出来事。
ただただ、それでも大阪湾に行きたかった。
自分で何か出来るってことさえ実感できたらよかったのかもしれない。
そのために自転車を漕ぐ。中2から使っている自転車を漕ぐ。スピードがあまり出ない自転車を漕ぐ。そんな自転車でも、梅田の空中庭園が見える場所にたどり着いた時、とても嬉しかった。
電車でしか行ったことのない場所まで自転車で来てしまった。
今思えば達成感はこの時がマックスだった。
ここからまたひたすらに漕ぐ。
サドルが硬い自転車で漕ぐ。
次第に街並みが変わり出す。
住宅が減り、大きめの工場が増えてき出した。
ああ、海が近いんだなとなんとなく感じた。
この時は確かFM802を聴いていた。
自分が自転車を漕いでる瞬間、何が流れているのか本当に気になったからだった。
KANA-BOONの「盛者必衰の理、お断り」が流れていた。
とてもいい曲で、帰ったらCDを買おうと思った。
だんだんと川が広くなっていった。
走っている道も広い。
強い風に何度もスピードを殺されながらも進む。
時間は4時も30分を超えたころ、ついに大阪湾に出た。
大阪にもヨットを停泊させる場所があるんだと知った。
ここで休憩がてらポカリスエットを買った。500mlをものの三口くらいで飲み干してしまった。
Googleマップで現在地を確認すると、もっと奥に行けることがわかったので、進む。
結局、舞洲の奥の奥まで行った。
気がつけば夕方。もう帰らないと、と思い漕ぎ始めるが全然進まない。
疲れ始めていた。
ラブホ感あるゴミ処理施設。
とにかく進む。さっき来た道を戻る。
でも進まない。
後ろからどんどん追い抜かされる。
そのうち日が沈んだ。
まだ梅田にも戻れていなかった。
僕の自転車はライトが壊れている。
無灯火状態になってしまった。
必然的にゆっくりになる。
こんなに街には灯りがあるのに、なんでなんだろ、と思ってしまう。
整備不良。
ただそれだけなのに。
詰めが甘い。
一時間後、7時少し前。梅田に近くに到着。
フラフラしてきたので、ドデカミンを買い飲む。
それでもフラフラが抜けない。
ご飯を食べていないからだ。と気がつく。
コンビニ、コンビニはどこだと求め、そして近くにあるのを見つけ駆け込んだ。
そこでツナマヨとコロッケを買い、貪り食った。
ジブリアニメのようにがっついた。
こんなうまいツナマヨを食べたのは初めてだな。
空腹時、最強の調味料説。
それからずっと漕ぐ、また漕ぐ。
途中、心が折れた。
これまでの自分がやってきたことを思い返して心が折れた。
河川敷でいちゃついてる高校生カップルを見て心が折れた。
全く進まない自転車に対して心が折れた。
折れても進まねばならない。
ふっと空を見たら、円形にとても大きかった。
僕はこれまで求めてきたものはそれほど得ることができなかった方が多かったけども、でもまだ得てないってのは得る可能性もまだ残されてるってことじゃないかとも思った。
もっと言えば僕は知らないことが多すぎる。
金閣寺に行ったことない。
日本各地にも行ったことない。
くるりのワンマンライブに行ったことない。
鴨川に等間隔に座るカップルになったことない。
内定もらってない。
海外に行ったことない。
子供がいない。
免許まだとってない。
海にしばらく行ってない。
カラマーゾフの兄弟まだ読んでない。
大学卒業してない。
アベンジャーズ2見れてない。
ゴッドファーザー見てない。
友人に借りたDVDを見てない。
友人に借りたもの返してない。
何もまだ僕はしてない。
成城石井で女性に出会ってない。
ナンパしなことない。
逆ナンされたことない。
カレーをルー無しで作ったことない。
晩御飯全部作って人に振舞ったことない。
まだ何もない。僕は何もしてない。
気がついたら、地元に戻っていた。
僕は地元の知らない道を走っていた。
そしてゲーセンを見つけた。
こんな場所にこんなのがあるの知らなかった。
大阪王将でご飯を食べた。
大阪王将で定食を頼むとご飯おかわりできるの知らなかった。
二杯食べた。
帰り道、疲労困憊だった。多分30キロ以上は漕いだだろう。
でも楽しかったのです。
何をやってるんだって話だけども、でも本当楽しかったんです。
今度は、京都にむかって淀川を登って行こう。そんなことを考えながら帰った。
これもまだやってないこと。