にゃんこのいけにえ

映画と音楽と本を中心にいろいろと。

log:13 究極のサービス業 「レスラー」

「レスラー」見ました!
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DJという職業が何も好き勝手に音楽を鳴らせばいい人のことではないらしい。
客の顔色を読み、そしてその場に合う音楽を鳴らしていくことこそが彼らに求められる仕事だそうだ。
DJはいわば客の欲求に縛られなければいけないサービス業だそうだ。
この映画に出てくる人々―プロレスラー―のことも私はずっとただただ戦い続ける人々のことだと思っていた。
どうやらそうではないらしい。
そして彼らも客の欲求に縛られたいわゆるサービス業だということも知らなかった。


2008年の映画と知って、ええっ!もうそんな前なのかい!と驚いてしまった。
そしてブラック・スワンが2010年というのも。
ええっ!時間は過ぎていくものなのかい!?
と時間の早さに驚いております。そんなことはさておき2008年のアメリカ映画。監督はレクイエム・フォー・ドリームや先程あげたブラック・スワンを監督するダーレン・アロノフスキー。主演はミッキー・ローク


栄光と挫折というのは散々色んな創作物でテーマにされているものだ。一度頂点まで上り詰めると後は下がるだけ。というのはどの時代でも普遍的なものかつ下世話なものなので喜ばれるのだと思う。
この主人公のランディも一度はレスラーとして栄光を極めた男だ。
しかし20年後、彼は週末はレスラーを続けながらもそれだけでは食っていけずスーパーで働いている。家はトレーラーハウス。しかしその家賃すらもままならない状況だ。
そんな中、デスマッチの直後彼は心臓発作で倒れてしまい、レスラーとしての、そして自らの人生を見つめなおすことになる。


ランディという男はプロレスラーとしては生ける伝説となっている男。各地にファンも大勢いる。しかしもう第一線ではない。そのため、今じゃドサ周りも辞さない。
肉体は衰え、かつて仲間だった者達は体のどこかが悪くなっている者たちばかりだ。
何故それでもまだレスラーを続けているのか?
何故肉体を痛めながらもレスラーとして活動を続けるのだろうか?


ランディという男はレスラーとしては超一流しかし人間としては三流だ。
どうしようもないクズだ。そして不器用なクズだ。
不器用が故に周りの人間を傷つけ、自らも傷ついていく。
せっかく立てなおそうとした自らの人生もその不器用さ故にまた崩してしまうような男だ。

レスラーを続ける理由。それは彼が唯一輝ける場所でありランディがランディでいることができる場所だからだ。そしてそれができるのはファンからの声援が彼を待っているからだ。


ランディは好きな女に止められてもリングへ向かう。
そのリングに上がるのも観客は待っている。それをランディは知っているからだ。
彼は多分いつだって自分を待っている観客を裏切ったことだけはなかったのだろう。
そして彼は知っていた、これが自分の最後の試合になることも。

だから彼は最後にリングコーナーによじ登った。
観客は彼のそれを待っていたから。
そして何よりランディがランディでいれる場所だったから。
その瞬間はほんの一瞬だけだったのかもしれない。その場所は幻のように儚いのかもしれない。
それでも、それでもその一瞬だけでも彼は彼でいることを掴み取ることのできたランディは幸せな人間だったのだと思う。
その先がいくら破滅であろうと。それでも、それでも。



マリサ・トメイ演じるストリッパーとの恋愛未満のやり取りにぐっときた。最後に彼女がリングを見つめなかったのは彼女はランディのことが好きだったからこそ、レスラーとして散っていくのが耐えられなかったのだと思いました。うん、切ないっすよね…。

・惣菜コーナーで働くランディに共感…!ああいう面倒くさい事言うおばあさんいるよ!!確かにいるよ!!ランディは悪くない…!悪くない…!

・そのシーンの前に待ちかまえていた惣菜コーナーに向かう時に観客の歓声を脳内で流すランディに涙…。ランディ戦ってたんだな…。その後の働きっぷりに俺もそれ見て頑張ろうと思ったのでした。ランディ接客上手いと思う。

・あと自業自得というけれども、バーであんなEROI女に会ってしまったらそりゃ…ね…。


・レスラーといえばタマフルの中条ピロシキ選手こと橋本Pによるレスラー解説がまた凄くいいし泣けるんですわ。この映画の持っているカミングアウト問題にも触れていて非プロレス者の私としても大変わかりやすくかつこの作品の持っている凄味がよりわかる放送になっていましたのでもしまだ聞いていない人がいれば是非。


・その放送でも触れられていたことですが、最後の試合の前に打ち合わせをしようとしてアヤトラ-が返す「お前が善玉俺が悪役それでいいだろう?」ってのがただならぬ信頼関係を想像させて涙…。

・そして最後の試合の時に止めようとするアヤトラーで涙…。ランディもういいんだ!もういいんだ!

ミッキー・ロークの佇まいが本当素晴らしいんだよー。説得力ってこのことなんだろうな。

ミッキー・ロークの泣き笑い顔だけでご飯3杯はいけるね。

・ドキュメンタリーのように追うカメラも素晴らしかったですね。段々、ランディのドキュメンタリーを見ているような気分になってくるんだよ。だからこそ…!だからこそ…!辛い…!

・あと何が泣けるって最後のブルース・スプリングスティーンによる主題歌。これ以上にない楽曲だと思う。

ひとつの芸しかできない子馬が楽しく自由に野原を駆けるのを見たことがあるかい?
あれは俺なのさ
片脚の犬が通りを歩いていくのを見たことがあるかい?
あれも俺なのさ
見たはずだよ 俺が旅して回るのを
見たはずだよ 一試合ごとに俺が何かを失うのを
見たはずだよ 俺が血を流して観客を喜ばせるのを
言ってくれ これ以上、何を望むんだ?
言ってくれ これ以上、何が欲しいんだ?
ボロと籾殻しか詰まってない案山子を見たことがあるかい?
あれは俺なのさ
風に向かって拳を振るう片腕の男を見たことがあるかい?
あれも俺なのさ
見たはずだよ 俺が旅して回るのを
見たはずだよ 一試合ごとに俺が何かを失うのを
見たはずだよ 俺が血を流して観客を喜ばせるのを
言ってくれ これ以上、何を望むんだ?
言ってくれ これ以上、何が欲しいんだ?
やすらぎを与えてくれるものから 俺は去ってしまう
帰るべき家を買う金はない
俺が唯一信じられるものは、俺の砕けた骨と、
この青痣だけだ
片脚のダンサーが心から楽しそうに踊るのを見たことがあるかい?
それは俺なんだ



もう本当大好きな映画です。